そんなことを思いながら才野くんから視線を外し、ベッド近くにある茶色い棚に目をやる。
そしてベッドと棚の隙間に何か白いものが見えて俺は手を伸ばした。
安心しきったような表情で寝ている才野くんの顔を再度みて、音を立てないようにゆっくりとそれを取り出す
単純に気になった。この殺風景な場所に置かれていた存在。
若干の罪悪感を抱えながらそれを取り出して「え」と声を出す。
「…あの時の、ギプス」
へたくそな自分の字で「早く治れパワー!」と綴られているそれ。なんでこんなものを取ってんの、才野くん。
ーーー「影井楓っていう存在が、俺の中での唯一の救いだった。慰め合いとか、傷の舐め合いとか、そういう複雑なことじゃなくて、もっと単純」
押し寄せる感情で、また泣きそうになる。
綴られた自分の文字を指先でなぞった。
すると、
「…影井」
才野くんの手が俺の手を優しく掴む。
「あ、ごっ、ごめん、勝手に…」
才野くんは、寝ぼけ眼で俺を見つめている。そしてここに存在している俺を確認するように何度か俺の名前を呼んだ。
「…本当は」
「うん」
「ずっと話しかけたかったんだけど…影井にとってそれが、あの時の記憶が、思い出したくないものとして、存在してるとしたら、俺は影井の中には入れる存在じゃないなって…そう思った」
「才野くん」
「……だから、あれ、ありがとう」
「あれって何?才野くん」
「心理テスト」
才野くんの言葉が紡がれて、伝えられて、甘さだけじゃない、何かが満たされていく。
ほとんど接点がない、話したこともない、と思っていた。何か面白い話をして、などと無茶振りも甚だしいと搾り出すように放った心理テスト。
ただのきっかけにすぎなかったのに、されどきっかけになった。
柴田や小野寺くん宮瀬くん、田中くんが気づかないうちにきっかけをくれていた。
「才野くん」
「…ん」
「こちらこそ、あの時俺の名前出してくれてありがとう」
そう言えば、才野くんはまた嬉しそうに笑っていた。



