お詫びチートではじめる異世界農園暮らし~【製作】&【開墾】スキルで好きに開拓したら、精霊姫やモンスターが住まう最強の土地ができました~

 農園に初雪が降った。

 ──と言っても、辺り一面雪化粧になるわけでもなく、ちらほらと粉雪が降る程度だけど。

 しかし、改めて時が経ったのを感じるな。

 ここに来たときはまだ春だったから、まもなく一年ということになる。

 この一年、色々なことがあったけど、一番大きな出来事と言えばトトさんとの出会いだろう。

 ひょんな縁で知り合ったトトさんと正式に売買契約を結ぶことになった。

 農園で収穫した野菜や調合したポーションの余剰分を、トトさんを通じて町の小さな商会に卸すという契約だ。

 売上の2割をトトさんの取り分とし、残りを農園の収益とする。

 運搬費や商会との交渉、各種手続きの手間を考えれば2割はむしろ安いくらいだろう。

 売上金は農園に必要な物資と一緒に、トトさんが直接運んでくれることになっている。

 もちろん物資の代金はこちらで支払うつもりだ。

 そして今日、契約から3ヶ月が経ち、最初の売上をトトさんが持ってきてくれることになっていた──のだけれど。


「……な、なんですかこれ?」


 ログハウスのリビング。

 農園にやってきたトトさんがテーブルの上に置いたのは、蓋付きのどデカい箱だった。

 簡単に言うと、超巨大な宝箱だ。


「へへ、もちろん今回の売上だぜ?」


 得意げな顔でトトさんがガチャリと蓋を開ける。

 すると、中には綺麗に並べられた金貨の山が。

 その量に、唖然としてしまった。


「契約通り、売上の80%から今回の仕入れ金額を差し引いた合計1000万メリィだ。商会の買い取り明細はこっちを確認してくれ」


 そう言って、トトさんが一枚の紙を取り出した。

 立派な押印がされていて、「1300万メリィで買い取る」と書かれている。

 初めて見た文字なんだけど、しっかり読めるのは開墾スキルの【対話】を使ったおかげだ。

 しかし──この金貨、どれくらいの価値があるんだろう?

 相当な金額だということは何となく分かるけど……。


「あ、あの、1000万メリィってどのくらいの価値があるんです?」
「ん~、そうだなぁ」


 トトさんは首を傾げ、しばし考えて続ける。


「あたしが住んでる町の東地区はギルドの主とか、貴族とか、教会の司教が住むいわゆる『富裕層特区』なんだけど、そこにどデカい豪邸をポンと建てられるくらいかな」
「うん、超ヤバい」


 豪邸を建てられるだけでヤバいのに、富裕層が住んでいるところに建てられるなんて。

 そんなお金が定期的に入るなんて──。


「……ん? ちょっと待って?」 


 冷静に考えて、そのことに気づいてしまう。

 この売上って、3ヶ月に1回だよね?

 てことは、定期的に高級住宅街に豪邸が買えるくらいのお金が入ってくるの?

 ウチの農園の野菜……人気ありすぎじゃない!?


「あ、あの、本当にこんなにお金を貰って大丈夫なんですか?」
「むしろ商会の主さんに『こんな低い額でいいのか』って言われたよ」


 あはは、と笑うトトさん。


「主さん、最初は疑心暗鬼だったんだ。だけど、実際に野菜とポーションを見た瞬間、面白いくらい目の色が変わってさ」
「そ、そうなんですね」
「特にあのヨモギのポーションはすぐに話題になるぜ? なんせ、冒険者ギルドに卸すらしいからな」
「……はぁ」


 と言われてもいまいちピンとこない。

 冒険者って前にちらっと話題で出てきたけど、モンスターを倒す人たちのことだよね?

 ケガをすることが多くて頻繁に使うから話題になる……ってことなのかな?

 噂になって注文が増えたら手が足りなくなるな。

 今のうちにゴレムをもっと沢山作って、錬金小屋を拡張しておくか。


***


「カ、カズマ様! たたっ、大変です!」


 その事件が起きたのは、大金をゲットした翌日の朝だった。

 ログハウスのリビングでカモミールティを飲みながら、のんびりとした朝のひと時を堪能していたら、血相を変えたアルレーネ様がやってきたのだ。


「どうしたんですか?」
「とにかく大変なんです! 裏庭に急いでください!」
「とりあえず落ち着いてください。ほら、お茶を飲んで」
「ごむ(どうぞ)」


 スッとゴレムがカモミールティの入った【木のコップ】を差し出す。

 どうしようか悩むアルレーネ様だったけど、コップを受け取ると、少し眉をひそめながらも、そっと口をつけた。

 こくこくと喉に流しこみ、ふぅと一息つく。


「……美味しいです」
「それは良かった」


 どうやら落ち着いた様子なので、一緒に裏庭へと向かうことにした。

 庭に向かう途中でアルレーネ様に尋ねる。


「それで、一体何が?」
「神樹様に異変が起きているんです」
「……異変?」


 って、何だろう?

 もしかして、また枯れてしまったとか?

 だけど、精霊さんたちは変わらず元気よく飛び回っている。

 それに、枯れるなんて事態が起きてたらハクが黙っていないだろうし。


「おお、来たかカズマ」


 裏庭には、すでにハクが来ていた。


「神樹に異変が起きたって聞いたけど?」
「ああ、アレだ」


 ハクが神樹を見上げる。

 彼の視線の先に不思議なものがあった。

 なんと──枝先に大きな赤い実がぶら下がっていたのだ。

 つやつやとした光沢がある、丸い実。

 見た目は完全にりんごだ。

 なんだか甘い香りも漂っているし、凄く美味しそう。

 ……え? 異変って、このりんごのこと?


