第十二話 もう一回!
自分から提案したとはいえ、なんだこの状況は……。
時はお互いバイトのない平日の午後。
場所は水族館の入口。
隣には、緩みきった顔の幼なじみ。
無情にむず痒くて気恥ずかしくて、玲央の顔をまともに見ることも出来ずに、黒キャップを深く被って顔を隠した。
朝、いつものように玲央が起こしに来たときから、無性に意識してしまって、困る。
「要」
玲央は見透かしたように声を掛けてきて、俺の手を取った。
「チケット、もう取ってあるから」
「手繋ぐ必要あります?」
「デート」
「う」
「でしょ」
「はい……」
ハッキリ言い切られて項垂れながら頷く俺だ。
幸い、前回とは違って人は少ない。
平日、閉館ギリギリのこの時間帯なら、まあ。
妥協してやらなくもないかもしれない。
玲央がもう用意してくれていた電子チケットで入場すると、相変わらず館内は暗く、VRで出来た魚が、縦横無尽に壁や床を泳ぎ回っていた。
この暗さなら、と思って玲央の手を握り返すと、更に強く指を絡められるから、早くも俺は逃げ出したくなった。
夏の館内、冷房もバッチリ効いているのに、じわじわと熱くなってくるのは、本当に勘弁してほしい。
「玲央! 見て! ペンギンに餌やれんだって!」
空いている水族館っていうのは、強い。水槽の中も見放題で、一番大きな水槽を通り過ぎたら、照れも気恥ずかしさもどうでもよくなり、目の前にいる生き物たちに夢中になった。クラゲのコーナーでは小さい赤ちゃんみたいなクラゲの群れの動画を撮って、深海のコーナーでは一見グロテスクにも見える魚と玲央のツーショットを撮って笑っていた。
玲央も玲央で、時々スマホを取り出しては、俺と水槽にカメラを向けるから、思いっきりポーズを取ってやる。
もうSNSに写真を上げる必要はないのに、玲央は楽しそうにシャッターボタンを押していた。
順路の通りに進むと、前回は混雑しすぎて見られなかったペンギンのコーナーにたどり着き、餌やり体験に立候補する。
バケツに入った魚をペンギンの水槽の中に入れると、パクっとクチバシを開けて食べるのがかわいい。
係員のお姉さんが、サービスで玲央と俺とペンギンのスリーショットを撮ってくれた。
撮ってくれるだけで写真自体は有料だから、そのまま買わずに次のコーナーに行こうとすると、玲央が立ち止まっていた。
「買うのかよ!」
「記念だから」
戻って突っ込むと、嬉しそうにそう言われてしまって何も言えない。
まあ、俺も玲央もペンギンも、悪くない映りだしな。
帰ったら改めて見せてもらおうと思いつつ、順路を進んだ先には、大きなイルカの水槽があった。
ちょうど、後少しで、イルカショーが始まる。
ここも、休日の混雑がウソのようにガラガラで、最前列も空いていた。
「どうする?」
「そりゃ、買うしかないっしょ」
レインコートを!
前回ビショビショになった苦い教訓を活かして、水槽の近くの売店で、レインコートを二つ買って、一つを玲央に手渡した。
リベンジマッチだ。
結果的には、レインコートに守られていない顔や足元はビショビショになるんだけど、前回と比べ物にならないぐらい守ることができた。
イルカショーが終わるアナウンスを聞きながら、濡れた顔を拭って堪えきれずに笑う。
「結局濡れるのかよー」
「随分マシ。ありがとう」
「どーいたしまして!」
レインコートを買ったときについてきたビニール袋に、レインコートを畳んで入れる。
不意に手が伸びてきて、濡れた前髪に触れられて瞬いた。
ふ、と玲央が笑う。
「びしょびしょ」
「お、おまえもな!」
不意打ちはズルい!
