※綾人視点に戻ります※
再び光の部屋。
光に押し倒された俺は、何故か歩夢に助けられた。
「管理人さん、わざわざすみませんでした」
「何事もなくて良かったわね。また何かあったら言ってね」
歩夢は、玄関の外で管理人のおばさんに手を振り、そのまま中に入ってきた。
「うッ……気持ち悪」
「光、飲み過ぎ」
俺は蹲っている光の背中をさすりながら、歩夢を困惑した表情で見やる。
「えっと……なんで、あなたが?」
「綾人さんのピンチを救ったまでですけど。コンビニで知り合った仲なんで」
ニッと歯を出して笑う歩夢は、何となく俺に似ている。
「オレんち、この左隣りなんですよ。なんか大きな物音が聞こえてきたんで、インターフォン押したんですけど、誰も出てこないし、倒れてんのかなぁって。管理人さんがこの端の部屋に住んでてラッキーでしたね」
「あ、そう」
有難いような迷惑なような……。
幸い光に貞操も唇も奪われなかったが、普通に怖かった。
インターフォンの主を宗一郎かと思い込んでいた俺と光だが、外から知らない男女の声が聞こえてきたのだ。ドアノブと鍵をガチャガチャしはじめ、強盗かと思った。
故に、それどころではなくなった俺たちは、警戒態勢に入った。そして、光は空腹で度数の高い酒を飲んでいたこともあり、一気に酔いが回ったようだ。今に至る。
「せっかくなんで、オレも混ぜてもらっても良いですか?」
「いやぁ……」
嫌だけれど、このまま光と二人は気まずい。
悩んでいたら、自転車がキュッと止まる音がした。
「あ、もしかして宗一郎かも」
違うかもしれないが、とにかくこの何とも言えない空気から抜け出したい。光に「見てくる」と伝えてから、歩夢の横を通って玄関の扉を開けた。
「綾人にぃ!」
正解だったようだ。宗一郎が、寒いはずなのに額にたまのような汗をかいて駆け寄ってきた。
「綾人にぃ、大丈夫!? 何もなかった!?」
両肩を持たれ、くるくる回されながら顔や体を観察される。
「いやぁ……色々あったけど……宗一郎こそ、汗すごいな。家からチャリだと三分くらいだろ?」
「街の方まで綾人にぃ探しに行ってたから」
「マジ? なんか、ごめん」
「ううん。僕の方こそごめんね」
このまま仲直りして帰れたら良いのだが、光と歩夢を二人きりにするのも微妙だ。とにかく、歩夢をさっさと出してから帰ろう。光も飲み過ぎて体調悪そうだし……。
「とりあえず入れよ」
「うん」
宗一郎を招き入れれば、肝心の歩夢の姿が見当たらない。
トイレだろうか……とも思ったが、そもそも玄関に靴がない。
「光。あの人は?」
「さっき、ベランダから帰ってった……うッ」
今にもリバースしそうな光に、ビニール袋を広げて手渡した。
「さんきゅ。てか、アイツ、マジで邪魔しかしてねぇじゃん。俺、大きな音なんて出してないよな?」
「うーん……」
先程までのやり取りを思い返してみる。
「確かに、大きな音なんて出してないな。押し倒された時も、絨毯の上にふわっとだったしな」
うんうんと頷いていると、宗一郎の眉がピクリと動いた。
「綾人にぃ。押し倒されたの?」
「え?」
「光先輩に!?」
怒りを孕んだその言い方に、光はやれやれと肩をすくめて言った。
「安心しろ。未遂だよ。邪魔が入ったから」
「邪魔って?」
「知らねーよ。隣の住人? って言ってたな。な、綾人」
「言ってたな。何だったんだろうな」
三人で頭にハテナを浮かべていると、宗一郎が切り替えたように、いつもの笑顔を浮かべた。
「さ、綾人にぃ。光先輩も気分悪そうだし、帰ろう」
「そうだな。光、ゆっくり休めよ」
肩をポンと叩けば、光が最後の力を振り絞るように見上げてきた。
「綾人。俺の気持ち、伝えたからな」
「お、おう」
「返事はいつでも良い……けど」
「けど?」
「宗一郎は、俺と同類だ。気を付けろ」
「同類……?」
宗一郎を見ればニコリと笑っており、その前に「余計なことを……」と呟いていたのは、俺には聞こえなかった。
「良く分かんねぇけど、また月曜な」
それだけ言って、俺は宗一郎と共に帰宅した——。
