りんご酒を作ろう!
──って、声高に宣言したは良いけれど、どうやって作るんだっけ?
パン作りの経験はあるけれど、お酒を作ったことは流石にない。
ドライイーストを使って作るっていう話は聞いたことがあるけど……。
「絞った果汁を発酵させるんですよ」
首を捻っていた僕にそうアドバイスをしてくれたのは、アルレーネ様だ。
「果汁を樽に入れておけば、保存も楽だと思いますよ」
「おお、ありがとうございます!」
絞った果汁を樽に入れて、ドライイーストで発酵すればいいわけか。
意外と簡単につくれるんだな。
「しかし、アルレーネ様って何でも知ってますね。あのすごい効果のヨモギのポーションのレシピもそうだし」
「そ、それは違います! わわ、私がお教えしたのは、一般的なポーションの作り方ですから! あの効果を出せたのは、カズマ様の腕が良いだけです!」
慌てふためくアルレーネ様。
またまたぁ。そんな謙遜しなくていいのに。
ヨモギのポーションだって、アルレーネ様のアドバイス通りに作ったら大成功だったんだ。今回も、きっと上手くいく気がする。
けどまぁ、気負わずに気楽にやりますか。
「よし。まずは神樹の実を絞るところからはじめましょうか」
何をするにも、まずはこの実を果汁にしなければ始まらないからね。
りんごみたいな見た目の神樹の実をすりつぶして果汁にして──。
「……待てよ? どうやってすり潰そう?」
手にした神樹の実を眺めながら、うむむと唸ってしまった。
この世界にハンドジューサーみたいなものがあったら楽なんだけど、製作スキルのリストには無い。
そもそも電気がないからね……。
てことは、完全手作業になる。
おろし金みたいな道具を使って、人力でごりごりとすり下ろすしかない。
「いや、流石に人力は無理じゃない?」
樽いっぱいの果汁を取るとなると、おびただしい数の神樹の実をすり下ろす日必要がある。
手作業で一個ずつやっていたら一体何日かかるやら。
樽いっぱいの果汁を集める前に、神樹の実が腐る可能性がある。
「水車を使ってみたらどうだ?」
トトさんがそう提案してきた。
僕は小さく首をかしげてしまった。
「水車、ですか?」
「水車で圧搾機を動かして神樹の実をすりつぶすんだよ」
「なるほど、圧搾機か……それはアリですね」
森の中から引いている水路の水を使えば、水車は回せる。
それを動力にして、小麦みたいに神樹の実をすり潰すってわけだ。
水車の部品は【造形】スキルで作れるし、難易度はそんなに高くないはず。
「……水の力で動かすなら、水路の近くがいいよね。てことは、水区画に水車小屋を作るか」
「ごむごむ!(はい! じゃあ、僕にまかせて!)」
いつの間にやってきたのか、足元でゴレム15号が元気よく挙手をした。
「ごむれむれむ!(水車小屋なら水位より低い場所に建てたほうが良いよね。小屋だけチャチャッと建てちゃうね)」
「本当かい? じゃあ、お願いするよ」
「ごむっ!(オッケーッ!)」
ビシッと敬礼するゴレム15号。
建築用の素材が詰まった【収納カバン】を受け取ると、トテトテと小気味よい足取りで走り去っていった。
前から頼りになる相棒だったけど、目を見張るほど成長している。
貯蔵庫や農具小屋の建築を任せているんだけど、仕上がりのクオリティが爆あがりしてるんだよね。
可愛らしい背中が、一人前の職人みたいに見えてきた。
こりゃあ、負けてられないな。
ゴレムに小屋を作ってもらっている間に、僕は設計図を描くことにした。
部品を【造形】スキルで作るには、形を明確に思い描く必要があるから、紙にしっかりと書き起こしておいたほうが良いだろう。
アルレーネ様やトトさんと一緒にリビングへ戻り、テーブルの上に大きな紙を広げる。
「ええと……水路から水を持ってきて……水車は頂部から水をかけて回転させる形式でいいですよね」
「上射式だな。良いアイデアだと思うぞ」
トトさんが頷く。
「その動力を圧搾機に伝える歯車も用意する必要があるな」
「歯車ですか」
アルレーネ様が不安そうに首をかしげる。
「かなり大掛かりか仕組みになりますね。この水車や歯車もカズマ様がお作りになるのですか?」
