好き避け年下幼馴染は、拗らせすぎ!? ソフレ契約、勝手に破んなよ!

 男同士抱き合って眠るなんて……と思っていたが、それ以上がないと分かれば案外平気なもので、夜はぐっすりと眠れた。ただ——。
「なぁ、宗一郎」
「ん?」
「起きねぇの?」
「んー、もうちょっと」
 時計は既に十時を回っている。
 本日も大学は休みで、更にバイトもその他の予定もない。故に、昨日と同様に好きな時間に起きても問題はない。問題はないのだが、俺はそろそろ活動を開始したい。それなのに、宗一郎が俺を離してくれないのだ。今も宗一郎の腕の中にいる。
「俺、今日は掃除したいんだけど」
「良いじゃん、昼からで」
「買い物も行きたいし。宗一郎だって、何かすることあるだろ?」
「ん、別にない」
「もう、その出不精どうにかしろよ。カビが生えるぞ」
 宗一郎は、大学の講義がある時しか家から出ない。他は常に家で過ごしているのだ。
 とはいえ、家のことをしてくれるなら、俺だって何も言わない。けれど、料理に洗濯、掃除、どれもやりたがらない。俺がいなくなったらどうするのだろうか。
「もう、僕が寝てる間は、添い寝してくれる約束でしょ? じっとしてて」
「うぅ……」
 二人して干からびそうだ。
 ソフレなんて申し出るんじゃなかったと、昨日の今日で後悔だ。
 そこで、俺は一つ提案してみる。
「なぁ、宗一郎。遊びに行かね?」
「え?」
 宗一郎は、鳩が豆鉄砲を食ったように驚いている。
「はは、そんなに驚かなくても良いだろ?」
「急になに? 掃除と買い物は?」
「それもしたいけど、俺たちってさ、小三の時以来ちゃんと遊んでないじゃん? 遊ぼうぜ」
「うん」

◇◇◇◇

 ——ということで、やってきました。公園。
 早速砂場で、お山作り。
「って、違う! 遊ぶってそうじゃなくて」
「だって、綾人にぃと、もう一回来たかったし」
「まぁ、良いか」
 宗一郎が珍しく家から出たのだから、公園でもどこでも良しとしよう。
「でも、日曜なのに全然子どもいねーな」
「まぁ、このご時世だからね。昔みたいに、子供だけで自由に……とは、いかないんじゃない?」
「世知辛い世の中になったな」
 しみじみ思いながらトンネルを掘っていると、宗一郎の指に触れた。
「お、貫通したな」
「だね」
 トンネルの中で握手をすれば、自然と互いに笑みが溢れた。
「懐かしいな」
「昔は、なんでこれが楽しかったんだろうね」
「今も案外楽しいぞ」
「じゃ、もう一個作る?」
「おう! どっちが大きいの作れるか競争しようぜ」
「大きさよりも強度が大事だよ」
 宗一郎の手が離れ、俺は平らな場所に新たな山を形成していく——。
 山作りに夢中になっていると、宗一郎の手が止まっていることに気がついた。しかも、まるで見守るように俺の顔を眺めている。
「な、なんだよ」
「いや、可愛いなと思って」
「可愛いってなんだよ。失礼な奴だな」
 妙に恥ずかしくなって、顔を腕で掻く。
「もう、さっさと完成させて、昼メシ食べに行こうぜ。朝食ってないから腹減った」
「ふふ、ちゃんと山は完成させるんだ」
「中途半端は嫌いだからな」
「綾人にぃって、そういうところあるよね」
 宗一郎の笑った顔を久々に見たかもしれない。いつも無愛想にそっぽを向かれていたから、こんなに目が合うのも久しぶりだ。再開してから、一度も目が合ったことがないような気もする。
「公園、案外楽しいかもな……」
 ポツリと呟いたのは、宗一郎に聞こえていなかったよう。聞き返された。
「ん? 何か言った?」
「いや、来月、宗一郎の誕生日だろ? プレゼント、なにが良い?」
「うーん……」
 宗一郎は、暫し悩んだ末に、山をトントン軽く叩きながら言った。
「綾人にぃが欲しい」
「それは……笑うところなのか?」
「感動するところかな」
「感動はないだろ。お、こっちも貫通した」
 山には必ずトンネルがつきもので、二つ目の山にも、それが出来た。穴から向こう側を覗いていると、宗一郎が向こう側から覗いてきた。
「ケーキ」
「ん?」
「誕生日の日、綾人にぃと一緒にケーキ食べたい。で、お酒飲んでみたい」
「そんなんで良いのか? 去年と違って、ちゃんとしたプレゼント買えるぞ?」
 去年の宗一郎の誕生日は、バイト代が出る前だった……というのは言い訳で、誕生日をすっかり忘れており、プレゼント用にお金を取って置くのを忘れていたのだ。
 冗談半分で、俺が買ったばかりの靴下を『これでどう?』と言えば、宗一郎は一瞬固まった後『ん、ありがとう』と、それを受け取ったのだ。
 しかも、一年経った今もまだ、その靴下は大事に履かれている。申し訳なさと情けなさでいっぱいで、今年はちゃんとした物をプレゼントしようと心に決めている。
「少しくらい高くても全然大丈夫だしさ。欲しいもん言えよ」
「んじゃ、綾人にぃ」
「それ以外」
「んー、じゃあ、この靴下もヨレてきたから、新しいの」
「欲がねぇなぁ。じゃ、ケーキを豪華にするか」
 宗一郎の山も完成し、トンネルとトンネルの間に道を作る。
「バケツないかなぁ……」
 辺りを見渡すが、それっぽいものは落ちていない。最近は、子どもも大人と遊びに来るので、忘れ物をして帰ることは少ないのかもしれない。
「仕方ない。この功績は、誰かに譲ってやるか」
「水流すのが楽しいのにね」
「諦めも肝心だからな」
「諦め……」
 宗一郎は、物憂げに完成した山々を見た。
「宗一郎? 行こうぜ」
「……やだ」
「え?」
「僕は、諦めたくない」
 宗一郎は、滑り台の下やらベンチの下、草陰を探し始めた。
「ちょ、宗一郎。そこまでする必要ないだろ」
「だって、こんなに近くにいるのに……こんなに……きなのに……諦めるなんて」
 大の大人が、砂場遊びにそこまで必死になるなんてどうかしている。けれど、その姿が妙に愛おしく思えた。
「俺も探すよ」
「うん」
 タコのような遊具の中を覗いたり、木の裏の方もくまなく探す。しかし、バケツのような物は見当たらず……。
「あ、あった! 宗一郎、これどうだ?」
 バケツはなかったけれど、小さなプリンカップが落ちていた。
 宗一郎に見せれば、微妙な反応が返ってくる。
「地道だね。これ、何往復すれば良いの」
「仕方ないだろ。これしか無いんだから。文句があるなら諦めろ」
 フンとそっぽを向けば、宗一郎は溜め息を吐きながらプリンカップを取った。
「はぁ……僕も地道に落とせってことかな」
「落とす? 流すんだろ?」
「落とすの。覚悟しといてよね。僕、しつこいから」
「覚悟? しつこい?」
 意味は分からなかったが、幼馴染と十年越しの公園も悪くない——そう、思った。