今日から7月、そしてテスト週間が始まった。
教室で授業を受ける俺は、昨日のことが頭から離れない。彼女に振られたことじゃなくて、その後の阿比留の方だ。
あの言葉、あの表情…アイツ一体何が伝えたかったんだよ…。
先生の黒板に書くチョークの音に紛れて、阿比留の咳払いが聞こえた。スルーすればいいのに、何故か阿比留のことを見た俺がいる。
「…。」
キスをされたあの日から俺は少しずつおかしくなっている。いつの間にか阿比留を目で追っていることが多いし、相合傘やフォークダンスで触れた時は妙に恥ずかしくなった。
…え、ちょっと待って。なんかそれって、まるで俺がアイツのこと好きみたいじゃん。いやいや、冗談きついって。
目線を阿比留から右手のシャーペンに戻し、何とも言えないこの気持ちをノートの隅にぐるぐると真っ黒い落書きで誤魔化した。
授業が終わって数分、俺は机の上に伸ばした片腕を枕にして、だらんとしていた。
ぴとっ…
「…ひゃっ!」
いきなり頬に冷たいもんが当たって変な声が出た。
「なんだよ、その声」
そう言ってきたのは阿比留だ。
急いで身体を起こし、阿比留を見たら「ん」とペットボトルを差し出される。
「え、なんで…?」
「さっき自販機に行ったら知らない女子にもらった。俺、コレ好きじゃねーし」
「なにその自慢。モテのお裾分けなんて要らねぇよ!」
「…。」
阿比留は言い返してこず、ペットボトルのキャップを開け、目の前でぐびっと一口飲んだ。
「…やっぱ好きじゃねーわ」
そう言いキャップを閉めると、俺の机に置いたまま自分の席へ戻ってしまった。
「…えっ?」
…いや、どうすんだよコレ。そりゃあ、喉は乾いてるけど…だってコレ、アイツが飲んだよな?普通に口つけたよな?
数秒間ペットボトルを見つめ、迷いながらキャップを開ける。
今、俺が飲んだら…それって…
ゆっくりと口をつけ、ごくりと飲み込んだ。
…間接キスじゃん。
「…。」
つうか俺、冷たいもん飲んだはずなのに…何でこんな身体が熱くなってんだろ。男同士の回し飲みなんて平気なはずなのに。
ペットボトルをおでこに当て、さっきから止まらない激しい鼓動を落ち着かせようとする。
昼休み、売店横のパン専用自販機に1人で買いに行くと本田がいた。
「よっ」
「ごめん、私が買って売切になったからメロンパンもうないよ」
「メロンパンの気分じゃねーから大丈夫」
教室に戻りながら彼女の話になり、別れたことを伝えると本田はデカめの声で反応した。
「え、もう別れたの!?はっや!」
「うん、昨日振られた」
「えーホヤホヤじゃん。ていうか、告られたのにそんなすぐ振られたの?」
「泣ける話だろ?」
「泣けるっていうか、笑えるというか」
「俺も俺だけど、向こうもそんなに好きじゃねーなら告白してくんなって感じだよなぁ」
「うーん、逆にさ、そこまで本気じゃないからこそ言えたのかもよ?」
「ん?どーゆーこと?」
「例えばさ、片想い歴が長くて、好きで好きで仕方ないとするじゃない?そしたら、大きなきっかけがないと簡単に言えないと思うんだよね。想い続けてきた気持ちが報われなかった時を考えると伝えるのが怖くなって言えないパターンもあるし。だから、ちょっと気になるな、付き合えたらラッキーってテンションの方が言いやすいんだと思う」
「それってさ、告ってだめになるより、片想いでも好きでいられる方が幸せってやつ?」
「そう、それ!まぁ、今回はお互い軽い気持ちの段階で別れてよかったじゃん」
「まぁなー。…俺、恋愛向いてねーのかなぁ」
「どうせすぐ新しい恋するって」
新しい恋ねぇ…。
彼女に振られて1週間。毎日の連絡相手がいなくなったぐらいで、大きな変化もなく元のフリー生活に戻っただけだった。