「そうですね。でも、スキルを使えばなんとかなると思います」
開墾スキルの【造形】や【凝固】を使えば、水車も歯車もなんとかなると思う。やったことがないから、手探りになるけど。
「す、すごいですね。カズマ様って建築家みたい」
「あはは、そんな大それたものじゃないですよ。失敗する可能性も高いですし」
鉛筆で簡単な図面を起こし、ひとまず設計図は完成。
お次はこれをもとに【造形】スキルを使って部品を作っていく。
実際に作るのは──現場でいいか。
「水車小屋を建てる水区画に行ってみましょうか」
「はい!」
「オッケー!」
ログハウスを出て、水区画へと向かう。
うっすらと雪化粧した畑に、澄み渡った空。
柔らかい日差しがとても気持ちいい。
しばらくメインストリートを歩いていくと、水区画が見えてきた。
ゴレムは水路の終点近く……ため池付近に小屋を建てているようだ。
骨組みはもう完成していて、屋根を作っている。
そのスピードに少し驚いてしまった。
「す、すごいじゃない、ゴレム。もうこんなに出来上がってるなんて」
「ごむごむ(えへへ、すごいでしょ)」
屋根上からヒョイと顔をのぞかせたゴレムが、照れくさそうに頭を掻く。
水車小屋は事前にゴレムが言っていたように、水路より低い位置に建てられていた。これなら水の力を十分発揮できそうだ。
「ごむむ?(水車はいつでも設置できるけど、もう作った?)」
「ううん、これから作るところ。ちょっと待っててくれない?」
「ごむん~(わかった~)」
小屋の前で【硬い木】を出し、【造形】スキルを発動させた。
角材が淡くきらめきながら、次第に別の形へと変わっていく。
しばしして姿を現したのは、小ぶりの水車だった。
大きさは人の背の高さほど。
木製の羽根板が円を描くように並んでいる。
設計図に描いたイメージどおりだ。
「……わわっ!? 木材が水車になった!?」
驚いたような声をあげたのは、トトさんだ。
「す、すげぇ! これって、車軸を作ったときと同じスキルなのか?」
「ええ。イメージしたものを具現化できる【造形】ってスキルです」
「ほえ~~……」
トトさんが驚きを通り越して、半ばあきれたような声を出した。
あはは。そんな顔になっちゃうよね。
続けて、同じ要領で大きめの歯車を作る。
こっちのサイズは小屋のスペースを計算して具体的な大きさをイメージした。
さらに、以前に荷馬車の修理で作った車軸も用意する。
この車軸は歯車を回すためのものだ。
そして、最後に圧搾機だけど、すごくシンプルな仕組みにした。
原理はこうだ。
大きな桶の中に設置された円盤状の石──石で出来たタイヤのようなもの──が水車の力でぐるぐると円を描くように回る。
そして、その石が桶の中に入っている神樹の実を踏み潰すという感じだ。
実が潰れて出た果汁は、桶の底に設けられた小さな溝を通って保管用の樽の中に集められる。
その樽の中にドライイーストを入れて発酵させれば、美味しいりんご酒の完成──となるはずだ。
「よし、それじゃあ水車を運んでもらえるかい?」
「れむごむ!(わかった!)」
わらわらと集まった5匹のゴレムが、うんしょうんしょと水車を小屋の中に運んでいく。
慎重に位置を確認して、小屋からニュッと伸びている車軸の先に水車を装着。
水路から分岐させた小さな水路の水が、丁度水車の頭にかかる位置だ。
「ごむれむ?(この辺かな? どう? お屋形様?)」
「うん、オッケーだよ」
がこんと車軸にはめ込んだところで、ゴレムたちがわ~っと戻ってくる。
「しかし、可愛らしい水車ですね」
「あはは、そうですね」
思わずアルレーネ様と一緒に笑ってしまった。
小ぶりの水車は素朴だけど、可愛らしくて味がある。
見た目は全く違うけど、どこかゴレムと似た雰囲気っていうか。
「さて、次は圧搾機と歯車だな」
そうして、小屋の中に向かおうとしたとき、周りに精霊さんがふわふわと飛んでいる事に気づいた。
水の羽衣のようなものをまとった、水の精霊さんたちだ。
一匹だけじゃなく、無数に飛んでいる。
一体どうしたんだろう?
