近くあるカフェへは無言でたどり着いた。そこで宣言通り俺はアイスティーを頼む。陽翔は悩みもせずにコーヒーを頼んでいた。
「それで?」
注文が終わってすぐに俺が問いかけると、陽翔が迷ったように目を伏せた。やはり、何か言いにくいことを言おうとしているようだ。時間制限をわざわざ設けない方が良かったか、と今さら後悔の気持ちが湧き上がってきた。
陽翔の言葉をじっと待っていると、やっと俺の目に視線を定めた陽翔が口を開いた。
「翠と付き合ってない」
「……は?」
世界の時が止まったようだった。カフェに流れる穏やかなBGMがやけに大きく聞こえる。
何を言われたのか。声は音として入っているはずなのに、頭の動きが止まってしまったみたいだ。
困惑している俺を気にせず、陽翔は続ける。
「周りにはそう思わせているだけ。互いの利害が一致して、付き合っていることにしていた。偽装恋人だ」
互いの利害が一致。付き合っていることにした。偽装恋人。陽翔から飛び出してくる言葉は、漫画の中の言葉のようだ。
そんな現実離れした情報をなんとか飲み込み、陽翔へと尋ねる。
「……藤石さんと、陽翔が? 付き合ってない?」
「ああ」
陽翔の目も表情も、もう何も迷っていなかった。陽翔の瞳は、真っ直ぐとこちらを見ている。瞳に揺らぎはなく、陽翔が嘘を言っているように思えない。
「は……?」
じわじわと理解をしてきた。それが正しいなら。陽翔と藤石さんは付き合っておらず、全てが勘違い。いや、2人が勘違いさせてきた結果だ。
少し、納得している自分もいる。2人でデートに行っている様子もない。大学で一緒にいるところは見たことがあるものの、2人で手をつないでいるところすら見たことがない。
さらには、陽翔は藤石さんとの関係を詮索されるのを嫌がっていたように見えていた。それは恋人のことを言いたくないのではない。その話題に触れられると、真実が見抜かれる可能性があるから怖かった。
少しずつ引っかかっていたところが、パズルのピースのようにはまっていった。ようやく理解した俺は、呆然としながら陽翔に尋ねる。
「じゃあ、陽翔は浮気をしていたんじゃないのか?」
「してないけど……。藍星の許可を取らずにキスしたことは悪いと思ってる」
浮気ではなかった。その言葉が妙に心をざわつかせる。陽翔からの謝罪も、どうしたら良いか分からない。
戸惑っている俺を見ながら、陽翔がこちらを見て苦しげに笑った。
「藍星、好きだ。だから振ってくれ。楽に、してくれ」
深刻な声のトーンに、俺は息を呑んだ。
2人が偽装恋人だと聞いた後から、感覚が変わった気がする。真っ直ぐに受け取れなかった言葉が、ダイレクトに届いてくる感覚。
それでも、簡単に頷くことはできなかった。俺は恐る恐る尋ねる。
「陽翔は、俺のことが好きなの?」
「ああ」
「振ってほしいの?」
「振られたいんじゃなくて、お前からの答えがほしいだけだ。もし、できるのなら俺と付き合ってほしい、けど……」
陽翔は言葉を濁す。そうか、陽翔は、俺が陽翔のことを好きになるはずがないと思っているのか。
俺は、陽翔のチョコレート色の瞳を見ながら返事をする。
「今すぐに、答えられない」
「……理由を聞いてもいいか?」
目を瞬かせた陽翔に、俺はゆっくりと告げた。
「分からないから。俺の気持ちも、お前の気持ちも。だから、答えられない」
いきなり陽翔と藤石さんが偽装恋人だと告げられて、しかも俺のことを好きという気持ちが本当だと言われた。俺の反応を見て揶揄っていたのでもなく、真剣だった。
それを、どう考えたら良いんだろうか。自分の気持ちもふわふわしていて、言葉にもできないのだ。
目を見開いたあとに、陽翔は柔らかく微笑んだ。その笑みは、あまりにも無邪気なもので、思わず息を呑む。
晴れやかな表情をした陽翔が口を開いた。
「じゃあ、藍星。俺の気持ちを信じてもらえるように頑張るから」
「え?」
「今すぐに断らないってことは、まだ俺にチャンスはあるんだろう? それなら、俺の好き、という気持ちを伝えるだけだ」
俺の正面の席に座る陽翔がいきなり俺の手をとる。そのまま、唇を寄せた。それはまるで、小説に出てくる騎士のようで、どぎまぎしてしまう。
