学校イチのイケメンに心理テストしたら好きな人が俺だった





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「影井、今日は才野のところ行くの?」

自分の席で冷たい机を頬に当てていると、そう話しかけてきたのは小野寺くんだ。俺の顔色をみて若干引き気味に「大丈夫?」と言葉を付け足した。
「テスト勉強で寝不足で…大丈夫」などと事実半分嘘半分で返したあと、顔をあげて小野寺くんを見上げる。

「俺が昨日才野くんのところに行ったの知ってるの?」

「マカ先からきいた。昨日宮瀬と何か渡すものあったら届けに行こうかってなってマカ先に確認しにいったら影井に任せたって聞いて」

「そっか…」

「才野、大丈夫そうだった?」

大丈夫そうだったか。その問いに即答はできなかった。主に自分が大丈夫ではなかったから。

「まだ体調悪そうだった」

「そうだよなあ、今日も休んでるし」

昨日、自分にプリントを託したマカ先を少し恨んだ。
そうでもしないと感情をぶつけてしまったことの罪悪感と、後悔と、自己嫌悪から逃れられないから。

言葉は一度吐き出してしまうと、どうやっても回収することなどできない。
相手が自分の言葉をどう受け取って何を思うか、そんなことを考える余裕もなく嫉妬心をぶつけた。
挙げ句の果てに「向き合いたくない」だ。

言い放った時の才野くんの顔が忘れられなかった。

最低なことを言った。
そんなこと、分かっていたのになぜ抑えられなかったのだろう。
嫌いだ、こんな自分。

「今日は、行かない」

「え?なんで?」

「…マカ先も、別途で行うテストの対策として今回のテスト用紙を預けたいってだけらしいし、家遠いから無理しなくてもいいって」

「じゃあ今日も一応預かってはいるんだ」

「うん…」

「昨日なんかあった?」

小野寺くんの問いに言葉を詰まらせる。
と、

「かーげいっ、今日も才野のところ行くのか?」

跳ねるようにこちらに近づいてきた宮瀬くん。
小野寺くんの横に並んで、俺の机に手をついた。
小野寺くんが苦笑いで宮瀬くんの額を手のひらで軽く叩いた。

「もうきいたわ、行かないって」

「え〜そうなん?じゃあ今日は俺たちが行こうか?」

宮瀬くんの言葉になぜかすぐに頷けなかった。
どこまで自分勝手なのだろう、俺は。
もう向き合わない、と放ってしまったそれを慌ててかき集めてなかったことにしてしまおうなんてできない。それにもう、ストラップ、返してしまった。

「じゃあ、お願い、しようかな」

預かっていたプリント数枚を鞄の中から取り出そうとすると、机の上においた鞄をみて宮瀬くんが「ん?」と首を傾げた。

「影井、鞄についてたストラップは?」

「っ」

宮瀬くんの何気ない言葉。鞄のチャックにかけていた手が力なく離れる。

「また落とした?」

宮瀬くんが顔を下に向けた俺に視線を合わせるようにしゃがむ。首を横に振った。

「持ち主、見つかったから」

「ふうん、なのに嬉しそうじゃないな」

「宮瀬」

「なんだよ小野寺、普通に気になったこときいてるだけだろ?なんで友達に気遣わないといけないんだよ、なあ影井」

友達、か。この人たちはいつも真っ直ぐだなと思う。
誰に対しても聞きたいことを聞いて、楽しいと思えば楽しんで、隠しごとなんて何もないみたいに。
友達だから、気を遣わない。その言葉の土台には、相手を思いやる、当たり前のようで誰でもはできないものが敷き詰まっているのだと思う。

自分はこうはなれないという劣等感。

卑屈で、相手の言葉や行動の裏を考えてしまう。
のくせに、嫉妬だなんて。

「持ち主ってさ、才野だったりする?」

そう小野寺くんも宮瀬くんと同じように俺の席の前にしゃがんだ。
「え?」と今にも泣き出しそうな掠れた声が口から出た。そんな俺に小野寺くんは困ったように笑って、言葉を紡いでいく。

「…俺も宮瀬も、才野とは高校から仲良くなって、仲良くなったのに、この前の球技大会まで才野がバスケ経験者だとか、そういうのも分からなかったくらいで」

「小野寺くん…」

「何か抱えてるものがあんだろうなあってのは分かってたけど、それを才野は中々打ち明けるタイプでもないだろ? 不満はない、俺たちはどんなことがあっても才野の友達だし。

別に俺たちは抱えているものを共有したら友達になれるとか、そういうことも考えてない。ただ、今ここで俺たちと高校生活を送ってる才野と友達やれて楽しい、みたいな」

「うん…」

「けどやっぱり、ふとした時に才野にとって俺たちの存在は何なんだろうって考える時はあって」

小野寺くんの言葉に宮瀬くんが小さく頷いている。
そして小野寺くんの人差し指がゆっくりと俺の方に向いた。

「だから、あれ、嬉しかったんだ」

「あれ?」

「心理テスト」

小野寺くんがにっと笑った。
Aは信頼している人、小野寺くん。
Bは友達、宮瀬くん。

「過去がどうこうじゃなくて、今、あいつの中に俺たちが存在してるんだって思って安心した」

「…小野寺くん」

「あの時、ほとんど無茶振りで話振ってごめんな影井。でも、ありがとう」

小野寺くん言葉に涙を堪えるように唇を噛んで首を横に振る。

「才野くん、あの時、AとBは絶対に違わないってずっと言ってた」

そう言うと、宮瀬くんの瞳が輝いた。

「まじ?うわ、嬉しすぎるなそれ」

「なあ!」と小野寺くんの肩を掴んで軽く揺らしたあと、ん?と不思議そうに瞳を上にあげた。
小野寺くんと顔を見合わせて、そしてこちらを向く。

「『は』って、ことはCは違うってことか?」

宮瀬くんのそれに目を開く。あ、やばい。

「あ、いや、今のは言葉のあやで…」

「ほおほおほお、なるほどな」

「影井、宮瀬がこうなると面倒いから早く行って」

「え?」

「納得するまで怒涛の質問タイムになるから、ほら、俺が止めてるうちに」

「なっ、俺を制御の効かない野生動物みたいに扱うなよ小野寺!」

小野寺くんが宮瀬くんの首に腕をまわして「じゃあな、影井」と笑った。
小野寺くんたちに才野くんへ届けるプリントは渡すことはできなかった。自分の本音か、彼らの優しい意図か。
ストラップが才野くんのものなのか、そんな質問も答えられていない。けれど、2人は分かっているような気もした。

俺は小さく頷いて鞄を持って立ち上がり、『友達』の彼らに手を振って教室を出た。