「精霊さんたち、何かあったんですかね?」
「ふふ……カズマ様が何をしているのか、興味津々みたいですよ」
アルレーネ様がくすぐったそうに笑った。
なるほど。水を使って大きな水車を動かそうとしているんだから、水の精霊さんも気になるか。
「水に悪さをするつもりはないから、安心して」
精霊さんたちにそう説明すると、彼らは僕の周りでくるくると踊り、水車の方へと飛んでいった。
「……誤解されてませんかね?」
「大丈夫。カズマ様は悪さをする人間じゃないとわかっていますから」
「そうだと良いんですけど」
対話スキルでも精霊さんの言葉はわからないからなぁ……。
スキルレベルが上がったら、精霊さんとも会話できるんだろうか。
「れむれむ(お屋形様)」
と、ゴレム15号が声をかけてきた。
「ごむむごむ(小屋はまだ建築中だけど、圧搾機は設置しても大丈夫だよ)」
「あ、うん。ありがとう」
小屋の中はゴレム15号が言う通り、まだ建設の最中だった。
壁から車軸がニュっと出ているだけで、その他はまだ何もない状態。
とはいえ、完成しても雰囲気は変わらないと思うけどね。
圧搾機と果汁を入れる樽だけのシンプルな水車小屋になる予定だし。
まずは圧搾機の桶を用意する。
歯車の大きさに合わせて、大きめの桶を【造形】スキルで作った。
製作レシピにある【大きな桶】でも良いんだけど、大きさを調節できないので【造形】で作ることにしたのだ。
角材が輝き、イメージ通りの大きな桶が出来上がる。
それを小屋の真ん中に設置し、その上に歯車をはめ込んで車軸と連結させる。
「……わ、ぴったりだ」
ちょっとビックリした。
何回か作り直して微調整するつもりだったけど、その必要はなさそうだ。
多分、事前に設計図を描いたおかげだな。
ひととおり組み立て終わったところで、トトさんとアルレーネ様がやってきた。
「おお! もう完成してるじゃないか!」
「試運転してみますか? カズマ様?」
「そうですね。やってみましょう」
ゴレムにお願いして、水路の流れを止めていた堰を上げてもらう。
途端に押し込められていた水が、勢いよく脇道の水路へと流れ込んでいった。
その水が水車の羽根を打ち、がこんと低い音を響かせて水車がゆっくりと回り出した。
車軸でつながった歯車が噛み合い、まるで息を吹き込まれたかのように圧搾機の石の円盤がごろりと重々しく動き始めた。
「……あ、動いた!」
「やりましたね!」
思わずアルレーネ様とハイタッチ。
胸の奥がじんわりと熱くなってしまった。
スキルを使ったとはいえ、一から作った水車と圧搾機なのだ。
スキルがあるからなんとかなるとは思ったけど──うん、人間、やればなんとかなるもんだな。
「カズマさん」
トトさんの声。
振り向くと、彼女の手には赤く輝く神樹の実があった。
「早速、圧搾機に入れてみるか?」
「……ええ、やりますか!」
圧搾機が動いただけで感動しちゃったけど、最終目的は「神樹の実の果汁を取ること」だからね。
圧搾機は動いたけど果汁は取れませんでしたじゃ、笑えない。
「じゃあ、いきますよ?」
トトさんたちが見守る中、そっと神樹の実を圧搾機の中に入れた。
さぁ、どうなる。
ちゃんと発酵用の樽に入ってくれよ。
祈りながら、成り行きを見守る僕。
ごろごろと回転してくる石の円盤が、ぶしゅっと神樹の実を押しつぶした。
しかし、神樹の実は原型をとどめたまま。
果汁もあまり出てきていない。
だけど、2度、3度と円盤に踏み潰されるうちに完全にすり潰され、透き通った果汁が流れ出してきた。
その果汁は桶の小さな溝を通じて、隣に設置した樽の中に。
「やった! ちゃんと樽に入ったぞ!」
