隣のイケメンと少女漫画の恋をしました

6限目。よく晴れた春の日、教室にも温かい風と桜の花びらが舞い降りていた。
春の陽気にあてられた俺の隣は、授業中にも関わらず、気持ちよさそうに寝息を立てている。そしてもれなく俺にも睡魔がふりかかってくる。
よく眠るなこいつ…

蒼井凪(あおいなぎ)――いわゆるヒロイン席と呼ばれる教室の左奥の角に相応(ふさわ)しい美少年だ。進級したての頃、学校掲示板に貼られたクラス分け表に「蒼井凪」の3文字を探して女子たちが群がっているのを見たから、記憶に残っている。
対して俺は、どの女子からも名前を探されることはまずない、どこにでもいる平凡な高校生だ。
まあ、へんに目をつけられるよりはましだろう。

睡魔との戦闘に敗北し、みごとチャイムと同時に起きた時には終礼が始まろうとしていた。
やば…寝てた…
誰にも届かぬ心の叫びをあげ、(いさぎよ)く帰りの支度を始めた。
「蒼井くん!一緒帰ろーよー!」
来た。
某どこにでもいる高校生には絶対にない光景、他クラスの女子に帰宅同行を誘われる。
イケメンはすごい、発された名前までが輝いて見える。きっとこいつのうわさは他学年まで浸透ているのだろう。
卒業しても伝説として残るだろうな。
「ごめん、今日用事あるから。」
蒼井凪、そこは一緒に帰ってやれよ。俺が言うのもなんだがこの子達はきっと一世一代の勇気を出して誘ったんだ。
「え?!用事ってなに?好きな子でもできたー?」
「んーーー、まあ、そんなとこ。」
一言だけ言って蒼井凪はまた机に顔をつっぷした。
ぼんやりとした声と、がやがやした終礼後の教室でも、数名の女子の叫びが教室内に広まるのには、十分だった。
しかし、こいつにも好きな子がいたとは。てっきり、完璧すぎる見た目と授業中の爆睡具合から恋愛、というか人に興味が無いのかと思っていたんだけど。
きっと明日には学校のトップニュースだな。

がやがやした終礼も過ぎ、みんなが部活に行った頃、俺はゴミ捨てじゃんけんに負けて、地下一階までゴミ捨てに行っていた。
教室に帰ってきたときには、もう掃除当番は誰も残っていなかった───1人を除いて。
まだ寝てる。もうみんな帰ったのに。
蒼井凪が例のヒロイン席で美しい寝顔をこちらに向けてすうすう寝息をたてていた。
これが全女子を虜にする寝顔…
ここまでしっかりとみたことはないが、なかなかに綺麗な顔をしている。
一重の切れ長の目、すらっとした鼻筋と、薄すぎず厚すぎない唇、それを支える艶やかな肌を持った顔。
少女漫画のヒーローですか。
「………ん」
やばい、さすがにじっくり見すぎたか。言い訳が思いつかない。
「ご、ごめん。よく寝てるなーって思っ──」

ドッ

立ち上がったと思ったら、俺はもう背中を壁に付けていた。目の前は学校一のイケメン、蒼井凪でうめつくされる。
真正面からみると本当に綺麗な顔をしているな、こいつ。今、人生初、壁ドンをされている…
感情がキャパオーバーになりながらも、なんとか喉から声を絞りだした。
「な、なに……」
どうした、蒼井凪、俺は君の好きな子ではないでしょう!!
「好きなんだけど。」

す・き・な・ん・だ・け・ど
簡単な7文字を理解するのには、十分すぎるくらいの時間をかけて、やっと言葉の意味を理解した。
「あ、えっと、、それはどういう……」
「だから、好き、なの。俺が、お前を。」
「…………………ほう」
えっとつまりそれは…
叶汰(かなた)!部活早く来いって部長が…」
タイミングが悪いところに…。
同じ卓球部の佐伯 亮雅(りょうが)が、絶望的なタイミングで俺を呼びにきた。
亮雅の顔が見えるか見えないかのわずかな間で、蒼井凪は俺の前から消えた。
「ごめん、話(さえぎ)った?」
「なんでもない。じゃ」
固まっている俺の代わりに、蒼井凪が答えた。そして、何事もなかったように教室を出て行った。
………なんだったんだ、今の。
高校一年生4月、学校一のイケメンに告白(?)をされました。