迎えた2学期始業式。9月が秋なことを忘れるぐらい外は猛暑だ。
暑いから行きたくない、なんて気持ちにはならず、1ヶ月振りに阿比留と会える俺は、朝からウキウキしている。
教室に入ると、あらゆる手で日焼けを阻止したであろう女子たちと、良い感じにこんがり焼けた男子たちが多数いた。
「あ、竹おはよー。久しぶりー」
「おはよ」
本田と挨拶を交わしながら、こっそり阿比留の姿を探す。
ーあっ、いた。
久々に見る阿比留は、安定のかっこよさで、つい見続けてしまう。そんな俺の視線に気付いた阿比留は、眉間に皺を寄せ「見んな」と口パクで言ってくる。
2学期になっても俺たちの不仲は続いてるようだ。俺が歩み寄る態度を取れば、この関係は何か変わるんだろうか。
帰りのホームルームが終わり、和馬と教室を出た。
「あー腹減ったー」
「飢え死にしそー。何食う?」
「あちぃし、さっぱりしたもんにしようぜ」
「冷やし中華とか?」
「うん。あとは…ざる蕎麦とかもあり!」
「蕎麦いいな。ざる蕎麦ならスーパーで買った方が安いから、スーパー寄って、どっか涼しいとこで食べるか」
「了解!よーし、蕎麦蕎麦〜」
靴箱で靴に履き替える。
「もうさ、直斗ん家で食おうぜ。今日、母ちゃんいる?」
「いねーけど、片付けてねぇから部屋汚ねーぞ?」
「いや、直斗の部屋綺麗だったことねーから!」
「うるせぇ」
「あはは。久々に行くからめっちゃ楽しみ!」
「何が楽しみなの?」
後からやって来た乾と阿比留が話に加わってきた。
「これからスーパーで昼飯買って、直斗ん家で食うんだぁ!」
「え、何それ楽しそう!」
「乾たちも来る?」
和馬は勝手に誘い始める。
「おい、何でお前が誘ってんだよ」
「竹ちゃん、お邪魔してもいーい?」
「え、あーうん、汚い部屋でよければ」
…これは、乾だけが来る感じだよな?
チラッと阿比留を見た。
「やった、ありがと。音緒はどうする?」
こいつが来るわけねぇじゃんか…。
「…行く」
…!?
予想外の返事に目を大きく見開いた。
「よしっ、じゃあ4人でスーパー行こー!」
和馬たちが楽しそうに靴箱を出て行く後ろで、俺は思考が追いついていない。
待って待って。阿比留が今から俺ん家来んの?新学期早々そんな展開ビビるって。
「…まじかよ」
スーパーでそれぞれ好きな弁当や惣菜を買い、俺の家へ向かった。
家に着くと玄関の鍵が開いていた。
…あれ、母さんいないはずなんだけど。まさか…
ドアを開けると、派手なスニーカーが1足置いてある。
…やっぱり。
「…悪りぃ、兄貴いるわ」
「え!兄ちゃん、すげー久々!」
「竹ちゃん、お兄さんいるんだね」
「うん。…とりあえず、上がって」
「お邪魔しまーす!」
リビングのテーブルで、買ってきた昼飯を広げていると、乾が聞いてくる。
「お兄さんって、何歳なの?」
「今、大学2年の20歳」
「4歳差なんだ。顔似てる?」
「俺的には似てねーけど…どう?」
兄貴を見たことのある和馬に聞いてみた。
「雰囲気は全然ちげーけど、顔は…笑った時とか似てるなって思う」
「へぇ!」
「兄貴は喋り方も、見た目も、何もかもチャラチャラしてっから」
「チャラ男とヤンキーの息子に囲まれて、直斗の母ちゃんも幸せだな!」
「どこがだよ」
話の最中、タイミング良く?悪く?兄貴が2階から降りてきた。複数のピアスをつけ、派手な柄のTシャツを着ている。
「…あれ、友達来てんの?あっ、かずまんじゃーん!」
「お久しぶりっす!」
「初めまして、お邪魔してます」
「あ、初めましてー。ナオの兄の慎吾でーす」
