別れさせ屋のアイツは、愛が重い

 振替休日明けの今日は1、2時間目に傘の撤収作業と校内の清掃を行う。
「結構色んな人がSNSにあげてくれてたみたいだよー」
「お天気も良かったし、かなり映えてたもんね」
俺と和馬の横で傘を畳みながら、本田たち女子は文化祭話をしている。
「本当に願いが叶ったって報告もあったらしいよ!」
「え、まじで?やばー」
「もしかして、カップル誕生してたり?」
「あそこで告白したってこと!?人多かったし、公開告白になるから無理じゃない?」
「…。」
ーまさかのカップル誕生してっけど。

 この学校の誰1人、俺があの場所で阿比留に告白されて付き合い始めたなんて、考えもしないと思う。俺だって今だに半信半疑なのに。

 「告白はしてなくても、阿比留に関するお願いした女子多そう」
「確かにね。でもさ、阿比留も阿比留だけど、竹下のお兄さんたちグループ、めっちゃ目立ってなかった!?」
「うんうん、やばかったよね!ねぇ、竹。お兄さんなんか言ってた?」
「え、なにが?」
「なにがじゃなくて、文化祭の感想とかだよ」
「あー、なんか若さをもらえたみてぇなこと言ってたわ。…俺、トイレ行ってくる」

 トイレから出ると、ちょうど阿比留が立っていた。阿比留は乾たちと廊下に飾っていた小さな傘を取り外す作業をしていた。
「あ…、よっ」
「お疲れ」
「そっちもう終わったのか?」
「全部回収したから、みんな教室に戻ったとこ」
「そっか。つーか、トイレ行くんだろ?」
「いや。武藤に聞いたらトイレ行ったって言われたから来ただけ」
「え、俺に会いに来た感じ?」
「うん、話してーことあったし」
「…?」

 2時間目終わりのチャイムが鳴り、俺と阿比留は渡り廊下で話を始めた。
「話ってゆーか、聞きてぇんだけど…」
「なんだよ」
「あのさ、毎日連絡してーし、週末は必ず会いてーし、放課後か昼休みも2人きりの時間がほしいって言ったら…嫌か?」
「えっ…」
 あの恋愛に無関心そうだった阿比留からの予想外の要求に思わず驚いてしまう。
「…逆に聞くけど、毎日連絡したり会ったりして、阿比留は飽きねーの?舞い上がって最初だけそういうことして、徐々に減っていって倦怠期丸わかりみてーになんの嫌なんだけど」
…って、何めんどくせー女子みたいなこと言ってんの。
「飽きる選択肢ねぇんだけど。それにこれでも抑えてるほうだから。…竹下は飽きんの?」
「ばーか…飽きるつもりねーし」
「ふっ、何その可愛い顔」
「えっ、かっ…」
「話終わり。教室戻るぞ」
頭をくしゃくしゃされ、頬が熱くなる。
「…っ」
…あぁー、すげぇ好き。


 放課後、早速阿比留と2人きりになった。みんなが帰った教室でカーテンを閉め、教壇に並んで座った。
「見回りくるから30分ぐらいだな」
「だな。帰りコンビニ寄ろうぜ」
「了解…」
横にぴったりくっつくように座り直した阿比留は、手を繋ぎ指を絡めてくる。

…ドクンッ…

 「竹下…」
ぎゅっ…、俺を優しく抱き寄せた阿比留は「ずっとこうしたかった…」と囁いた。
 その言葉に柄にもなくキュンとなり、抱きしめられる腕から好きが伝わってきて、自分の中の気持ちが溢れ出しそうだ。
「どうしよ…浮かれそう」
「浮かれんのが恋なんだろ?」
「…そうだけど」
「俺にならいくらでも浮かれてろよ…ちゅ…」
 唇は離れず、深くなっていく。
「…んっ…ちゅ…」

 誰か廊下を通るかもしれないという緊張感と今までにない深いキスへの高揚感の狭間で、幸せの渦に溺れそうになる。



 三連休の中日である今日は、阿比留との初デート。電車に乗って紅葉スポットへ行く予定だ。
「うわー、めっちゃ人乗ってんじゃん」
ホームに並ぶ俺と阿比留は、やってきた電車内の人の多さに軽く萎える。
「連休中日だし、仕方ねぇか」

 車内に乗り込み、人の波に乗りながら奥へいく。どの場所に立とうがぎゅうぎゅうで、他人との密着度が高い。
ー少しの間辛抱だな。
 ぐいっ…、阿比留が俺の腰あたりに腕を回し、身体を抱き寄せた。
「…っ!」
「なるべく他のヤツに触れんな」
「……うん」
 付き合い始めて気付いたことがある。阿比留は、独占欲が強めだ。しかもそれをストレートに伝えてくる。


