お詫びチートではじめる異世界農園暮らし~【製作】&【開墾】スキルで好きに開拓したら、精霊姫やモンスターが住まう最強の土地ができました~

「いやぁ、すっかり寒くなっちゃいましたね、カズマさん」


 荷馬車から降りてきたトトさんが、白い息を吐きながら笑顔を覗かせた。 

 寒くなったねと言ってるけど、トトさんの格好はチャイナドレスのまま。

 首にふわふわのマフラーをつけてるけど、それで寒さは防げるのかちょっと不安になる。

 竜人だから体温が高いのかな?

 シャドウさんに頼んで防寒具作ってあげようかな──なんて心配していた僕をよそに、トトさんはテキパキと荷物の確認をしはじめた。

 手にしたリスト通りのものがあるか、ひとつひとつチェックしていく。

 チェックが済んだ荷物は、ゴレムに荷台からおろしてもらう。

 今回もトトさんに取り寄せてもらったものは、農園では賄えないものだ。

 ログハウス備え付けのものがなくなってきた、塩、砂糖、コショウなどの調味料。

 茶葉、コーヒー豆などの嗜好品や、ハム、ベーコンなどの保存食。

 他にもチーズ、バター、小麦粉。

 あとは、家畜のヤギを何頭か。

 新鮮なヤギミルクが飲みたくなったのだ。

 本当は牛が欲しかったんだけど、世話が大変そうだからやめておいた。

 そして、今回の目玉商品が──。


「ほら、カズマさんに頼まれたドライイーストだぜ」


 トトさんが木の樽に入った粉状の物を見せてくれた。

 おお、こんなに沢山。

 これだけあれば、凄い数のパンが作れそうだ。

 トトさんが不思議そうな顔をする。


「というか、パン屋でも始めるのか?」
「まさか。手作りのパンが食べたくなっただけですよ。家の裏に石窯も作ったんですから」
「えっ!? 石窯まで作ったのか!? カズマさんって、なんでも作っちまうんだな! かっけぇ!」


 身を乗り出し、キラキラとした羨望の眼差しを向けてくるトトさん。

 思わず後ずさりしてしまった。

 な、なんだ?

 妙に圧がすごいけど……。


「あ、そうだ。トトさんって、今回もしばらく農園に滞在するんですよね?」
「うん、そのつもりだ」
「だったら美味しいパンをごちそうしますよ」
「えっ、ホントに!?」


 トトさんの目が、さらに輝きを増す。


「……えへへ、カズマさんの手作りパンなんて、1000万メリィ以上の価値があるじゃん……うれしすぎる……」
「え? なにか言いました?」
「……えっ!? い、いや、何も言ってないよ。あはは~」