再び光の部屋。
光に押し倒された俺は、何故か歩夢に助けられた。
「管理人さん、わざわざすみませんでした」
「何事もなくて良かったわね。また何かあったら言ってね」
歩夢は、玄関の外で管理人のおばさんに手を振り、そのまま中に入ってきた。
「うッ……気持ち悪」
「光、飲み過ぎ」
俺は蹲っている光の背中をさすりながら、歩夢を困惑した表情で見やる。
「えっと……なんで、あなたが?」
「綾人さんのピンチを救ったまでですけど。コンビニで知り合った仲なんで」
ニッと歯を出して笑う歩夢は、何となく俺に似ている。
「オレんち、この左隣りなんですよ。なんか大きな物音が聞こえてきたんで、インターフォン押したんですけど、誰も出てこないし、倒れてんのかなぁって。管理人さんがこの端の部屋に住んでてラッキーでしたね」
「あ、そう」
有難いような迷惑なような……。
幸い光に貞操も唇も奪われなかったが、普通に怖かった。
インターフォンの主を宗一郎かと思い込んでいた俺と光だが、外から知らない男女の声が聞こえてきたのだ。ドアノブと鍵をガチャガチャしはじめ、強盗かと思った。
故に、それどころではなくなった俺たちは、警戒態勢に入った。そして、光は空腹で度数の高い酒を飲んでいたこともあり、一気に酔いが回ったようだ。今に至る。
「せっかくなんで、オレも混ぜてもらっても良いですか?」
「いやぁ……」
嫌だけれど、このまま光と二人は気まずい。
悩んでいたら、自転車がキュッと止まる音がした。
「あ、もしかして宗一郎かも」
違うかもしれないが、とにかくこの何とも言えない空気から抜け出したい。光に「見てくる」と伝えてから、歩夢の横を通って玄関の扉を開けた。
「綾人にぃ!」
正解だったようだ。宗一郎が、寒いはずなのに額にたまのような汗をかいて駆け寄ってきた。
「綾人にぃ、大丈夫!? 何もなかった!?」
両肩を持たれ、くるくる回されながら顔や体を観察される。
「いやぁ……色々あったけど……宗一郎こそ、汗すごいな。家からチャリだと三分くらいだろ?」
「街の方まで綾人にぃ探しに行ってたから」
「マジ? なんか、ごめん」
「ううん。僕の方こそごめんね」
このまま仲直りして帰れたら良いのだが、光と歩夢を二人きりにするのも微妙だ。とにかく、歩夢をさっさと出してから帰ろう。光も飲み過ぎて体調悪そうだし……。
「とりあえず入れよ」
「うん」
宗一郎を招き入れれば、肝心の歩夢の姿が見当たらない。
トイレだろうか……とも思ったが、そもそも玄関に靴がない。
「光。あの人は?」
「さっき、ベランダから帰ってった……うッ」
今にもリバースしそうな光に、ビニール袋を広げて手渡した。
「さんきゅ。てか、アイツ、マジで邪魔しかしてねぇじゃん。俺、大きな音なんて出してないよな?」
「うーん……」
先程までのやり取りを思い返してみる。
「確かに、大きな音なんて出してないな。押し倒された時も、絨毯の上にふわっとだったしな」
うんうんと頷いていると、宗一郎の眉がピクリと動いた。
「綾人にぃ。押し倒されたの?」
「え?」
「光先輩に!?」
怒りを孕んだその言い方に、光はやれやれと肩をすくめて言った。
「安心しろ。未遂だよ。邪魔が入ったから」
「邪魔って?」
「知らねーよ。隣の住人? って言ってたな。な、綾人」
「言ってたな。何だったんだろうな」
三人で頭にハテナを浮かべていると、宗一郎が切り替えたように、いつもの笑顔を浮かべた。
「さ、綾人にぃ。光先輩も気分悪そうだし、帰ろう」
「そうだな。光、ゆっくり休めよ」
肩をポンと叩けば、光が最後の力を振り絞るように見上げてきた。
「綾人。俺の気持ち、伝えたからな」
「お、おう」
「返事はいつでも良い……けど」
「けど?」
「宗一郎は、俺と同類だ。気を付けろ」
「同類……?」
宗一郎を見ればニコリと笑っており、その前に「余計なことを……」と呟いていたのは、俺には聞こえなかった。
「良く分かんねぇけど、また月曜な」
それだけ言って、俺は宗一郎と共に帰宅した——。



