光の家は、俺のアパートから徒歩十分圏内。入学前は、同じアパートにしようと考えていたのだが、空きが無かったので別々のアパートにしたのだ。
「やっぱこっちの方が広いな」
「部屋数とかは一緒だろ」
「うん。けど、二畳分くらい広いし、バルコニーがあるのが良いよな」
その分家賃も張るが、宗一郎がいる今となっては、こっちに引っ越してきたいくらいだ。今年の春に隣が空いたらしく、今が狙い目だ。
とはいえ、優柔不断の俺に決断力はなく、半年以上経った今も『良いなぁ』と羨んでいるだけだ。
「テキトーに座ってて」
「うん」
光がキッチンに向かったので、俺は奥の部屋にある小洒落たガラスの机の上に買い物袋をポンと置き、先程買った弁当やらおつまみ、酒を並べる。ポケットからスマホを取り出し、それも机の上にそっと置く。置くや否や、ブーブーとバイブ音が鳴る。
「そろそろ出るか」
宗一郎からの着信に、ふわふわの絨毯にあぐらをかいて座りながら出た。
「もし……」
もしもしと言おうとした瞬間、宗一郎の焦った声が聞こえてきた。耳にスマホを当てなくても聞こえるくらいの声量で。
【綾人にぃ! 大丈夫!? 今どこ!? 事故とか遭ってない!? ストーカーは!? 襲われてない!?】
相当心配をかけてしまっていたのが分かる。
しかし、それもこれも宗一郎が悪い。俺の黒歴史を曝露するから。
「宗一郎、俺はまだ怒ってるからな」
不機嫌を前面に出しながら応答すれば、声量が適度なものに変わった。
【ごめん。謝るからさ、帰ってきてよ】
「帰るけど、今日は飲んで帰るから遅くなる。先寝てて」
【綾人にぃが無事なら良いけど、今誰とどこにいるかだけ教えて】
「母親かよ」と言いたかったが、いるか分からない不確かなストーカーから俺を守る為、日々の睡眠時間を削って送迎してくれている宗一郎には言えない。しかも、バイト中なんて四時間も店内で待ってくれている。
「光の家」
【え、二人きりで?】
「うん。久々に二人で飲もうってなってさ。だから問題な」
【帰ってきて。今すぐに】
「は? たまには良いじゃん」
【ダメ!】
またもや声量が大きくなった。
「あ、もしかして嫉妬してる? 一人だけまだお酒飲めないし、のけ者にされてる……みたいな?」
宗一郎もまだまだ子供だなと思いながら、光のアパートを教えてやる。
「宗一郎も来いよ。えっと……アパート出たら右に曲がって、そこを真っ直ぐ」
【ちょ、待って。住所教えて。検索して行くから】
「住所とか知らねぇし。もう一回言うからな、よく聞けよ。アパート出たら右に曲がって、そこを真っ直ぐ。んで、突き当たりの一歩手前の路地を左に曲がって、そしたら信号をすぐ左。そこのイチマル……」
後ろからスッと光にスマホを奪われた。そして、宗一郎に一言言った。
「一線、越える勇気をくれてサンキューな」
光は通話を切ってスマホの電源を落としてから、ベッドの上にそれをポンと置いた。
「光、今のどういう意味?」
「ん? とりあえず乾杯しようぜ。喉乾いたし」
「だな」
光が隣に腰を下ろし、缶チューハイと缶ビールを丁寧にもグラスに注いでくれた。俺たちはそれを手に取り、カチンとふちを合わせた。
「「乾杯」」
グラスを傾け、一気に半分ほど飲み干した。
「んん、久々の酒は美味いな。って、光、そんな一気に飲んで大丈夫か?」
光のグラスは空っぽになってしまった。
「沢山買ったから問題ないよ」
そう言って、光は甘いりんごのカクテルを空っぽになったグラスに注いだ。
「酒が無くなる心配じゃなくて、光の心配してんだけど」
「ああ、そっち?」
「それ以外何があるんだよ」
そして、またもや光はグラスの中身を空にした。
「ちょ、マジで大丈夫かよ」
俺たちは一応酒は飲めるが、互いにあまり強い方ではないのだ。光は忘れているようだが、一回キスされそうになったこともある。
「光。悩みでもあんのか? 聞くぞ」
光が次の缶に手を伸ばそうとしたので、それをさっと奪い取る。
「酒ばっかじゃなくて、何か食えって」
チョコレートを光の口元に持っていけば、パクリと俺の手も一緒に食べられた。
