お詫びチートではじめる異世界農園暮らし~【製作】&【開墾】スキルで好きに開拓したら、精霊姫やモンスターが住まう最強の土地ができました~

 眩しい光が消えていくと、僕は知らない場所に立っていた。

 鬱蒼とした森の中──ではなく、どこかの部屋の中だ。

 天井は丸太を組んだような作りで、壁も床も全て木で出来ている。

 小さな窓からは心地よい日差しが差し込み、青々とした木々が揺れているのが見えた。

 ヒノキの香りが漂う、おしゃれなログハウスだ。


「……ここが、異世界?」


 あまりにも異世界という雰囲気がなかったので、戸惑ってしまった。

 生活の拠点としてサクツチ様が用意してくれたのかな?

 森の中にポンと放り出されても、困っちゃうからね……。

 板張りの広い室内にはふわふわのカーペットが敷かれていて、大きな木製のテーブルが置かれている。

 そのテーブルの近くには、大人がゆったり横になれる大きいソファーも。

 天井からは小さいハンモックも下がっている。

 うん、すでに最高すぎる。

 ハンモックがあるログハウスって、憧れるよね。

 リビングの隣には十分なスペースが確保されているキッチンもあった。

 大きな流し台に、調理器具が収納されている棚。

 おまけに、立派な冷蔵庫まである。

 冷蔵庫なのに木で出来ていて、ログハウスの雰囲気と合っている。


「わ、冷たい」


 冷蔵庫を開けてみると、ひんやりと冷たかった。

 ちゃんと冷えてるってことは、電気が来てるのかな?

 でも、ここって異世界だよね?

 冷蔵庫の裏を見てみたけど、コンセントらしきものはなかった。

 ううむ……どうやって冷やしているんだろう?

 もしかして、魔法とか?


「だけど、これはありがたいね」


 冷蔵庫があるということは、食料品の保管ができるということ。

 常温ではすぐ駄目になっちゃう食べ物も多いし、非常に助かる。

 まぁ、今は空っぽだけど。そこは自分で確保してねってことなんだろう。

 蛇口を捻ったら水は出たし、まずは食べ物の確保を考えるべきか。

 そんなことを考えながらリビングに戻り、ふと、窓に映る自分の姿を見てびっくりした。

 なんと、20歳くらい若返っていたのである。


「……ウ、ウソでしょ!? めちゃくちゃ若い!」


 鏡に食らいつき、まじまじと自分の顔を見てしまった。

 ハリのある茶色がかった短めの髪に、シワひとつないつやつやとした肌。

 くりっとした目はかつての自分の目よりも大きい気がする。

 かなりの童顔で、庇護欲をくすぐられるような可愛さがあるな。

 着ている服は、白いシャツに黒いズボン。

 体型もすらっとしていて、いつものメタボ腹は消え失せていた。

 何気にこれが一番嬉しいかも。


「マジで若い頃に戻ってるよ」


 それに、異様に身体が軽かった。

 10年近く僕を悩ませていた倦怠感もなし。

 部屋の中を軽く走って腕立て伏せをやってみたけど、全く疲れなかった。

 今までの僕では考えられなかったことだ。


「すごい! 全然疲れないし、苦しくもない! 健康な身体に戻ったんだ!」


 健康な身体って、最高に素晴らしいな!

 神樹との魂のリンクが切れて病弱じゃなくなったからというのもあるけど、サクツチ様に「健康体」を貰ったからだろうな。

 ありがとう、サクツチ様!


「……あ、そう言えば『第二の人生に役立つ能力』も貰ってたな」


 どういう能力なのか教えてくれなかったけど、確かめてみよう。


「え~と……確か『農地開拓』だったっけ?」

〈音声認証完了。スキルウィンドウを起動します〉


 電子音声のような声が聞こえた後、光の板のようなものが目の前に現れた。

 ゲームで良く目にする、ステータス画面に似ている。

 僕がゲームを好んでいたことはサクツチ様も知ってたみたいだし、配慮してくれたのかな?

 何にしても、わかりやすくてありがたい。

 とはいえ、現れたウインドウにはゲームのような自分のステータスが表示されているわけではなく、ふたつのアイコンがあった。

 なんだかスマホの画面みたいだ。

 アイコンのひとつは、人の形をしたピクトサイン(トイレのマークみたいなやつ)が描かれている。

 もうひとつは、鍬のマーク。

 鍬マークをタップしてみると『製作』という文字と説明文が浮かび上がった。


 製作:神樹ポイント(SP)を消費して新しい製作レシピを解放できる。


「……製作レシピ?」


 何かを作れるのか?

