※綾人視点に戻ります※
それから二週間が経過するが、特に変わったこともない。変わったことと言えば、俺と宗一郎の仲がより一層深まったことくらいだろうか。
毎日のように一緒に登下校し、二日に一回は一緒に料理をして、夜は添い寝。話しかければ返ってくるし、これまでの一年半は何だったのかというくらい親密になった気がする。
そして、本日は久々にプリン研究会の活動をしようということになり、宗一郎と二人、たまごプリンや焼きプリン、プッチンタイプのプリンに、生クリームが乗ったプリン。様々な種類のプリンを購入して部室に持ち寄っている。
「先輩たち、やっぱ来られないって」
スマホを操作しながら言えば、宗一郎がプリンを机に並べながら応えた。
「残念。綾人にぃと二人で、こんなに食べられるかな」
四年生女子二人は、就活や論文が忙しいという名目でお断り……という話になっているが、本当のところは宗一郎がいるからだ。大人しめの二人には、『イケメンを前にプリンなんて食べられない!』と、断固拒否された。
つまり、今まで一緒に食べていた俺は……。
「あ、代わりに光が来るって」
そう伝えれば、宗一郎は若干不愉快そうな顔をした。と思えば、いつもの笑顔に戻った。
「綾人にぃと光先輩って、仲良いよね」
「まぁ、高一から一緒だからなぁ。かれこれ六年は一緒にいるな」
「六年か……僕の知らない綾人にぃを沢山知ってるんだろうね」
どこか寂しげに言う宗一郎。俺はその口に、生クリームが乗ったプリンをスプーンで掬って入れた。
「美味しッ」
「俺たちなんて、宗一郎が三歳の時から九歳までと……あと、一年と半年ちょっとだろ? 七年半も一緒にいるんだな。すげぇ」
何気なく言った自分の言葉に感心していると、宗一郎の顔が穏やかに笑った。
「これ、そんなにうまかった?」
生クリームを避けて下のプリンだけ食べてみた。
「あー、これは確かにうまいわ。生クリームが甘い分、プリンの方を甘さ控えめにされてんな」
感想を述べれば、宗一郎がキョトン顔で見てきた。
「綾人にぃ、それワザとやってんの?」
「ワザと? そりゃ、ここはプリン研究会だからな。ひたすらプリン食べて、感想述べる会だぞ」
「そうじゃなくて」
「他に何かあるのか?」
首を傾げれば、宗一郎は困った顔で笑って首を横にふった。
「ううん、何でもない。綾人にぃは、僕を喜ばせるの上手いよね」
「プリンは正義だからな」
ドヤ顔でプリンを掲げれば、ガラガラッと光が入ってきた。
「綾人、何してんの?」
「ちょ、光。入る時はノックしろよ。恥ずいだろ」
「二人でやましいことしてたんだ?」
光がジト目で俺と宗一郎を見てきた。
「やましいことって、先にプリン食べてただけだろ。なぁ、宗一郎」
「へへへ」
笑って誤魔化す宗一郎。まるで二人でやましいことをしていたかのようだ。
「コラッ、宗一郎。その愛想笑いやめろって」
「なんで? 綾人にぃに『あーん』してもらって、間接キスしたんだから、立派にやましいことしてるじゃん」
「なッ、また間接キスとか言って、中学生じゃないんだから普通だろ」
そう言いながらも顔が熱くなる俺は、照れ隠しに俺が食べたスプーンで光の口にプリンを放り込んだ。
「ん」
「ほら、今どき間接キスなんてみんなしてんだろ。なぁ、ひか……る?」
光が唖然としながらプリンを食べている。そして、その目からは、薄っすら涙が浮かんでいるように見える。
これはやってしまったかもしれない。普段穏やかな光は、怒ると恐いのだ。高校時代に、俺が上級生に足を引っ掛けられてすっ転んだことがあったのだが、光は恐れ知らずにも上級生に激怒していた。そして、その上級生をも泣かすほどの嫌がらせを後でやってのけた。
とにかく謝罪しよう。俺は、恐る恐る謝罪する。
「わ、悪い。焼きプリン……嫌いだった?」
「いや……好き」
「じゃ、じゃあ、量が少なかったとか? もっと食うか?」
残りをスプーンで掬ってあげようとすれば、光は口元を腕で隠した。
「だ、大丈夫。それ、綾人好きだろ? 自分で食べろ」
「お、おう」
俺は行き場を失ったプリンを————パクリと宗一郎が食べた。
「あ、宗一郎! それ俺の」
