この頭にふたつの角を携えた女性は、トトさんといった。
なんでも、森の北にある町を拠点にして、周辺の町や村を相手に商売をしているらしい。
彼女は「とある理由」でモンスターに襲われることがなく、この森を交易路として使っているのだとか。
「だけど、何故か今回は襲われちまってさ。いやぁ、参ったぜ」
トトさんが楽しそうにケラケラと笑う。
命の危険が迫っていたのに、あっけらかんとした性格の人なんだな。
そんなトトさんは今、荷馬車を引いていた馬にまたがり、僕たちと一緒に農園に向かっている。
ブラックウィドウのせいで荷馬車の車輪が壊れてしまったらしく、農園で修理してあげることになったのだ。
ちなみに壊れた荷馬車は、オークさん全員で担いで運んでいる。
流石は力自慢のオークさん。
スケールが違う。
そんなオークさんたちを見ながら、感心したようにトトさんが言う。
「しかし、カズマさんは凄いな! あんな危険なモンスターを手なづけているなんて!」
「……え? 危険?」
ハクの背中に乗った僕は、キョロキョロと辺りを見渡す。
どこに危険なモンスターがいるのかと探してしまったけど、多分、オークさんのことを言ってるんだろうな。
もしかすると、あまりモンスターに詳しくないのかもしれない。
「トトさんはいつもひとりで森に?」
「そうだぜ。いつもこの森を交易路で使ってるんだ。モンスターに襲われることがないからさ」
「その『モンスターに襲われない理由』って何なんです?」
「あたし、竜人族なんだよ」
「竜人?」
「そ。体の中にドラゴンの血が流れてるんだ」
「……ええっ!?」
びっくりしてハクの背中から転げ落ちそうになってしまった。
広義で言えば、彼女もオークさんと同じ「亜人」という分類で、人と動物の混血種なのだという。
しかし、ドラゴンか……。
すごい単語が飛び出してきたな。
異世界だから存在するのではとは思っていたけど、本当にいるんだ。
「ドラゴンはとても珍しいモンスターなのだぞ、カズマ」
不思議そうにしていた僕の空気を察してか、ハクがそう教えてくれた。
「ドラゴンは険しい山脈の頂上に住んでいて、人里にはめったに降りてこない。我も今まで一度もお目にかかったことはないほどだ」
「へぇ、そんなに珍しいんだ」
「純血のドラゴンは、おとぎ話レベルだからな」
そう補足してくれたトトさんが続ける。
「あたしもシャイなほうだし、ドラゴンの血は人嫌いの特性があるのかもしれないね」
「そ、そうなんですね」
あはは、と愛想笑いを浮かべる僕。
トトさんがシャイ?
超活発的と言うか、陽キャの空気を感じるけど……。
そんな竜人族について、トトさんがあれこれ教えてくれた。
「竜人族は武に長けたヤツが多いんだぜ? 一流の技術を持つ武芸者に与えられる『剣聖』や『拳聖』の称号を持っているヤツのほとんどが竜人族なんだ」
「じゃあ、同じ竜人族のトトさんもお強いんですか?」
「えっ、あたしか? ん~……前に商売仲間を襲った盗賊団をひとりでぶっ潰したことはあるけど、運動オンチだからなぁ」
「ひ、ひとりで……?」
それで運動オンチなの?
これってもしや、助けに入らなくても良かった系ですかね?