「成功ですね!」
トトさんとアルレーネ様が声をあげた。
念の為樽の中を確認したけれど、しっかりと果汁が溜まっている。
これは大成功といって差し支えないだろう。
「みんなありがとう! おかげで神樹の里の特産品完成に一歩前進したよ!」
「ごむぅ~(やったぁ!)」
ゴレムたちも嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねはじめる。
「ごむごむむ!(これでオサケの完成だね!)」
「れむ?(オサケってなんだろ?)」
「れむれむ(お魚の名前だよ)」
「ごむ(それはシャケ)」
「ごむごむれむ(みんな喜ぶのはまだ早いよ。小屋の仕上げはこれからだし)」
「ご、ごむ……(そ、そうだった……)」
「ごむれむれむ!(気合入れて完成させよう!)」
「ごむ~!(お~!)」
掛け声をあげ、気合を入れるゴレムたち。
可愛いがすごい。
わちゃわちゃしているの見てるだけでご飯3杯はいける。
作業開始したゴレムたちを横目に、小屋の外に出る。
そして、改めて水車小屋の周辺を眺めた。
太陽の光を浴びて、キラキラと輝く水路。
水の流れにあわせてゆっくりと回転する水車。
リズミカルに聞こえる、水しぶきの音。
里の特産品開発のために作った施設だけど、見ているだけで心が落ち着く。
これぞスローライフって感じだよね。
──って、声高に宣言したは良いけれど、どうやって作るんだっけ?
パン作りの経験はあるけれど、お酒を作ったことは流石にない。
ドライイーストを使って作るっていう話は聞いたことがあるけど……。
「絞った果汁を発酵させるんですよ」
首を捻っていた僕にそうアドバイスをしてくれたのは、アルレーネ様だ。
「果汁を樽に入れておけば、保存も楽だと思いますよ」
「おお、ありがとうございます!」
絞った果汁を樽に入れて、ドライイーストで発酵すればいいわけか。
意外と簡単につくれるんだな。
「しかし、アルレーネ様って何でも知ってますね。あのすごい効果のヨモギのポーションのレシピもそうだし」
「そ、それは違います! わわ、私がお教えしたのは、一般的なポーションの作り方ですから! あの効果を出せたのは、カズマ様の腕が良いだけです!」
慌てふためくアルレーネ様。
またまたぁ。そんな謙遜しなくていいのに。
ヨモギのポーションだって、アルレーネ様のアドバイス通りに作ったら大成功だったんだ。今回も、きっと上手くいく気がする。
けどまぁ、気負わずに気楽にやりますか。
「よし。まずは神樹の実を絞るところからはじめましょうか」
何をするにも、まずはこの実を果汁にしなければ始まらないからね。
りんごみたいな見た目の神樹の実をすりつぶして果汁にして──。
「……待てよ? どうやってすり潰そう?」
手にした神樹の実を眺めながら、うむむと唸ってしまった。
この世界にハンドジューサーみたいなものがあったら楽なんだけど、製作スキルのリストには無い。
そもそも電気がないからね……。
てことは、完全手作業になる。
おろし金みたいな道具を使って、人力でごりごりとすり下ろすしかない。
「いや、流石に人力は無理じゃない?」
樽いっぱいの果汁を取るとなると、おびただしい数の神樹の実をすり下ろす日必要がある。
手作業で一個ずつやっていたら一体何日かかるやら。
樽いっぱいの果汁を集める前に、神樹の実が腐る可能性がある。
「水車を使ってみたらどうだ?」
トトさんがそう提案してきた。
僕は小さく首をかしげてしまった。
「水車、ですか?」
「水車で圧搾機を動かして神樹の実をすりつぶすんだよ」
「なるほど、圧搾機か……それはアリですね」