今日は七夕。朝のホームルームでは短冊が配られ、願い事を書く時間が設けられた。周りを見ると、明日からのテスト本番に向けた直近の願いを書く奴もいれば、推しとハグしたい!と切実な願いを書く奴もいた。
俺の今の願い…。
チラッと阿比留を見たが、アイツがどんな願いを書くのか見当もつかない。
「直斗、何書いたん?」
1限目の後、理科室へ移動中に和馬が聞いてくる。
「恋人募集中」
「あはっ、それ願いじゃなくて宣伝じゃん!」
「シンプルで分かりやすいだろ。そういう和馬は何にしたわけ?」
「ウェルカム、ひと夏の恋」
「ぶはっ!何だよそれ、俺よりひでーじゃんか」
「だってそろそろ夏休みだぞ?出会いのチャンス到来だろ!」
「まぁな」
放課後、4人で靴箱に向かうと大きな竹に沢山の短冊が吊るされていた。
「あ、竹ちゃんとカズくんのあったよ」
乾が俺たちの短冊を指差す。
「えーこんな低いとこじゃ叶わねーじゃん」
「いや、首を上げなくても見えるとこにある方が、あの2人フリーなんだって伝わるぞ!」
和馬のポジティブはレベルが違う。
「乾のはどこなん?」
「俺のはあの上のやつ。音緒のも近いね」
竹のてっぺんあたりを確認すると、乾の短冊の近くに綺麗な阿比留の文字が見えた。
“うまくいきますように”
「阿比留のこれは何がうまくいってほしいの?」
俺も気になったことを和馬が聞いた。
「色々」
「え、それめっちゃ便利な書き方じゃんか!主語を好きに変えられる的な」
「本当は主語決まってるんでしょ?」
乾の言葉に阿比留は「さぁ」と素っ気なく答え、靴を履き替えた。
3日後のテスト最終日。最後の答案用紙を提出した俺は、後はなるようにしかならないと清々しい気持ちだった。
「直斗ー、帰るぞー」
「うぃ」
和馬の家に遊びに行くことになった俺、乾、阿比留。校門を出て、ガンガン照りつけてくる太陽の下、2列に並んで歩く。
「暑さのせいで頭おかしくなりそー」
「テメェの頭はずっとおかしいだろ」
「あん?」
斜め前を歩く阿比留の背中を睨む。
「こんな暑い中よく言い合いできるな」
「なんだかんだで音緒と竹ちゃん相性良いもんねー」
「はぁ!?」
「相性クソ悪りぃから」
「そうかなぁ。本当に相性悪かったら言い合いにすらならないと思うけどなぁ。それに、もし嫌いだったら視野にも入れたくないだろうし」
「…。」
「なんかあれだよね、本当は好きで仲良くしたいのに素直になれないカップルみたい」
「あはは!確かにな!」
…俺はいつだって素直だっつーの。仲良くなりたいなんて、これっぽっちも…思って、ない…。
「お邪魔しまーす!」
久しぶりに来た和馬の家。まさか俺のいる時に阿比留が来るなんて思わなかった。
「いらっしゃい」
リビングにいた和馬の母さんが、わざわざ玄関までお出迎えに来てくれた。
「竹下くん、久しぶりねー。あ、乾くんもいる。…!?」
阿比留に気付いた和馬の母さんは、そのイケメンぶりに衝撃を受けている。
「初めまして、阿比留といいます」
「初めまして、和馬の母です。今日は暑い中、ありがとうねぇ」
和馬の部屋に入った俺は、迷うことなく自分の定位置であるベッド横に座った。エアコンのリモコンを押した和馬は机を挟んだ向かいに座る。
「涼しくなるまで少し辛抱してな」
乾は和馬の横に座っている。必然的に空いた俺の隣に阿比留が座ってきた。いつもなら、俺の隣なんて無理とか文句を言いそうなのに。
「かずー!」
一階のリビングから声がする。
「飯取ってくるから、ちょい待ってて」
「カズくん、俺も一緒にいくよ」
「おーさんきゅ」
和馬と乾が部屋を出て行き、2人きりになった俺と阿比留は無言でスマホをいじる。
「…。」
…和馬たち遅くね?
この空気感に耐えられない気持ちと、何かあったのかという心配で立ちあがろうとした瞬間、ぐいっ…、阿比留が俺の手首を掴んだ。
…え?