「ちょ、光。そんな一気に飲むから、もう酔い回ってんだろ」
「まだ全然だよ」
顔はまだ赤くはないが、空腹時にあれだけ一気に飲めば時間の問題だろう。
おしぼりで手を拭いてから、やれやれと弁当を開けた。すると、光の真剣な声が俺を呼んだ。
「綾人」
「な、なんだよ。急に」
顔も真剣そのもので、その場でたじろいだ。
「綾人。俺、お前のこと好きなんだ」
「……は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。思考が追いついた時には、抱きしめられていた。
「やっぱ光。もう酔ってんだろ。俺も好きだぞー」
冗談だとばかり思った俺は、ギュッと抱きしめ返してみる。
「マジで?」
「おう、光は俺の親友だ」
「親友か……」
光は溜め息を吐いて、俺の方に全体重をかけてきた。
「ちょ、重い、重いって!」
まるで絨毯の上に押し倒されたようになってしまった。
「綾人、好きだ」
耳元で囁かれ、ゾクリとした。
「もう、光。飲み過ぎだって」
「酒の力でも借りないと言えないから」
「な、何を……」
「綾人……俺、ずっと綾人のこと、そういう目でしか見てなかった」
光の顔が離れ、目が合った。その瞳は潤んでおり、頬もほんのり赤みを帯びている。
酒に酔っているとはいえ、光の想いが伝わってきた。
「光、もしかして、本気で……?」
「好きだ。愛してる。言わないつもりだったけど、あいつに……宗一郎に、取られたくない」
「宗一郎?」
何故ここで宗一郎の名が出てくるのか。
ただ、今ここで宗一郎とは何もないと訂正する意味はあるのだろうか。それをすると、俺がまるで光のことを好きみたいだ。光のことを好きは好きだが、恋愛の好きではないのは確かだ。
——ピンポンピンポンピンポン!
インターフォンが何度も鳴り、扉がドンドンドン! と激しく外から叩かれた。
「光、宗一郎……来たかも」
「大丈夫。鍵、閉めてるから」
光の指が俺の指に絡みついてきた。そして、光の潤んだ瞳が近付いてくる。
(いやいやいや、全然大丈夫じゃなさそうなんですけど!!)
「やっぱこっちの方が広いな」
「部屋数とかは一緒だろ」
「うん。けど、二畳分くらい広いし、バルコニーがあるのが良いよな」
その分家賃も張るが、宗一郎がいる今となっては、こっちに引っ越してきたいくらいだ。今年の春に隣が空いたらしく、今が狙い目だ。
とはいえ、優柔不断の俺に決断力はなく、半年以上経った今も『良いなぁ』と羨んでいるだけだ。
「テキトーに座ってて」
「うん」
光がキッチンに向かったので、俺は奥の部屋にある小洒落たガラスの机の上に買い物袋をポンと置き、先程買った弁当やらおつまみ、酒を並べる。ポケットからスマホを取り出し、それも机の上にそっと置く。置くや否や、ブーブーとバイブ音が鳴る。
「そろそろ出るか」
宗一郎からの着信に、ふわふわの絨毯にあぐらをかいて座りながら出た。
「もし……」
もしもしと言おうとした瞬間、宗一郎の焦った声が聞こえてきた。耳にスマホを当てなくても聞こえるくらいの声量で。
【綾人にぃ! 大丈夫!? 今どこ!? 事故とか遭ってない!? ストーカーは!? 襲われてない!?】
相当心配をかけてしまっていたのが分かる。
しかし、それもこれも宗一郎が悪い。俺の黒歴史を曝露するから。
「宗一郎、俺はまだ怒ってるからな」
不機嫌を前面に出しながら応答すれば、声量が適度なものに変わった。
【ごめん。謝るからさ、帰ってきてよ】
「帰るけど、今日は飲んで帰るから遅くなる。先寝てて」
【綾人にぃが無事なら良いけど、今誰とどこにいるかだけ教えて】
「母親かよ」と言いたかったが、いるか分からない不確かなストーカーから俺を守る為、日々の睡眠時間を削って送迎してくれている宗一郎には言えない。しかも、バイト中なんて四時間も店内で待ってくれている。
「光の家」
【え、二人きりで?】
「うん。久々に二人で飲もうってなってさ。だから問題な」
【帰ってきて。今すぐに】
「は? たまには良いじゃん」
【ダメ!】
またもや声量が大きくなった。
