体育祭の余韻に浸る暇もなく、テスト週間が始まった。
放課後、席で帰りの準備をしていると、担任が半分呆れ顔で近付いて来た。
「おい、竹下。提出物まだか?」
「ん?提出物?あのー、俺…その日いました?」
なんかこのやりとり前にもしたような…。
「残念ながらいたよ。また忘れてるな。期限今日までだから、終わったら職員室にな」
「えぇー、猶予くださいよー」
「竹下に猶予与えても結果は同じだろ」
「…。」
ごもっとも…。
提出物のために仕方なく教室に残った俺は、事情を知らない奴から見ればテスト勉強のために残ったやる気のある生徒だろうな。
1人残された空間で、窓を開けた。ふわっと秋の心地良い風に包まれて、穏やかな気持ちになる。
「あー、眠くなりそう。一眠りしてから…」
「何寝ようとしてんだよ、ばーか」
…っ!?
振り向くとドアから阿比留が入ってきていた。
「帰ったんじゃねぇのかよ…」
「そこに鞄置いたままだろーが。馬鹿は頭だけじゃなくて、目も悪りぃのかよ」
「あ?視力2.0で生きてるっつーの。鞄持ったらさっさと失せろ」
…あぁ、また言い合いをしてしまう。こんなやりとりがしたいわけじゃないのに。
席に着き、態度と裏腹な気持ちのまま筆箱からシャーペンを取り出した。
…カダンッ…
「…っ!」
突然、阿比留が隣の机をくっつけてきて、そのまま椅子に座った。
「えっ…何してんだよ」
「テスト勉強」
「…いや、他のとこでしろよ」
「どこでしようが俺の勝手だろ。テメェは、さっさと提出物終わらせろ」
机の上にノートや教科書を広げた阿比留は、本当に勉強をし始めた。
「…。」
隣に阿比留がいることで、無駄にドキドキしてしまい、なかなか進まない。
…そもそも、何で机引っ付けてきたんだよ。新種の嫌がらせか?
ヒューっと風が吹き、俺の机にあったプリントがひらりと床に落ちた。
…あっ
席を立ち、プリントを拾おうとしゃがんだら、先にプリントを手にしたのは阿比留だった。
「…俺がいたら邪魔?」
聞いてきたその表情の中に、ほんの少しだけ不安があるように見える。
「…邪魔、じゃねぇけど…」
「けど何?」
「…その…」
言葉に詰まる俺をじっと見つめる阿比留は、1秒たりとも視線を逸らさない。
ーこいつって、こんなに人のこと真っ直ぐ見る奴だっけ…。
「…集中できない…というか…」
「集中できねーぐらい目障りってこと?」
「違うっ!…そんなじゃねーから…」
…何をどう伝えればいいんだ。まだここに居てほしいって?でもドキドキするから集中できないって?…んなこと言えるわけねぇじゃん。
「…ん」
頭にプリントを当てられ手に持つと、阿比留は席に戻り、教科書を片付け始めた。
「提出間に合わなかったらいけねーし、帰るわ」
鞄を持ち、ドアに向かう阿比留。
「あ…」
はぁ…俺何やってんだろ。意識し過ぎて、嫌な気持ちにさせるとか、めっちゃ馬鹿じゃん。俺、ずっとこうやって後悔ばっかすんのかな。相手が男だから、俺に冷たいから、好きバレしたくねーから、かっこ悪りぃから…そんなくだらねぇプライドのせいで、関係を深めるチャンスさえ逃すかもしれない。…そんなの嫌だ。
「阿比留っ…!」
「なに?」
「早く終わらせたいから…手伝ってほしい…」
「…わかった」
席に戻った阿比留は、膝と膝が触れるくらいに椅子も近づけてきて座った。
誰も居ない教室で2人、言い合うこともせず、穏やかに時間が流れた。
「…よし、終わった。ありがとな」
「別に」
「職員室行くけど…先帰る?」
「この流れで先に帰るはねーだろ。一緒に行く」
「…さんきゅ」
こんな些細なことで舞い上がりそうになる。俺のこと嫌いじゃないんだって嬉しくなる。
テスト最終日。ホームルームが終わり、和馬と教室を出ようとしていた。
「やっと解放されたぁー」
「赤点危ういのがあるけど、一旦忘れよっと」
「俺も多分赤点あるわ」
「直斗となら補習も楽しいからいいか。じゃ、カラオケでパァーと歌いまくろうぜ!」
「カラオケ行くの?私も行きたいかも」
本田が後ろから話に加わってきた。