「…なんだよ」
阿比留の目線がスマホから俺に移る。
「1人にすんなよ」
…ドキッ
…これは、どういう意味で言ってきてんだ?1人にされるのが嫌なのか、もう少し俺と2人がいいのか…前者か。
振り払うことも、馬鹿にすることもせず、立ち上がることをやめた俺。手首を掴んでいた阿比留の手が、少しだけ重なったまま触れている。
…ドキドキドキ…
部屋ん中は涼しくなってきてるはずなのに、身体がどんどん熱くなる。
「お待たせー!」
和馬と乾が戻ってきて、何事もなかったかのようにお互いの手は離れた。
「夏休み、何する?」
飯を食いながら和馬が聞いてくる。
「夏らしいことしたいよね。祭りや花火大会、海もいいし」
「出会いが多そうなのは海だよな!」
「カズくん、俺たちとの思い出より出会いが優先なの?」
「友達との思い作りつつ、出会えたら一石二鳥じゃね!?」
「つうか、コイツと一緒に行動してたら全女子もってかれるぞ」
「やっぱそうなるよなー。仕方ねぇ。普通に夏の思い出作るか」
「食べ終わったら、今月にある花火大会調べよっと」
4人で遊ぶ、つまり夏休み中に阿比留と会うことになる。少し前の俺なら、なんでわざわざ長期休みに会わなきゃならないんだと心底嫌になったし、集まりに行くこと自体拒否していたと思う。だけど今、密かに楽しみだと思っている自分がいる。…何でだ。
1週間後、体育館では終業式が行われていた。窓全開でも全校生徒が集まる体育館は、むちゃくちゃ暑い。首筋に汗が垂れそうで嫌になるレベル。
式が終わり、教室に戻ると本田が声をかけてきた。
「ねぇ、夏休み何人かで遊ばない?彼女いないし、どうせ暇でしょ?」
「一言余計なんだよ。…暇だけど」
「むとーは来るとして、あとは乾と阿比留も来るかな?」
「早めに誘えば来るんじゃね?」
「でも阿比留が来たら敵を増やしそうだよね」
「え、なんで?」
「なんかここ数日、色んな女子に夏休みデートのお誘いされまくってるらしいよ。断ってるみたいだから、男女数人で遊ぶのさえ羨ましがられそうじゃん」
あいつ、まじかよ…。
本田と話している最中、教室に入ってきた阿比留と乾がちょうど視界に入り、そのまま静かに阿比留を目で追っていた。
「…。」
…あぁ、気付きたくねーし、認めたくねぇ。
さっき、デート断ってんの知って安心したのも、無意識に目で追ってんのも、些細なことでドキドキすんのも、理由はシンプル。
…俺が阿比留を好きだから。阿比留に恋してるから。
キスされて意識して好きになるとか、どんだけ単純なんだよ俺。しかも、よりによって相手は、ずっと憎んでたはずの口喧嘩ばっかしてるモテ男。
「…竹?聞いてる?」
「えっ…あーうん、聞いてる」
「また連絡するから」
「はいよー」
ホームルーム中、担任の話を全く聞いていない俺は、頬杖をつき窓の外を見ている。
この俺が男を好きになるとか、そんなことありえる?