「あ、もしかして嫉妬してる? 一人だけまだお酒飲めないし、のけ者にされてる……みたいな?」
宗一郎もまだまだ子供だなと思いながら、光のアパートを教えてやる。
「宗一郎も来いよ。えっと……アパート出たら右に曲がって、そこを真っ直ぐ」
【ちょ、待って。住所教えて。検索して行くから】
「住所とか知らねぇし。もう一回言うからな、よく聞けよ。アパート出たら右に曲がって、そこを真っ直ぐ。んで、突き当たりの一歩手前の路地を左に曲がって、そしたら信号をすぐ左。そこのイチマル……」
後ろからスッと光にスマホを奪われた。そして、宗一郎に一言言った。
「一線、越える勇気をくれてサンキューな」
光は通話を切ってスマホの電源を落としてから、ベッドの上にそれをポンと置いた。
「光、今のどういう意味?」
「ん? とりあえず乾杯しようぜ。喉乾いたし」
「だな」
光が隣に腰を下ろし、缶チューハイと缶ビールを丁寧にもグラスに注いでくれた。俺たちはそれを手に取り、カチンとふちを合わせた。
「「乾杯」」
グラスを傾け、一気に半分ほど飲み干した。
「んん、久々の酒は美味いな。って、光、そんな一気に飲んで大丈夫か?」
光のグラスは空っぽになってしまった。
「沢山買ったから問題ないよ」
そう言って、光は甘いりんごのカクテルを空っぽになったグラスに注いだ。
「酒が無くなる心配じゃなくて、光の心配してんだけど」
「ああ、そっち?」
「それ以外何があるんだよ」
そして、またもや光はグラスの中身を空にした。
「ちょ、マジで大丈夫かよ」
俺たちは一応酒は飲めるが、互いにあまり強い方ではないのだ。光は忘れているようだが、一回キスされそうになったこともある。
「光。悩みでもあんのか? 聞くぞ」
光が次の缶に手を伸ばそうとしたので、それをさっと奪い取る。
「酒ばっかじゃなくて、何か食えって」
チョコレートを光の口元に持っていけば、パクリと俺の手も一緒に食べられた。
「ちょ、光。そんな一気に飲むから、もう酔い回ってんだろ」
「まだ全然だよ」
顔はまだ赤くはないが、空腹時にあれだけ一気に飲めば時間の問題だろう。
おしぼりで手を拭いてから、やれやれと弁当を開けた。すると、光の真剣な声が俺を呼んだ。
「綾人」
「な、なんだよ。急に」
顔も真剣そのもので、その場でたじろいだ。
「綾人。俺、お前のこと好きなんだ」
「……は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。思考が追いついた時には、抱きしめられていた。
「やっぱ光。もう酔ってんだろ。俺も好きだぞー」
冗談だとばかり思った俺は、ギュッと抱きしめ返してみる。
「マジで?」
「おう、光は俺の親友だ」
「親友か……」
光は溜め息を吐いて、俺の方に全体重をかけてきた。
「ちょ、重い、重いって!」
まるで絨毯の上に押し倒されたようになってしまった。
「綾人、好きだ」
耳元で囁かれ、ゾクリとした。
「もう、光。飲み過ぎだって」
「酒の力でも借りないと言えないから」
「な、何を……」
「綾人……俺、ずっと綾人のこと、そういう目でしか見てなかった」
光の顔が離れ、目が合った。その瞳は潤んでおり、頬もほんのり赤みを帯びている。
酒に酔っているとはいえ、光の想いが伝わってきた。
「光、もしかして、本気で……?」
「好きだ。愛してる。言わないつもりだったけど、あいつに……宗一郎に、取られたくない」
「宗一郎?」
何故ここで宗一郎の名が出てくるのか。
ただ、今ここで宗一郎とは何もないと訂正する意味はあるのだろうか。それをすると、俺がまるで光のことを好きみたいだ。光のことを好きは好きだが、恋愛の好きではないのは確かだ。
——ピンポンピンポンピンポン!
インターフォンが何度も鳴り、扉がドンドンドン! と激しく外から叩かれた。
「光、宗一郎……来たかも」
「大丈夫。鍵、閉めてるから」
光の指が俺の指に絡みついてきた。そして、光の潤んだ瞳が近付いてくる。
(いやいやいや、全然大丈夫じゃなさそうなんですけど!!)