 引きつった笑みを浮かべるトトさん。

 一瞬だけ獲物を狙う狩人の目をしていた気がしたけど……。

 そんなトトさんは長旅の疲れを癒やすため、露天風呂「フォージバス」へと向かった。

 すんごくナチュラルに「カズマさんも一緒に入らないか?」って誘われたけど丁重に断った。

 思わず「是非」って言いそうになったけど、一緒は流石に無理だよ……。

 トトさんを見送ってから、僕はゴレムと一緒に食材を貯蔵庫へと運ぶことに。

 商品ごとに貯蔵庫を分ける必要があるため、細かく指示を出さないといけないのだ。

 特に、冷凍が必要なものは【冷却】で冷やしている貯蔵庫にしまっておかないとだからね。

 運搬が終わったら、本日のメインイベントをスタートさせる。


「ドライイーストも届いたことだし、パン作りを始めますか」
「やったぁ! パンだ!」


 ヒサシが「待ってました」と言わんばかりに尻尾をブンブン。

 では石窯に向かう──の前に、パン生地を作らないとだね。

 貯蔵庫の中から必要な素材を【神樹カバン】の中に入れて、足早にログハウスへと向かう。

 必要な素材は小麦粉に砂糖。バター、塩。

 それに、ドライイーストだ。

 ヤギミルクも必要なんだけど、それは同時進行でゴレムに絞ってもらう。

 後は、製作スキルで作った【木のボウル】と【木のヘラ】も。

 キッチンにそれらを広げて、いざスタート。

 まずは、小麦粉を【木のボウル】の中に入れる。

 そこにドライイースト、砂糖、塩を投入し、【木のヘラ】で軽くかき混ぜる。

 粉が舞わないように、少しだけ慎重に。


「わ、わわっ! 風に乗って小麦粉が鼻に……」
「ちょ、ヒサシ!? くしゃみしないでよ!?」


 キッチン脇の窓から顔を出していたヒサシが、鼻をひくひくと動かしはじめた。超危険だ。

 体が大きいし、くしゃみひとつで小麦粉を全部ふっとばしそう。

 すぐにハクにヒサシの鼻を押さえてもらい、作業を続ける。

 綺麗に混ざったら、ゴレムに持ってきてもらった搾りたてのヤギミルクを投入する。

 こうすることで風味がついて、生地が引き締まってもっちり食感になるのだ。

 お次は卵を使う。

 この卵はニワトリさんから拝借した。

 卵を入れて粉と混ぜあわせ、ひとかたまりになったら台に出してこねていく。

 窓の外から見てたハクが「むぅ」と唸った。


「なんだか生地が粉っぽくないか?」
「最初はね。ここからちゃんとしたパン生地になるから安心して」


 グッと潰すようにこねていく。

 力を込めたところから「グルテン」が出て、生地がまとまるのだ。

 しばらくこねこねしていたら、次第に生地に引き締まる力が出てきた。

 伸びが悪くなってきたら、転がしてさらにこねる。

 だんだんと表面がツルッとしてきた。

 少しずつ完成に近づいてきた。

 ここで生地の中にバターを投入。

 バターを入れると生地が伸びやすくなり、ふっくらと膨らむようになる。

 風味がよくなるってメリットもあるけどね。

 バターがよく混ざるように、しっかりと丁寧にこねていく。


「あっ、なんだか大きな卵みたいになった!」


 外からヒサシの声。

 鼻声だと思ったら、自分で鼻を押さえていた。


「それ、硬いの?」
「いや、ふわふわだよ」


 生地を指で押してみるとすぐに元の形に戻った。

 かなりの弾力がある。


「わ、すごい! もちもちだ! それを今から焼くんだね!」
「いやいや、まだだよ。これから発酵させるんだ」
「ハッコー?」
「放置して生地をふわっと膨らませること」


