好き避け年下幼馴染は、拗らせすぎ!? ソフレ契約、勝手に破んなよ!

 それから五日が経ち、いよいよ今日は宗一郎の誕生日。
 宗一郎と歩夢、光、俺の四人は××ランドにやってきた。
 チケットは二枚しかないので、追加で二枚購入してから、入場ゲートをくぐった——。
 今は十一月、猛暑の夏でも極寒の冬でもない今は、外出しやすいのだろう。土曜日というのも相まって、中は人で賑わっていた。
「よし、まずはジェットコースターからだ!」
 テンション高めに光の腕を組めば、至極嫌そうな顔をされた。
「俺が苦手なの、知ってんだろ」
「知ってるけど、遊園地といえばジェットコースターだろ」
「決めつけんなよ。俺はパレード派。先に耳買いに行こうぜ」
「えー、あんなの良い大人がつけなくて良いだろ」
「俺が奢ってやるからさ、行こうぜ」
 光に背中を押されながら、嫌々売店へと向かう。
「宗一郎、オレ達も行こっか」
 遅れて歩夢と宗一郎も付いてくる。
 背中を押していた光が横に並び、横目に後ろの二人を見ながら、コソッと話しかけて来た。
「宗一郎の誕生日なのに、一番盛り上がってないけど大丈夫か?」
「まぁ、出てったっきりだからな。多少気まずいんだろ」
「は!?」
 光は、驚きのあまり大きな声をだした。そして、すぐに小声に戻る。
「お前ら仲直りしたんじゃねぇの? てか、付き合い始めたんだろ?」
 その問いに、首を横に振って応える。
「あれから話してないし。それに、別に喧嘩してたわけでもないからさ」
「じゃあ、宗一郎は、綾人の気持ち知らねぇってこと?」
「知るも何もないって。別に俺、宗一郎が好きだなんて一言も言ってないし」
「言ってないけど、絶対そうだろ」
 売店の中に入れば、この園のマスコットキャラクターの猫耳やらウサ耳がずらりと並んでいる。
「どう? 似合う?」
 ネコ耳のカチューシャを付ければ、光に深く頷かれた。
「めっちゃ似合う。けど、こっちの方がもっと可愛い」
 そう言って、ネコ耳からウサ耳に変えられた。
「馬鹿にしてんだろ?」
「してねぇし」
 そして、隣では歩夢と宗一郎が興味なさそうにネコ耳とウサ耳を眺めている。
「宗一郎、付けたら? 絶対似合うよ」
「いえ、大丈夫です。歩夢先輩こそ付けたらどうですか」
「無理」
「そうですか」
 ニコリとも笑わない二人。
 この二人は、高校の先輩で後輩ではないのだろうか。住む場所がなくなったら、頼りに行くような仲ではないのだろうか。喧嘩中かというくらい、集合した時から互いに素っ気ない。
「なぁ、誘って来たのコイツらの方だよな?」
「そうだけど……光?」
 光は、俺が付けているのと同じウサ耳を手に取り、それを持って歩夢の前に立った。
「な、なに?」
 ニコリと笑った光は、歩夢の頭にウサ耳のカチューシャを取り付けた。
「ちょ、やめてよ」
「この間の邪魔してくれたお礼してなかったから。俺からのプレゼント」
「うわ、まさかアレ、めっちゃ根に持ってる?」
「そりゃ、綾人って押しに弱いからさ。あの時最後までやってたら、多分今頃、俺のもんだったんだ」
「そんなの知らないよ。どうでも良いけどさ、オレ遊園地嫌いなの。乗り物もだけど、パレードなんて馬鹿げてるし。だから、こんなもんいらないから」
 ウサ耳を外した瞬間、光はその手を取った。
「な、なに?」
「遊園地嫌いなんだ。そっかそっか」
 そう言いながら、光は楽しそうに歩夢を引っ張りながらレジまで向かった。
「ちょ、離してよ」
「やだね」
 酒の勢いで告白してきた日の出来事を光は相当根に持っているのかもしれない。今日、復讐する気だ。
 とはいえ、遊園地を楽しむだけだろうから、俺が止めるのも野暮ってもんだ。むしろ、ここは遊園地の楽しさを教えてあげる良い機会になるのではなかろうか。
 そうとなれば、早く売店から出て乗り物の列に並ばなければ。
 俺はネコ耳カチューシャと、一人ポツンと立っている宗一郎の手を取った。
「綾人にぃ?」
「さ、俺らも早く買って行こうぜ。宗一郎はネコな」
「え、僕も付けるの?」
「あったり前だろ。俺だけこんなウサ耳付けてたら、馬鹿みたいだろ」
 ——結局、宗一郎と光がネコ耳で、俺と歩夢がウサ耳を付けて遊園地を回ることになった。

