だってお前には彼女がいるから

 授業が終わったあと彼らの賭けの勝者は決まった。嬉しそうにしている表情と、信じられないという表情。2人ともわかりやすい。

「やった! アイス」

 ガッツポーズをしているのは、藤石さんだ。そう。彼女の勘が当たり、抜き打ちテストは行われた。

 藤石さんが抜き打ちテストの可能性を言ってくれたお陰で、今までの授業のおさらいは軽くしておいた。そのお陰で、酷い点数は免れたどころか、テストに向けた復習にもなって助かった。

「教えてくれて、ありがとう。藤石さん」
「いいよー。私の勘を崇めよ」
「はは、そうだね」

 嬉しそうな藤石さんと対極的に、陽翔はまだ理解ができていない様子だ。

「まじで?? あの先生、小テストなんかしたことないって有名なのに」

 そうなのか。俺は知らなかった。陽翔は先輩の友達も多いみたいだから、情報が集まるのだろう。

 逆に言えば、藤石さんは情報として手に入れたわけではない、ということだ。本当に勘が良いのだろう。本当にすごい。

「えへへ。私の勘は当たるんだよ」

 頬を緩めた藤石さんが、ピースをしながら言う。陽翔は不服そうだが、それを気にしていない藤石さんが、俺の顔を覗き込んできた。

「藍星くん、アイス何味にする?」
「えー、どうしようかな」

 そういえば、藤石さんは当然のように言ってくれるが、俺も貰って本当に良いのか。陽翔の方を見ると、苦々しい顔ではあったが、頷いてくれた。

「賭けは賭けだから良いよ」
「や、でも俺の分までは……」
「大丈夫だって。そんなに変わらない」

 陽翔がこちらに手を伸ばしてきた。驚いて固まると、くしゃくしゃと髪を撫でられた。

 相変わらず距離が近い。彼氏がこういうことをして藤石さんは不快に思わないのだろうか。ちらりと彼女を見るが、特に気にした様子はない。

 もしかして、俺が勝手に気にしているだけで、これくらいの距離感は普通なのだろうか。俺は友達が少ないから分からないけれど、これが友達同士の普通の距離だとしたら、変に勘ぐっているのが申し訳なくなってくる。

 いや、でも流石に気のせいというのには無理がある気がする。藤石さんと陽翔の距離よりも近いようにも感じるから。一瞬はそう思ったが、すぐに否定した。距離が近いのどうの考える方が失礼だ。

「それで、藍星くんは何にするの?」

 気がつけば、藤石さんが顔を覗き込んでいた。それは、全てを見透かすようなグレーの瞳。まるで、抜き打ちテストがあると予言したときのように、自信のある目だった。

 見透かされて不味いことなど、あるはずもないのに。少しだけ居心地が悪く感じた。

「……チョコ、かな」
「あー、チョコいいよね! 私、チョコクッキー味好きなんだよねー。でも、季節限定があればそれにしようかな」

 さっきの藤石さんの視線は、なんだったのだろうか。アイスの種類を考えていた、だけ?

 気にはなったが、俺に藤石さんの心が見透かせるわけもなく、すぐに諦めた。藤石さんだって、何も考えていないかもしれないし。

 いつの間にか俺から視線を外していた藤石さんが、陽翔と俺の方を見ながら聞いてきた。

「2人は、5限目って授業取ってる?」
「俺は取ってない」
「俺も、なかったはず」

 陽翔が答えた後、俺も自分で組んだ時間割を思い浮かべながら答えた。今日は4限目までだったはず。俺は2、3限目も取っているが、陽翔や藤石さんは今の時間に来たようだから、この授業のために来たのか。必修だから仕方がないが、少し可哀想。

 陽翔と俺の返事を聞いて、口角を上げた藤石さんが、鞄を持って立ち上がる。鞄についているうさぎのマスコットがふわっと揺れた。

「じゃあ、このままコンビニで買って、学生会館で食べよー」
「おー」
「うん」

 藤石さんの提案で、俺と陽翔も立ち上がった。

 楽しそうに前を歩き出した2人を見て、俺は頬を緩めた。しかし、胸の中に苦い感覚が広がり、下を向いた。

 2人は、当然のように俺のことも仲間に入れてくれる。それは俺の人生でトップクラスに入る幸運だが、時折申し訳ない。俺が2人といるのは不相応なのではないかと感じる瞬間は多々あるからだ。

 今だって。

「2人きりにしてあげたらいいのに」
「自分が邪魔だって気づいていないのかな」

 どこで誰が話しているのか分からない声がして、俺は俯いた。これは別に初めてではない。聞こえるような陰口はよく叩かれる。聞こえないように言ってくれればいいのにと思うが、言い返す勇気もない。

 俺から見ても、他の人から見ても、陽翔や藤石さんと一緒にいるのに釣り合わない。それが、苦しい。

 ぐいと急に腕を引かれた。驚いて顔をあげると、一瞬眉をひそめた陽翔だったが、すぐに目映い笑顔となって、こちらを見ている。

「ほら、藍星。行くぞ」
「え、あ。うん」

 反射的に頷いた。陽翔の明るい表情を見ていると、先ほどまで考えていたことがどうでも良くなってきた。

「藍星くん。行こー」

 この2人といるのが泣きそうになるくらい、幸せに感じる。この気持ちは、本物なのだ。

 願わくばこの関係が壊れることがありませんように。

 そうして2人と食べたアイスは、今まで食べた中で1番美味しかった。