 目的の場所に着くと、赤や黄色の色鮮やかな景色が広がっていた。
「おぉー!めっちゃ色づいてんな!」
「だな」
 周りはカップルや家族がほとんどで、男2人で来ているのは俺たちぐらいだった。
「向こうの人少ねーとこで写真撮るか」
「おう」

 写真を撮った後、紅葉を見ながら散歩を始めた俺たちは、繋いでいない手が歩くたびに触れる距離感で歩いている。
「ここら辺に美味いパフェの店があるらしい。小腹空いたし、行ってみていい?」
「うん」
「パフェ食って、その後どーする?」
「…家でいんじゃね?」
「そだな。どっちの家にする?俺んとこ親いる可能あるけど」
「ウチでいいよ。親たぶんいねぇし」
「さんきゅ。そういや、阿比留ん家初めてだな」


 自分で提案しておきながら、男2人でパフェを食いに来たのは、間違いだったと後悔する。店内は女性グループかカップルばかりで、席に着いた俺はソワソワしていた。
「これ美味そ」
向かいに座る阿比留は何も気にしていない様子だ。
 「決まった?」
「迷ってる」
「どれとどれ?」
「さつまいものか、りんごのか…」
「2つ頼めばいいじゃん」
「え、阿比留は食いたいのねーの?」
「竹下の食いたいのを分け合えればいい」
「…ありがと」
ーいつも俺に合わせてくれるんだよな。

 「お待たせしましたー。さつまいもミックスパフェとりんごスペシャルパフェです。…では、ごゆっくりお過ごしくださーい」
「うまそー!いっただきまーす」
「いただきます」
「……ん!うっま。さつまいもって、こんなに美味いっけ!?」
「どんだけ興奮してんだよ」
「いや、まじ想像超えてきたから。そっちは?美味い?」
「うん、りんごが甘くて美味い。…ほら、食ってみろよ」
生クリームやりんごをすくったスプーンを差し出された。
…え、あーんする感じ?
と周りの目を気にして戸惑う俺に「早く」とさらにスプーンを近づけた阿比留。
…ぱくっ…
「美味い?」
「…うん、美味い…」
「よかった」
優しく微笑んだ阿比留の顔と、口ん中のりんごの甘さで、身体がふわふわしてくる。
…何この幸せな時間。


 阿比留の家へ行く途中、俺は今さら冷静になり始めていた。
 普通に流れで阿比留ん家行くってなったけど、付き合ってる相手の家に初めて行くの地味に緊張すんな。しかも、親いないって言ってたよな?…俺たちは付き合ってて……え、もしかしてそういうことすんの?…阿比留と!?いやいやいや、まだ1週間だし、さすがにねぇって!それに心の準備も身体の準備も何もしてねーよ!?…つーか、どっちが抱くの!?

 「竹下?どうかしたか?」
「えっ、あ、いや…何もねぇよ」
「ふーん。…ここ、俺ん家」
気付けば阿比留の家に着いていた。
 「入って」
「…お邪魔します」
ーこんなに緊張して人ん家に入るのいつ振りだ。

 「飲み物入れてくるから、適当に座ってて」
「…うん」
 招き入れられた阿比留の部屋で、すぐにベッドが目に入ってしまった俺は、邪な気持ちを隠しきれない健全な男子高校生だ。

 「何突っ立ってんだよ」
飲み物を持った阿比留が戻ってきて、改めて身体に力が入る。
「さっきパフェ食ったから大丈夫だと思うけど、もし腹減ったら菓子あるから言って」
「さんきゅ」
 ベッドを背もたれにして座った阿比留は、向かい側に座った俺に
「何でそっちなんだよ。普通横だろ」
と不満そうに言ってくる。
「普通ってなんだよ…」
そう言いつつも、ちゃっかり阿比留の横に移動する俺は、最初から隣に座りたかったのが本音。
 座ったのも束の間、阿比留はすぐさま俺を抱きしめた。一気に阿比留の匂いに包まれて、言葉にできない嬉しさが込み上げる。
「外でデートすんの楽しいけど、触るの我慢出来なくなりそうで困る…」
阿比留の唇が首筋に当たって、脈が早くなる。
「…親…何時に帰ってくんの?」
「帰ってきてほしいの?」
「別に…そういうわけじゃねぇけど…」
「…じゃあ、内緒。つーか、まだ足りない…」
「えっ…うわぁっ…!」
俺を抱き上げベッドに寝転ばせ、覆い被さってきた阿比留。
「……。」
…これは…やっぱ……

