好き避け年下幼馴染は、拗らせすぎ!? ソフレ契約、勝手に破んなよ!

 翌日も翌々日も、休日だというのに宗一郎はベッドの上でゴロゴロしている。そして、一ヶ月前に逆戻りしたように、家のことを何もしない。いや、正確には何もしないのではなく、何か思い悩んでいるようで、気が付いたら俺が全部終わらせている感じだ。後で、何度も頭を下げられる。
 明らかに鍋を食べた後から様子が変だ。しかし、宗一郎本人に聞いても、『そう? 変わんないよ』と、はぐらかされる。
 とはいえ、何度も聞くのも鬱陶しいだろうし、今日はゆっくりさせてあげよう。
「宗一郎。俺、バイト行ってくるから。十六時には終わるし、家で待ってて」
「あ、ごめん。待って、僕も行く」
「良いって。体調悪いんだろ?」
 宗一郎は、急いでベッドから出て笑顔で力こぶを見せてきた。
「全然元気!」
「無理すんなって」
「大丈夫。ねぇ、もう少し時間ある?」
「時間?」
 時計を見れば十時半を指している。バイトは十一時からなので、ギリ五分前に入るにしても——。
「あと十……いや、七分なら」
「七分ね」
 宗一郎は、洗面所に向かった。そして、何やら両手に持って戻ってきた。クシとワックスだ。
「綾人にぃみたいに上手に出来ないから。お願い」
「仕方ないなぁ。後ろ向いて座って」
「はぁい」
 宗一郎は、その場で正座した。
 俺は宗一郎の柔らかい毛にクシを通していく。絡まった髪の毛がほぐれれば、次はワックスを手に馴染ませる。
「綾人にぃ」
「ん?」
 こちらに振り返った宗一郎は、ニコッと笑顔を見せた。
「大好き」
「なッ」
 その好きの意味が、likeではなくloveの方だと分かってしまった為、返答に困る。しかも、その笑顔ときたら、犯罪級だ。
「綾人にぃ、顔真っ赤」
「う、うるさい。前向いてろ」
 いつもの宗一郎に戻っている気もするが、窓に映った宗一郎の顔は、やはり寂しげだ。無理に元気に振る舞っているのだろう。
「てか、宗一郎。髪する前に服着替えろよ」
「良いよ。誰も見てないから」
「いや、見てるから」
 ——結局、着替えをした宗一郎の髪の毛をもう一度整えることになり、十分かかってしまった。

◇◇◇◇

 そして、いざバイトへ——。
「って、宗一郎、そっち遠回り」
「ストーカーいるかもしれないから」
 今まで道を変えたことなどなかったのに、突然どうしたのだろうか。しかも、やたらと周囲を警戒している。
 そこへ宗一郎のポケットに入っているスマホに、一本の電話がかかってきた。
 ——プルル、プルル、プルル。
 その音に、宗一郎はビクッと肩を震わせた。
「宗一郎? 出ないのか?」
「あ、うん……」
 ポケットからスマホを取り出した宗一郎は、画面に表示された名前を見て安堵した。
「お母さんからだ」
「早く出ろよ」
「うん。もしもし」
 電話をする宗一郎を横目に見ながら、足早に歩を進める。遠回りした分、早く歩かないとバイトに間に合わない。
 それにしても、宗一郎は誰からの電話だと思ったのだろうか。相当怯えた様子だった。
 家でもそうだ。着信やメッセージの受信音が鳴る度に、顔は強張り、肩を震わせる。そして、中身を確認すると、至極安心したように息をつく。
 宗一郎は、何に震え、何に怯えているのか……勝手に推理するなら問題ないだろう。宗一郎が毎日俺を守ってくれているように、俺だって宗一郎の役に立ちたい。
 ここは名探偵綾人の出番だ!
 俺は、顎に手を当てながら、それっぽいポーズで考える。
 ——まず、宗一郎は、俺と鍋を食べた辺りから明らかに様子がおかしい……あの時に、誰かからの電話かメッセージが? いや、あの時は、俺と宗一郎のスマホはベッドの上で充電中だった。スマホなんて見ていなかった。
 では、外に何かいた? しかし、俺たちの家は二階だ。いるわけがない。いたら、幽霊か何かだ。俺ならともかく、宗一郎はそう言った類は平気なはず。
 次に考えられることは……恋愛のもつれ。宗一郎は俺が好き。光も俺が好き。つまりは三角関係。自分で言っていて恥ずかしいが、俺が何も返事をしないから、不安でしょうがないのかもしれない。
 けれど、これに電話云々は関係がない。却下……と言いたいところだが、あの時に言った宗一郎の言葉は引っかかる。
『……ごめん……本当にごめんなさい』『僕……綾人にぃを好きになる資格なんてない』
 あの謝罪と言葉は、一体何だったのか。ここにきっとヒントがあるに違いない。
「綾人にぃ? どうかした?」
 推理に夢中で、宗一郎の電話が終わったことにも気付かなかったようだ。不思議そうな顔で覗かれた。
「何でもない……けど」
「けど?」
 やはり、真剣に告白してくれた相手に中途半端な態度をとっていることに変わりはない。そこはきちんとしておこう。
 歩くスピードを少しだけ緩め、俯き加減に言った。
「俺もさ、宗一郎は好きだけど、そういった目で見たことなくて……もうちょっと待って欲しい」
「それは……考えてくれるってこと? 真剣に?」
 やや嬉しそうな声に、俺はこくりと頷いた。
「やっ……」
 宗一郎がガッツポーズしながら喜ぼうとしたところに、ピロン♪と、その手の中にあったスマホに通知が来た。
 それを見た宗一郎は、愕然とした。
「宗一郎?」
 大丈夫だろうかと、スマホをチラリと覗き込んだ。
「歩夢……先輩?」
 口に出せば、宗一郎がガバッとスマホを背に隠した。
「それってさ」
「ははは、何でもない。高校の時の先輩」
「何でもないなら、そんな隠すことないだろ」
 その動揺っぷりに、やや不満が募る。
 何故、幼馴染の俺に隠し事をするのだろうか。俺のことが好きなら尚更だ。
「俺、付き合ったら、絶対されたくないことがあるんだけど」
 不機嫌気味に言えば、宗一郎は不安げに聞いてきた。
「な、なに? 浮気?」
「それは大前提。俺がされたくないのは、隠しごと」
「隠し……ごと」
「好きな人のことは何でも知りたいし、何でも知っていたい。それが無理なら、俺と付き合うとかないから」
 苛々に任せて言ってしまったが、本心だ。後悔はない、後悔は————。
「そっか」
 宗一郎は、その場に立ち止まって俯いた。俺の足も自然と止まる。
「宗一……」
 地面にポツリと雫が落ちた。
「まさか泣いて……?」
 宗一郎は袖で涙を拭ってから、顔を上げた。無理矢理作った笑顔は今にも崩れそうで、唇が震えている。
「僕、綾人にぃを諦める」
「え?」
「綾人にぃには、光先輩の方がお似合いだよ」
 ——なんだろう。悩みの種がひとつ減ったはずなのに……後悔はしないと思ったのに……何故だか、胸がチクリと痛んだ。