「奢らねーよ?」
「そんな図々しい女じゃありませーん」
3人でカラオケの部屋に入った。
「平日だし、空いててよかったな。本田、ブレザーかけとくけど」
「え、かけてくれんの?優しー」
「褒めても何も出ねーから」
「そんな下心ないわ!」
「とりあえず、腹減ったしなんか頼むか。本田、何食いたい?」
「ジャンク系!」
曲を選ぶ本田は、俺たちに言ってくる。
「竹もむとーも優しくて、ノリも良くて、顔も悪くないのに、何でモテないんだろうね」
「こっちが聞きてぇよ」
「竹は高校入って一瞬とはいえ彼女いたけど、むとーはずっといないの?」
「中3の夏からいない」
「へぇ。2人中学一緒だから、お互いの元カノは分かるんだよね?」
「もちろん、元カノも片思いの相手も何でも知ってる。だから、直斗の好みは把握済み。ま、この前みたいに意外な人と付き合うパターンもあるけど」
「あれは相手というか、きっかけが意外だっただけだろ。武藤は1人の子を長くって感じだよな」
「むとー、一途なんだぁ」
「1回好きになったら、すぐに飽きないのは普通じゃね?」
「わぁ、イケメン発言!」
「和馬くん、惚れちゃうー」
「竹も見習いなよ」
「俺も一途だからな?振られるから仕方なく短くなってるだけで」
「他に好きな人出来て振られるパターン多いよな」
あのモテ男のせいでな。
「あー、なんかそんなこと前に言ってたね。振られた時って、引き留めないの?」
「え…いや、他に好きな奴いるって言われたら引き留めても無駄だろ」
「いくら好きな人出来たって言われても、本当に好きだったら1回ぐらい粘るでしょ」
「俺は納得してなかったら、別れたくねーって駄々こねるけど、直斗はそういうタイプじゃねぇよな。すんなり身を引くし、いつも」
「それって、引き留めたいほど本気じゃなかったか、すがるなんてかっこ悪いと思ってる男のプライドだよね。あ、これにしよーっと」
鋭い意見を言った本田は、流行りのアイドルソングをノリノリで歌い始めた。和馬もオタク並みの合いの手を始める。
どの彼女の事もちゃんと好きだった。振られた後はすげぇ落ち込んだし、戻ってきてくれるならやり直す気でもいた。本田の言うとおり、俺は好きな気持ちよりもプライドが勝ってしまうのかもしれない。だから今だって、阿比留に上手く接することが出来ない。
「直斗!次、お前の番だぞ」
「はいよ」
「歌い過ぎて喉枯れそうー」
「今夜喉のケアしっかりしねーと」
「アーティストか」
カラオケを出て歩いていると「ナオー!」と聞き覚えのある声がした。周りを確認すると、手をヒラヒラさせているカラーサングラスをかけた兄貴がいた。
「誰?」
本田の問いかけに俺ではなく和馬が答える。
「直斗の兄ちゃん」
「えっ!?」
兄貴は側に来て、いつもの調子で絡んでくる。
「ナオとかずまんが女の子連れてるー。え、もしかしてどっちかの彼女?」
「違ぇよ」
「そっかぁ。初めましてー、直斗の兄でーす」
「あっ、初めまして、本田です」
「本田ちゃんね、可愛いからもうインプットしちゃった」
「…。」
あまりのチャラさに本田が言葉失ってんじゃねーか。
「そういえば、かずまん今度の大学祭来てくれるんだよね?」
「はい、直斗と行かせてもらいます!」
「ありがと!本田ちゃんも良かったらお友達と来てねー」
本田はとりあえず笑みを浮かべ、軽く会釈した。
「あ、今日友達と食べて帰るからご飯要らないって母さんに伝えといて」
「自分で連絡しろよ」
「いいじゃーん、もう帰るんでしょ?」
「そうだけど」
「よろしく。じゃあ、俺行くねー、おつかれー」
「お疲れっす!」
去って行く兄貴の後ろ姿を見ている本田が小さな声で興奮気味に喋りだす。
「やば!あの見た目どタイプなんだけど!え、あんなお兄さんいるなら早く教えてよ」
バシバシと俺の肩を叩いてくる。
「分かる!兄ちゃんかっけーよな!」
「はぁ?あんなチャラい奴のどこがいんだよ」
「お兄さん、彼女いるの?」
「多分いねぇけど…」
「じゃあ、私にもチャンスありじゃない!?」