「あ、お屋形様~」
と、先頭を行くヒサシが声をかけてきた。
「見て見て! 農園に着いたよ!」
彼に促されてそちらに目を向けると、木々の隙間から農園が見えていた。
待ってましたと言わんばかりに、トトさんが声をあげる。
「お!? カズマさんの農園に着いたのか!?」
「はい。あれが僕の農園です」
「おお──お、おおお!?」
はじめは驚いていたトトさんの声のトーンが、次第に間の抜けた高さに変わっていく。
「い、いやいやいや! ちょっと待て! なんつ~デカさの農園だよ!?」
「え? そうですか?」
この世界の農園を見たことがないから、規模感が良くわからない。
呆気にとられた顔でトトさんが続ける。
「凄い農園に住んでたんだな。カズマさんは昔からここに住んでるのか?」
「いえ、農園暮らしを始めたのは半年前くらいからですね」
「は、半年? てことは、この農園は──」
「はい。半年かけて僕が作りました」
「……おおう」
ついには魂が抜けたような顔になるトトさん。
なんだか面白い。
農園に到着すると、ゴレムたちがいつものように出迎えてくれた。
トトさんをログハウスまで案内するよう頼むと、彼女はゴレムを見るやいなや、「な、なんだこの可愛い生き物は!?」と目を丸くしていた。
どうやらゴーレムはこの世界でも珍しいらしい。
そんなトトさんにはログハウスでゆっくりしてもらい、僕はオークさんたちと一緒に荷馬車を鍛冶場へと運ぶことに。
修理は僕には無理なので、職人のサラさんにお願いするつもりだ。
「……ん~、車軸が折れちゃってますね」
サラさんに荷馬車を見てもらったところ、車体を乗せている車輪の車軸が真ん中からポッキリ折れていることがわかった。
「ちょっと修理は難しいかもしれません。車軸の代わりになるものがあるといけそうですが……」
「代わり、ですか」
ううむ、と考える僕。
荷馬車を作る「馬車職人」なら車軸くらい作れるかもしれないけど、そんな人は農園にいない。
豊富にある木材を使って加工できれば良いんだけど──。
「……あ」
ふと、僕の脳裏にとあるアイデアが浮かんだ。
「車軸だったら作れるかも」
「え? 作れる? お屋形様がですか?」
「はい。僕のスキルを使えば、多分」
成功するかわからないけど、とりあえず試して見る価値はある。
【神樹カバン】の中から【硬い木】を取り出し、折れた車軸を見ながら、折れていない状態をイメージする。
そして──開墾スキルの【造形】を発動させた。
すると、角材がきらめき、細長い【荷馬車の車軸】が完成した。
「……えっ!? 車軸が出てきた!?」
サラさんがギョッとした顔をする。
「お、お屋形様、今のは……」
「【造形】っていうスキルで、対象の素材を思い描いた形に変化させることができるんです」
木製の車軸だったら【硬い木】で加工できると踏んだんだけど、正解だった。
やっぱり【造形】スキルって便利すぎる。
舌をチロチロと出しながら、驚いた声でサラさんが続ける。
「いやはや、凄いスキルをお持ちだと聞いていましたが……これほどのスキルをお持ちだとは」
「あはは、ありがとうございます」
まぁ、女神様に貰った力ですけどね。
というわけで、完成した【荷馬車の車軸】をサラさんに渡し、荷馬車を修理してもらうことに。
小一時間ほどで完成するそうなので、僕はトトさんがいるログハウスで待つことにした。
なんでも、森の北にある町を拠点にして、周辺の町や村を相手に商売をしているらしい。
彼女は「とある理由」でモンスターに襲われることがなく、この森を交易路として使っているのだとか。
「だけど、何故か今回は襲われちまってさ。いやぁ、参ったぜ」
トトさんが楽しそうにケラケラと笑う。
命の危険が迫っていたのに、あっけらかんとした性格の人なんだな。
そんなトトさんは今、荷馬車を引いていた馬にまたがり、僕たちと一緒に農園に向かっている。
ブラックウィドウのせいで荷馬車の車輪が壊れてしまったらしく、農園で修理してあげることになったのだ。
ちなみに壊れた荷馬車は、オークさん全員で担いで運んでいる。
流石は力自慢のオークさん。
スケールが違う。
そんなオークさんたちを見ながら、感心したようにトトさんが言う。
「しかし、カズマさんは凄いな! あんな危険なモンスターを手なづけているなんて!」
「……え? 危険?」
ハクの背中に乗った僕は、キョロキョロと辺りを見渡す。
どこに危険なモンスターがいるのかと探してしまったけど、多分、オークさんのことを言ってるんだろうな。
もしかすると、あまりモンスターに詳しくないのかもしれない。
「トトさんはいつもひとりで森に?」
「そうだぜ。いつもこの森を交易路で使ってるんだ。モンスターに襲われることがないからさ」
「その『モンスターに襲われない理由』って何なんです?」
「あたし、竜人族なんだよ」
「竜人?」
「そ。体の中にドラゴンの血が流れてるんだ」
「……ええっ!?」
びっくりしてハクの背中から転げ落ちそうになってしまった。
広義で言えば、彼女もオークさんと同じ「亜人」という分類で、人と動物の混血種なのだという。
しかし、ドラゴンか……。
すごい単語が飛び出してきたな。
異世界だから存在するのではとは思っていたけど、本当にいるんだ。
「ドラゴンはとても珍しいモンスターなのだぞ、カズマ」
不思議そうにしていた僕の空気を察してか、ハクがそう教えてくれた。
「ドラゴンは険しい山脈の頂上に住んでいて、人里にはめったに降りてこない。我も今まで一度もお目にかかったことはないほどだ」
「へぇ、そんなに珍しいんだ」
「純血のドラゴンは、おとぎ話レベルだからな」
そう補足してくれたトトさんが続ける。
「あたしもシャイなほうだし、ドラゴンの血は人嫌いの特性があるのかもしれないね」
「そ、そうなんですね」
あはは、と愛想笑いを浮かべる僕。
トトさんがシャイ?
