好き避け年下幼馴染は、拗らせすぎ!? ソフレ契約、勝手に破んなよ!

 公園で遊んだ俺たちは、スーパーで買い物をして家に帰った。
「本当なら、ウィンドウショッピングでもしながら、食べ歩きとかしたかったんだけどな」
 溜め息を吐きながら、鍋に水を入れて火にかける。沸騰するまで時間があるので、コップやら箸を机に並べようと後ろを振り返れば、既にそこにはコップと箸がセットされていた。しかも、コップにはお茶まで入っている。
「え、まさか宗一郎が!?」
 洗面所にいる宗一郎を覗きに行けば、洗濯物を洗濯機に入れていた。
「え!? なんで!?」
「どうかした?」
「どうかしたよ。宗一郎、洗濯なんて今まで一回もしたことないじゃん」
「そう? 熱あるかもしれないから、おでこ触ってみて」
 宗一郎に手を取られ、それは宗一郎の額に持って行かれた。
「いや、これさ。俺のセリフじゃない? 俺が『熱でもあるんじゃ……』って驚きながら、おでこ触るんだろ?」
「そう? 僕んちは、いつもこうだよ」
「へぇ、変わってんな」
「嘘だけど」
「嘘なんかい!」
 素っ気ない態度は無くなったので嬉しいが、宗一郎のペースに飲まれそうだ。いや、多分、既に飲まれているのだろう。ついていくのに必死だ。
「てか、宗一郎。洗濯の仕方知ってたんだ」
「洗剤入れてボタン押すだけだからね。さすがに洗濯板のやり方は知らない」
「俺もそれは知らねーわ」
「そろそろ、お湯沸いたんじゃない?」
「あ、そうだった」
 俺はキッチンに戻り、沸いたお湯の中に袋ラーメンを二つ投入した。ついでに卵も二つ割り入れる。
 それはあっという間に出来上がり、二人でテレビを観ながらラーメンを食べた——。

「はぁ〜、腹が満たされたら眠くなってきたな」
「だね。寝る?」
「寝たいけど……食器片付けてからな。洗濯もそろそろ終わる頃だし」
 立ち上がろうとすれば、先に宗一郎が立ち上がって二人分のどんぶり皿と箸を流しに持って行った。
「宗一郎?」
「僕が洗っとくからさ、洗濯物お願い」
「え?」
 宗一郎は、もう一往復してコップを流しに持って行く。
 それを呆気に取られながら見つめる。
「宗一郎、マジで熱あったりしないか?」
「はは、ないよ。最近水も冷たくなってきたし、これから洗い物は僕がするから」
「別に良いよ。俺がするし。てか、洗い物も普通に出来るんだな」
 なんなら俺より手際が良いかもしれない。
「高校の時は寮生活だったから」
「マジか。なんで今までやらなかったんだよ」
「なんでかなぁ」
「じゃあ、なんで急にやる気になったんだよ」
「作戦が失敗に終わったから」
「作戦……?」
 良く分からないが、家事をしてくれるなら俺だって助かる。それに——。
「俺がいなくても生きていけそうだな」
 ホッと胸を撫で下ろしていると、宗一郎の手がピタリと止まった。そんなことも知らずに俺は話しかける。
「何も出来ないんじゃないかと思って心配してたんだよ。このまま一生俺が面倒見なきゃダメかな……とかさ。杞憂だったな」
 ハハハと笑っていたら、宗一郎も乾いた笑みを漏らした。
「はは、作戦……成功してたんじゃん」
「宗一郎? なんか言ったか?」
「ううん」
 ——ゴン。
 宗一郎が、タオルで拭いていたコップを床に落とした。鈍い音は聞こえたが、幸い割れてはいないようだ。
「大丈夫か!? ッたく、久々だったんだから、無理すんなよ」
「あ、うん。ごめん」
 コップを拾って軽く水洗いしていたら、宗一郎は苦笑しながら言った。
「でもさ、僕。料理は全然だから、教えてくれると助かるかも」
「俺も大してうまくないぞ?」
「美味しいよ。毎日食べても飽きないもん」
「あ、ありがとう」
 そこまで褒められると照れる。
「じゃ、じゃあ、今日から一緒に作ろうぜ」
「うん!」
 満面の笑みを浮かべた宗一郎を見て、胸がトゥクンと跳ねる。
(トゥクンって何だ?)
 俺は照れを隠すように、コップを宗一郎に手渡し、洗濯物を取りに洗面所の方に向かった——。