「み、見てくださいカズマ様! あれ! 神樹の実! 神樹の実ですよ!」


 アルレーネさんがりんごを指さし、まくしたてる。

 だけどいまいち凄さが分からない。


「珍しいんですか?」
「ええっ!? 珍しいとか、そんなレベルじゃないですよっ! はるか昔、この実を巡って精霊界と魔界が大戦争を起こしたことがあるんですからっ!」
「えっ、ただのりんごみたいな見た目なのに?」


 とてつもないりんごなんだな。

 だけど、女神様は「あらゆる生を育む、神が宿りし大樹」って言ってたし、そんな神樹が実らせた果実なんだから、大騒動になって当然か。

 アルレーネさん曰く、そのりんご──神樹の実は、ここ百年の間、一度も実ったことがないという。

 なるほど。そりゃあ驚くな。

 そんな神樹の実を、風の精霊さんがひとつ持ってきてくれた。

 どうやら僕に食べてほしいらしい。


「いいの?」


 そう尋ねると、精霊さんはコクリと頷いた。

 精霊さんの言葉を代弁するように、アルレーネ様が笑顔で続ける。


「神樹様が以前の姿を取り戻したのは、他ならぬカズマ様のおかげですからね」


 なんだか恐れ多い気がするけど、精霊姫様が良いっていうのなら、大丈夫か。

 神樹の実を受け取り、恐る恐るかじってみる。


「……あ」


 シャリッとした歯ごたえの後、口いっぱいに甘い果汁が広がった。

 蜜のような濃い甘さと、ほんのりとした酸味。

 あまりの美味しさに、思わず目を細めてしまう。


「う~……なにこれ、美味っ!」


 これはどう表現すればいいんだろう。

 甘さが凝縮されてるっていうか、瑞々しさが限界突破しているっていうか。

 歯ごたえもしっかりしているし、こんなりんご食べたことがない。


「みんなも食べてみてよ。すっごく美味しいから」
「……わ、私たちも?」
「良いのか?」


 顔を見合わせるアルレーネ様とハク。

 そんなふたりに精霊さんが神樹の実を運んできた。

 渡された神樹の実をしばし、まじまじと見つめるふたり。


「で、では……」
「いただこう」


 そう言って、ふたりは同時に口をつける。

 アルレーネ様は上品に慎ましく。

 ハクは丸ごと口の中に。


「あっ! これは……!」
「おお! これはマナの量が濃いな! ひとつで数ヶ月分ほどのマナが蓄えられそうだぞ!」


 感嘆の声を漏らすアルレーネ様とハク。

 だけど、できれば効能より美味しさで驚いて欲しかったな。


「しかし、どうしましょう? かなりの数の神樹の実がなってますけど……」


 神樹を見上げて首を捻ってしまった。

 これを巡って戦争が起きるくらいのありがた~いものみたいだけど、収穫しても良いものなのだろうか。


「頂戴しましょう」


 アルレーネ様が続ける。


「このまま放っておいても熟れすぎて地面に落ちるだけですし」
「確かにそうですね。だめにしちゃうのは失礼だ」


 収穫して貯蔵庫に保管しておくのが吉か。

 というわけで、ゴレムや住民たちを呼び、農園総出で神樹の実を収穫することにした。

 とはいえ、この神樹は普通のりんごの木とはわけが違う。

 凄まじく巨大なのだ。

 簡単には手が届かないので、製作スキルで【木のはしご】を作り、大掛かりな収穫作業をスタートさせた。

 それでも届かない高い場所の実は、精霊さんたちの助けを借りてどうにか摘み取った。

 そうして1時間ほどで、収穫できた神樹の実は【大きな箱】5つ分ほど。

 まだ青いものも沢山あるし、あれが赤くなったらまた収穫だな。


「しかし、農園も随分と大きくなったものだな」


 神樹の実で一杯になった【大きな箱】を貯蔵庫に運んだ後、辺りをみながらハクがしみじみそう切り出した。


「そうですね」


 アルレーネ様が嬉しそうに続く。


「町との貿易を始めたわけですし、そろそろ正式な村として宣言したほうが良いと思いますよ」
「……ん~、村かぁ」


 そう言えばトトさんも「この農園は何と呼べばいいんだ?」と困ってたっけ。

 村として正式に立ち上げるには、名前云々よりも手続きが必要だって思ってたけど、名前が一番大事なのかもしれない。

 だけど、命名にするにしても何にしよう?

 動物が多いからといって「動物の村」だとひねりがない。

 あ、周りが森だから「どうぶつの森」は──やめておこう。

 色んな意味で危険だ。

 他に、ここにあるもので象徴的なものといったら──。


「……ん?」


 視線を下ろした僕の目に、先程食べていた神樹の実が目に映る。


「そうだ。『神樹の里』っていうのはどうでしょう?」


 そう提案してみたら、アルレーネ様の顔がパッと明るくなった。


「すごく素敵な名前だと思います!」
「神樹はこの農園のシンボルだからな。我も良いと思うぞ」


 ハクもそう続く。

 オークさんやゴレムたちも異論は無いようで、皆一様に首肯してくれた。


「それじゃあ決まりだな。この農園は、今日から『神樹の里』だ!」
「おおお!」
「神樹の里!」
「素晴らしき我らの里だ!」


 誇らしげに名を叫ぶ住民たち。

 ふと見たログハウスの裏に見える神樹の葉が、風にゆれてザワザワとざわめいていた。

 なんだか神樹も「良いと思う」と喜んでいるように思えた。