「バイトじゃなかったのかよ」
「夕方からに変更になっちゃってさぁ。俺も昼まだなんだけど、ご一緒してもいー?」
「はぁ?和馬はともかく、気遣うから自分の部屋で食えよ」
「えー冷たーい。…だめ?」
兄貴は阿比留と乾に向かって甘え声で聞く。
おい、マジでやめろ。阿比留たちを困らせんなよ。
「お兄さんと話してみたいんで、ぜひ」
そう言ったのは、阿比留だった。
「えっ…」
「わーい、ありがとー!」
持ち前のチャラさとコミュ力で、阿比留たちに絡みまくる兄貴。
「音緒くん、めちゃくちゃイケメンだねー!モテるの納得だわ」
ー何で馴れ馴れしく下の名前で呼んでんだよ。
「兄ちゃんだってモテるじゃないっすか!カッコいいし」
「かずまんは嬉しいこと言ってくれるねぇー。女友達は結構いるし、一緒にいて楽しいってよく言われるんだけど、なかなか彼女出来ないんだよねぇ。何でかな!?」
「高嶺の花的な?」
「あーなるほど」
「何がなるほどなんだよ。誰もチャラい奴なんか彼氏にしたくねぇだろ」
「彼女にはチャラくありませーん。音緒くんはモテるけど、彼女いないんだよね?」
「はい」
「彼女ほしいって思う?」
気になっていることを聞かれて、その答えを知りたいような知りたくないような、複雑な気持ちになる。
「そうですねぇ…彼女っていう存在がほしいっていうより…ちゃんと好き同士、両想いの人が出来たらいいなって思います」
…両想い…。
「わおー!いいこと言うねぇ!俺なんか高1の頃、彼女がほしくて片っ端から女子に声掛けまくってたのに」
「彼女は出来たんですか?」
「出来たよーん。たださ、同時期に声掛けすぎてたから、彼女と他の子が修羅場みたいになっちゃって…懐かしいなぁ」
「どんだけチャラいんだよ」
「チャラくないってー。そういうナオは、彼女出来たの?中3の時に彼女に振られて落ち込んでた以来聞いてないけど」
「あ、兄ちゃん、直斗1学期に彼女出来たんすけど、一瞬で振られて」
「あ、また振られたんだぁ。いつも短命だねぇ。我が弟ながら顔も悪くないし、性格も良いと思うんだけど、何で振られるばっかなんだろー」
…そこにいるモテ男のせいだよっ!
「自分だって長続きしねぇだろうが」
「俺は別れてもすぐ次できるし」
好き勝手喋った兄貴は、食べ終わると自室に戻っていった。俺は変な気を遣い、どっと疲れている。
「兄ちゃん相変わらずおもれー!」
「どこがだよ…」
「カズくんの言ってた通り、笑った顔竹ちゃんにそっくりだったね!」
「だろ?」
「素敵なお兄さんがいて羨ましい。ね、音緒」
「うん、すげぇ良い人だったし、かっこよかった」
「…。」
自分が褒められたわけじゃねぇのに、照れるし嬉しくなる。
「お邪魔しました」
「気をつけて帰れよー」
結局あの後もリビングのテレビで映画観たり、菓子食ったりしたから、俺の部屋に行くことはなかった。
自分の部屋に入った俺は、和馬たちをここに来させなくてよかったと心から思った。だって、すぐ目につく棚に、あの日のラムネの空瓶が置いてあったから。
ーあっぶねぇ。こんなん見られたら阿比留にドン引きされてた。…週末に部屋の片付けするか。
数日後、和馬が家庭の事情で学校を休んでいた日、昼休みに乾が言ってきた。
「カズくんが休むの初めてで、2人の口喧嘩に板挟みになったらどうしようと思ってたけど、平穏に過ごせてびっくり」
「あぁ…」
俺の覇気のない声に乾は心配な顔をする。
「竹ちゃん、大丈夫?お弁当あんま食べてないし、もしかして体調悪い?」