「はぁ…」
できるならこの猛暑のせいで頭がおかしくなったことにしたいんだけど。
帰り際、廊下には阿比留を待ち構える女子の軍団がいた。それに気付いてなのか、阿比留は教室から出ようとせず、俺たちの側にくる。
「あの中の1人ぐらい、俺目当てとかない!?」
和馬は気持ちいいほどポジティブだ。
「ねぇよ」
「恋愛に興味ねーとか、ほんと宝の持ち腐れだよなぁ」
「まぁ、音緒の彼女になったら学校中の女子を敵に回しそうで怖いけどね」
「…。」
…誰かを好きになったことあるって前に言ってたけど、基本的に女子に興味ないのが阿比留だ。そんな奴が男の俺を好きになるはずがないし、そもそもアイツは俺のことが嫌いだ。結果の分かりきった恋愛をするほど暇じゃねぇはずなのに…。
「何ボーッとしてんだよ」
阿比留が俺のおでこを人差し指で、ぐいっと押した。
「…やめろ」
指先で触れられただけで、ウザいくらいドキドキする。
…いや俺、コイツのことすげぇ好きじゃん。
教室で授業を受ける俺は、昨日のことが頭から離れない。彼女に振られたことじゃなくて、その後の阿比留の方だ。
あの言葉、あの表情…アイツ一体何が伝えたかったんだよ…。
先生の黒板に書くチョークの音に紛れて、阿比留の咳払いが聞こえた。スルーすればいいのに、何故か阿比留のことを見た俺がいる。
「…。」
キスをされたあの日から俺は少しずつおかしくなっている。いつの間にか阿比留を目で追っていることが多いし、相合傘やフォークダンスで触れた時は妙に恥ずかしくなった。
…え、ちょっと待って。なんかそれって、まるで俺がアイツのこと好きみたいじゃん。いやいや、冗談きついって。
目線を阿比留から右手のシャーペンに戻し、何とも言えないこの気持ちをノートの隅にぐるぐると真っ黒い落書きで誤魔化した。
授業が終わって数分、俺は机の上に伸ばした片腕を枕にして、だらんとしていた。
ぴとっ…
「…ひゃっ!」
いきなり頬に冷たいもんが当たって変な声が出た。
「なんだよ、その声」
そう言ってきたのは阿比留だ。
急いで身体を起こし、阿比留を見たら「ん」とペットボトルを差し出される。
「え、なんで…?」
「さっき自販機に行ったら知らない女子にもらった。俺、コレ好きじゃねーし」
「なにその自慢。モテのお裾分けなんて要らねぇよ!」
「…。」
阿比留は言い返してこず、ペットボトルのキャップを開け、目の前でぐびっと一口飲んだ。
「…やっぱ好きじゃねーわ」
そう言いキャップを閉めると、俺の机に置いたまま自分の席へ戻ってしまった。
「…えっ?」
…いや、どうすんだよコレ。そりゃあ、喉は乾いてるけど…だってコレ、アイツが飲んだよな?普通に口つけたよな?
数秒間ペットボトルを見つめ、迷いながらキャップを開ける。
今、俺が飲んだら…それって…
ゆっくりと口をつけ、ごくりと飲み込んだ。
…間接キスじゃん。
「…。」
つうか俺、冷たいもん飲んだはずなのに…何でこんな身体が熱くなってんだろ。男同士の回し飲みなんて平気なはずなのに。
ペットボトルをおでこに当て、さっきから止まらない激しい鼓動を落ち着かせようとする。
昼休み、売店横のパン専用自販機に1人で買いに行くと本田がいた。
「よっ」
「ごめん、私が買って売切になったからメロンパンもうないよ」
「メロンパンの気分じゃねーから大丈夫」
教室に戻りながら彼女の話になり、別れたことを伝えると本田はデカめの声で反応した。
「え、もう別れたの!?はっや!」
「うん、昨日振られた」
「えーホヤホヤじゃん。ていうか、告られたのにそんなすぐ振られたの?」
「泣ける話だろ?」
「泣けるっていうか、笑えるというか」
「俺も俺だけど、向こうもそんなに好きじゃねーなら告白してくんなって感じだよなぁ」
「うーん、逆にさ、そこまで本気じゃないからこそ言えたのかもよ?」
「ん?どーゆーこと?」
「例えばさ、片想い歴が長くて、好きで好きで仕方ないとするじゃない?そしたら、大きなきっかけがないと簡単に言えないと思うんだよね。想い続けてきた気持ちが報われなかった時を考えると伝えるのが怖くなって言えないパターンもあるし。だから、ちょっと気になるな、付き合えたらラッキーってテンションの方が言いやすいんだと思う」
