好き避け年下幼馴染は、拗らせすぎ!? ソフレ契約、勝手に破んなよ!

 あれから宗一郎は、俺をバイト先まで送ってから帰って行った。そして、帰りは光が迎えに来た——。
「なんか、申し訳ないな。こんな明るいのに」
 夕焼けが眩しい程に俺と光を照らしている。その影は長く、何となく寂しい気分にさせられる。
「てか、綾人。宗一郎と何かあった?」
「あー、うん。ちょっと……」
 何をどう説明すれば良いのか分からないでいると、光は溜め息を吐きながら、やれやれと肩をすくめて言った。
「何となく想像はつくけどさ。それより、ストーカーされてるなら、もっと早く言えよ。宗一郎が家まで来て焦ったんだけど」
「はは、なんか視線を感じるなってくらいで、別にストーカーじゃないんだって」
 苦笑で返せば、光もまた宗一郎と同様の反応を示す。
「それ、絶対ストーカーだろ。普通、視線なんて感じねぇって」
「でも、一年以上になるけど、何もないし。それに、毎日って訳でもなくて……」
「ストーカーにも生活があるからな」
「確かに」
「それに、何もないと思ってるのは綾人だけで、計画的に何かが進んでるかもしれないじゃん。用心に越したことはないって。これからは俺に任せろ!」
「そんな、申し訳ないって」
 心配してくれるのは有り難いが、か弱い女子ならまだしも、俺は大の大人で男だ。用心が過ぎる気がする。
 百歩譲って宗一郎は同居人だから良い。同じ場所から行って帰ってくるだけなので。しかし、光は違う。家はさほど遠くないにしても、わざわざ俺の都合に合わせて送迎はさせられない。
 送迎はお断りしようと考えていると、光は言いにくそうに頭を掻いた。
「てか、綾人。この間は、ごめんな……」
「あー、うん」
 他に何か言葉が出れば良いのだろうが、俺の気持ちが定まっていないので、何も言えない。何とも微妙な空気が流れる。
 光は押しボタン式の信号のボタンを押しながら、物憂げな表情で言った。
「気持ち悪いよな。男が男に……なんて」
「そんなこと……」
 ないと言い切れれば良いのだが、男同士なんてあり得ないと心の中では思っている。
「光はさ、元々男の人が好きなの?」
「……多分。初めて好きになったのが綾人だから、他は分かんねぇ」
「そっか。俺の……どこが良いの? 俺なんて普通だし、他に顔が良いやつ沢山いるじゃん?」
 これは宗一郎にも聞いてみたい。何故、こんな俺を好いてくれているのか。
 信号が青に変わり、左右を確認してから二人並んで進めば、光は冗談混じりに笑ってみせた。
「顔の良いやつが、俺を相手にしてくれると思うか?」
「それは、俺をディスってるのか?」
「綾人が自虐ネタ言ったんだろ」
 前に向き直る光は、真剣な声色で続けた。
「俺さ、綾人に救われたんだよ」
「俺に?」
「俺、中学ん時に虐められてたんだよ」
 初耳だ。高校の時も、光と同じ中学の生徒は沢山いたが、全然気付かなかった。
「で、高校に入っても、そのイジメっ子の一人がクラスにいてさ」
「え、マジで!? 誰!?」
「はは、マジで気付いてなかったんだ? 知ってて気付かないフリしてんのかと思ってた」
「気付くも何も、高校になってからはイジメられてないだろ?」
 光は首を横に振り、まさかの発言が……。
「俺に声かけてきた綾人も一緒に虐めにあったんだ」
「は? 俺?」
 はて? 記憶を遡るも、光が虐められていた過去も、ましてや、俺が虐められていた過去もない。自分のことくらい自分が一番よく分かっている。
「それは、断じてない」
 そう言い切った俺に、光は笑って応える。
「一年の五月頃、ノートとか、体操着が無くなったりしただろ?」
「ノート……体操着……」
 思い返してみると、確かにあの頃は頻繁に物が無くなっていた気がする。
「けど、いつも越前(えちぜん)が見つけてくれてたよな。何故か間違えてゴミ箱に捨てられてたり、池に落ちてたりさ。ゴミ箱はまだ良いけど、池に落ちたノートは全然読めないし、結局、越前がノート写させてくれたんだよ」
「良いやつだなぁって思ってる?」
「思ってる」
 深く頷けば、光は何とも言えない複雑な顔で笑った。
「俺は、その鈍さに救われた」
「は? 鈍いって何だよ!?」
 いくら光でも、それは聞き捨てならない。ムッとしていると、またもや衝撃の事実が光から発せられた。
「それ、全部越前の仕業」
「え……まさか、そんなことは」
「だって、俺を虐めてたのアイツだもん。けど、綾人ってば、それに全然動じないし、むしろ見つけてくれたって感謝してたじゃん」
「だって……」
「越前もつまんなくなったみたいで、綾人はもちろん、俺にも嫌がらせしこなくなったんだ」
 つまり、俺は虐められていたことにも全く気付かず、イジメっ子に対して復讐心を燃やすどころか、良い奴認定していたのか。
「それってさ、普通に俺……ただのバカじゃん」
 自分の愚かさに涙が出そうだ。
 しかし、光は首を横に振った。
「バカじゃないよ。綾人はさ、心が綺麗なだけなんだ」
「はは、何だよそれ」
 冗談とばかりに笑い飛ばそうとすれば、光が立ち止まった。俺も歩いていた足を止め、振り返る。
 夕日に照らされた光の顔は、至極優しいものだった。
「俺はさ、そんな心の綺麗な綾人に惚れたんだ。好きだよ、綾人」