別れさせ屋のアイツは、愛が重い

 12月になり数日。テスト期間中の今、放課後に阿比留と2人きりで会うのは控えている。
 「廊下寒っ。あ、そういや直斗、クリスマス会行くだろ?」
「え?」
移動教室から4人で戻る途中、和馬が聞いてきた。クリスマスまで3週間、誰と過ごすか決め始める時期がきている。
「夏休みにまっつんたちと約束したろ?クリスマスまでに彼女出来なかった奴らでクリスマス会しようって」
「あぁー…したなぁ」
ーすっかり忘れてた。つーか、阿比留とクリスマスのこと何も話してねーけど…
 ぐいっ…、阿比留が後ろから肩を組んできた。
「武藤、悪りぃけど竹下はクリスマスに俺と予定あるから不参加で」
「…っ!?」
「え、そうなん!?おいー、早く言えよー。分かった、まっつんに言っとくわ」
 和馬は、俺たちが2人で過ごすことに深く突っ込んでくることはなく、すんなり受け止めた。

 単純な俺は、クリスマスが死ぬほど待ち遠しくなる。



 1週間後のテスト最終日。全科目を終えた俺は、脳を使い果たし思考停止している。
「はぁーーー疲れたぁーーー」
椅子に座ったまま伸びをしていると、机の上にホットココアの缶が置かれた。
「お疲れ」
阿比留が俺にしか分からない優しい表情で言ってくる。
「…さんきゅ」
 今日は久しぶりに2人で放課後を過ごす。俺の家で昼飯を食って、のんびりするだけだけど。


 帰る前にコンビニに寄った俺と阿比留は、それぞれ食いたいものを選んでいく。
ーあ、おでん…。
レジ前にあるおでんを見ていたら
「寒ぃし、おでんにするか」
と阿比留に言われ、思考がバレバレな上に合わせてもらってばかりで申し訳ない気持ちになった。
「どれ食う?」
「餅巾着と卵は絶対!」
「了解。つゆ多めに入れていい?」
「もちろん」


 誰もいない家に帰り着き、リビングでおでんを食い始めた。
「うめぇー、沁みるー。…そういや、クリスマスどーする?」
「どっか行きてぇとこあんの?」
「うーん、イルミは明日見に行くし、遊園地とかは人多そうだし、とりあえずチキンとケーキは食いたい!阿比留は何か希望ねーの?」
「ねぇよ。竹下と過ごせたら何でもいいし」
…きゅんっ
「…いや、それはずりぃって」
「ずりぃってなんだよ。…じゃあ、あえてゆっくり過ごすか?俺ん家昼間は誰もいねー予定だから、チキンとケーキ食って、ゲームしたりして。どこも行かねー代わりにプレゼント用意すればクリスマスっぽいだろ」
「それ最高」
「じゃあ決まりな」

 阿比留と過ごす初めてのクリスマス。何をしても、どこにいても、特別になるのは間違いない。

 おでんを食い終わり、俺の部屋に移動した。
「暖房効くまでさみーけど…がまっ…」
ーぎゅっ…
エアコンのリモコンを押した俺を後ろから抱きしめた阿比留。
「あったか…」
「…顔見えねぇ」
くるっと阿比留の方へ身体を向け、目が合った瞬間、引き寄せられるように唇が重なった。

 「…ちゅっ…ん…」
息継ぎする暇もないほど激しくなっていくキス。
…あぁ、もっと深く触れ合いてーなぁ。

 「……ぷはっ……はぁ、酸素不足やべぇ」
「息吹き込んでやろーか?」
「やめろ。…つーか、キスしてる時あんま目瞑らねぇよな、阿比留」
「瞑ったら、気持ち良さそうな可愛い顔見れねーじゃん」
「…はぁっ!?んな顔してねーし!」
「無自覚かよ…」
…とんっ…、優しく押され、ベッドサイドに腰掛けた。そんな俺の顎を片手で持ち上げた阿比留は、目の前に立ったまま見つめてくる。
「俺しか知らない顔、もっと見せろって…ちゅ…」
ゆっくりとベッドに押し倒され、首筋や耳にキスをされる。
「…あっ…」
ー…俺、こんな声出るんだ。