「それってさ、告ってだめになるより、片想いでも好きでいられる方が幸せってやつ?」
「そう、それ!まぁ、今回はお互い軽い気持ちの段階で別れてよかったじゃん」
「まぁなー。…俺、恋愛向いてねーのかなぁ」
「どうせすぐ新しい恋するって」
新しい恋ねぇ…。
彼女に振られて1週間。毎日の連絡相手がいなくなったぐらいで、大きな変化もなく元のフリー生活に戻っただけだった。
今日は七夕。朝のホームルームでは短冊が配られ、願い事を書く時間が設けられた。周りを見ると、明日からのテスト本番に向けた直近の願いを書く奴もいれば、推しとハグしたい!と切実な願いを書く奴もいた。
俺の今の願い…。
チラッと阿比留を見たが、アイツがどんな願いを書くのか見当もつかない。
「直斗、何書いたん?」
1限目の後、理科室へ移動中に和馬が聞いてくる。
「恋人募集中」
「あはっ、それ願いじゃなくて宣伝じゃん!」
「シンプルで分かりやすいだろ。そういう和馬は何にしたわけ?」
「ウェルカム、ひと夏の恋」
「ぶはっ!何だよそれ、俺よりひでーじゃんか」
「だってそろそろ夏休みだぞ?出会いのチャンス到来だろ!」
「まぁな」
放課後、4人で靴箱に向かうと大きな竹に沢山の短冊が吊るされていた。
「あ、竹ちゃんとカズくんのあったよ」
乾が俺たちの短冊を指差す。
「えーこんな低いとこじゃ叶わねーじゃん」
「いや、首を上げなくても見えるとこにある方が、あの2人フリーなんだって伝わるぞ!」
和馬のポジティブはレベルが違う。
「乾のはどこなん?」
「俺のはあの上のやつ。音緒のも近いね」
竹のてっぺんあたりを確認すると、乾の短冊の近くに綺麗な阿比留の文字が見えた。
“うまくいきますように”
「阿比留のこれは何がうまくいってほしいの?」
俺も気になったことを和馬が聞いた。
「色々」
「え、それめっちゃ便利な書き方じゃんか!主語を好きに変えられる的な」
「本当は主語決まってるんでしょ?」
乾の言葉に阿比留は「さぁ」と素っ気なく答え、靴を履き替えた。
3日後のテスト最終日。最後の答案用紙を提出した俺は、後はなるようにしかならないと清々しい気持ちだった。
「直斗ー、帰るぞー」
「うぃ」
和馬の家に遊びに行くことになった俺、乾、阿比留。校門を出て、ガンガン照りつけてくる太陽の下、2列に並んで歩く。
「暑さのせいで頭おかしくなりそー」
「テメェの頭はずっとおかしいだろ」
「あん?」
斜め前を歩く阿比留の背中を睨む。
「こんな暑い中よく言い合いできるな」
「なんだかんだで音緒と竹ちゃん相性良いもんねー」
「はぁ!?」
「相性クソ悪りぃから」
「そうかなぁ。本当に相性悪かったら言い合いにすらならないと思うけどなぁ。それに、もし嫌いだったら視野にも入れたくないだろうし」
「…。」
「なんかあれだよね、本当は好きで仲良くしたいのに素直になれないカップルみたい」
「あはは!確かにな!」
…俺はいつだって素直だっつーの。仲良くなりたいなんて、これっぽっちも…思って、ない…。
「お邪魔しまーす!」
久しぶりに来た和馬の家。まさか俺のいる時に阿比留が来るなんて思わなかった。
「いらっしゃい」
リビングにいた和馬の母さんが、わざわざ玄関までお出迎えに来てくれた。
「竹下くん、久しぶりねー。あ、乾くんもいる。…!?」
阿比留に気付いた和馬の母さんは、そのイケメンぶりに衝撃を受けている。
「初めまして、阿比留といいます」
「初めまして、和馬の母です。今日は暑い中、ありがとうねぇ」
和馬の部屋に入った俺は、迷うことなく自分の定位置であるベッド横に座った。エアコンのリモコンを押した和馬は机を挟んだ向かいに座る。
「涼しくなるまで少し辛抱してな」
乾は和馬の横に座っている。必然的に空いた俺の隣に阿比留が座ってきた。いつもなら、俺の隣なんて無理とか文句を言いそうなのに。
「かずー!」
一階のリビングから声がする。
「飯取ってくるから、ちょい待ってて」
「カズくん、俺も一緒にいくよ」
「おーさんきゅ」
和馬と乾が部屋を出て行き、2人きりになった俺と阿比留は無言でスマホをいじる。
「…。」
…和馬たち遅くね?
この空気感に耐えられない気持ちと、何かあったのかという心配で立ちあがろうとした瞬間、ぐいっ…、阿比留が俺の手首を掴んだ。
…え?