森の中から引いている水路の水を使えば、水車は回せる。
それを動力にして、小麦みたいに神樹の実をすり潰すってわけだ。
水車の部品は【造形】スキルで作れるし、難易度はそんなに高くないはず。
「……水の力で動かすなら、水路の近くがいいよね。てことは、水区画に水車小屋を作るか」
「ごむごむ!(はい! じゃあ、僕にまかせて!)」
いつの間にやってきたのか、足元でゴレム15号が元気よく挙手をした。
「ごむれむれむ!(水車小屋なら水位より低い場所に建てたほうが良いよね。小屋だけチャチャッと建てちゃうね)」
「本当かい? じゃあ、お願いするよ」
「ごむっ!(オッケーッ!)」
ビシッと敬礼するゴレム15号。
建築用の素材が詰まった【収納カバン】を受け取ると、トテトテと小気味よい足取りで走り去っていった。
前から頼りになる相棒だったけど、目を見張るほど成長している。
貯蔵庫や農具小屋の建築を任せているんだけど、仕上がりのクオリティが爆あがりしてるんだよね。
可愛らしい背中が、一人前の職人みたいに見えてきた。
こりゃあ、負けてられないな。
ゴレムに小屋を作ってもらっている間に、僕は設計図を描くことにした。
部品を【造形】スキルで作るには、形を明確に思い描く必要があるから、紙にしっかりと書き起こしておいたほうが良いだろう。
アルレーネ様やトトさんと一緒にリビングへ戻り、テーブルの上に大きな紙を広げる。
「ええと……水路から水を持ってきて……水車は頂部から水をかけて回転させる形式でいいですよね」
「上射式だな。良いアイデアだと思うぞ」
トトさんが頷く。
「その動力を圧搾機に伝える歯車も用意する必要があるな」
「歯車ですか」
アルレーネ様が不安そうに首をかしげる。
「かなり大掛かりか仕組みになりますね。この水車や歯車もカズマ様がお作りになるのですか?」
「そうですね。でも、スキルを使えばなんとかなると思います」
開墾スキルの【造形】や【凝固】を使えば、水車も歯車もなんとかなると思う。やったことがないから、手探りになるけど。
「す、すごいですね。カズマ様って建築家みたい」
「あはは、そんな大それたものじゃないですよ。失敗する可能性も高いですし」
鉛筆で簡単な図面を起こし、ひとまず設計図は完成。
お次はこれをもとに【造形】スキルを使って部品を作っていく。
実際に作るのは──現場でいいか。
「水車小屋を建てる水区画に行ってみましょうか」
「はい!」
「オッケー!」
ログハウスを出て、水区画へと向かう。
うっすらと雪化粧した畑に、澄み渡った空。
柔らかい日差しがとても気持ちいい。
しばらくメインストリートを歩いていくと、水区画が見えてきた。
ゴレムは水路の終点近く……ため池付近に小屋を建てているようだ。
骨組みはもう完成していて、屋根を作っている。
そのスピードに少し驚いてしまった。
「す、すごいじゃない、ゴレム。もうこんなに出来上がってるなんて」
「ごむごむ(えへへ、すごいでしょ)」
屋根上からヒョイと顔をのぞかせたゴレムが、照れくさそうに頭を掻く。
水車小屋は事前にゴレムが言っていたように、水路より低い位置に建てられていた。これなら水の力を十分発揮できそうだ。
「ごむむ?(水車はいつでも設置できるけど、もう作った?)」
「ううん、これから作るところ。ちょっと待っててくれない?」
「ごむん~(わかった~)」
小屋の前で【硬い木】を出し、【造形】スキルを発動させた。
角材が淡くきらめきながら、次第に別の形へと変わっていく。
しばしして姿を現したのは、小ぶりの水車だった。
大きさは人の背の高さほど。
木製の羽根板が円を描くように並んでいる。