 阿比留といると、今まで知らなかった自分の一面を知ることばかりだ。それと同時に、誰も知らない阿比留をたくさん知っていく。
「…竹下…」
 耳元で囁く声は甘く、触れてくる手はめちゃくちゃ優しい。
「離したくねぇ…」
口喧嘩しまくった相手とは思えないほど、素直に甘いことを言ってくる。その甘さが嬉しくて、こっちもつられて柄にもなく甘えてしまう。
「…終業式の日、泊まりたいって言ったら…迷惑?」
「…。」
…あれ、ダメだった?
「…それ、期待していいやつ?」
「え…」
阿比留の問いかけに一気に全身が熱くなる。
 それはつまり、そういうことだよな…?
「…うん」



 翌週の校内では、全校生徒参加の大掃除が行われていた。大きなゴミ袋を持った俺と和馬は、校舎裏のゴミ置き場に向かっている。
「寒ー、マフラー持ってくればよかった」
「同感。来週からもっと寒くなるらしいぞ!クリスマスあたり雪降るかもな」
「冬休み中に雪積もったら作っちゃう?雪だるま」
「いや、そこは雪合戦だろ!まっつんたちと公園でやるしかねーって」
「あはは、俺らは小学生か」
…冬休みかぁ。阿比留とどっか行きてぇ…な…っ
 ふわっ…
突然首にマフラーがかかった。
「…!?」
振り返ると阿比留と乾がいた。首にかけられたマフラーは阿比留の物だ。
「びっくりしたぁ…」
「2人とも寒いのに薄着で行くんだもん。はい、カズくんにはホッカイロ」
「おーさんきゅー!」
「そろそろチャイム鳴るし、運び終わったら自販機であったかいの買おうよ」
「賛成ー!」
 ぐるぐる巻きにしたマフラーから阿比留の匂いがして、顔を埋めたくなる俺は変態なんだろうか。


 「冬休み、4人でどっか行こうぜ!」
教室に戻る途中、ホットミルクティーを飲みながら和馬が提案する。
「いいね!年内?年明け?」
「年明けに一票!」
「投票制かよ」
「直斗は?どっち派!?」
「そりゃ、年明けだろ!」
「だよな!!」
「じゃあ、年明けにしよっか。音緒もそれで大丈夫?」
「うん」
「日にちはどうしようか。家族との予定もあるだろうし」
「俺と直斗は、2日は無理だな。お泊まり会あるし」
「お泊まり?」
「地元の奴の家にみんなで泊まるんだよ」
「へぇ、楽しそうだね」
「だから3日以降なら合わせやすい」
「おっけー、また予定見ておくよ」



 終業式の日。体育館で列に並ぶ俺は、悴む手をズボンのポケットに入れ、斜め上あたりを見ている。
ー今日、校長の話長ぇな。


 「何で短い冬休みに課題出すんだよー」
ホームルームが終わり、廊下に出た和馬は嘆いている。
「年内に終わらせて気持ち良く新年に会おうよ」
「出たよ優等生。俺らだって、そうしたい気持ちは山々なんだよ!な、直斗」
和馬が肩を組んでくる。
「そうだそうだ。終わらせたい気持ちだけは誰にも負けねー」
「よっし!直斗、これからその気持ちを高めるためにカラオケ行くべ!」
「あー、悪りぃ。俺、家帰んないといけなくて」
「え、まじで?イヴに何の用事があんだよー。まさか、女か!?」
「ちげーよ」
「えー。なら乾と阿比留一緒に行こうぜ」
「うん、いいよー」
「俺はパス」
「阿比留も!?」
「仕方ないよ。カズくん、2人で楽しもう」
 こっそり阿比留と目を合わせた。


 和馬たちと別れ、一度家に帰った俺は、昼飯を食った後、少しだけ緊張しながらシャワーを浴びる。
「…。」

 外が薄暗くなってきた頃、リュックを背負い、阿比留の家へ向かう。
 家が近づくにつれ、心臓がバクバクと激しく音を立てる。

 インターホンを押すと、私服姿の阿比留が出てきた。数時間前まで学校で会っていたのに、カッコ良さにきゅんとなってしまう。
「いらっしゃい」
「お邪魔します…」
「寒かったろ。なんかあったかいもん入れるから、先に部屋行っといて」
「りょーかい」