にこっと笑いながら見上げられ、俺は自身の頬が熱くなる感覚がしながらも、こくりと頷いた。
「それで?」
注文が終わってすぐに俺が問いかけると、陽翔が迷ったように目を伏せた。やはり、何か言いにくいことを言おうとしているようだ。時間制限をわざわざ設けない方が良かったか、と今さら後悔の気持ちが湧き上がってきた。
陽翔の言葉をじっと待っていると、やっと俺の目に視線を定めた陽翔が口を開いた。
「翠と付き合ってない」
「……は?」
世界の時が止まったようだった。カフェに流れる穏やかなBGMがやけに大きく聞こえる。
何を言われたのか。声は音として入っているはずなのに、頭の動きが止まってしまったみたいだ。
困惑している俺を気にせず、陽翔は続ける。
「周りにはそう思わせているだけ。互いの利害が一致して、付き合っていることにしていた。偽装恋人だ」
互いの利害が一致。付き合っていることにした。偽装恋人。陽翔から飛び出してくる言葉は、漫画の中の言葉のようだ。
そんな現実離れした情報をなんとか飲み込み、陽翔へと尋ねる。
「……藤石さんと、陽翔が? 付き合ってない?」
「ああ」
陽翔の目も表情も、もう何も迷っていなかった。陽翔の瞳は、真っ直ぐとこちらを見ている。瞳に揺らぎはなく、陽翔が嘘を言っているように思えない。
「は……?」
じわじわと理解をしてきた。それが正しいなら。陽翔と藤石さんは付き合っておらず、全てが勘違い。いや、2人が勘違いさせてきた結果だ。
少し、納得している自分もいる。2人でデートに行っている様子もない。大学で一緒にいるところは見たことがあるものの、2人で手をつないでいるところすら見たことがない。
さらには、陽翔は藤石さんとの関係を詮索されるのを嫌がっていたように見えていた。それは恋人のことを言いたくないのではない。その話題に触れられると、真実が見抜かれる可能性があるから怖かった。
少しずつ引っかかっていたところが、パズルのピースのようにはまっていった。ようやく理解した俺は、呆然としながら陽翔に尋ねる。
「じゃあ、陽翔は浮気をしていたんじゃないのか?」
「してないけど……。藍星の許可を取らずにキスしたことは悪いと思ってる」
浮気ではなかった。その言葉が妙に心をざわつかせる。陽翔からの謝罪も、どうしたら良いか分からない。
戸惑っている俺を見ながら、陽翔がこちらを見て苦しげに笑った。
「藍星、好きだ。だから振ってくれ。楽に、してくれ」
深刻な声のトーンに、俺は息を呑んだ。
2人が偽装恋人だと聞いた後から、感覚が変わった気がする。真っ直ぐに受け取れなかった言葉が、ダイレクトに届いてくる感覚。
それでも、簡単に頷くことはできなかった。俺は恐る恐る尋ねる。
「陽翔は、俺のことが好きなの?」
「ああ」
「振ってほしいの?」
「振られたいんじゃなくて、お前からの答えがほしいだけだ。もし、できるのなら俺と付き合ってほしい、けど……」
陽翔は言葉を濁す。そうか、陽翔は、俺が陽翔のことを好きになるはずがないと思っているのか。
俺は、陽翔のチョコレート色の瞳を見ながら返事をする。
「今すぐに、答えられない」
「……理由を聞いてもいいか?」
目を瞬かせた陽翔に、俺はゆっくりと告げた。
「分からないから。俺の気持ちも、お前の気持ちも。だから、答えられない」
いきなり陽翔と藤石さんが偽装恋人だと告げられて、しかも俺のことを好きという気持ちが本当だと言われた。俺の反応を見て揶揄っていたのでもなく、真剣だった。
それを、どう考えたら良いんだろうか。自分の気持ちもふわふわしていて、言葉にもできないのだ。
目を見開いたあとに、陽翔は柔らかく微笑んだ。その笑みは、あまりにも無邪気なもので、思わず息を呑む。
晴れやかな表情をした陽翔が口を開いた。
「じゃあ、藍星。俺の気持ちを信じてもらえるように頑張るから」
「え?」
「今すぐに断らないってことは、まだ俺にチャンスはあるんだろう? それなら、俺の好き、という気持ちを伝えるだけだ」
俺の正面の席に座る陽翔がいきなり俺の手をとる。そのまま、唇を寄せた。それはまるで、小説に出てくる騎士のようで、どぎまぎしてしまう。
にこっと笑いながら見上げられ、俺は自身の頬が熱くなる感覚がしながらも、こくりと頷いた。



