お詫びチートではじめる異世界農園暮らし~【製作】&【開墾】スキルで好きに開拓したら、精霊姫やモンスターが住まう最強の土地ができました~

 神樹の実の果汁を発酵させて作ったりんご酒──神樹酒という名前にした──は、なんと一週間ほどで完成した。

 アルレーネ様は、完成まで一ヶ月くらいかかると話していたんだけど、精霊さんたちがこっそり協力してくれたのかもしれない。

 もしかして「酵母菌の精霊」がいるのかな?

 そんな神樹酒だけど、まずアルレーネさんを通じて森に住む動物たちにふるまうことになった。

 神樹の里はステンの森の恵みで成り立っている部分がある。

 野菜も元は森から取ってきた種や苗からはじまったものだし、飲料水も森から引いてきている。

 なので、まずは森の生き物たちに恩返しをしたかったのだ。

 里のみんなで楽しむのは第二弾からということにした。

 そして、一樽分の神樹酒をアルレーネ様を通じて森の皆に提供した次の日。

 ちょっとした問題が里で起きていた。


「雪、やまねぇなぁ……」


 ログハウスのリビングで、窓の外を眺めながら小さくため息をついたのはトトさんだ。

 本来であれば、彼女は今日、神樹の里を出発する予定だった。

 だけど、外は雪──というより、一メートル先もよく見えないくらいの猛吹雪だった。

 とはいえ、トトさんにはあまり焦っている雰囲気はない。

 町から町へ商品を運んで稼ぐ彼女のことだから、もっと慌てているかと思いきや、意外とのんびりしている。


「馬車に荷を積んだまま立ち往生……みたいな状況だったら生きた心地がしないけど、そうじゃないからな」


 なんて、トトさんは笑う。

 なるほど。

 里に物資を運び終えた状況なので、荷も心も軽いというわけか。


「でも、こんなに吹雪くなんて思いませんでしたよ」


 トトさんの隣で、僕も真っ白になっている農園を眺める。


「……?」


 きょとんとした顔をするトトさんだったけど、すぐにハッとする。


「ああ、そっか。カズマさんは初めての冬だっけ。ステン地方じゃ、こういう天気は珍しくねぇんだ。明日には嘘みたいにピカピカ晴れるぜ」
「あ、そうなんですね。だったら、明日には出発できそうですね」
「まぁ、そうだけど、もうちょっと足止めされてもかまわないけどな~」
「……え? そうなんですか?」
「ああ。もう一回ロテンブロに入りたい」
「あはは、流石は露天風呂好き」


 トトさんは物資を届けに来ると、だいたい2週間くらい里に滞在する。

 その間、彼女は毎日欠かさず露天風呂に入っているのだ。


「じゃあ、明日、出発前に入っていきます?」
「そうしようかな。せっかくだし、カズマさんも一緒に──」
「入りませんってば」


 これも毎回お決まりのやり取り。

 トトさんはなんでこう、僕を混浴に誘おうとするのだろう。

 僕は窓の傍を離れ、壁にかけてあった厚手のコートを羽織る。


「それじゃあ、見回りをしてくるのでごゆっくり」
「うん、ありがとう」


 いつも見回りはハクやオークさんに任せているけど、今日は自分の目でも確認しておきたいんだよね。

 柵が壊れてたりしたら、すぐにでも修理しないとだし。

 リビングを出て、裏庭へと向かう。

 神樹は特に問題なさそうだ。

 葉が激しくなびいているだけで、枝が折れたり柵が壊れたりはしていない。

 アルレーネ様の姿が見えないけど、森からまだ戻ってきてないのかな?

 神樹酒を配りに出発したのは昨日だったけど。


「……しかし、すんごい吹雪だな」


 縁側の窓には大粒の雪がバシバシ叩きつけられている。

 時折、風が唸りを上げて、ログハウスが小さく震える。

 ……これ、倒壊しないよね?

 一瞬不安になったけど、女神様が用意してくれた家だし、大丈夫だろう。

 本当に心配なのは、僕が作った住居のほうだ。

 完全にハンドメイドだし、狼小屋や住居は大丈夫だろうか。


「よし、そっちにも足を伸ばすか」


 足早に玄関に向かい、靴を履いていると心配したゴレムたちが「ごむむ?(一緒に行こうか?)」と声をかけてくれた。

 だけど丁重に断る。

 だってゴレムって体が小さいし、吹雪でふっとんじゃいそうだもん。

 気をつけないと僕もそうなる可能性はあるけど。

 ゆっくりと玄関のドアを開けた。

 瞬間、凍てつく風が僕の顔を叩き、白い壁のような吹雪が視界を奪う。

 吐いた息が白く濁ると同時に、はるか遠くへと流されていく。

 こ、これはきつい。

 だけど躊躇してはいられない。

 コートのフードを深くかぶり、外へ飛び出す。

 そしてメインストリートに足を踏み入れた瞬間だった。

 容赦なく叩きつけていた吹雪が、唐突に弱まった。

 ──といっても、天気が回復したというわけではない。

 僕のまわりだけ、まるで透明なヴェールに包まれているかのように吹雪がピタリと止まっていた。


「な、なんだこれ?」


 もしかして開墾スキルか何かの影響かな?