◇◇◇◇

 それから三種類のジェットコースターに乗り、空中ブランコにも乗った。
 絶叫系が苦手だと言っていた光も、歩夢への仕返しだと思えば平気なようで、積極的に一番怖い後ろに乗っていた。
「もう無理……帰る」
 ヘロヘロになった歩夢は、ベンチの上に横になった。
 光は、それを見ながらご満悦だ。
「俺は十三時からのパレードに間に合うように、軽く昼メシ買って席取りしとくからさ、綾人、もう一つくらい乗って来て良いぞ」
「分かっ」
 言い切る前に、歩夢がガバッと起き上がった。
「いや、オレが行く! 席取りならオレに任せて!」
「でも、お前絶好の場所とか分かんないだろ?」
「教えてくれたら、そこで待ってるから。それに、食べる物買うなら手の数も多い方が良いでしょ」
「まぁ、四人分だからな。行くぞ」
「はぁ……助かった」
 歩夢は、安堵しながら光と共に歩いて行った——。
 そして、残されたのは、もちろん俺と宗一郎。
「何か乗りに行くか?」
「綾人にぃに任せるよ」
 終始受け身の宗一郎は、今日の主役だというのに全く楽しそうではない。それに、やはり俺に遠慮しているようで、ずっと半歩後ろを歩いている。
「じゃあ、一旦休憩しようぜ」
 ベンチに座り、トントンと横を叩けば、宗一郎は「うん」と言いながら、そこに腰掛けた。
 さっきまで乗り物に乗る時に隣に座ってはいたが、こうやって改まっては久々だ。やや緊張する。
 一旦深呼吸してから、鞄から小さな袋を取り出した。
「誕生日、おめでとう」
「……うん」
 プレゼントを渡そうと思ったが、受け取る直前に手を引っ込める。
「二十歳だぞ! もっと嬉しそうにしろよな」
「へへ、嬉しいよ」
 無理に笑う宗一郎を見て、居た堪れない気分にさせられる。
「荷物になるだろうから、まだ俺が持ってる。帰りに渡すわ」
「ありがとう」
 暫しの沈黙が流れ、宗一郎がポツリと言った。
「ごめんね」
「あー、うん」
 何に対しての謝罪なのか。
 家を出たこと、メッセージの返信をしないこと、ソフレ契約を破ったこと、好きだと言ったくせに諦めたこと……色々ありすぎて分からない。多分、全部なのだろう。
「今は、あの歩夢さんの所にいるんだよな?」
「……うん」
 歩夢に関しては、高校の先輩という情報しかない。深く聞いても良いものだろうかと悩んでいると、宗一郎の方から口を開いた。
「元カレ……なんだよね」
「え?」
「二年付き合って別れたんだ。スポーツの専門学校に行くとは聞いてたんだけど、まさかこんな近くに住んでるなんて思わなかった」
「そ、そっか」
 質問したいことが沢山あるが、衝撃的すぎて言葉が上手く出て来ない。というより、めまいがしてきた。胸がモヤモヤして吐き気までしてくる。
 元カレと一緒に住み始めたということは、よりを戻したと同義だ。もしかして、最近宗一郎がおかしかったのは、歩夢と再会したから? それなのに俺に告白して……でも、歩夢が忘れられなくて、だから悩んで、悩んで、悩んだ末に歩夢を選んだ。
「はは……そっかそっか」
 乾いた笑みが漏れる。
「ごめんなさい。黙ってて」
「謝る必要はないだろ。てかさ、歩夢さんと俺って、見た目似てるよな……って、歩夢さんに失礼か」
 ハハハと笑い飛ばしていると、宗一郎の表情に陰がさした。
「宗一郎?」
「顔だけじゃなくて、お節介なところも似てるんだ」
「それってさ、もしかして……似てるから、近付いた……のか?」
 俺が歩夢と似てるから……だから、歩夢を忘れられない宗一郎は、俺で代替しようと?
 宗一郎は、深刻な顔で首を縦に小さく振った。
「幻滅……したよね」
「幻滅っていうか……」
 そもそも俺は宗一郎の眼中にもなかったのだと思うと、虚しくなった。悲しくなった。
(俺、やっぱバカだわ)
 ショックで項垂れていると、宗一郎は諦めたように笑った。
「本当は死んでも話したくなかったけど、歩夢先輩は、隙を見て綾人にぃに言うつもりみたいだからさ。こんな僕のことは、もう忘れて良いから」
 もう、何を言っているのか聞こえない。
 めまいがひどくなる。
 そして、叶わないと分かれば分かるほど、この恋心が募るのは何故だろう。
「ごめん、もう無理……」
 俺は、宗一郎の膝の上にドサッと倒れ込んだ。
「え、綾人にぃ!?」
 焦る宗一郎の声だけが遠くに聞こえた——。