 いわゆる一次発酵ってやつだ。

 生地を小さめの【木の箱】に入れて、テーブルの上においておく。

 40分くらい放置すれば、いい感じに膨らむはずだ。


「さてと。今のうちに窯の準備をしておくか」


 冬のこの時期は、窯の中を高温にするまでに時間がかかるはずだからね。

 温まりにくかったら【加熱】スキルを使ってみるか。

 なんて考えながら、ログハウスを出てびっくりした。

 オークさんや精霊さん、ケンタウルスさんなど、里の住人たちが僕を待ち構えていたのだ。


「み、皆さんどうしました?」
「あの、お屋形様、パン作りを見学しても?」
「え、見学? 大丈夫ですけど……そんな面白いものでもないですよ?」


 どっちかというと、サラさんの鍛冶のほうが楽しいと思うけど。

 とはいえ断る理由もないので、みんなを連れて大行列で石窯へ。

 石窯の中に薪を投入して火をつける。

 案の定、窯の温度が思うように上がらない。

 仕方なく【加熱】スキルを使い、炉の奥から一気に熱を吹き上げた。

 これでよし、と。


「おお……なるほど、スキルで火を付けるわけですな」


 感心するようなオークさんの声。


「実に手際が良い」
「ごむごむ!(流石お屋形様……さすお屋だね!)」
「あ、ありがとう」


 一挙手一投足を褒めてくるギャラリーに、恥ずかしくなってしまった。

 そんな観客たちを引き連れ、再びログハウスに戻る。


「お次は何を?」
「ええっと……生地が完成してると思うから、小分けにして焼こうかな」
「おお、ついに!」
「ごむ!(さすお屋!)」


 ぞろぞろぞろ。

 テーブルに置いた【木の箱】に詰まっている生地を確認してみたところ、先程よりも明らかに膨らんでいた。


「お、しっかり発酵してるな」


 生地に指を刺してみたけれど、穴が元に戻らなかった。

 ボリュームが出てふっくらと膨らんでいるし、発酵は完了だ。

 生地をギュッと押して全体からガスを抜き、小分けにしていく。

 里のみんなにも食べてほしいから、できるだけ沢山作っちゃおう。


「……これでよし、と。あとは石窯で焼けば美味しいパンの完成だ」
「おおお!」
「やったぁ!」
「パンだ!」
「ごむ!(パン食べたい!)」


 窓の外から見学していたオーディエンスたちが盛り上がる。

 テレビの料理番組の出演者になった気分だ。

 生地を石窯へと運んで、小さく切り分けたパン生地をひとつづつ【ベーカリーパドル】で窯に入れる。

 ベーカリーパドルは先が平たくなっている棒状の道具で、製作スキルで作ったものだ。


「……うわ、熱っ」


 【加熱】スキルのおかげか、窯の近くはかなりの高温になっていた。

 顔がジリジリ熱いのに、吐く息は白い。

 寒暖差がすごいな。

 パドルの先に生地を置いて、手際よく中に入れていく。

 窯の中に綺麗に並べきったところで、皆と一緒にしばし待つことに。

 このパンと里の野菜でサンドイッチでも作りましょうか……なんて話していると、石窯の煙突から美味しそうな香りが漂ってきた。


「カズマ。そろそろいいのではないか?」 
「だね。ちょっと確認してみようか」


 【ベーカリーパドル】を使って、パンをひとつ取り出してみる。

 表面にはこんがりとした焼き色がつき、香ばしい香りをふわりと放っている。

 軽く叩いてみると、コンと空洞のような音がした。


「うん、出来ているみたいだね」
「おおっ! 完成か!」


 声をあげるハク。

 彼に続き、ヒサシや他の動物たちが一斉に騒ぎ始めた。


「美味しそうですね!」
「パンだ、パンだ!」
「ごむごむ!(食べてみてよ、お屋形様!)」


 大盛りあがりの観客を前に、できたてのパンをそっと両手で割ってみた。

 白い湯気がふわりと立ちのぼり、内側の生地がもっちりと糸を引く。

 外はパリパリ、中はふわふわ。

 食べなくてもわかる。これ、めっちゃ美味いやつだ。

 ──いや、食べるんだけどね?


「美味そうだ! 我にも食べさせろ!」
「ぼくも、ぼくも!」


 ハクとヒサシが尻尾をブンブンと振り回しはじめた。


「ちょ、落ち着いて。ちゃんと人数分あるから」
 興奮する彼らを落ち着かせ、口の中に直接ぽいっとパンを投げ入れた。
「……」


 しばし無言でもぐもぐと咀嚼するハクたち。

 体がデカいし、彼らには大きめのパンを作ってあげたほうがよかったかな?

 ──と思ったんだけど。


「美味なり!」
「うん! もっちりしてて、凄く甘い!」


 満足いただけたらしい。

 甘いのは、砂糖をたっぷり入れたからかな?  

 オークさんやゴレムたちにもひとつづつパンを配り、残りは【木のカゴ】に入れてログハウスに持って帰る。

 ハクに「もっとくれ」とせがまれたけど、我慢してもらった。

 アルレーネ様やトトさんにも食べさせないとだからね。

 というわけで、リビングにやってきたんだけど──。


「トトさん、できたてパンをお持ちしました──って、あれっ?」


 リビングには、掃除をしているゴレム5号がいるだけだった。

 どこにいったんだろ?

 他の部屋も探してみたけど、トトさんの姿はどこにもない。


「……裏庭かな?」


 ログハウスで行ける場所は限られている。

 アルレーネ様とおしゃべりでもしてるのかなと思ったら、案の定、ふたりで何やら話し込んでいた。


「ああ、やっぱりここでしたか」
「……おお、カズマさん」
 

 髪の毛がしっとりと濡れているのは、風呂上がりだからか。

 ちょっとドキッとしてしまった。

 そんなトトさんと隣のアルレーネ様が手にしていたのは赤いリンゴ、神樹の実だった。


「この実のことでお話をしていたんです」
「え? 神樹の実ですか?」
「はい。神樹の実を使った特産品ができないかと」
「……なるほど。それは良い考えですね」


 ここも正式な村になったわけだし、特産品があると収入が安定する。

 それも神樹の実を使うなんて、良い値がつくこと間違いなしだ。

 でも、実をそのまま使うわけにはいかないよね?

 森を抜けて町へ運ぶまでの時間を考えると、途中で傷んでしまう可能性が高いし。


「遠距離移動にも耐えられるモノに加工できればいいんだけどな」


 難しい顔でトトさんが首をひねる。

 どうやら同じ懸念を抱いていたみたいだ。

 なるほど。それで悩んでいたわけか。

 里で作れて長時間の移動に耐えられる加工品といえば「燻製」だけど、りんごの燻製なんて、あんまり聞かないよね。

 ──あ、石窯も完成したわけだし、アップルパイでも作るか?

 でも、アップルパイを量産するのはちょっと難しいか。

 パン職人さんを移住させてパン工房を作らないと無理だろうし、アップルパイってそこまで消費が多い食べ物じゃないよね?

 もっとこう、気軽に大量生産できて、町の人たちに人気があるものが良い。

 例えば神樹の実を使った、リンゴジュース……?

 ……いや、待って。

 ここはアレだな。

 丁度、ドライイーストがあるわけだし──。


「ねぇ、トトさん。お酒はどうかな?」
「え? 酒?」


 きょとんとするトトさん。

 僕はこくりと頷き、静かに続けた。


「うん、神樹の実を使った『りんご酒(シードル)』を作るんだよ」