◇◇◇◇

 ——それから俺たちは何だかんだ十六時半頃までベッドでゴロゴロして過ごし、いざ二人でクッキング。
「ちょ、宗一郎。離れろって」
「なんか、綾人にぃから離れると寒いし」
 添い寝からの延長で、宗一郎に後ろからハグされているのだ。確かに、暖かいけれど……。
「冬なんて、暖房いらずで電気代節約だね」
「それは助かるな……って、それじゃ晩メシの準備出来ないだろ! 離れろ!」
「はいはい」
 宗一郎は、渋々俺の背から離れた。
 自分から離れろと言ったものの、ほんの少しだけ寂しくなってしまったのは、宗一郎には絶対に言えない。
「じゃ、宗一郎。ニンジンと玉ねぎお願い。みじん切りにするから」
「はぁい」
 野菜を宗一郎に任せ、俺は冷凍させていたご飯を電子レンジに入れた。あたためのボタンを押して、宗一郎の手元を見やれば、俺は二度見した。
「ちょ、宗一郎!」
「なに?」
「皮! 皮剥いて!」
 ニンジンは皮も剥かずにぶつ切りに、タマネギも皮ごと真っ二つに切られていた。
「え? 違うの?」
 キョトン顔で見てくる宗一郎。悪気は無さそうなので、叱るに叱れない。
「あー、もう! 俺がするから、貸して」
「良いよ。僕がするから」
「宗一郎に任せたら、オムライスじゃないものが出来上がりそうだから、今日は見てて」
 俺は宗一郎と場所を変わり、半分に切られた玉ねぎの皮を剥いていく。皮を剥いていると、隣で捨てられた仔犬のような目で見つめられた。
「綾人にぃ、怒ってる?」
「怒ってないよ」
「本当に?」
「本当に。宗一郎は、料理苦手って教えてくれてたのに、ちゃんと一から教えなかった俺も悪いし」
 そう言うと、宗一郎はホッとしたような顔になる。そして、眉を下げてポツリと呟く。
「やっぱ僕、綾人にぃがいないと、生きていけないかも」
「はは、大袈裟だろ。料理なんて出来なくても、最近惣菜とかいくらでも買えるしな」
 励ましの言葉のつもりで応えたら、宗一郎は更にネガティブな発言をし始めた。
「でもさ、やっぱお惣菜って添加物とか入ってたりするじゃん? お金もかかるだろうし、綾人にぃがいないと、僕早死にするかも」
「早死にって……料理なんて、何回か練習したら出来るようになるだろ。俺がいなくても大丈夫なように、練習しようぜ」
 玉ねぎをみじん切りにしていると、涙が出てきた。
「それよりも、俺は就活が上手くいくかの方が心配だぜ。宗一郎みたいに、将来決まってないし」
 そう、宗一郎は、実家の印刷会社を継ぐことが決定している。小さな会社だが、それでも宗一郎で三代目になる。
 対して、俺は成績もいまいちだし、これといった特技もない。アピールポイントと言えば、コツコツ真面目に取り組むことが出来ることくらいか。
「じゃあさ、綾人にぃの就職が決まらなかったら、僕のとこにおいでよ」
「コネ入社かよ」
「違うよ。僕のおよ……」
「およ……?」
「ううん。僕の家で、お手伝いさん。いわゆる家事代行サービス的な。これで、僕の早死にも食い止められるし、ウィンウィンでしょ」
「家事代行か……確かに、今それっぽいもんな」
 男としては、大きな会社に就職してみたい気持ちはあるが——。
「どうしてもの時は、頼むかも」
「いつでもどうぞ」
 ニンジンもみじん切りにし終えると、宗一郎が後ろから腰に手を回してきた。
「ちょ、宗一郎」
「添い寝し始めて、綾人にぃに触れてないと、充電がすぐ切れるみたい」
「なんだよそれ」
 でも、触れている方が安心できるのは何故なのか。
「少しだけな。火を使い始めたら離れろよ」
「はぁい」
 ——数日前の素っ気ない態度とは百八十度違い、デレデレに甘えてくる宗一郎。彼の沼に溺れ始めていることに、今の俺はまだ気付いていない。