転生したら、女神様の凡ミスに遭いました

サフランくんは、『影の家系』の正嫡として生まれたけれど、あまりに純粋で強すぎる才能を持っていた。
王位継承権を巡る争いや、宮廷魔道具師たちに利用されることを恐れたサフランくんのお母さんが、あえて『ただの人間』として生きられるように遠く離れた森へ捨てた。
そして、ラトレ村の人たちに拾われ、そのまま、『ラトレ村の住民』として平穏に暮らしている。
だが、もし、サフランくんの存在が知られたら、王家の陰謀が、ラトレ村に及びそうになるかもしれない。
その真実で、今までのすべてが……ラトレ村の人たちとの培ってきた関係のすべてが崩れ去るかもしれないのだ。

『アウリス・クロエ様……』
「分かっているわ。アリスやサフランくんたちに危険が及ばないように引き続き、ルージュ王国の動向を探ってちょうだい!」
『かしこまりました』

私が抱いた危惧。
その可能性を認めるように、テレビの精霊さんは慇懃丁重に応えた。

「たとえ、世継ぎ争いが起きても、私たちがすることは変わらない。過去がどうであれ、サフランくんが、ラトレ村の住民に変わりないのだから」

私は部屋の窓から、サフランくんの工房がある方角を見つめた。
サフランくんの工房から聞こえるのは、規則正しい金槌の音。
それは王都の混乱とは無縁の、『命を育む音』として私の耳に届く。
泣きそうな空が、朱をはらみながらに暮れてゆく。
もう少ししたら、ぽつりぽつりと来るのだろうか。
私は訳もなく、胸にわだかまる切なさに思い巡らせた。
王様は、サフランくんの存在に気づいてしまうのだろうか。
それでも、サフランくんの過去が牙を剥いたとしても、絶対に守り抜こうと決意を固める。

過去に縛られるんじゃなくて、前を向いて生きたいと思えるようにーー。

奇跡の連なりで、私たちは巡り会えたのだから。
それを最大限支援するのがきっと、この村に住む、大精霊である私の役目だ。