※宗一郎視点です※
僕こと火村宗一郎は、日もすっかり沈んだ頃、とあるカフェで抹茶ラテを飲みながら本を読んでいる。もちろんここは、綾人にぃのバイト先。
ここに来るのは二回目だ。一回目は、僕が上京する前、大学入試の試験を受けた日だ。
——あの日は雨が降っており、高校時代の友人と二人で入試に挑んだ。いや、友人とは仮初で、好きな人を諦める為に付き合った恋人だ。
好きな人……それは、言わずもがな綾人にぃなのだが、その恋心に気付いたのは、中学二年生の頃。
僕が地方に引っ越した小学三年生の時には、『会いたいなぁ』『好きだなぁ』くらいには思っていた。けれど、その時は僕も幼く、それが恋だなんて気付きもしなかった。
それが日々大きくなり、中学生になれば本格的に付き合う友人も出てきて、色恋の話で盛り上がった。男だから下ネタも多く、エッチなことの関心も出てきた。ただ、僕の対象は女子ではなかった。
僕が頭の中で一夜を共にするのは、いつも綾人にぃ——。
綾人にぃの笑顔、泣き顔、困った顔、幼稚園からの付き合いなので、全部知っている。小学一年生の時にオネショをして、おばさんに叱られていたのも知っている。
こんなにも知っているのに、綾人にぃは、ここにはいない。いくら想っても手に入らない。そもそも『男同士なんて気持ち悪い』と言われて、綾人にぃに嫌われそうだ。
そうこうしている内に高校生になった僕は、女子からの告白を全て断り、一つ年上の男子と付き合った。綾人にぃに似ていたのだ。
それはもう楽しくて、嬉しくて————虚しかった。
いくら綾人にぃに重ねても、どうしても本人とは違うのだ。美化される部分も多少なりともあるだろうが、それでも、それは綾人にぃではないから……。
けれど、この寂しさを埋めてくれるのは、悔しくも彼の人肌で、離れることが出来なかった。
そして、二年が経ったある日、僕はうっかり彼に『綾人にぃ』と呼んでしまったのだ。それが決め手で別れることになったのだが、僕の心にポッカリと開いた穴を埋めるべく、新たな恋人を作った。それが、この場所を一緒に訪れた彼。
一緒の大学に入ろうと話し、共に勉強を頑張った。そして受けた大学————そう、それがまさか綾人にぃがいる大学だなんて思いもしなかった。
入試の日、ホテルに泊まる前に寄ったカフェ。そこに綾人にぃの姿があって驚いた。綾人にぃが、そこの大学の話をしており、在校生なのだと分かった。
嬉しさのあまり声をかけたかった、ずっとずっと会いたかった、好きだと叫びたかった。しかし、できなかった。だって、僕の隣には、寂しさを埋めるためだけに付き合っている彼がいたから——。
結局、その彼ともすぐに別れた。もう僕の頭には綾人にぃしかいなかったのもあるが、僕だけが今の大学に受かったのだ。気まずくなって自然消滅。
そして、僕は母に頼んで、綾人にぃとルームシェア出来るようにしてもらった。
嬉しくて舞い上がった。念願叶って、すぐに告白しようとも思った。想いのたけを全て曝け出してしまおうと——。
けれど、いざ一緒に住み始めると、目が合わせられない。話しかけられない。話しかけられても素っ気ない態度を取ってしまう。これではダメだと思いながらも、好きな人を目の前にすると、ひよってしまう。
このままでは完全に嫌われる。嫌われたくない。そう思えば思うほど空回り。故に僕は、ある作戦に出たのだ。
題して『お節介な綾人にぃのヒモに成り下がろう大作戦!』
ネーミングセンスに関しては、温かい目で見て頂くことにして、経済的にではなく、僕は家事全般出来ないことにして、身の回りのこと全てを綾人にぃに依存するというものだ。