 ダブルタップして開いてみると、ずらりと文字が並んだ画面が表示された。

 【石の斧】に【石の鍬】。他にも【鉄のナイフ】なんてものもある。

 なるほど。これはいろいろな「道具」を作るための「製作レシピ」か。

 だけど、全部グレーアウトしている。

 試しに【収納カバン】を押してみると「アンロックしますか?」と文字が表示された。


「ああ、なるほど。アンロックしてレシピを解放するわけね」


 試しに解放してみるか。

 表示されている「解放する」ボタンを押してみたが、「SPが足りません」と言われてしまった。

 解放するには「神樹ポイント」というものが必要らしい。

 なんだか本当にゲームみたいだな。

 とりあえず製作レシピの解放は保留にして、もうひとつの人形のマークをタップしてみる。


 開墾:神樹ポイント(SP)を使って開拓に役立つスキルを発動できる。


 どうやらこっちは身体能力を強化したりできるらしい。

 農地を開拓するときに使えそうだ。

 というか、こっちでも神樹ポイントが必要みたいだけど、どうやって手に入れるんだろう?

 説明に書かれていた神樹ポイントという文字に触れてみると、新しいウインドウが表示された。


 神樹ポイント:神樹を育て、息吹を守る守護者に与えられる専用ポイント。


 だいぶ遠回しな言い方だけど、ようは「神樹の世話をすればもらえるポイント」ってことだよね?

 サクツチ様は「神樹の再生は和真様にとって大きな助けになるはず」って言ってたけど、本当に助けになりそうだな。

 でも、その神樹ってどこにあるんだろう?

 ログハウスの玄関を開け、外に出てみた。


「……うわ、森だ」


 ログハウスの周囲は背の高い木々に囲まれていた。

 玄関の前には小さな庭みたいな空間があるけれど、完全に森の中だな。

 とはいえ、鬱蒼とした不気味さはない。

 小鳥のさえずりが穏やかな風に乗って運ばれてきているし、木々の隙間から差し込む陽の光はすごく心地がよい。

 深呼吸してみたら、森の香りが胸いっぱいに広がった。

 ああ、これは気持ちがいいな。


「おっと、いかんいかん。神樹の場所を確認しなきゃ」


 気持ちよくて危うく寝転んでしまうところだった。

 ログハウスの裏側に回ってみる。

 すると、玄関前のスペースよりも広い大きな庭があった。

 子どもが走り回れるくらいの広さがあって、蓮の花が咲いた小さな池がある。

 庇が付いた縁側もあって、ここでのんびりするだけで癒やされそうだ。

 そんな庭先に、どこか神々しさがある巨大な木が一本そびえ立っていた。

 幹は大人が数人がかりで手を繋いで抱えきれないほど太くて、枝は天空へと伸びている。

 圧倒的な威厳を放っている──けど、その巨木は明らかに朽ちかけていた。

 表皮はボロボロだし、枝にはひとつも葉っぱがついていないし。

 いまにも崩れ落ちてしまいそうな雰囲気すらある。


「間違いない。これがサクツチ様が言っていた神樹だな」


 人々の心から忘れ去られ、朽ちかけているという神樹。

 その神樹と魂がリンクしてしまっていたせいで、僕は正体不明の体調不良に悩まされていた。

 実際に神樹を見て納得してしまった。

 ここまで酷い状態だったら、そりゃあ僕も死にかけるよな。


「安心して。僕がしっかり芽吹かせてあげるから」


 僕の魂と神樹がリンクしちゃったのは手違いだったけど、朽ち果てようとしているのは誰のせいでもないからね。

 神樹はある意味、僕の分身みたいなものだし、どうにかしてあげたい。

 神樹の幹にそっと触れてみた。

 すると、目の前に小さなウインドウが現れる。


『神樹ポイントを100ポイント得ました』
『初回特典【神樹カバン】を手に入れました』


 おまけに、小さな肩掛けバッグがドサリと空から落ちてきた。

 どうやら100SPとカバンをゲットしたらしい。

 いや、まだ何もやってませんけど……?

 しかも初回特典って。

 いきなり俗っぽい表現、やめてもらえませんかね?

 だけどまぁ、SPが手に入ったし、制作レシピをアンロックできそうだ。

 カバンまで頂いて、ありがとうございます、サクツチ様。神樹様。


「しかし、何からアンロックしようかな……?」 


 農園を作るためには森を切り拓いていく必要があるから、木を切ったり掘ったりする道具が必要になる。

 だけど、まずは神樹の世話をする道具を優先したほうがいいか?

 だってほら、SPが枯渇しちゃったら何もできなくなるし。

 開墾のスキルは発動するたびにSPを消費するみたいだし、ポイントは溜めておいたほうがいいだろう。

 てなわけで、まずは神樹を世話できそうな道具をアンロックしてみることに。


「でも、世話ってなにをすればいいんだ? 木って確か成木になったら自然降雨でOKだったよね。乾燥が続いたら水をやらなきゃだと思うけど……」


 てことは、水かな?

 製作アイコンをダブルタップして、レシピ表を開いた。