「ねーよ、ゼロだよっ!」
「ひどっ!なんで決めつけんのよ」
「大学生が高1の女相手にするわけねーだろ。それにいくらチャラい兄貴でも、俺の女友達や彼女には手出せねーから」
「本田だからダメというより、世間体や直斗のことをちゃんと考えられる人だもんな。俺らより断然頭良いし」
「あの見た目で、実は常識人っていうのがギャップ萌えなんだけど」
「おい、マジでやめとけって」
テンションの上がる本田の隣で、俺は完全に呆れている。
翌日の教室では、来月にある文化祭に向けた話し合いが行われていた。文化祭担当のクラスメイト2人が教壇で進行する。
「3年は外で模擬店、2年は教室で飲食または体験や展示、1年は体験や展示をすることになっています。この教室ではなく、多目的室や他の教室を使用することも申請が通れば可能です。とりあえず今日は、何をするかの候補を決めたいと思います。ちなみに、万が一他のクラスと被ったらジャンケンで決めるらしい」
「やりたいことある人は、挙手お願いします」
「はいはーい!」
勢いよく手を上げたのは、みんなの予想通り和馬だ。
「武藤、どーぞ」
「アンブレラスカイの展示がしたい!!」
「アンブレラスカイ?」
「こういう色んな色の傘を外に吊るして展示するやつ!」
和馬はスマホ画面を見せながら勝手にプレゼンを始めた。
「具体的にどこに吊るすかは決めてねーけど、これならもし雨が降っても外で展示出来るし、終わった後の傘は他の事にも活用できる。そして何より、当日は異常がないかの点検のみでいけるから自由時間多め!!」
「なるほど。色んな人に見てもらえるし、良いかもな」
「予算と場所がどうなるかにもよるけど、候補に残しておこう」
その後も色々と意見が出され、いくつか候補を残して話し合いは終了した。
昼休み、4人で屋上に続く階段の踊り場で弁当を食いながら文化祭の話をしていた。
「カズくんの案、通るといいね」
「いつの間にあんなの考えてたんだよ」
「前にテレビで見たことあって、すっげー綺麗だったから、いつかやりたいと思ってたんだよ。持ち手の部分に願いの短冊つけたり、傘の下で願い事したら叶うとかしたら、ロマンチックでなんか良くね?」
「おぉ、文化祭っぽいね」
「高校初めての文化祭だし、楽しめねーとな!…俺、トイレ行ってくる」
「俺も行くー」
和馬と乾がトイレへ行き、阿比留と2人になった俺は、緊張した面持ちで口を開いた。
「あのさ…」
阿比留が顔を俺に向け、じっと見てくる。
「俺もう、元カノの件根に持ってねーから。オメェが俺を何で気に食わねぇのか知らねーけど…これからは普通に仲良く出来たらって思ってる…」
改めて言うことじゃないかもしれないけど、それでもちゃんと伝えたいと思った。普段の学校生活も、文化祭準備も、文化祭当日も、阿比留と楽しく過ごせたら、それだけで十分幸せだと思うから。
「手出して」
阿比留に言われ右手を出すと、ぎゅっと握手をされた。
「…っ!」
「仲直りの握手。…この先ずっと、言い合うの禁止な」
「うん…約束する」
俺の言葉に阿比留は、ふわっと笑みを浮かべた。初めて見るその笑顔に心臓がぎゅっとなる。
楽しく過ごせたら十分って思ってたけど、やっぱそれ以上を望んじゃいそうだ。
放課後、席で帰りの準備をしていると、担任が半分呆れ顔で近付いて来た。
「おい、竹下。提出物まだか?」
「ん?提出物?あのー、俺…その日いました?」
なんかこのやりとり前にもしたような…。
「残念ながらいたよ。また忘れてるな。期限今日までだから、終わったら職員室にな」
「えぇー、猶予くださいよー」
「竹下に猶予与えても結果は同じだろ」
「…。」
ごもっとも…。
提出物のために仕方なく教室に残った俺は、事情を知らない奴から見ればテスト勉強のために残ったやる気のある生徒だろうな。
1人残された空間で、窓を開けた。ふわっと秋の心地良い風に包まれて、穏やかな気持ちになる。
「あー、眠くなりそう。一眠りしてから…」
「何寝ようとしてんだよ、ばーか」
…っ!?