「…うーん、悪りぃ…かも?」
確かに朝からなんか調子が上がらなかったし、授業はいつも以上に集中できなかった。
「ちょっとおでこ触るね」
乾は俺のおでこに手のひらを当てた。
「…熱っ!竹ちゃん、熱あるよ!早く保健室行かなきゃ」
「えっ、あー…分かった」
「頭回ってねぇじゃん。…乾、俺こいつ保健室連れて行って来るから、先生に伝えといて」
「うん、了解」
「ほら、行くぞ」
「え…」
阿比留は俺の腕を持ち、歩き出した。
保健室に着き、熱を測ると38.3°と表示された。
「風邪だと思うけど、念の為病院に行って診断してもらってね」
体温計を受け取った養護の先生はそう言い「少しここで休む?すぐ自宅に帰る?」と問いかけてくる。
「あぁー、ちょい休んでいいっすか?」
「もちろん。こっちのベッド使ってね」
「…ありがとーございます」
「私、担任の先生に連絡してくるから」
重い身体をベッドに乗せ、布団をかけた。
「ふぅー…」
ベッド横の丸椅子に座った阿比留は、養護の先生からもらった冷却シートをおでこに貼ってきた。抵抗する元気もなく、ボーッと天井を見つめる俺。
「じゃ、俺戻るから」
「…うん、ありがと…」
キーンコーンカーンコーン…ー
チャイムの音で目が覚めたら、6限目が終わったタイミングだった。
ーすげぇ寝たな…。でも、まだ身体だりぃ。
「あ、ちょうど起きてる。迎え来てくれたけど、帰れそう?」
カーテンを開けた養護の先生が聞いてくる。
ー迎え?
起き上がり、カーテンから出ると俺の鞄を持った阿比留がいた。
「えっ」
状況が読めないまま靴箱に着き、
「鞄…さんきゅ」
と、阿比留の手から自分の鞄を受け取ろうとしたら
「病人に持たせるわけねぇだろ」
と言われた。
「いや、でも今から家帰るし…」
「家まで送る」
「…は?」
「つーか、歩けんの?誰かからチャリ借りて、後ろ乗るか?」
「歩けるから…なんで、送んなくて大丈夫だから」
「熱あんだから大人しく言う事聞いとけ。…早く帰るぞ」
「…。」
頭がぼーっとして、言い返す言葉が出てこない。
家に着き、玄関の鍵を差す俺に阿比留は聞く。
「家、誰かいんの?」
「いや、この時間はまだ…」
「なら部屋まで連れてく」
「いやっ、いいって」
「いいから」
強引に家の中へ入ってきた阿比留は、俺と2階の部屋に向かう。
「下の冷蔵庫勝手に開けて大丈夫?飲み物取ってくるけど」
「うん、大丈夫。ありがと」
「汗かいてるだろうし、今のうちに着替えとけよ」
阿比留が部屋から出ていき、俺は重い身体を動かし着替え始める。
…言い方は相変わらずだけど、昼休みからずっと優しいな。なんか調子狂う…。
持ってきてくれた飲み物を口に含んで、ゆっくり飲み込んだ。
「…あの瓶捨ててねぇの?」
俺のそばに立ったままの阿比留は、棚に置いたままのラムネの空瓶を見ている。
…あっ、やべぇ。まだ隠す前だった。…うわぁ、まじ終わった…。
しかし、言い訳をする気力も残ってない俺は、弱々しい声で「うん…」とだけ答えた。
そのまま阿比留の反応を確認する前にベッドに寝転んだ俺。
ー熱上がってきた気がする…。
「大丈夫か?」
「…うん。悪りぃ、もう寝るわ。鍵かけずに帰ってもらって大丈夫だから。今日はまじありがと…」
「分かった、お大事に」
…もう限界かも。
力尽きて、阿比留が部屋を出て行くのを見届ける前に、目を閉じようとするぼんやりとした視界に阿比留の顔が近づくのが見えた。
ーちゅ…
目を閉じた瞬間、おでこに何か触れた気がする。
ー…なんか今…あれ、夢…?