超活発的と言うか、陽キャの空気を感じるけど……。
そんな竜人族について、トトさんがあれこれ教えてくれた。
「竜人族は武に長けたヤツが多いんだぜ? 一流の技術を持つ武芸者に与えられる『剣聖』や『拳聖』の称号を持っているヤツのほとんどが竜人族なんだ」
「じゃあ、同じ竜人族のトトさんもお強いんですか?」
「えっ、あたしか? ん~……前に商売仲間を襲った盗賊団をひとりでぶっ潰したことはあるけど、運動オンチだからなぁ」
「ひ、ひとりで……?」
それで運動オンチなの?
これってもしや、助けに入らなくても良かった系ですかね?
「あ、お屋形様~」
と、先頭を行くヒサシが声をかけてきた。
「見て見て! 農園に着いたよ!」
彼に促されてそちらに目を向けると、木々の隙間から農園が見えていた。
待ってましたと言わんばかりに、トトさんが声をあげる。
「お!? カズマさんの農園に着いたのか!?」
「はい。あれが僕の農園です」
「おお──お、おおお!?」
はじめは驚いていたトトさんの声のトーンが、次第に間の抜けた高さに変わっていく。
「い、いやいやいや! ちょっと待て! なんつ~デカさの農園だよ!?」
「え? そうですか?」
この世界の農園を見たことがないから、規模感が良くわからない。
呆気にとられた顔でトトさんが続ける。
「凄い農園に住んでたんだな。カズマさんは昔からここに住んでるのか?」
「いえ、農園暮らしを始めたのは半年前くらいからですね」
「は、半年? てことは、この農園は──」
「はい。半年かけて僕が作りました」
「……おおう」
ついには魂が抜けたような顔になるトトさん。
なんだか面白い。
農園に到着すると、ゴレムたちがいつものように出迎えてくれた。
トトさんをログハウスまで案内するよう頼むと、彼女はゴレムを見るやいなや、「な、なんだこの可愛い生き物は!?」と目を丸くしていた。
どうやらゴーレムはこの世界でも珍しいらしい。
そんなトトさんにはログハウスでゆっくりしてもらい、僕はオークさんたちと一緒に荷馬車を鍛冶場へと運ぶことに。
修理は僕には無理なので、職人のサラさんにお願いするつもりだ。
「……ん~、車軸が折れちゃってますね」
サラさんに荷馬車を見てもらったところ、車体を乗せている車輪の車軸が真ん中からポッキリ折れていることがわかった。
「ちょっと修理は難しいかもしれません。車軸の代わりになるものがあるといけそうですが……」
「代わり、ですか」
ううむ、と考える僕。
荷馬車を作る「馬車職人」なら車軸くらい作れるかもしれないけど、そんな人は農園にいない。
豊富にある木材を使って加工できれば良いんだけど──。
「……あ」
ふと、僕の脳裏にとあるアイデアが浮かんだ。
「車軸だったら作れるかも」
「え? 作れる? お屋形様がですか?」
「はい。僕のスキルを使えば、多分」
成功するかわからないけど、とりあえず試して見る価値はある。
【神樹カバン】の中から【硬い木】を取り出し、折れた車軸を見ながら、折れていない状態をイメージする。
そして──開墾スキルの【造形】を発動させた。
すると、角材がきらめき、細長い【荷馬車の車軸】が完成した。
「……えっ!? 車軸が出てきた!?」
サラさんがギョッとした顔をする。
「お、お屋形様、今のは……」
「【造形】っていうスキルで、対象の素材を思い描いた形に変化させることができるんです」
木製の車軸だったら【硬い木】で加工できると踏んだんだけど、正解だった。
やっぱり【造形】スキルって便利すぎる。
舌をチロチロと出しながら、驚いた声でサラさんが続ける。
「いやはや、凄いスキルをお持ちだと聞いていましたが……これほどのスキルをお持ちだとは」
「あはは、ありがとうございます」
まぁ、女神様に貰った力ですけどね。
というわけで、完成した【荷馬車の車軸】をサラさんに渡し、荷馬車を修理してもらうことに。
小一時間ほどで完成するそうなので、僕はトトさんがいるログハウスで待つことにした。



