眠り姫・オレがモデルに恋したはなし

 次の日。

 永臣が登校した瞬間、学校中がざわめき立った。

「え、髪切ってる!」

「やば、かっこよ」

「惚れる!」

 ざわざわ。いつも以上にざわざわ。

(余計人気になってるじゃん……)

 短髪の永臣。遠目に見てもかっこいい。
 今日オレはあいつに告白する……た、耐えられるのか?

「うああ……どうしよう!?」

「おはよ。朝からどうした?」

 悠斗くんが言った。

「なんでもない。おはよ」

「それよりさ、もしかして永臣、失恋? 朔也、振ったの?」

 悠斗くんがこそっと言ってくる。

「振ってない! むしろ……これから、だから」

 悠斗くんが一瞬目を丸くして、それからオレの背中をポンポン叩いた。

「そっか。応援してる」

「うん」

 ◇

 昼休み。

 オレは、第二図書室に向かった。
 廊下の角を曲がった瞬間、心臓がうるさくなる。
 この先のドアの向こうに、永臣が……いる。
 オ、オレを待ってる!
 ドアの前で足が止まる。

(に、逃げたい)

 でも、逃げない。
 深呼吸する。一回、二回、三回……やばい。過呼吸になりそう。
 ドアノブに手をかける。
 開けると――キィと音が鳴って、少しだけ森のにおいがした。
 ベンチに座ってた永臣が、ゆっくりこっちを見た。
 顔が優しい。
 オレが目を覚ました時、最初に見る顔。

 やばい。
 どうしよう。
 目が、離せない。
 言葉を探していると、永臣が言った。

「朔也」

 声までカッコいい。
 てか、短髪やべー!!

 オレは――観念した。
 もう無理だ。言う。今、言う。全部。

「好き」

 声が少し震えた。

「カッコいいとこも、カッコ悪いとこも。全部好き」

 言った瞬間、永臣が嬉しそうにふっと笑った。

(これ、なんだ?)

 この気持ち。
 好き、だけじゃない気がする。
 もっと、深い。
 重くて、溢れそう。

「オレ……お前に、恋してる!」

 口から、勝手に言葉が出た。
 永臣がベンチから立ち上がって、オレの前まで歩いてくる。

「今更?」

「え」

「最初に会った時から恋してたでしょ」

 顔が、一気に熱くなる。

「え? そ……」

「初めて、ここで会った時から。朔也鈍感だから、気づいてなかっただけ」

「……」

(マジで? そうなの? でも、そうかも。ずっと永臣のことばっかり考えてた)

 オレは顔を覆った。
 なんか、すごく恥ずかしい。
 それに、こいつなんでこんなに自信満々なの?
 でも、嬉しい。

 永臣が、オレの手首をつかむ。
 引き寄せて、頬に両手を添えた。

「朔也、可愛い」

「かわ? ……ん」

 口を塞がれる。
 柔らかい感触と、永臣のにおい。
 大好きなやつ。
 森のにおいに包まれて、世界が永臣だけになる。
 離れたくない。ずっと、このまま――

 その時、永臣が少し離れてオレの顔を覗き込んできた。
 オレはぼんやりしてて、見返すしかできない。

「朔也」

「……なに」

「俺も、恋してる」

「……」

「最初っから」

「ほんと?」

 声がかすれた。

「ほんと」

 オレは何も言えなくて、ただうなずいた。
 永臣がもう一回笑う。
 オレには分かる。
 その笑い方。ちゃんと、嬉しい時のやつ。

「じゃ、そろそろ連絡先交換するか」

「今!?」

 別にいいけど。
 でも、もっと……

「キスしたい?」

 首を傾げる。
 ずるい。カッコよすぎて、ずるい!
 永臣がスマホを取り出しながら、ぽつりと言った。

「モデルさ。続けるかも」

「え、そうなの? でもどうして」

「……朔也が」

(オレ?)

「俺のこと、めちゃくちゃカッコいいって目で見てるから――」

「そんなに!?」

 気づかなかった。え、マジで? たしかにものすごく、常軌を逸してカッコいいけど。

「だから、続けてみてもいいかなって」

「そっか。永臣がそう言うなら応援する!」

「……うん。キスしていい?」

「いいけど――っん」

 森のにおい。
 二人だけの第二図書室。

 ここは、オレと永臣の特別な隠れ家だ。

 ◇

 教室に戻ると、悠斗くんと出月くんがニコニコしながら出迎えてくれた。

「よかったな」

「うん」

 心臓が、いつまでたっても静かになってくれない。
 初めてのキス。感触がぜんぜん消えない。

「あいつさ……めっちゃカッコよすぎて、やばくない?」

「さっそくのろけ? わかるけどさ」

「マジ、異次元」

 二人が笑った。
 オレも、笑った。