言い返してさりげなく顔を背けて、「売店寄ろ!」と話題を逸らした。
前回は混んでいて、Tシャツ以外のお土産コーナーには行けなかったから。
水の生き物のぬいぐるみや、生き物モチーフのお菓子、リアルなフィギュアなど、所狭しとグッズが置かれている売店の雰囲気は、かわいらしい。
俺たちの他にも、ちらほらと、親子連れやカップルがお土産を見て回っていた。
「うわっ、美味そう」
リアルな蟹のフィギュアを見て思わず呟くと、玲央が笑った。
「俺はこういうのほしいんだけど」
「ま、マジすか」
「マジです」
玲央が見せて来たのは、色違いのイルカのキーホルダーだ。
黄色いイルカと青いイルカの二つを見せて来て、その意図を汲むと無性に気恥ずかしくなる。
「おまえって、恥ずかしいよな」
「浮かれてるかも」
「認めんなよー」
「買って来る」
頷く玲央は、どこまでも真顔だ。
俺の返事も聞かずに、二つのイルカをレジへ持って行く後ろ姿に、花が舞っているような幻覚が見えた。
定番の菓子土産を見て勇斗やシンさんの顔が過ぎるが、二人で水族館に行ったなんて言ったときの二人の顔が想像できて、結局俺は何も買わずに売店を出た。
遅れて玲央がやって来て、「はい」と黄色いイルカのキーホルダーを渡される。
「おー、サンキュ……どこに付ける?」
「財布とかカバンとか? なるべくみんなが見えるところに付けて」
「え、なんで」
「俺のっていう印になるから」
「こわー」
さらっと真顔で言うの、やめてもらっていいですか。
かわいらしいイルカを見て、とりあえず、ポケットにしまっておく。
財布もカバンも、持ち歩かねー主義なんで。
「――で、なんで当たり前のように俺の部屋にいるのおまえは」
ふたりで寮に戻って来て、一息つこうと部屋に入ると、当然のように玲央が着いてきた。
扉が閉まったところで半眼になって指摘する。
「だめ?」
そ、そこで眉を下げて首を傾げるんじゃない!
何も言えなくなって、息を吐いてキャップを外して机の上に置くことで誤魔化す。
イルカの水槽の塩水が掛かった顔が少しべたつく。
ベッドに腰掛けると、玲央も座る。
「要」
「うん?」
名前を呼ばれて返事をした瞬間、視界が反転していた。
背中には柔らかいベッドの感触、俺を見下ろす玲央の顔。
状況を理解して、何度か瞬きを繰り返した。
「は?」
すん、と、肩に顔を埋めた玲央が鼻を鳴らすからぞわっとして、その肩を押しやった。
「いやっ、ちょっと待て、」
「もう十分待った」
低い声で言うのはずるくないっすか。
俺の力に抗うように、玲央は首筋に唇を沿わせてくる。
「お、おにーさん、心の準備がまだ出来てないっていうかあ、」
思いっきり首を逸らして触れる面積を少なくしようと試みながら軽い口調で言うと、玲央の動きが止まる。
「そんな、初めてみたいな」
「…………」
何も言えなかった。
代わりに、じわじわと耳先まで熱が上って来て、ばくばくと心臓の音も激しくなる。
「え」
心底意外そうな一言を耳にして、がばっと身体を起こした。玲央も反動で起き上がる。
「わ、悪いかよ!」
うわっ、認めてしまった……。
「要、モテるのに」
「うるっせーな誰とも付き合ったことねえよなんならデートもおまえが初めてだよちくしょー!」
「要……」
ヤケになって勢い余って告白すると、玲央は、何故かじーんと感動したような表情を浮かべている。
そして次の瞬間、両腕を伸ばして、めちゃくちゃに強く抱きしめて来た。
「要は、色んな人と付き合ってたのかと思ってた……」
玲央の声は吐息混じりで、心底安堵したことが伝わってくる。
微妙にうれしいような、絶妙に気恥ずかしいような、複雑な気分が綯い交ぜになって、玲央の肩に顔を埋める。
「高校からすごく派手になってたし」
「見た目だけな」
「ピアスも開いてるし」
「痛かったよ」
「ねえ、なんで俺とデートしてくれたの」
玲央にしては珍しい、弾んだ声で囁かれ、俺は黙秘を貫こうとする。
「要」
促すように頭を擦り寄せられ、耳元のリングピアスを悪戯に引っ張られて、小さく息を飲む。
抱きしめ合って触れ合った胸元から、いやに速い鼓動が聞こえてきて、観念して口を開く。
「――俺がよかったからだよ!」
かわいい女の子でも、お似合いの花嫁でもなくて。
玲央の隣に立つのは、俺がよかった。