 しばらく部屋で寛いでいたら、玄関のドアが開く音がした。
「あ、母さん帰ってきた」
「まじか。挨拶しねーと」

 リビングに行くと、ベージュのダウンコートを着た阿比留の母さんがいた。
「あ、初めまして。竹下 直斗です。今日はお世話になります!」
「こんばんは。音緒の母です。大したおもてなし出来ないけど、ゆっくりしていってね」
ー今の笑った顔、阿比留にそっくりだな。
「ありがとうございます!」


 「お父さん遅くなるみたいだから、3人で食べましょうか」
ダイニングテーブルに座り、阿比留の母さんの手料理をいただく。
「うわ、美味そう。いただきます!」
「召し上がれ」

 飯を食う間、阿比留の母さんは俺に気を遣って色々話題を振ってくれた。
「竹下くん、大学生のお兄さんがいるのね。仲良い?」
「どうっすかね、悪くはないと思いますけど」
「仲良いじゃん、お互いの文化祭行くとか珍しくね?」
「それは仲良しね。ウチは一人っ子だから、そういう兄弟エピソード聞くの楽しいわ。あ、この子一人っ子で好き勝手生きてきたから、学校でちゃんと集団生活出来てるか今も心配なのよ。大丈夫?浮いたりしてない?」
「全然浮いてないっすよ。馴染んでます、多分」
「多分ってなんだよ」
「あ、でもめっちゃモテてるんで、ある意味目立ってますよ」
「え!?モテてるの!?」
ーこんなかっこいい息子いて、そこ驚くんだ。
「同じ男として悔しいぐらいモテてます」
「えー、知らなかった!ちょっと教えなさいよ」
「なんで母親に言わなきゃいけないんだよ」
「え、じゃあ彼女いたりするの?」
「…いない」
「…。」
…言えるわけねぇよな。俺と付き合ってるなんて…。
「竹下くん、もし音緒に彼女できたらこっそり教えてね」
「あ、はい…」


 「音緒、私たちの寝室に布団置いてるから、竹下くんがお風呂行ってる間に敷いておいてあげて」
「分かった」


 風呂から出て部屋に戻ると、ベッドの隣に敷布団が敷かれていた。
「…風呂お先でした」
「はーい。じゃあ、入ってくるから待っといて」
「うん…」
 とりあえず布団の上に座って、心を落ち着かせる。


 「ふっ、何で正座してんだよ」
風呂から戻ってきた阿比留は、正座で精神統一していた俺を見て軽く笑った。
ーえ、湯上がりの阿比留やべぇ…。
 宿泊研修では見ることのなかった風呂上がり姿に思わず見惚れてしまう。
 想像はしてたけど、想像の何倍以上もダダ漏れる色気…やべーって…。
 「なに?」
そう聞きながら、ガン見してしまっていた俺の隣に座る阿比留。
「何も…」
「部屋の温度大丈夫か?寒かったら温度上がるけど」
「うん、大丈夫」
 返事を聞いた阿比留は、ぐっと顔を近づけてきた。
「…いい匂いする」
「…いや、お前ん家のシャンプーの匂いだから」
「そうだけど、俺とおんなじ匂いすんのやば…」
…ドキッ

 ベッドサイドに座り直した阿比留は「こっちきて」と両手を広げた。
 胸に飛び込み、そのまま重なり合う形で寝転んだ。
「もっとゆっくり来いよ」
「いいだろ、勢い大事」
馬鹿みてーに激しい鼓動は、多分もうバレてる。
「…電気消す?」
「明るいとか無理…」
「女子みてー」
「うるせぇ」
 ヘッドボードに置いていた照明リモコンのボタンを押した。
「暗っ、何も見えねー」
「常夜灯にするか?」
「いや、このままで…」
「まぁ、すぐ目慣れるだろ……ちゅ…」
真っ暗でも唇はズレることなく重なった。ふわっと香るシャンプーの匂いとキスの音に包まれていく。

 「…上脱いで」
お互いに上半身裸になり、暗さに慣れ始めた目に阿比留の引き締まった身体が映る。

…ドクンッ…

ーやっぱ良い身体してんな…。

 抱きしめると肌と肌が直に触れ合い、今までにないぬくもりを感じる。
「やべ…すげぇ幸せ…」
「…俺も」

 俺がどれだけ優しく抱かれたかは、誰にも言えない…いや、教えたくない秘密だ。

 恋を散々邪魔してきた別れさせ屋は、誰よりも深く甘く愛してくれる俺だけの彼氏になった。
 この先、別れるなんて未来は存在しない。