振り向くとドアから阿比留が入ってきていた。
「帰ったんじゃねぇのかよ…」
「そこに鞄置いたままだろーが。馬鹿は頭だけじゃなくて、目も悪りぃのかよ」
「あ?視力2.0で生きてるっつーの。鞄持ったらさっさと失せろ」
…あぁ、また言い合いをしてしまう。こんなやりとりがしたいわけじゃないのに。
席に着き、態度と裏腹な気持ちのまま筆箱からシャーペンを取り出した。
…カダンッ…
「…っ!」
突然、阿比留が隣の机をくっつけてきて、そのまま椅子に座った。
「えっ…何してんだよ」
「テスト勉強」
「…いや、他のとこでしろよ」
「どこでしようが俺の勝手だろ。テメェは、さっさと提出物終わらせろ」
机の上にノートや教科書を広げた阿比留は、本当に勉強をし始めた。
「…。」
隣に阿比留がいることで、無駄にドキドキしてしまい、なかなか進まない。
…そもそも、何で机引っ付けてきたんだよ。新種の嫌がらせか?
ヒューっと風が吹き、俺の机にあったプリントがひらりと床に落ちた。
…あっ
席を立ち、プリントを拾おうとしゃがんだら、先にプリントを手にしたのは阿比留だった。
「…俺がいたら邪魔?」
聞いてきたその表情の中に、ほんの少しだけ不安があるように見える。
「…邪魔、じゃねぇけど…」
「けど何?」
「…その…」
言葉に詰まる俺をじっと見つめる阿比留は、1秒たりとも視線を逸らさない。
ーこいつって、こんなに人のこと真っ直ぐ見る奴だっけ…。
「…集中できない…というか…」
「集中できねーぐらい目障りってこと?」
「違うっ!…そんなじゃねーから…」
…何をどう伝えればいいんだ。まだここに居てほしいって?でもドキドキするから集中できないって?…んなこと言えるわけねぇじゃん。
「…ん」
頭にプリントを当てられ手に持つと、阿比留は席に戻り、教科書を片付け始めた。
「提出間に合わなかったらいけねーし、帰るわ」
鞄を持ち、ドアに向かう阿比留。
「あ…」
はぁ…俺何やってんだろ。意識し過ぎて、嫌な気持ちにさせるとか、めっちゃ馬鹿じゃん。俺、ずっとこうやって後悔ばっかすんのかな。相手が男だから、俺に冷たいから、好きバレしたくねーから、かっこ悪りぃから…そんなくだらねぇプライドのせいで、関係を深めるチャンスさえ逃すかもしれない。…そんなの嫌だ。
「阿比留っ…!」
「なに?」
「早く終わらせたいから…手伝ってほしい…」
「…わかった」
席に戻った阿比留は、膝と膝が触れるくらいに椅子も近づけてきて座った。
誰も居ない教室で2人、言い合うこともせず、穏やかに時間が流れた。
「…よし、終わった。ありがとな」
「別に」
「職員室行くけど…先帰る?」
「この流れで先に帰るはねーだろ。一緒に行く」
「…さんきゅ」
こんな些細なことで舞い上がりそうになる。俺のこと嫌いじゃないんだって嬉しくなる。
テスト最終日。ホームルームが終わり、和馬と教室を出ようとしていた。
「やっと解放されたぁー」
「赤点危ういのがあるけど、一旦忘れよっと」
「俺も多分赤点あるわ」
「直斗となら補習も楽しいからいいか。じゃ、カラオケでパァーと歌いまくろうぜ!」
「カラオケ行くの?私も行きたいかも」
本田が後ろから話に加わってきた。
「奢らねーよ?」
「そんな図々しい女じゃありませーん」
3人でカラオケの部屋に入った。
「平日だし、空いててよかったな。本田、ブレザーかけとくけど」
「え、かけてくれんの?優しー」
「褒めても何も出ねーから」
「そんな下心ないわ!」