暑いから行きたくない、なんて気持ちにはならず、1ヶ月振りに阿比留と会える俺は、朝からウキウキしている。
教室に入ると、あらゆる手で日焼けを阻止したであろう女子たちと、良い感じにこんがり焼けた男子たちが多数いた。
「あ、竹おはよー。久しぶりー」
「おはよ」
本田と挨拶を交わしながら、こっそり阿比留の姿を探す。
ーあっ、いた。
久々に見る阿比留は、安定のかっこよさで、つい見続けてしまう。そんな俺の視線に気付いた阿比留は、眉間に皺を寄せ「見んな」と口パクで言ってくる。
2学期になっても俺たちの不仲は続いてるようだ。俺が歩み寄る態度を取れば、この関係は何か変わるんだろうか。
帰りのホームルームが終わり、和馬と教室を出た。
「あー腹減ったー」
「飢え死にしそー。何食う?」
「あちぃし、さっぱりしたもんにしようぜ」
「冷やし中華とか?」
「うん。あとは…ざる蕎麦とかもあり!」
「蕎麦いいな。ざる蕎麦ならスーパーで買った方が安いから、スーパー寄って、どっか涼しいとこで食べるか」
「了解!よーし、蕎麦蕎麦〜」
靴箱で靴に履き替える。
「もうさ、直斗ん家で食おうぜ。今日、母ちゃんいる?」
「いねーけど、片付けてねぇから部屋汚ねーぞ?」
「いや、直斗の部屋綺麗だったことねーから!」
「うるせぇ」
「あはは。久々に行くからめっちゃ楽しみ!」
「何が楽しみなの?」
後からやって来た乾と阿比留が話に加わってきた。
「これからスーパーで昼飯買って、直斗ん家で食うんだぁ!」
「え、何それ楽しそう!」
「乾たちも来る?」
和馬は勝手に誘い始める。
「おい、何でお前が誘ってんだよ」
「竹ちゃん、お邪魔してもいーい?」
「え、あーうん、汚い部屋でよければ」
…これは、乾だけが来る感じだよな?
チラッと阿比留を見た。
「やった、ありがと。音緒はどうする?」
こいつが来るわけねぇじゃんか…。
「…行く」
…!?
予想外の返事に目を大きく見開いた。
「よしっ、じゃあ4人でスーパー行こー!」
和馬たちが楽しそうに靴箱を出て行く後ろで、俺は思考が追いついていない。
待って待って。阿比留が今から俺ん家来んの?新学期早々そんな展開ビビるって。
「…まじかよ」
スーパーでそれぞれ好きな弁当や惣菜を買い、俺の家へ向かった。
家に着くと玄関の鍵が開いていた。
…あれ、母さんいないはずなんだけど。まさか…
ドアを開けると、派手なスニーカーが1足置いてある。
…やっぱり。
「…悪りぃ、兄貴いるわ」
「え!兄ちゃん、すげー久々!」
「竹ちゃん、お兄さんいるんだね」
「うん。…とりあえず、上がって」
「お邪魔しまーす!」
リビングのテーブルで、買ってきた昼飯を広げていると、乾が聞いてくる。
「お兄さんって、何歳なの?」
「今、大学2年の20歳」
「4歳差なんだ。顔似てる?」
「俺的には似てねーけど…どう?」
兄貴を見たことのある和馬に聞いてみた。
「雰囲気は全然ちげーけど、顔は…笑った時とか似てるなって思う」
「へぇ!」
「兄貴は喋り方も、見た目も、何もかもチャラチャラしてっから」
「チャラ男とヤンキーの息子に囲まれて、直斗の母ちゃんも幸せだな!」
「どこがだよ」
話の最中、タイミング良く?悪く?兄貴が2階から降りてきた。複数のピアスをつけ、派手な柄のTシャツを着ている。
「…あれ、友達来てんの?あっ、かずまんじゃーん!」
「お久しぶりっす!」
「初めまして、お邪魔してます」
「あ、初めましてー。ナオの兄の慎吾でーす」
「バイトじゃなかったのかよ」