恋愛に発展しなくとも、綾人にぃがいないと僕は生きて行けない……そう思わせることで、綾人にぃが大学を卒業しても、ずっと側にいてもらおうとしたのだ。
しかし、順調にいっていたそれは、綾人にぃの行動で大幅に崩れた。
寝ている僕の布団に入ってきた時は驚きだった。初めこそ、寝ぼけて入ってきたのかな? くらいに考え、平常を装うのに必死だった。ゲームでもしていないと心臓がもたなかった。『俺とゲーム、どっちが大事?』なんて——。
(これはもう僕が好きなんだとばかり思うじゃないか! 布団に入ってきたのも、わざとなんだと……キスまでしちゃったじゃん)
ただ、分からないのが、綾人にぃがソフレを提案してきたことだ。僕としては願ったり叶ったりだが、何故綾人にぃは、そんなことを言い出したのか——。
「宗一郎。晩飯も食べて帰る?」
ウェイター姿の綾人にぃが、コソッと話しかけてきた。
「綾人にぃは?」
「俺はこれから賄い食うからさ。何なら奢るし」
「じゃあ、ハンバーグ定食」
「了解!」
綾人にぃは、伝票を持って奥に下がっていった。
その後ろ姿を見るだけで、顔がニヤけてしまう。
ちなみに、僕が出不精だと思っているのは、綾人にぃだけだ。別に出るのが億劫なわけではなく、綾人にぃと同じ空間に長くいたいだけ。外に出ていたら、ほんの数秒でも無駄にしてしまう。
とはいえ、綾人にぃを目の前に上手く話せない僕は、早く寝ることでその場を凌いだ。今では、小学生よりも早く寝る習慣がついてしまった。
それのおかげで添い寝時間が長いので、僕としては結果オーライだ。
十分もすれば、綾人にぃがお膳を持ってやってきた。
「お待たせ致しました。ハンバーグ定食になります」
「ありがとう。綾人にぃ……」
「ん?」
大好きという言葉は飲み込んで、笑顔で言った。
「頑張ってね」
「おう!」
——この時の僕は、綾人にぃのストーカーの正体が、まさか彼だなんて思いもしなかった。
僕こと火村宗一郎は、日もすっかり沈んだ頃、とあるカフェで抹茶ラテを飲みながら本を読んでいる。もちろんここは、綾人にぃのバイト先。
ここに来るのは二回目だ。一回目は、僕が上京する前、大学入試の試験を受けた日だ。
——あの日は雨が降っており、高校時代の友人と二人で入試に挑んだ。いや、友人とは仮初で、好きな人を諦める為に付き合った恋人だ。
好きな人……それは、言わずもがな綾人にぃなのだが、その恋心に気付いたのは、中学二年生の頃。
僕が地方に引っ越した小学三年生の時には、『会いたいなぁ』『好きだなぁ』くらいには思っていた。けれど、その時は僕も幼く、それが恋だなんて気付きもしなかった。
それが日々大きくなり、中学生になれば本格的に付き合う友人も出てきて、色恋の話で盛り上がった。男だから下ネタも多く、エッチなことの関心も出てきた。ただ、僕の対象は女子ではなかった。
僕が頭の中で一夜を共にするのは、いつも綾人にぃ——。
綾人にぃの笑顔、泣き顔、困った顔、幼稚園からの付き合いなので、全部知っている。小学一年生の時にオネショをして、おばさんに叱られていたのも知っている。
こんなにも知っているのに、綾人にぃは、ここにはいない。いくら想っても手に入らない。そもそも『男同士なんて気持ち悪い』と言われて、綾人にぃに嫌われそうだ。
そうこうしている内に高校生になった僕は、女子からの告白を全て断り、一つ年上の男子と付き合った。綾人にぃに似ていたのだ。
それはもう楽しくて、嬉しくて————虚しかった。
いくら綾人にぃに重ねても、どうしても本人とは違うのだ。美化される部分も多少なりともあるだろうが、それでも、それは綾人にぃではないから……。
けれど、この寂しさを埋めてくれるのは、悔しくも彼の人肌で、離れることが出来なかった。