設計図に描いたイメージどおりだ。
「……わわっ!? 木材が水車になった!?」
驚いたような声をあげたのは、トトさんだ。
「す、すげぇ! これって、車軸を作ったときと同じスキルなのか?」
「ええ。イメージしたものを具現化できる【造形】ってスキルです」
「ほえ~~……」
トトさんが驚きを通り越して、半ばあきれたような声を出した。
あはは。そんな顔になっちゃうよね。
続けて、同じ要領で大きめの歯車を作る。
こっちのサイズは小屋のスペースを計算して具体的な大きさをイメージした。
さらに、以前に荷馬車の修理で作った車軸も用意する。
この車軸は歯車を回すためのものだ。
そして、最後に圧搾機だけど、すごくシンプルな仕組みにした。
原理はこうだ。
大きな桶の中に設置された円盤状の石──石で出来たタイヤのようなもの──が水車の力でぐるぐると円を描くように回る。
そして、その石が桶の中に入っている神樹の実を踏み潰すという感じだ。
実が潰れて出た果汁は、桶の底に設けられた小さな溝を通って保管用の樽の中に集められる。
その樽の中にドライイーストを入れて発酵させれば、美味しいりんご酒の完成──となるはずだ。
「よし、それじゃあ水車を運んでもらえるかい?」
「れむごむ!(わかった!)」
わらわらと集まった5匹のゴレムが、うんしょうんしょと水車を小屋の中に運んでいく。
慎重に位置を確認して、小屋からニュッと伸びている車軸の先に水車を装着。
水路から分岐させた小さな水路の水が、丁度水車の頭にかかる位置だ。
「ごむれむ?(この辺かな? どう? お屋形様?)」
「うん、オッケーだよ」
がこんと車軸にはめ込んだところで、ゴレムたちがわ~っと戻ってくる。
「しかし、可愛らしい水車ですね」
「あはは、そうですね」
思わずアルレーネ様と一緒に笑ってしまった。
小ぶりの水車は素朴だけど、可愛らしくて味がある。
見た目は全く違うけど、どこかゴレムと似た雰囲気っていうか。
「さて、次は圧搾機と歯車だな」
そうして、小屋の中に向かおうとしたとき、周りに精霊さんがふわふわと飛んでいる事に気づいた。
水の羽衣のようなものをまとった、水の精霊さんたちだ。
一匹だけじゃなく、無数に飛んでいる。
一体どうしたんだろう?
「精霊さんたち、何かあったんですかね?」
「ふふ……カズマ様が何をしているのか、興味津々みたいですよ」
アルレーネ様がくすぐったそうに笑った。
なるほど。水を使って大きな水車を動かそうとしているんだから、水の精霊さんも気になるか。
「水に悪さをするつもりはないから、安心して」
精霊さんたちにそう説明すると、彼らは僕の周りでくるくると踊り、水車の方へと飛んでいった。
「……誤解されてませんかね?」
「大丈夫。カズマ様は悪さをする人間じゃないとわかっていますから」
「そうだと良いんですけど」
対話スキルでも精霊さんの言葉はわからないからなぁ……。
スキルレベルが上がったら、精霊さんとも会話できるんだろうか。
「れむれむ(お屋形様)」
と、ゴレム15号が声をかけてきた。
「ごむむごむ(小屋はまだ建築中だけど、圧搾機は設置しても大丈夫だよ)」
「あ、うん。ありがとう」
小屋の中はゴレム15号が言う通り、まだ建設の最中だった。
壁から車軸がニュっと出ているだけで、その他はまだ何もない状態。
とはいえ、完成しても雰囲気は変わらないと思うけどね。
圧搾機と果汁を入れる樽だけのシンプルな水車小屋になる予定だし。
まずは圧搾機の桶を用意する。
歯車の大きさに合わせて、大きめの桶を【造形】スキルで作った。
製作レシピにある【大きな桶】でも良いんだけど、大きさを調節できないので【造形】で作ることにしたのだ。
