好き避け年下幼馴染は、拗らせすぎ!? ソフレ契約、勝手に破んなよ!

※宗一郎視点です※

 ——時は、少し前に遡る。
 綾人にぃと電話で話した僕は、我が家……ではなく、そこから自転車で三十分かかる街に来ていた。
 一旦アパートに帰ったのだが、綾人にぃが帰ってくる様子が無かったため、探しに出てしまったのだ。今になって後悔する。
 それから何度も綾人にぃに着信を入れるが、【電源が切れているか、電波の届かないところに————】とアナウンスが流れるだけだ。光先輩が電源を切ったに違いない。
『一線、越える勇気をくれてサンキューな』
 あれは、十中八九綾人にぃに告白するつもりだ。告白だけならまだ良いが、家に連れ込んで酒まで飲ませて……嫌がる綾人にぃに最後まで——。
 考えただけでゾッとする。
 僕は、自転車を必死に漕ぎ、元きた道を戻る。
 ——光先輩のことは、初めて会った時から、そうだろうなとは思っていた。
 彼は必死で隠しているようだったけれど、同類だから通ずるものがあるのかもしれない。いや、通ずるというよりも、僕の中で危険信号が出たのだ。光先輩は要注意人物だと。
 とはいえ、綾人にぃを害する人ではないと思う。そうでなければ、六年も一緒にいないだろう。
 けれど、それが一番怖い。六年も片想いを続け、その想いを曝け出した時、光先輩の理性は一気に飛ぶことだろう。酒を飲んでいるなら尚更だ。
 ゲイでない綾人にぃは、最初は拒むだろう。ただ、その拒み方が問題だ。僕は身をもって知っているが、あれは煽っているようにしか見えない。
「あー、もう! なんであの時、光先輩にマウントなんて取ったかな! 僕のバカ!」
 急に叫んだので、道ゆくカップルが驚いて振り返った。
 それはさて置き、僕の方が綾人にぃのことを知っていると自慢したくて、マウントを取ってしまった。あれが無ければ、綾人にぃが怒って先に帰ってしまうこともなかった。今頃、綾人にぃと鍋をつついて、ベッドでギュッと抱き合っていたのに……。一生の不覚。
 ただ、こんなこともあろうかと、僕は綾人にぃが寝入った隙にマーキングをしている。綾人にぃは、全くもって気付いていないが、胸元や背中、大腿の内側にもキスマークを付けているのだ。それを見て光先輩が思いとどまってくれることを願うばかりだ——。
 信号待ちを苛々しながら待っていると、着信音が鳴った。
 ——プルル、プルル、プルル。
 綾人にぃからだと思った僕は、そこに表示された名前も見ずに出た。
「綾人にぃ!?」
【宗一郎】
「その声……」
 その声は、かつて慰めてもらっていた相手——。
「歩夢……先輩? なんで?」
 高校時代に初めて付き合った一つ上の先輩・土屋歩夢。
 しかし、今はそれどころではない。
「ごめんなさい。今は、歩夢先輩と話してる時間はなくて」
 切ろうとしたその時、歩夢先輩の口から信じがたい名前が出た。
【綾人さん】
「え?」
【綾人さん、諦めたの? 最近良い感じだったのに勿体無い】
「最近……?」
 歩夢先輩とは、彼が高校卒業以来会っていない。共通の友人がいるにはいるが……綾人にぃとのことは誰にも話していない。
「まさか、最近綾人にぃをつけ回してるのって……」
【つけ回してるなんて人聞きが悪いなぁ。オレを抱きながら他の男の名前を呼んだ宗一郎の好きな人がどんな人か気になっただけじゃん】
 綾人にぃのストーカーが判明した。
 しかも、歩夢先輩は、僕と同じで合気道を嗜んでいる。綾人にぃに何かあったら……僕のせいだ。
「綾人にぃに、何する気?」
【何って、別に何もしないけど、お友達になって、宗一郎の昔話教えてあげようかなって思っただけ】
「昔話って……」
 そんなことをされたらおしまいだ。綾人にぃに幻滅される。綾人にぃの代わりに、他の男で慰めてもらっていたなんて……もう、一緒にいられない。
「お願い、何でもするから! 何でもするから、それだけは言わないで下さい! お願い……します」
 既に青に変わっている信号。早く進みたいのに、足が動かない。
【そんな泣きそうな声出しちゃって……今、どこ?】
「五日市三丁目の交差点……です」
【へぇ、アパートから結構離れてるじゃん。間に合うかなぁ】
「歩夢先輩、僕……」
【じゃ、宗一郎が誕生日迎えたら、一緒にお酒でも飲もうね】
「え?」
 プツンと電話が切れた。
 誕生日を迎えたら? ってことは、今からどうこうではないのか?
 青信号が点滅しており、今にも赤になりそうだ。僕は急いで自転車を前に進めた。
 歩夢先輩のことは、後でどうにかしよう。一生脅される生活になるかもしれないが、それでも僕は綾人にぃが好きだから——。