好き避け年下幼馴染は、拗らせすぎ!? ソフレ契約、勝手に破んなよ!

 翌朝。
「ほら、綾人にぃ。行くよ」
「行くって、宗一郎はまだ大丈夫だろ?」
 俺は一限から授業で宗一郎は二限目から。そうでなくとも、大学に一緒に通った試しがない。それなのに、宗一郎は玄関で俺を待っている。
「ストーカーがいるかもしれないじゃん。一緒に行くよ」
「ありがたいけど……」
 俺は櫛とワックスを手に持って、宗一郎の元へと向かう。
「はい、後ろ向いて」
「良いのに、このままで」
 宗一郎は溜め息混じりに背を向けて、その場に座る。
 俺は、その頭に櫛を通してからワックスで整えていく。
「態度が変わっても、これだけは変わらないんだな」
「だって、別に誰も見てないし」
「は? 絶対見られてるだろ。むしろ、誰よりも見られてるよ」
「僕は、綾人にぃに見られたい……」
 宗一郎の呟きは、うまく聞き取れなかった。
「ヤバッ! 早く行かないと遅刻だ」
 俺はその場に櫛とワックスを置いて、リュックを背負った。
「だから、早くって言ってるじゃん」
「宗一郎が、いつまでも離してくれないからだろ」
 そう、今日も今日とて、ベッドの中で宗一郎が中々解放してくれなかったのだ。だから、これに関しては文句を言ってもバチは当たらないと思う。
 宗一郎が玄関扉を開けて一歩外に出れば、俺もまた急いで靴を履き、家を出た——。

◇◇◇◇

 大学とアパートは、さほど遠くない。徒歩で三十分程度。自転車を使えば時短出来るが、大学は山手にある。ラストスパートがキツいので諦めた。原付は——運転免許を持っていない。
 そして、最後の坂道を駆け上がる自信はないので、序盤で走り、今は坂道を歩いてのぼっている。
「綾人にぃ。来る時は、誰かに見られてる感じはなかったね」
「走ってたから分かんねーよ。てか、宗一郎。講義始まるまで何すんの?」
「んー、テキトーにするよ」
「なんか悪いな」
 二人で話をしていると、後ろからポンッと肩を叩かれた。
「はよ!」
「あ、(ひかる)。おはよ」
 彼は、俺の親友の草場(くさば) (ひかる)。高校時代からの付き合いだ。高校の時は真面目そのものだったが、大学に入ってから一気に垢抜けた。髪も茶色にしてピアスもつけて、正に大学デビューだ。
「なぁ、そいつって、例のルームシェアの?」
「そう、紹介しとくよ」
「二年の火村(ひむら)宗一郎(そういちろう)です。綾人にぃがお世話になってます」
 礼儀正しく挨拶する宗一郎は初めて見た。
 いや、いつもが礼儀正しくないと言っているわけではなく、外面の宗一郎を見たことが無かったのだ。故に今回が貴重な初めてだ。
「へぇ、話と違ってちゃんとしてんじゃん。俺、草場(くさば)(ひかる)。なぁ、ミス研入らねぇ?」
「ミス研……ですか?」
「ミステリー研究会。君が入ってくれたら、部員増えそう」
「悪い、光。宗一郎はそういうの……」
「良いですよ」
「へ? マジで?」
 出不精で、講義のためだけに家から出ている、あの宗一郎が、サークル!? 信じられない。
「はは。綾人にぃ、驚きすぎ」
「だって……やっぱ、熱でもあるんじゃねぇか?」
「無いよ。綾人にぃは、入んないの?」
「俺は怖いの苦手だからさ。それに俺、プリン研究会入ってるし」
「え、綾人にぃ、そんなの入ってたの? いつ活動してんの?」
 部員は俺を含めた三名。
 プリンをこよなく愛する三人が集まったプリン研究会の活動内容は、ただただプリンについて力説し、プリンを食べ、プッチンした時の美しさを議論すること。活動自体は週一回程度だったが、残る二名の部員が四年生女子二人ということもあり、今は就活やら何やらで忙しく、ほぼ機能していない。多分、もうじき自然となくなるサークルだ。
 それを説明すれば、宗一郎はミステリー研究会からプリン研究会に乗り換えた。
「じゃあ、僕もそっちにする」
「え!? ミス研入ってくれるんじゃなかったのかよ!?」
「へへへ」
 笑って誤魔化す宗一郎は「またね」と言って、図書室の方へと小走りに去っていく。そして、俺と光は、講義のために二階の講義室へと向かった——。

「宗一郎。綾人から聞いてた話と全然違うな」
「はは、なんかこの土日で色々あって……仲直り的な?」
「そっか」
 口が裂けても、宗一郎とソフレになったとは言えない。
 友達がいなくなること間違いなしだ。
「なぁ、綾人」
「ん?」
 光を見れば、さっきまでと打って変わって、思い詰めたような顔をしている。
「光? 大丈夫か?」
「もしもさ、もしもだけど……宗一郎が綾人のことを好きって言い出したらどうする?」
「普通に嬉しいけど、どうして?」
「いや、慕ってとかじゃなくて……恋愛的な」
 それを聞いて、先日の宗一郎とのキスを思い出す。自然と顔が熱くなるのが分かった。
「そ、そんな訳ないだろ!? 幼馴染だぞ。男だぞ」
 動揺して応えれば、光は「はぁ……」と小さく溜め息を吐いた。それは、ホッとしたような、それでいて落胆したような……どっちにも取れる溜め息だった。