「良いじゃん。僕も食べたかったし。てか、スプーン新しいのにしよ。ほら、一人一本」
宗一郎は、使い捨てのプラスチックスプーンを一人一本配っていった。
「じゃ、綾人にぃ。プリンも自分が食べたいの自分で取るから、人に食べさせないように。分かった?」
「お、おう」
確かに、皆でシェアしてこの感動を分かち合いたいと思うから、間接キスだの言われるのだ。各々好きな物を食べれば……。
「それなら、もっと買っとくんだったな。このチョコプリンとか一個しか買ってないし……」
恨めしそうに眺めれば、宗一郎と光は同時に言った。
「「それは、綾人(にぃ)が食べて」」
二人は目を合わせた。笑うのかな……と思えば、二人の間に火花が散った。
「このプリンも綾人にぃが好きな奴でしょ? 食べて」
「綾人は、こっちのカスタードの方が好きだよな? 二つしかないし、一個食べろよ」
「光先輩は、綾人にぃのことをよくご存知で」
「そりゃあ高校からの付き合いだからな。水泳の授業中に水着が脱げて、プールから出られなくなった綾人を助けたのも俺だ」
「ちょ、光! そんな黒歴史を……」
まさか、幼馴染相手に暴露されるとは。穴があったら入りたい……。
そして、宗一郎まで得意げに話す。
「でも、これは知りませんよね? 小ニの時の綾人にぃは、オモチャのマントで本気で空飛べると思って、滑り台から飛び降りたんですよ。あの時は、僕に抱き付いて泣いてましたよ」
「ちょ、それ内緒!」
「それならこれは知ってるか? 数学の授業中に————」
「いやいや、それよりも————」
俺の黒歴史を次から次へと曝露していく二人。
「もう、やめてくれ……」
怒りに震えた俺は、プラスチックスプーンをパキリと握りつぶし、大きな声で怒鳴った。
「もう出てけ! 二人とも嫌いだ!」
「え、嫌いって、綾人にぃ」
「わ、悪い。そんなつもりじゃ」
慌てる二人を無視し、俺は荷物を持った。
「分かった。俺が出てく」
「綾人にぃ、ごめんって」
「綾人、待てって」
「うるさい! 付いてくんな! もう絶交する!」
怒りに任せて、俺は大好きなプリンを置いて部室を出た——。
それから二週間が経過するが、特に変わったこともない。変わったことと言えば、俺と宗一郎の仲がより一層深まったことくらいだろうか。
毎日のように一緒に登下校し、二日に一回は一緒に料理をして、夜は添い寝。話しかければ返ってくるし、これまでの一年半は何だったのかというくらい親密になった気がする。
そして、本日は久々にプリン研究会の活動をしようということになり、宗一郎と二人、たまごプリンや焼きプリン、プッチンタイプのプリンに、生クリームが乗ったプリン。様々な種類のプリンを購入して部室に持ち寄っている。
「先輩たち、やっぱ来られないって」
スマホを操作しながら言えば、宗一郎がプリンを机に並べながら応えた。
「残念。綾人にぃと二人で、こんなに食べられるかな」
四年生女子二人は、就活や論文が忙しいという名目でお断り……という話になっているが、本当のところは宗一郎がいるからだ。大人しめの二人には、『イケメンを前にプリンなんて食べられない!』と、断固拒否された。
つまり、今まで一緒に食べていた俺は……。
「あ、代わりに光が来るって」
そう伝えれば、宗一郎は若干不愉快そうな顔をした。と思えば、いつもの笑顔に戻った。
「綾人にぃと光先輩って、仲良いよね」
「まぁ、高一から一緒だからなぁ。かれこれ六年は一緒にいるな」
「六年か……僕の知らない綾人にぃを沢山知ってるんだろうね」
どこか寂しげに言う宗一郎。俺はその口に、生クリームが乗ったプリンをスプーンで掬って入れた。
「美味しッ」
「俺たちなんて、宗一郎が三歳の時から九歳までと……あと、一年と半年ちょっとだろ? 七年半も一緒にいるんだな。すげぇ」
何気なく言った自分の言葉に感心していると、宗一郎の顔が穏やかに笑った。
「これ、そんなにうまかった?」
生クリームを避けて下のプリンだけ食べてみた。
「あー、これは確かにうまいわ。生クリームが甘い分、プリンの方を甘さ控えめにされてんな」
感想を述べれば、宗一郎がキョトン顔で見てきた。
「綾人にぃ、それワザとやってんの?」