 だけど、何も発動させていないし。


「……ん?」


 不思議に思っていると、ふわりと風の精霊さんが目の前に飛んできた。

 あ、わかった。

 風の精霊さんが守ってくれているんだ。


「ありがとう。助かるよ」


 お礼を言うと、精霊さんは僕の周りでくるくるとダンスを踊りはじめる。

 そんな風の精霊さんと一緒に向かったのは、狼小屋だ。

 屋根に大量の雪が積もっているけど、外壁には傷一つついていない。

 それを見てホッと一安心。

 ていうか、窓ガラスにも傷ひとつついてないけど、なんでこんなに頑丈なんだろう?

 中に入ってみると、巨大な狼たちがのんびりとくつろいでいた。


「……む? カズマではないか」
「あれ? お屋形様?」
「おはようみんな」


 横になっていたハクとヒサシが、首だけをあげてこちらを見た。

 外の吹雪がウソみたいに思えるのんびり感だな。

 ハクが大あくびしながら尋ねてくる。


「あふぁ……朝からどうしたのだ?」
「すごい吹雪だから、建物は大丈夫かなって」
「え、吹雪? ……あっ、本当だ!」


 ヒサシが窓の外を見て驚いた。

 どうやら吹雪いていることすら気づいていなかった様子。

 でも、確かに室内にいたら風が吹いていることすらわからないな。

 ログハウスよりもしっかりしているけど、なんでだろう。

 風の精霊さんが守ってくれてる、とか?


「だけど、これじゃあ外に出られないね……」


 ヒサシが悲しそうに「くうん」と鳴く。


「走りたくてウズウズしてる?」
「うん! すでに爆発しそう! 部屋の中で走りまわっちゃうかも!」
「や、それはやめてね?」


 吹雪でびくともしないから、ヒサシが走り回ってもなんともないだろうけど。

 明日には天気が良くなるみたいだからと落ち着いてもらい、他の住居の見回りを続けることに。

 狼小屋を出たとき、ハクが声をかけてきた。


「見回りに行くなら我も一緒にいくぞ」
「あ、本当? 助かるよ」


 ハクの背中に乗って毛の中にうずくまったら寒さも和らぎそうだし。

 ……もふもふしたいだけじゃないからね?

 それから、ハクの背に乗って住居区画を見て回ったんだけど、どの建物も無傷で、住民たちも室内でのんびり過ごしているようだった。

 今後寒さも厳しくなることを考え、制作スキルで作った【薪ストーブ】を各住居に設置することにした。

 これは潤沢に入手できるようになった【鉄鉱石】を3つ使って作ることができるストーブで、【薪】ひとつで1時間ほど暖かさが続く。

 あとは、外に出なくて済むように、貯蔵庫から干し肉などの保存食を運んでくることにした。

 これだけあったら、数日は外に出でなくても余裕で過ごせるだろう。


「ありがとうございます、お屋形様」


 住居を出ようとしたとき、集まってきたオークさんが深々と頭をさげた。


「ですが、何かあったらいつでもお声掛けください。猛吹雪の中だろうと、すぐに駆けつけますので」
「うん、わかったよ」


 そういう事態にはならないほうがいいけど、実に頼もしい住民たちだ。

 そんな彼らに見送られ、狼小屋に戻る。


「手伝ってくれてありがとうな、ハク。みんな無事で安心したよ」
「うむ。オークどもではないが、何かあればすぐに呼べ」
「ありがとう」


 頭を撫でた後、小屋の前でハクの背中から降りた。

 そしてふと、キレイなままの小屋を見上げる。


「……でも、なんでこんなに頑丈なんだろうね?」
「もしや、カズマのスキルのおかげではないか?」
「え? 僕のスキル?」
「ほらあの、なんと言ったか……ああ、【凝固】だったか」
「……あっ!」


 言われてハッと気付いた。

 そう言えば住居を建てるとき、建物を【凝固】スキルで固定してたっけ。

 レベルアップして効果時間が永続になったし、長時間の吹雪にも耐えられるようになったのかもしれない。

 なるほど。あのスキルのおかげだったのか。

 念の為にとかけておいたけど、正解だった。

 あれをやっていなかったら、きっと被害甚大だったよね。

 小屋の向こうい見える空には、分厚い雲が切れ目なく広がっていた。

 頬を切り裂くような風も、止む気配はない。

 一抹の不安が脳裏をよぎる。


「……これ、本当に明日には晴れるのかなぁ?」


 そんな僕の声は、またたく間に吹雪に飲み込まれていった。