 思考を止めるように激しいキスが始まった。
「…ちゅ…んっ…」
 未知なる体験への覚悟を決めた瞬間、阿比留はキスを止め、俺の身体を起き上がらせた。
「…?」
「さすがに今日抱いたりしねぇから安心しろって」
「え…」
「部屋入ってからずっとこわばってんじゃん」
「…そりゃあ…親のいない時間に家に誘われたら…そういうことすんのかなって、多少思うだろ」
ー俺1人馬鹿みてぇにそわそわしてたの恥ず…。
「抱いていいなら、今すぐ抱くけど?」
「…は!?いや、そんな付き合ってまだ1週間ぐれーだし…」
「体目当てで付き合ったわけじゃねーし、早いも遅いもねぇだろ」
「そうだけど…」
「なんだよ、俺に抱かれんの嫌?」
「いっ、嫌じゃねぇよ。ただ、その…抱かれる側の準備が整ってないっつーか…」
ーなに生々しいこと言ってんだよ俺。
「じゃあ、準備出来た時は教えろよ。竹下のタイミングに合わせるから」
「…うん、分かった…」
「勘違いされねぇために言っとくけど、俺は抱きしめて、キスして、竹下の体温を感じられるだけですげぇ幸せだから。その延長線上にやる行為があるだけなの忘れんなよ」
「なんだよそれ、男前発言過ぎんだろ…」

 今までの恋愛で、こんなに真っ直ぐ愛されたことあったか?付き合いたてだから浮かれてるわけじゃなくて、多分何年経ってもおんなじようなこと言ってくれる気がする。

 「阿比留……好き、すげぇ好き」
「…なんだよ、いきなり。…帰したくなくなるから、あんま煽んな」
珍しく照れた顔をした阿比留は、俺の顔を埋めるように抱き寄せた。
 阿比留の心音が聞こえて、自分だけがドキドキしてるわけじゃないと分かって安心する。
…このまま帰りたくねぇ。



 数日後、昼休みに弁当を食い終わり、和馬とスマホを見ていたら本田が話しかけてきた。
「ねぇ、竹」
「んー?」
「今度、家行ってもいい?」
「え、何でだよ」
「お兄さんに会いたいからに決まってんじゃん」
「俺関係ねーじゃん。兄貴と約束しろよ」
「出来ないから竹にお願いしてんの!」
「つーか、会うために家まで来るとかストーカーみたいなことすんなって」
「だって会うチャンスほぼないし、利用できるものはしなきゃ」
「あはは、本田おもしれー!いいじゃん、直斗協力してやれよ」
「俺は彼女以外の女子を家に入れねーの」
「この薄情者めー!」
「誰が薄情者なの?」
教室に戻ってきた乾と阿比留が話に加わる。
「ちょっと聞いてよ!お兄さんに会うために家に入れてってお願いしたら、彼女以外の女子はお断りって言われたんだよっ。ひどくない!?」
「竹ちゃん、意外と誠実だもんね」
「意外は余計」
本田は不貞腐れた顔をしている。
「あのなぁ、好きになんのは勝手だけど、無理して会うのは違うんじゃね?」
「…たしかに。…偶然会えるの待つしかないかぁ。めっちゃ出歩こっと」
切り替えた本田は去っていった。
「なんだよ、あいつ…」
「あはは。つーか、まさか兄ちゃんにいくとはなぁ。ぜってぇ直斗だと思った」
「分かる。竹ちゃんと本田お似合いって言われてるもんね」
「兄ちゃんじゃなくて、直斗にすれば付き合えんのにな」
「それはまた話が別だよ」
「…。」
和馬たちの会話に何も言わない阿比留が逆に怖い。
 「竹下、トイレ行くぞ」
「あっ、おん…」

 トイレに向かわず、階段の踊り場に俺を連れ出した阿比留。
「…そろそろ予鈴鳴るけど……っ!」
…ぎゅうー…
阿比留は何も言わずに強く抱きしめてくる。
「…ちょ、苦しいって…」
「俺の方がお似合いなんだよ、ばーか…」
ボソッと拗ねた言い方をする阿比留があまりに可愛くて、力強く抱きしめ返した。
「んなの当たり前だろ、ばーか」

 好きの延長線上に色んな感情やたくさんの行動がある。その一つ一つを2人で確かめていきたい。