勢い余って本音を言うと、玲央が息を飲んで、今までで一番の力を込めて俺を抱きしめて来た。
結局、コイツは俺を、逃がしてくれない。
――それから。
玲央の態度は信じられないぐらいに甘くなり、勇斗や高山、シンさんが、俺たちを見る目も非常に生暖かいものとなった。
SNSで恋人宣言しなくたって、コンビニやカフェの常連のお客さんは、俺たちのことを応援してくれている。
お互いが職場のネームプレートにつけている色違いのイルカのキーホルダーが、またSNSで話題になっていることを、勇斗が教えてくれた。
「要、おはよう」
玲央は相変わらず毎朝俺を起こしに来るけれど、その方法が少し変わった。
頬へのキスが付け加えられるのはまだいい方で、俺の寝起きが悪いときは、唇にまで口付けてくる。
怒ろうとするが、とろけるような笑顔を見てしまうと何も言えずに、結局そのままずるずると許してしまうんだ。
朝飯と昼飯を一緒に食べて、バイトで別れて、また寮で会うのはそのまま、時々玲央が、俺の部屋で寝るようになった。
シングルベッドに男ふたりは狭すぎるが、言っても帰らないから仕方ない。
「なんでここで寝んの」
「おやすみも言いたかった」
素直な理由がかわいいからと、許してしまう俺も俺だ。
早く寝るぞ、と言って、玲央の口許に口付けると、玲央が感極まったように押し倒してくるから、枕を挟んで防ぐのが、寝る前の恒例行事となっている。
可愛かった幼なじみとの攻防戦は、まだまだ続く……。
おわり。
自分から提案したとはいえ、なんだこの状況は……。
時はお互いバイトのない平日の午後。
場所は水族館の入口。
隣には、緩みきった顔の幼なじみ。
無情にむず痒くて気恥ずかしくて、玲央の顔をまともに見ることも出来ずに、黒キャップを深く被って顔を隠した。
朝、いつものように玲央が起こしに来たときから、無性に意識してしまって、困る。
「要」
玲央は見透かしたように声を掛けてきて、俺の手を取った。
「チケット、もう取ってあるから」
「手繋ぐ必要あります?」
「デート」
「う」
「でしょ」
「はい……」
ハッキリ言い切られて項垂れながら頷く俺だ。
幸い、前回とは違って人は少ない。
平日、閉館ギリギリのこの時間帯なら、まあ。
妥協してやらなくもないかもしれない。
玲央がもう用意してくれていた電子チケットで入場すると、相変わらず館内は暗く、VRで出来た魚が、縦横無尽に壁や床を泳ぎ回っていた。
この暗さなら、と思って玲央の手を握り返すと、更に強く指を絡められるから、早くも俺は逃げ出したくなった。
夏の館内、冷房もバッチリ効いているのに、じわじわと熱くなってくるのは、本当に勘弁してほしい。
「玲央! 見て! ペンギンに餌やれんだって!」
空いている水族館っていうのは、強い。水槽の中も見放題で、一番大きな水槽を通り過ぎたら、照れも気恥ずかしさもどうでもよくなり、目の前にいる生き物たちに夢中になった。クラゲのコーナーでは小さい赤ちゃんみたいなクラゲの群れの動画を撮って、深海のコーナーでは一見グロテスクにも見える魚と玲央のツーショットを撮って笑っていた。
玲央も玲央で、時々スマホを取り出しては、俺と水槽にカメラを向けるから、思いっきりポーズを取ってやる。
もうSNSに写真を上げる必要はないのに、玲央は楽しそうにシャッターボタンを押していた。
順路の通りに進むと、前回は混雑しすぎて見られなかったペンギンのコーナーにたどり着き、餌やり体験に立候補する。
バケツに入った魚をペンギンの水槽の中に入れると、パクっとクチバシを開けて食べるのがかわいい。
係員のお姉さんが、サービスで玲央と俺とペンギンのスリーショットを撮ってくれた。
撮ってくれるだけで写真自体は有料だから、そのまま買わずに次のコーナーに行こうとすると、玲央が立ち止まっていた。
「買うのかよ!」
「記念だから」
戻って突っ込むと、嬉しそうにそう言われてしまって何も言えない。
まあ、俺も玲央もペンギンも、悪くない映りだしな。
帰ったら改めて見せてもらおうと思いつつ、順路を進んだ先には、大きなイルカの水槽があった。
ちょうど、後少しで、イルカショーが始まる。
ここも、休日の混雑がウソのようにガラガラで、最前列も空いていた。
「どうする?」
「そりゃ、買うしかないっしょ」
レインコートを!
