さっきまで笑っていた「捨て象」の話が、急に遠い記憶のように感じられた。二人は、霧の中を、流れのほうへ歩き出した。

三途の川の手前には、いつの間にか列ができていた。  霧の切れ目から滲み出したような人々が、等間隔で、機械的に並んでいる。誰も喋らない。咳払いひとつ聞こえない。ただ、湿った土を踏む微かな音と、前を向いたまま動かない無数の背中だけが、静かに連なっていた。

「もうすぐやな」
 在山は、そう言いながら、ほんの少しだけ後ろを振り返った。  声はどこまでも平坦で、いつものおっとりした調子のままだった。けれど、その足は地面に吸い付いたように動かない。一歩を踏み出すたびに、泥濘(ぬかるみ)に足を取られているような、奇妙な重みが纏わりついていた。