「夕方からに変更になっちゃってさぁ。俺も昼まだなんだけど、ご一緒してもいー?」
「はぁ?和馬はともかく、気遣うから自分の部屋で食えよ」
「えー冷たーい。…だめ?」
兄貴は阿比留と乾に向かって甘え声で聞く。
おい、マジでやめろ。阿比留たちを困らせんなよ。
「お兄さんと話してみたいんで、ぜひ」
そう言ったのは、阿比留だった。
「えっ…」
「わーい、ありがとー!」
持ち前のチャラさとコミュ力で、阿比留たちに絡みまくる兄貴。
「音緒くん、めちゃくちゃイケメンだねー!モテるの納得だわ」
ー何で馴れ馴れしく下の名前で呼んでんだよ。
「兄ちゃんだってモテるじゃないっすか!カッコいいし」
「かずまんは嬉しいこと言ってくれるねぇー。女友達は結構いるし、一緒にいて楽しいってよく言われるんだけど、なかなか彼女出来ないんだよねぇ。何でかな!?」
「高嶺の花的な?」
「あーなるほど」
「何がなるほどなんだよ。誰もチャラい奴なんか彼氏にしたくねぇだろ」
「彼女にはチャラくありませーん。音緒くんはモテるけど、彼女いないんだよね?」
「はい」
「彼女ほしいって思う?」
気になっていることを聞かれて、その答えを知りたいような知りたくないような、複雑な気持ちになる。
「そうですねぇ…彼女っていう存在がほしいっていうより…ちゃんと好き同士、両想いの人が出来たらいいなって思います」
…両想い…。
「わおー!いいこと言うねぇ!俺なんか高1の頃、彼女がほしくて片っ端から女子に声掛けまくってたのに」
「彼女は出来たんですか?」
「出来たよーん。たださ、同時期に声掛けすぎてたから、彼女と他の子が修羅場みたいになっちゃって…懐かしいなぁ」
「どんだけチャラいんだよ」
「チャラくないってー。そういうナオは、彼女出来たの?中3の時に彼女に振られて落ち込んでた以来聞いてないけど」
「あ、兄ちゃん、直斗1学期に彼女出来たんすけど、一瞬で振られて」
「あ、また振られたんだぁ。いつも短命だねぇ。我が弟ながら顔も悪くないし、性格も良いと思うんだけど、何で振られるばっかなんだろー」
…そこにいるモテ男のせいだよっ!
「自分だって長続きしねぇだろうが」
「俺は別れてもすぐ次できるし」
好き勝手喋った兄貴は、食べ終わると自室に戻っていった。俺は変な気を遣い、どっと疲れている。
「兄ちゃん相変わらずおもれー!」
「どこがだよ…」
「カズくんの言ってた通り、笑った顔竹ちゃんにそっくりだったね!」
「だろ?」
「素敵なお兄さんがいて羨ましい。ね、音緒」
「うん、すげぇ良い人だったし、かっこよかった」
「…。」
自分が褒められたわけじゃねぇのに、照れるし嬉しくなる。
「お邪魔しました」
「気をつけて帰れよー」
結局あの後もリビングのテレビで映画観たり、菓子食ったりしたから、俺の部屋に行くことはなかった。
自分の部屋に入った俺は、和馬たちをここに来させなくてよかったと心から思った。だって、すぐ目につく棚に、あの日のラムネの空瓶が置いてあったから。
ーあっぶねぇ。こんなん見られたら阿比留にドン引きされてた。…週末に部屋の片付けするか。
数日後、和馬が家庭の事情で学校を休んでいた日、昼休みに乾が言ってきた。
「カズくんが休むの初めてで、2人の口喧嘩に板挟みになったらどうしようと思ってたけど、平穏に過ごせてびっくり」
「あぁ…」
俺の覇気のない声に乾は心配な顔をする。
「竹ちゃん、大丈夫?お弁当あんま食べてないし、もしかして体調悪い?」
「…うーん、悪りぃ…かも?」