前回ビショビショになった苦い教訓を活かして、水槽の近くの売店で、レインコートを二つ買って、一つを玲央に手渡した。
リベンジマッチだ。
結果的には、レインコートに守られていない顔や足元はビショビショになるんだけど、前回と比べ物にならないぐらい守ることができた。
イルカショーが終わるアナウンスを聞きながら、濡れた顔を拭って堪えきれずに笑う。
「結局濡れるのかよー」
「随分マシ。ありがとう」
「どーいたしまして!」
レインコートを買ったときについてきたビニール袋に、レインコートを畳んで入れる。
不意に手が伸びてきて、濡れた前髪に触れられて瞬いた。
ふ、と玲央が笑う。
「びしょびしょ」
「お、おまえもな!」
不意打ちはズルい!
言い返してさりげなく顔を背けて、「売店寄ろ!」と話題を逸らした。
前回は混んでいて、Tシャツ以外のお土産コーナーには行けなかったから。
水の生き物のぬいぐるみや、生き物モチーフのお菓子、リアルなフィギュアなど、所狭しとグッズが置かれている売店の雰囲気は、かわいらしい。
俺たちの他にも、ちらほらと、親子連れやカップルがお土産を見て回っていた。
「うわっ、美味そう」
リアルな蟹のフィギュアを見て思わず呟くと、玲央が笑った。
「俺はこういうのほしいんだけど」
「ま、マジすか」
「マジです」
玲央が見せて来たのは、色違いのイルカのキーホルダーだ。
黄色いイルカと青いイルカの二つを見せて来て、その意図を汲むと無性に気恥ずかしくなる。
「おまえって、恥ずかしいよな」
「浮かれてるかも」
「認めんなよー」
「買って来る」
頷く玲央は、どこまでも真顔だ。
俺の返事も聞かずに、二つのイルカをレジへ持って行く後ろ姿に、花が舞っているような幻覚が見えた。
定番の菓子土産を見て勇斗やシンさんの顔が過ぎるが、二人で水族館に行ったなんて言ったときの二人の顔が想像できて、結局俺は何も買わずに売店を出た。
遅れて玲央がやって来て、「はい」と黄色いイルカのキーホルダーを渡される。
「おー、サンキュ……どこに付ける?」
「財布とかカバンとか? なるべくみんなが見えるところに付けて」
「え、なんで」
「俺のっていう印になるから」
「こわー」
さらっと真顔で言うの、やめてもらっていいですか。
かわいらしいイルカを見て、とりあえず、ポケットにしまっておく。
財布もカバンも、持ち歩かねー主義なんで。
「――で、なんで当たり前のように俺の部屋にいるのおまえは」
ふたりで寮に戻って来て、一息つこうと部屋に入ると、当然のように玲央が着いてきた。
扉が閉まったところで半眼になって指摘する。
「だめ?」
そ、そこで眉を下げて首を傾げるんじゃない!