「とりあえず、腹減ったしなんか頼むか。本田、何食いたい?」
「ジャンク系!」
曲を選ぶ本田は、俺たちに言ってくる。
「竹もむとーも優しくて、ノリも良くて、顔も悪くないのに、何でモテないんだろうね」
「こっちが聞きてぇよ」
「竹は高校入って一瞬とはいえ彼女いたけど、むとーはずっといないの?」
「中3の夏からいない」
「へぇ。2人中学一緒だから、お互いの元カノは分かるんだよね?」
「もちろん、元カノも片思いの相手も何でも知ってる。だから、直斗の好みは把握済み。ま、この前みたいに意外な人と付き合うパターンもあるけど」
「あれは相手というか、きっかけが意外だっただけだろ。武藤は1人の子を長くって感じだよな」
「むとー、一途なんだぁ」
「1回好きになったら、すぐに飽きないのは普通じゃね?」
「わぁ、イケメン発言!」
「和馬くん、惚れちゃうー」
「竹も見習いなよ」
「俺も一途だからな?振られるから仕方なく短くなってるだけで」
「他に好きな人出来て振られるパターン多いよな」
あのモテ男のせいでな。
「あー、なんかそんなこと前に言ってたね。振られた時って、引き留めないの?」
「え…いや、他に好きな奴いるって言われたら引き留めても無駄だろ」
「いくら好きな人出来たって言われても、本当に好きだったら1回ぐらい粘るでしょ」
「俺は納得してなかったら、別れたくねーって駄々こねるけど、直斗はそういうタイプじゃねぇよな。すんなり身を引くし、いつも」
「それって、引き留めたいほど本気じゃなかったか、すがるなんてかっこ悪いと思ってる男のプライドだよね。あ、これにしよーっと」
鋭い意見を言った本田は、流行りのアイドルソングをノリノリで歌い始めた。和馬もオタク並みの合いの手を始める。
どの彼女の事もちゃんと好きだった。振られた後はすげぇ落ち込んだし、戻ってきてくれるならやり直す気でもいた。本田の言うとおり、俺は好きな気持ちよりもプライドが勝ってしまうのかもしれない。だから今だって、阿比留に上手く接することが出来ない。
「直斗!次、お前の番だぞ」
「はいよ」
「歌い過ぎて喉枯れそうー」
「今夜喉のケアしっかりしねーと」
「アーティストか」
カラオケを出て歩いていると「ナオー!」と聞き覚えのある声がした。周りを確認すると、手をヒラヒラさせているカラーサングラスをかけた兄貴がいた。
「誰?」
本田の問いかけに俺ではなく和馬が答える。
「直斗の兄ちゃん」
「えっ!?」
兄貴は側に来て、いつもの調子で絡んでくる。
「ナオとかずまんが女の子連れてるー。え、もしかしてどっちかの彼女?」
「違ぇよ」
「そっかぁ。初めましてー、直斗の兄でーす」
「あっ、初めまして、本田です」
「本田ちゃんね、可愛いからもうインプットしちゃった」
「…。」
あまりのチャラさに本田が言葉失ってんじゃねーか。
「そういえば、かずまん今度の大学祭来てくれるんだよね?」
「はい、直斗と行かせてもらいます!」
「ありがと!本田ちゃんも良かったらお友達と来てねー」
本田はとりあえず笑みを浮かべ、軽く会釈した。
「あ、今日友達と食べて帰るからご飯要らないって母さんに伝えといて」
「自分で連絡しろよ」
「いいじゃーん、もう帰るんでしょ?」
「そうだけど」
「よろしく。じゃあ、俺行くねー、おつかれー」
「お疲れっす!」
去って行く兄貴の後ろ姿を見ている本田が小さな声で興奮気味に喋りだす。
「やば!あの見た目どタイプなんだけど!え、あんなお兄さんいるなら早く教えてよ」
