好き避け年下幼馴染は、拗らせすぎ!? ソフレ契約、勝手に破んなよ!

 そして、もう一つ問題が——。
 夜中の零時過ぎ、ドサッと音がしたと思って、虚ろな目で寝返りを打てば、宗一郎がベッドから落ちていた。
「ッたく、またか」
 宗一郎は、寝相が悪い。
 ベッドで眠る宗一郎は、必ずと言って良いほど、途中でベッドから落ちている。
 さすがに抱えてベッドに上げることは困難で、今日も今日とてベッドから掛け布団を引きずりおろしてかけてやる。
 俺がベッドで寝れば解決する問題だが、宗一郎はベッドじゃないと眠れないとブツブツ文句を垂れるのだ。ルームシェアを始めた当初は、喧嘩に発展しそうにまでなったが、そこは歳上の俺が折れた。
(はぁ……ルームシェア始めて、俺だけ振り回されてる気がする)
 起きた時に『ごめん』の一言でもあれば違うのだろうが、宗一郎は周りを見渡し、何事もなかったようにポケポケしたまま朝の準備を始めるのだ。休みの日なんて、再びベッドに戻って二度寝している。
 焦った宗一郎を見たこともないし、そのマイペースさが羨ましくもあるが、夜中に起こされた俺は苛立ってしょうがない。
(そうだ!)
 俺は、ある悪戯を閃いた。
 ニヤリと笑いながら、自身にかかっている布団を退けて、いそいそと宗一郎の掛け布団の中に入ってみる。
(朝起きた時に、俺とくっ付いて寝ていたら、流石の宗一郎も焦って飛び起きるだろ。しかも男同士で気色悪ッて、顔を真っ青にさせそう)
 我ながら、なんてしょうもない悪戯をしているのだろうと思いながら、宗一郎を抱き枕代わりに抱きついてみた。
 今は肌寒くなってきた十月。その温もりが案外心地いい。
 俺と同じ柔軟剤の匂いがする宗一郎の匂いに包まれながら、再び眠りについた——。

◇◇◇◇

 翌朝。
 本日は土曜日で、バイトも午後から。アラームもセットしていないので、自分のペースで目覚めることが出来る最高の朝。
 ぼんやりと目を開ければ、目の前に宗一郎のグレーのスウェットが見えた。
(ああ、そうか。俺は宗一郎の動揺した顔が見たくて……)
 夜間のことを思い出し、まだ宗一郎は眠っているのだろうかと、顔を少し上に向けた。
「…………」
 平然とスマホでゲームをしていた。
 そして、その顔が俺を見た。
「あ、おはよ」
「お、おはよ」
 焦りもクソもない。いつも以上にマイペースだ。
 それよりも、夜中は暗かったので良かったが、今はカーテンの隙間から朝日が差し込み、バッチリとその整った顔が目に映りこんでいる。俺の方が動揺してしまう。
「えっと、俺なんで……」
 知っているが、惚けずにはいられない。
 焦って離れようとすれば、宗一郎が背中に片手を回してきた。
「ちょっと待って。今、良いとこ」
「……?」
「もうちょいで倒せるから、動かないで」
 宗一郎の目はスマホに向いている。
 俺はこんなに動揺しているのに、宗一郎はゲームにしか興味がないようだ。昔はあんなにも『綾人お兄ちゃん』と、慕ってくれたのに、何となく寂しい気持ちになる。
「なぁ、宗一郎」
「なに?」
「俺とゲーム、どっちが大事?」
「……は?」
 頭上でゲームオーバーのテロップが表示される中、宗一郎の目は点になっている。
 そして、俺の目も点だ。
(俺はなんちゅー質問を宗一郎にしてんだ!)
 これは、男女間で交わす会話だ。幼馴染と……ましてや男同士でする会話ではないことは確かだ。穴があったら入りたい。恥ずか死ねるレベルだ。
「悪い。今のなし」
 俺は、コソコソと下へずれて、布団を深々被った。
 ひとまず顔を見られないようにしなければ。どんな顔で宗一郎と話せば良いのか分からない。
「ねぇ」
 頭上から声が聞こえるが、聞こえぬふりを貫こう。
「ねぇ」
「……」
「ねぇ、って」
 ここまでしつこく呼ばれるのは初めてだ。まぁ、俺が全部悪いのだけど。
「ねぇ、聞いてる? ねぇって」
 俺はガバッと布団から飛び出した。
「俺は『ねぇ』じゃねぇ! 綾人だ! 水野綾人。ちゃんと名前で呼べよ!」
 肩で息をしながら言えば、宗一郎はフイッと俺から目を逸らし、何も言わずに立ち上がった。そして、スウェットの中に手を突っ込んでお腹を掻きながら、気だるそうに冷蔵庫を開けた。
「ねぇ、朝ご飯食べる? 綾人にぃ」
「だから、ねぇじゃねぇって……え」
「まぁ、朝ご飯って言うか、昼に近いけど」
 朝飯か昼飯かなんてどっちでも良い。この一年半絶対に名前で呼ばなかった宗一郎が名前で呼んできた。軽く感動ものだ。
 おれは宗一郎の背後に、気分上々に言ってみる。
「ねぇ、宗一郎。もう一回呼んで」
「何を」
「名前」
「綾人にぃ」
「もっかい」
「綾人にぃ」
「もっ……」
「ウザい」
 ピシャリと冷蔵庫を閉めた宗一郎は、プリンを片手に持ち、引き出しからスプーンを取り出した。
「あ、それ、俺のプリン」
「名前、書いてなかった」
「書いてあっただろ! 蓋んとこに」
「そう?」
 惚けながらペリッと蓋を剥がした宗一郎は、そのままゴミ箱の中へと入れた。
「あ、お前なぁ……」
 呆れと怒りが入り混じる中、恨めしそうにプリンの行く末を眺める。
 プルンプルンのプリンが宗一郎の口の中に入り、喉仏が上下する。俺も一緒にごくりと生つばを飲めば、二口目のプリンがスプーンの上に乗っかった。
「そんなに食べたかったの?」
「あったり前だろ。俺はプリンで出来ていると言っても過言ではないくらいのプリン好きだぞ」
「へぇ」
 興味のなさそうな返事をする宗一郎の手が、さっきとは違う進路を辿った。
「ん」
 俺の口の中に、それは放り込まれた。
 この甘くてプルンとした食感。正にプリン!
 口角が自然と上がる。
「どう? 満足?」
「もうひと口」
 宗一郎がもうひと口食べてから、やれやれと最後のひと口を口に入れてくれた。
 空になった容器を机に置いた宗一郎は、俺の顎をクイッと持ち上げた。不意打ち過ぎて何をされたのか一瞬分からなかった。
「ねぇ、綾人にぃ。キスしてあげよっか?」
「は……は!?」
「綾人にぃの気持ち、全然知らなかったからさ」
「俺の気持ち?」
「そんなに間接キスで喜んじゃって、可愛い」
 悪戯に笑う宗一郎は、いつになく格好良くて……じゃなくて、間接キス!? 
 プリンの空になった容器を横目に見て、間接キスをしていたことを知り、顔が熱くなる。
「あ、あれは、今どき誰でもするだろ!? 中学生じゃあるまいし。てか、喜んでねぇし」
「僕の布団に入って抱き付いてきたり、さっきも俺とゲームどっちが良い、とか聞いてきたじゃん」
「あ、あれはさ……」
「あれは、僕のことが好きなんでしょ?」
 そう言って、宗一郎は俺のファーストキスを呆気なく奪っていった——。