転生したら、女神様の凡ミスに遭いました

「アウリ……。わたしが、ルージュ王国の第一王子、ジルハルト殿下に、婚約破棄されたこと、知っている?」
「ええ。異世界TVのアナウンサーとして、各地を飛び回っていたからね」

アリスは、心に暗いものを引きずっているように声を落とした。

「殿下の気分に損ねたら、いつ左遷されるか、分からない。殿下の行いに物申すなんて、当然、許されないこと……」

その言葉に、嫌な予感がよぎった。
アリスは恐らく、婚約破棄されたことを気にしていないだろう。
だが――ざぁっと全身から一気に血の気が引いた。

「やったぁぁぁっ! ようやく、解放されたあぁああっ! ……って感激して、景気づけに実家に帰ろうと思ったんだけど、手紙が届いたのよ。両親が営んでいる食堂が潰れそうって……」

アリスの言葉は、そこで途切れた。
胸がちくりと痛む。
その原因って、もしかして――。
予想外なことに動揺している私に、アリスは気丈に振る舞う。

「わたしの実家は、小さな村で食堂を経営しているんだけどね。わたしが殿下に楯突いたことで、商売あがったりみたいなの」
「それって、ジルハルト殿下から妨害を受けているってこと?」
「うん……」

アリスの実家の食堂は、こぢんまりとしたお店だ。
客を持っていかれたとあっては、経済的に打撃だろう。
ジルハルト殿下によって、お店の客が根こそぎ奪われてしまった。
なにそれ。
自分は平然と、公爵令嬢と浮気していたくせに許せない。
ルージュ王国を、魔物の脅威にさらしたのは魔王の私だったけれど。
それでも、それでも――。

「このまま、黙っていたら、聖女の名折れ! 星の大精霊である私と契約を果たしたんだもの! きっちり見返してやらなくちゃ!」
「そうね! このまま、やられっぱなしじゃいられないわ!」

怒り心頭の私の気持ちに、シンパシーを感じたのだろう。
アリスは、今まで溜め込んでいた怒りを思いっきりぶつける。

「そもそも、ジルハルト殿下は浮気したり、婚約破棄したりと勝手すぎるのよ! まあ、わたしとしては、殿下と婚約破棄できて願ったり、叶ったりだけどね!」

アリスの熱弁に、私もしきりにうなずいた。
鬱蒼とした森。
ひしめく樹木の海。
私たちはひとしきり、ジルハルト殿下の文句を言い合う。
ここは森だし、私の大精霊の加護がある。
誰かが、私たちの言葉を聞くことはないだろう。
転生の間にいる女神様たち以外はね。

「私のお願い、叶えてもらったんだもの。私も、アリスの実家の食堂が繁盛できるように協力するわ!」
「アウリ、ありがとう」

私たちは同じ人物の転生者だ。
特筆する人生ではなかったけれど、同じ前世の知識を有している。
アリスの実家を見捨てるなんて、天地がひっくり返ってもできるわけがない。