角材が輝き、イメージ通りの大きな桶が出来上がる。
それを小屋の真ん中に設置し、その上に歯車をはめ込んで車軸と連結させる。
「……わ、ぴったりだ」
ちょっとビックリした。
何回か作り直して微調整するつもりだったけど、その必要はなさそうだ。
多分、事前に設計図を描いたおかげだな。
ひととおり組み立て終わったところで、トトさんとアルレーネ様がやってきた。
「おお! もう完成してるじゃないか!」
「試運転してみますか? カズマ様?」
「そうですね。やってみましょう」
ゴレムにお願いして、水路の流れを止めていた堰を上げてもらう。
途端に押し込められていた水が、勢いよく脇道の水路へと流れ込んでいった。
その水が水車の羽根を打ち、がこんと低い音を響かせて水車がゆっくりと回り出した。
車軸でつながった歯車が噛み合い、まるで息を吹き込まれたかのように圧搾機の石の円盤がごろりと重々しく動き始めた。
「……あ、動いた!」
「やりましたね!」
思わずアルレーネ様とハイタッチ。
胸の奥がじんわりと熱くなってしまった。
スキルを使ったとはいえ、一から作った水車と圧搾機なのだ。
スキルがあるからなんとかなるとは思ったけど──うん、人間、やればなんとかなるもんだな。
「カズマさん」
トトさんの声。
振り向くと、彼女の手には赤く輝く神樹の実があった。
「早速、圧搾機に入れてみるか?」
「……ええ、やりますか!」
圧搾機が動いただけで感動しちゃったけど、最終目的は「神樹の実の果汁を取ること」だからね。
圧搾機は動いたけど果汁は取れませんでしたじゃ、笑えない。
「じゃあ、いきますよ?」
トトさんたちが見守る中、そっと神樹の実を圧搾機の中に入れた。
さぁ、どうなる。
ちゃんと発酵用の樽に入ってくれよ。
祈りながら、成り行きを見守る僕。
ごろごろと回転してくる石の円盤が、ぶしゅっと神樹の実を押しつぶした。
しかし、神樹の実は原型をとどめたまま。
果汁もあまり出てきていない。
だけど、2度、3度と円盤に踏み潰されるうちに完全にすり潰され、透き通った果汁が流れ出してきた。
その果汁は桶の小さな溝を通じて、隣に設置した樽の中に。
「やった! ちゃんと樽に入ったぞ!」
「成功ですね!」
トトさんとアルレーネ様が声をあげた。
念の為樽の中を確認したけれど、しっかりと果汁が溜まっている。
これは大成功といって差し支えないだろう。
「みんなありがとう! おかげで神樹の里の特産品完成に一歩前進したよ!」
「ごむぅ~(やったぁ!)」
ゴレムたちも嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねはじめる。
「ごむごむむ!(これでオサケの完成だね!)」
「れむ?(オサケってなんだろ?)」
「れむれむ(お魚の名前だよ)」
「ごむ(それはシャケ)」
「ごむごむれむ(みんな喜ぶのはまだ早いよ。小屋の仕上げはこれからだし)」
「ご、ごむ……(そ、そうだった……)」
「ごむれむれむ!(気合入れて完成させよう!)」
「ごむ~!(お~!)」
掛け声をあげ、気合を入れるゴレムたち。
可愛いがすごい。
わちゃわちゃしているの見てるだけでご飯3杯はいける。
作業開始したゴレムたちを横目に、小屋の外に出る。
そして、改めて水車小屋の周辺を眺めた。
太陽の光を浴びて、キラキラと輝く水路。
水の流れにあわせてゆっくりと回転する水車。
リズミカルに聞こえる、水しぶきの音。
里の特産品開発のために作った施設だけど、見ているだけで心が落ち着く。
これぞスローライフって感じだよね。