何も言えなくなって、息を吐いてキャップを外して机の上に置くことで誤魔化す。
イルカの水槽の塩水が掛かった顔が少しべたつく。
ベッドに腰掛けると、玲央も座る。
「要」
「うん?」
名前を呼ばれて返事をした瞬間、視界が反転していた。
背中には柔らかいベッドの感触、俺を見下ろす玲央の顔。
状況を理解して、何度か瞬きを繰り返した。
「は?」
すん、と、肩に顔を埋めた玲央が鼻を鳴らすからぞわっとして、その肩を押しやった。
「いやっ、ちょっと待て、」
「もう十分待った」
低い声で言うのはずるくないっすか。
俺の力に抗うように、玲央は首筋に唇を沿わせてくる。
「お、おにーさん、心の準備がまだ出来てないっていうかあ、」
思いっきり首を逸らして触れる面積を少なくしようと試みながら軽い口調で言うと、玲央の動きが止まる。
「そんな、初めてみたいな」
「…………」
何も言えなかった。
代わりに、じわじわと耳先まで熱が上って来て、ばくばくと心臓の音も激しくなる。
「え」
心底意外そうな一言を耳にして、がばっと身体を起こした。玲央も反動で起き上がる。
「わ、悪いかよ!」
うわっ、認めてしまった……。
「要、モテるのに」
「うるっせーな誰とも付き合ったことねえよなんならデートもおまえが初めてだよちくしょー!」
「要……」
ヤケになって勢い余って告白すると、玲央は、何故かじーんと感動したような表情を浮かべている。
そして次の瞬間、両腕を伸ばして、めちゃくちゃに強く抱きしめて来た。
「要は、色んな人と付き合ってたのかと思ってた……」
玲央の声は吐息混じりで、心底安堵したことが伝わってくる。
微妙にうれしいような、絶妙に気恥ずかしいような、複雑な気分が綯い交ぜになって、玲央の肩に顔を埋める。
「高校からすごく派手になってたし」
「見た目だけな」
「ピアスも開いてるし」
「痛かったよ」
「ねえ、なんで俺とデートしてくれたの」
玲央にしては珍しい、弾んだ声で囁かれ、俺は黙秘を貫こうとする。
「要」
促すように頭を擦り寄せられ、耳元のリングピアスを悪戯に引っ張られて、小さく息を飲む。
抱きしめ合って触れ合った胸元から、いやに速い鼓動が聞こえてきて、観念して口を開く。
「――俺がよかったからだよ!」
かわいい女の子でも、お似合いの花嫁でもなくて。
玲央の隣に立つのは、俺がよかった。
勢い余って本音を言うと、玲央が息を飲んで、今までで一番の力を込めて俺を抱きしめて来た。
結局、コイツは俺を、逃がしてくれない。
――それから。
玲央の態度は信じられないぐらいに甘くなり、勇斗や高山、シンさんが、俺たちを見る目も非常に生暖かいものとなった。
SNSで恋人宣言しなくたって、コンビニやカフェの常連のお客さんは、俺たちのことを応援してくれている。
お互いが職場のネームプレートにつけている色違いのイルカのキーホルダーが、またSNSで話題になっていることを、勇斗が教えてくれた。
「要、おはよう」
玲央は相変わらず毎朝俺を起こしに来るけれど、その方法が少し変わった。
頬へのキスが付け加えられるのはまだいい方で、俺の寝起きが悪いときは、唇にまで口付けてくる。
怒ろうとするが、とろけるような笑顔を見てしまうと何も言えずに、結局そのままずるずると許してしまうんだ。
朝飯と昼飯を一緒に食べて、バイトで別れて、また寮で会うのはそのまま、時々玲央が、俺の部屋で寝るようになった。
シングルベッドに男ふたりは狭すぎるが、言っても帰らないから仕方ない。
「なんでここで寝んの」
「おやすみも言いたかった」
素直な理由がかわいいからと、許してしまう俺も俺だ。
早く寝るぞ、と言って、玲央の口許に口付けると、玲央が感極まったように押し倒してくるから、枕を挟んで防ぐのが、寝る前の恒例行事となっている。
可愛かった幼なじみとの攻防戦は、まだまだ続く……。
おわり。