「…なんだよ」
阿比留の目線がスマホから俺に移る。
「1人にすんなよ」
…ドキッ
…これは、どういう意味で言ってきてんだ?1人にされるのが嫌なのか、もう少し俺と2人がいいのか…前者か。
振り払うことも、馬鹿にすることもせず、立ち上がることをやめた俺。手首を掴んでいた阿比留の手が、少しだけ重なったまま触れている。
…ドキドキドキ…
部屋ん中は涼しくなってきてるはずなのに、身体がどんどん熱くなる。
「お待たせー!」
和馬と乾が戻ってきて、何事もなかったかのようにお互いの手は離れた。
「夏休み、何する?」
飯を食いながら和馬が聞いてくる。
「夏らしいことしたいよね。祭りや花火大会、海もいいし」
「出会いが多そうなのは海だよな!」
「カズくん、俺たちとの思い出より出会いが優先なの?」
「友達との思い作りつつ、出会えたら一石二鳥じゃね!?」
「つうか、コイツと一緒に行動してたら全女子もってかれるぞ」
「やっぱそうなるよなー。仕方ねぇ。普通に夏の思い出作るか」
「食べ終わったら、今月にある花火大会調べよっと」
4人で遊ぶ、つまり夏休み中に阿比留と会うことになる。少し前の俺なら、なんでわざわざ長期休みに会わなきゃならないんだと心底嫌になったし、集まりに行くこと自体拒否していたと思う。だけど今、密かに楽しみだと思っている自分がいる。…何でだ。
1週間後、体育館では終業式が行われていた。窓全開でも全校生徒が集まる体育館は、むちゃくちゃ暑い。首筋に汗が垂れそうで嫌になるレベル。
式が終わり、教室に戻ると本田が声をかけてきた。
「ねぇ、夏休み何人かで遊ばない?彼女いないし、どうせ暇でしょ?」
「一言余計なんだよ。…暇だけど」
「むとーは来るとして、あとは乾と阿比留も来るかな?」
「早めに誘えば来るんじゃね?」
「でも阿比留が来たら敵を増やしそうだよね」
「え、なんで?」
「なんかここ数日、色んな女子に夏休みデートのお誘いされまくってるらしいよ。断ってるみたいだから、男女数人で遊ぶのさえ羨ましがられそうじゃん」
あいつ、まじかよ…。
本田と話している最中、教室に入ってきた阿比留と乾がちょうど視界に入り、そのまま静かに阿比留を目で追っていた。
「…。」
…あぁ、気付きたくねーし、認めたくねぇ。
さっき、デート断ってんの知って安心したのも、無意識に目で追ってんのも、些細なことでドキドキすんのも、理由はシンプル。
…俺が阿比留を好きだから。阿比留に恋してるから。
キスされて意識して好きになるとか、どんだけ単純なんだよ俺。しかも、よりによって相手は、ずっと憎んでたはずの口喧嘩ばっかしてるモテ男。
「…竹?聞いてる?」
「えっ…あーうん、聞いてる」
「また連絡するから」
「はいよー」
ホームルーム中、担任の話を全く聞いていない俺は、頬杖をつき窓の外を見ている。
この俺が男を好きになるとか、そんなことありえる?
「はぁ…」
できるならこの猛暑のせいで頭がおかしくなったことにしたいんだけど。
帰り際、廊下には阿比留を待ち構える女子の軍団がいた。それに気付いてなのか、阿比留は教室から出ようとせず、俺たちの側にくる。
「あの中の1人ぐらい、俺目当てとかない!?」
和馬は気持ちいいほどポジティブだ。
「ねぇよ」
「恋愛に興味ねーとか、ほんと宝の持ち腐れだよなぁ」
「まぁ、音緒の彼女になったら学校中の女子を敵に回しそうで怖いけどね」
「…。」
…誰かを好きになったことあるって前に言ってたけど、基本的に女子に興味ないのが阿比留だ。そんな奴が男の俺を好きになるはずがないし、そもそもアイツは俺のことが嫌いだ。結果の分かりきった恋愛をするほど暇じゃねぇはずなのに…。
「何ボーッとしてんだよ」
阿比留が俺のおでこを人差し指で、ぐいっと押した。
「…やめろ」
指先で触れられただけで、ウザいくらいドキドキする。
…いや俺、コイツのことすげぇ好きじゃん。



