転生したら、女神様の凡ミスに遭いました

ジルハルト殿下が白羽の矢を立てた、『ラトレ村に行ったことがある者』。
それはルージュ王国の息のかかった辺境伯の配下の一人だった。
彼は以前、冒険者さんたちの噂を伝手に、ラトレ村を訪れたことがあったのだ。
だが、使者として選ばれた彼は道中、『迷いの森』と化した森を前にうろたえてしまう。

『ここは、どこなのでしょうか? すっかり迷ってしまいました……』

そう口走った途端、使者さんの頭上に『迷子の使者』といった、キラキラしたエフェクト(字幕)が出た。
そして、『緊急警告。この森は現在、迷いの森と化しています』というテロップが流れる。

『ラトレ村は、どちらの方角にあるのでしょうか?』

ぐったりした使者さんが出口を求めて、森を彷徨っていた時ーー。
勇者リスアと魔王ウリが腕組みして、彼の目の前に立ち塞がった。

『あなたが、ルージュ王国からの使者か?』
『ふむ、悪いことは言わない。クズ王太子の命など、無視して我が軍門に下るがいい』

何気に、魔王軍に勧誘しているのは魔王ウリだ。

『おお、魔王様がスカウト始めたぞ!』
『行け行けー!』

そして、熱狂的に、魔王ウリを応援しているのは魔王城の酒場にいる魔物たちである。

『えっ、王太子ってクズなの……?』
『最低……』

逆にルージュ王国の人たちは、その発言にざわつき始めた。

『あなた方は、ラトレ村の方ですか? ジルハルト殿下の命により、聖女様をお連れするために参りました。ご同行をお願いしたいのですが……』

テレビの生中継に、自分が映っている。
まさか、そんな状況になっているとは露知らず、使者さんは低姿勢で、ここに来た理由を告げる。

『断ると言ったら?』
『ジルハルト殿下は、どうしても聖女様にお目にかかりたいと言っておりまして……。ほんのちょっとだけでも、王城においでいただけませんか? ぜひとも、聖女様に、ご挨拶させていただきたいと申しております』

勇者リスアの問いかけに、使者さんは慇懃な態度で応えた。

『合わせて、大精霊様も、城内にご招待したく思いましてーー、事前調整の使者として、私がうかがいました。何か不都合な点や懸念などありましたら、ぜひこの場で……あるいは王都への道中でお申し付けください』

使者さんからの誘いに、勇者リスアと魔王ウリは顔を見合わせる。
……実はこの招待、本来なら選択肢がないのよね。
『ルージュ王国の王家からの招待』を、『たかが平民出の者たち』が断るなんてあり得ない。
ここでいう『招待』とは、ある意味、強制的な呼び出しに近い。
だが、彼がそれを伝えた相手は『勇者』と『魔王』だ。
そして、女神様のミスで分裂した、もう一人の私、異世界転生者である。