確かに朝からなんか調子が上がらなかったし、授業はいつも以上に集中できなかった。
「ちょっとおでこ触るね」
乾は俺のおでこに手のひらを当てた。
「…熱っ!竹ちゃん、熱あるよ!早く保健室行かなきゃ」
「えっ、あー…分かった」
「頭回ってねぇじゃん。…乾、俺こいつ保健室連れて行って来るから、先生に伝えといて」
「うん、了解」
「ほら、行くぞ」
「え…」
阿比留は俺の腕を持ち、歩き出した。
保健室に着き、熱を測ると38.3°と表示された。
「風邪だと思うけど、念の為病院に行って診断してもらってね」
体温計を受け取った養護の先生はそう言い「少しここで休む?すぐ自宅に帰る?」と問いかけてくる。
「あぁー、ちょい休んでいいっすか?」
「もちろん。こっちのベッド使ってね」
「…ありがとーございます」
「私、担任の先生に連絡してくるから」
重い身体をベッドに乗せ、布団をかけた。
「ふぅー…」
ベッド横の丸椅子に座った阿比留は、養護の先生からもらった冷却シートをおでこに貼ってきた。抵抗する元気もなく、ボーッと天井を見つめる俺。
「じゃ、俺戻るから」
「…うん、ありがと…」
キーンコーンカーンコーン…ー
チャイムの音で目が覚めたら、6限目が終わったタイミングだった。
ーすげぇ寝たな…。でも、まだ身体だりぃ。
「あ、ちょうど起きてる。迎え来てくれたけど、帰れそう?」
カーテンを開けた養護の先生が聞いてくる。
ー迎え?
起き上がり、カーテンから出ると俺の鞄を持った阿比留がいた。
「えっ」
状況が読めないまま靴箱に着き、
「鞄…さんきゅ」
と、阿比留の手から自分の鞄を受け取ろうとしたら
「病人に持たせるわけねぇだろ」
と言われた。
「いや、でも今から家帰るし…」
「家まで送る」
「…は?」
「つーか、歩けんの?誰かからチャリ借りて、後ろ乗るか?」
「歩けるから…なんで、送んなくて大丈夫だから」
「熱あんだから大人しく言う事聞いとけ。…早く帰るぞ」
「…。」
頭がぼーっとして、言い返す言葉が出てこない。
家に着き、玄関の鍵を差す俺に阿比留は聞く。
「家、誰かいんの?」
「いや、この時間はまだ…」
「なら部屋まで連れてく」
「いやっ、いいって」
「いいから」
強引に家の中へ入ってきた阿比留は、俺と2階の部屋に向かう。
「下の冷蔵庫勝手に開けて大丈夫?飲み物取ってくるけど」
「うん、大丈夫。ありがと」
「汗かいてるだろうし、今のうちに着替えとけよ」
阿比留が部屋から出ていき、俺は重い身体を動かし着替え始める。
…言い方は相変わらずだけど、昼休みからずっと優しいな。なんか調子狂う…。
持ってきてくれた飲み物を口に含んで、ゆっくり飲み込んだ。
「…あの瓶捨ててねぇの?」
俺のそばに立ったままの阿比留は、棚に置いたままのラムネの空瓶を見ている。
…あっ、やべぇ。まだ隠す前だった。…うわぁ、まじ終わった…。
しかし、言い訳をする気力も残ってない俺は、弱々しい声で「うん…」とだけ答えた。
そのまま阿比留の反応を確認する前にベッドに寝転んだ俺。
ー熱上がってきた気がする…。
「大丈夫か?」
「…うん。悪りぃ、もう寝るわ。鍵かけずに帰ってもらって大丈夫だから。今日はまじありがと…」
「分かった、お大事に」
…もう限界かも。
力尽きて、阿比留が部屋を出て行くのを見届ける前に、目を閉じようとするぼんやりとした視界に阿比留の顔が近づくのが見えた。
ーちゅ…
目を閉じた瞬間、おでこに何か触れた気がする。
ー…なんか今…あれ、夢…?