そして、二年が経ったある日、僕はうっかり彼に『綾人にぃ』と呼んでしまったのだ。それが決め手で別れることになったのだが、僕の心にポッカリと開いた穴を埋めるべく、新たな恋人を作った。それが、この場所を一緒に訪れた彼。
一緒の大学に入ろうと話し、共に勉強を頑張った。そして受けた大学————そう、それがまさか綾人にぃがいる大学だなんて思いもしなかった。
入試の日、ホテルに泊まる前に寄ったカフェ。そこに綾人にぃの姿があって驚いた。綾人にぃが、そこの大学の話をしており、在校生なのだと分かった。
嬉しさのあまり声をかけたかった、ずっとずっと会いたかった、好きだと叫びたかった。しかし、できなかった。だって、僕の隣には、寂しさを埋めるためだけに付き合っている彼がいたから——。
結局、その彼ともすぐに別れた。もう僕の頭には綾人にぃしかいなかったのもあるが、僕だけが今の大学に受かったのだ。気まずくなって自然消滅。
そして、僕は母に頼んで、綾人にぃとルームシェア出来るようにしてもらった。
嬉しくて舞い上がった。念願叶って、すぐに告白しようとも思った。想いのたけを全て曝け出してしまおうと——。
けれど、いざ一緒に住み始めると、目が合わせられない。話しかけられない。話しかけられても素っ気ない態度を取ってしまう。これではダメだと思いながらも、好きな人を目の前にすると、ひよってしまう。
このままでは完全に嫌われる。嫌われたくない。そう思えば思うほど空回り。故に僕は、ある作戦に出たのだ。
題して『お節介な綾人にぃのヒモに成り下がろう大作戦!』
ネーミングセンスに関しては、温かい目で見て頂くことにして、経済的にではなく、僕は家事全般出来ないことにして、身の回りのこと全てを綾人にぃに依存するというものだ。
恋愛に発展しなくとも、綾人にぃがいないと僕は生きて行けない……そう思わせることで、綾人にぃが大学を卒業しても、ずっと側にいてもらおうとしたのだ。
しかし、順調にいっていたそれは、綾人にぃの行動で大幅に崩れた。
寝ている僕の布団に入ってきた時は驚きだった。初めこそ、寝ぼけて入ってきたのかな? くらいに考え、平常を装うのに必死だった。ゲームでもしていないと心臓がもたなかった。『俺とゲーム、どっちが大事?』なんて——。
(これはもう僕が好きなんだとばかり思うじゃないか! 布団に入ってきたのも、わざとなんだと……キスまでしちゃったじゃん)
ただ、分からないのが、綾人にぃがソフレを提案してきたことだ。僕としては願ったり叶ったりだが、何故綾人にぃは、そんなことを言い出したのか——。
「宗一郎。晩飯も食べて帰る?」
ウェイター姿の綾人にぃが、コソッと話しかけてきた。
「綾人にぃは?」
「俺はこれから賄い食うからさ。何なら奢るし」
「じゃあ、ハンバーグ定食」
「了解!」
綾人にぃは、伝票を持って奥に下がっていった。
その後ろ姿を見るだけで、顔がニヤけてしまう。
ちなみに、僕が出不精だと思っているのは、綾人にぃだけだ。別に出るのが億劫なわけではなく、綾人にぃと同じ空間に長くいたいだけ。外に出ていたら、ほんの数秒でも無駄にしてしまう。
とはいえ、綾人にぃを目の前に上手く話せない僕は、早く寝ることでその場を凌いだ。今では、小学生よりも早く寝る習慣がついてしまった。
それのおかげで添い寝時間が長いので、僕としては結果オーライだ。
十分もすれば、綾人にぃがお膳を持ってやってきた。
「お待たせ致しました。ハンバーグ定食になります」
「ありがとう。綾人にぃ……」
「ん?」
大好きという言葉は飲み込んで、笑顔で言った。
「頑張ってね」
「おう!」
——この時の僕は、綾人にぃのストーカーの正体が、まさか彼だなんて思いもしなかった。