「ワザと? そりゃ、ここはプリン研究会だからな。ひたすらプリン食べて、感想述べる会だぞ」
「そうじゃなくて」
「他に何かあるのか?」
首を傾げれば、宗一郎は困った顔で笑って首を横にふった。
「ううん、何でもない。綾人にぃは、僕を喜ばせるの上手いよね」
「プリンは正義だからな」
ドヤ顔でプリンを掲げれば、ガラガラッと光が入ってきた。
「綾人、何してんの?」
「ちょ、光。入る時はノックしろよ。恥ずいだろ」
「二人でやましいことしてたんだ?」
光がジト目で俺と宗一郎を見てきた。
「やましいことって、先にプリン食べてただけだろ。なぁ、宗一郎」
「へへへ」
笑って誤魔化す宗一郎。まるで二人でやましいことをしていたかのようだ。
「コラッ、宗一郎。その愛想笑いやめろって」
「なんで? 綾人にぃに『あーん』してもらって、間接キスしたんだから、立派にやましいことしてるじゃん」
「なッ、また間接キスとか言って、中学生じゃないんだから普通だろ」
そう言いながらも顔が熱くなる俺は、照れ隠しに俺が食べたスプーンで光の口にプリンを放り込んだ。
「ん」
「ほら、今どき間接キスなんてみんなしてんだろ。なぁ、ひか……る?」
光が唖然としながらプリンを食べている。そして、その目からは、薄っすら涙が浮かんでいるように見える。
これはやってしまったかもしれない。普段穏やかな光は、怒ると恐いのだ。高校時代に、俺が上級生に足を引っ掛けられてすっ転んだことがあったのだが、光は恐れ知らずにも上級生に激怒していた。そして、その上級生をも泣かすほどの嫌がらせを後でやってのけた。
とにかく謝罪しよう。俺は、恐る恐る謝罪する。
「わ、悪い。焼きプリン……嫌いだった?」
「いや……好き」
「じゃ、じゃあ、量が少なかったとか? もっと食うか?」
残りをスプーンで掬ってあげようとすれば、光は口元を腕で隠した。
「だ、大丈夫。それ、綾人好きだろ? 自分で食べろ」
「お、おう」
俺は行き場を失ったプリンを————パクリと宗一郎が食べた。
「あ、宗一郎! それ俺の」
「良いじゃん。僕も食べたかったし。てか、スプーン新しいのにしよ。ほら、一人一本」
宗一郎は、使い捨てのプラスチックスプーンを一人一本配っていった。
「じゃ、綾人にぃ。プリンも自分が食べたいの自分で取るから、人に食べさせないように。分かった?」
「お、おう」
確かに、皆でシェアしてこの感動を分かち合いたいと思うから、間接キスだの言われるのだ。各々好きな物を食べれば……。
「それなら、もっと買っとくんだったな。このチョコプリンとか一個しか買ってないし……」
恨めしそうに眺めれば、宗一郎と光は同時に言った。
「「それは、綾人(にぃ)が食べて」」
二人は目を合わせた。笑うのかな……と思えば、二人の間に火花が散った。
「このプリンも綾人にぃが好きな奴でしょ? 食べて」
「綾人は、こっちのカスタードの方が好きだよな? 二つしかないし、一個食べろよ」
「光先輩は、綾人にぃのことをよくご存知で」
「そりゃあ高校からの付き合いだからな。水泳の授業中に水着が脱げて、プールから出られなくなった綾人を助けたのも俺だ」
「ちょ、光! そんな黒歴史を……」
まさか、幼馴染相手に暴露されるとは。穴があったら入りたい……。
そして、宗一郎まで得意げに話す。
「でも、これは知りませんよね? 小ニの時の綾人にぃは、オモチャのマントで本気で空飛べると思って、滑り台から飛び降りたんですよ。あの時は、僕に抱き付いて泣いてましたよ」
「ちょ、それ内緒!」
「それならこれは知ってるか? 数学の授業中に————」
「いやいや、それよりも————」
俺の黒歴史を次から次へと曝露していく二人。
「もう、やめてくれ……」
怒りに震えた俺は、プラスチックスプーンをパキリと握りつぶし、大きな声で怒鳴った。
「もう出てけ! 二人とも嫌いだ!」
「え、嫌いって、綾人にぃ」
「わ、悪い。そんなつもりじゃ」
慌てる二人を無視し、俺は荷物を持った。
「分かった。俺が出てく」
「綾人にぃ、ごめんって」
「綾人、待てって」
「うるさい! 付いてくんな! もう絶交する!」
怒りに任せて、俺は大好きなプリンを置いて部室を出た——。