バシバシと俺の肩を叩いてくる。
「分かる!兄ちゃんかっけーよな!」
「はぁ?あんなチャラい奴のどこがいんだよ」
「お兄さん、彼女いるの?」
「多分いねぇけど…」
「じゃあ、私にもチャンスありじゃない!?」
「ねーよ、ゼロだよっ!」
「ひどっ!なんで決めつけんのよ」
「大学生が高1の女相手にするわけねーだろ。それにいくらチャラい兄貴でも、俺の女友達や彼女には手出せねーから」
「本田だからダメというより、世間体や直斗のことをちゃんと考えられる人だもんな。俺らより断然頭良いし」
「あの見た目で、実は常識人っていうのがギャップ萌えなんだけど」
「おい、マジでやめとけって」
テンションの上がる本田の隣で、俺は完全に呆れている。
翌日の教室では、来月にある文化祭に向けた話し合いが行われていた。文化祭担当のクラスメイト2人が教壇で進行する。
「3年は外で模擬店、2年は教室で飲食または体験や展示、1年は体験や展示をすることになっています。この教室ではなく、多目的室や他の教室を使用することも申請が通れば可能です。とりあえず今日は、何をするかの候補を決めたいと思います。ちなみに、万が一他のクラスと被ったらジャンケンで決めるらしい」
「やりたいことある人は、挙手お願いします」
「はいはーい!」
勢いよく手を上げたのは、みんなの予想通り和馬だ。
「武藤、どーぞ」
「アンブレラスカイの展示がしたい!!」
「アンブレラスカイ?」
「こういう色んな色の傘を外に吊るして展示するやつ!」
和馬はスマホ画面を見せながら勝手にプレゼンを始めた。
「具体的にどこに吊るすかは決めてねーけど、これならもし雨が降っても外で展示出来るし、終わった後の傘は他の事にも活用できる。そして何より、当日は異常がないかの点検のみでいけるから自由時間多め!!」
「なるほど。色んな人に見てもらえるし、良いかもな」
「予算と場所がどうなるかにもよるけど、候補に残しておこう」
その後も色々と意見が出され、いくつか候補を残して話し合いは終了した。
昼休み、4人で屋上に続く階段の踊り場で弁当を食いながら文化祭の話をしていた。
「カズくんの案、通るといいね」
「いつの間にあんなの考えてたんだよ」
「前にテレビで見たことあって、すっげー綺麗だったから、いつかやりたいと思ってたんだよ。持ち手の部分に願いの短冊つけたり、傘の下で願い事したら叶うとかしたら、ロマンチックでなんか良くね?」
「おぉ、文化祭っぽいね」
「高校初めての文化祭だし、楽しめねーとな!…俺、トイレ行ってくる」
「俺も行くー」
和馬と乾がトイレへ行き、阿比留と2人になった俺は、緊張した面持ちで口を開いた。
「あのさ…」
阿比留が顔を俺に向け、じっと見てくる。
「俺もう、元カノの件根に持ってねーから。オメェが俺を何で気に食わねぇのか知らねーけど…これからは普通に仲良く出来たらって思ってる…」
改めて言うことじゃないかもしれないけど、それでもちゃんと伝えたいと思った。普段の学校生活も、文化祭準備も、文化祭当日も、阿比留と楽しく過ごせたら、それだけで十分幸せだと思うから。
「手出して」
阿比留に言われ右手を出すと、ぎゅっと握手をされた。
「…っ!」
「仲直りの握手。…この先ずっと、言い合うの禁止な」
「うん…約束する」
俺の言葉に阿比留は、ふわっと笑みを浮かべた。初めて見るその笑顔に心臓がぎゅっとなる。
楽しく過ごせたら十分って思ってたけど、やっぱそれ以上を望んじゃいそうだ。



