ラブラブ夫婦のクリスマス・イブの予定

「三者面談だと……?」
 日に日に寒さが増し、街中にはイルミネーションがきらめく季節となった。行き交う人々の姿もどこか足早で、年の瀬が近づいている。
 乃彩(のあ)は、学園から渡された1枚のプリントを見て少し悩み、父に連絡をしたものの、最終的には遼真(りょうま)に渡すべきだという結論にいたった。
 夕食を終え、プリント片手に遼真の部屋に向かい、それを手渡した瞬間、彼の顔が一気に曇った。
「はい。わたくしも高等部の3年ですから、卒業後の進路についての最終確認のようなものです」
 二学期制の宝暦(ほうれき)学園では、冬期休業が12月の半ばから始まり、そこから年内の間、保護者と生徒と担任の三者面談が行われる。1年と2年は希望者のみであったが、3年ともあれば全員強制的である。
 しかも3年は後期の期末試験はないため、中間試験までの結果で成績をつけるというのもあり、中間試験が終わったこの時期に実施されるのだ。
「おまえの保護者は狐だろ?」
 遼真は乃彩の父親に対して相変わらずな言い方だが、それでも父の前では猫をかぶっているのは見事なものだ。
 そして(りん)も遼真にそう呼ばれているのを知っているようなそぶりをみせつつ、何も言わないのだから、お互いに化かし合いでもしているのだろう。
「父に連絡をしましたが、わたくしはすでに春那(はるな)の家から抜けておりますので、日夏(ひなつ)家の者に頼めと……」
 とはいえ、電話ごしの父の声はどこか揶揄(からか)いを含んでいたような気がする。
「ちっ、仕方ないな」
 そこでやっと遼真はプリントにまじまじと目を通し始めた。面談の希望日を回答しなければならず、その答えを加味して、面談日時の調整を担任が行うことになっている。
「遼真様もお忙しいとは思いますが、どの日なら都合がよろしいでしょうか……」
 遠慮がちに乃彩が問いかけるのは、どこか遼真が不機嫌だからだ。
 いきなり乃彩の保護者として三者面談に出ろと言われたのだから、仕方ないのだろう。いや、ここは百合江(ゆりえ)に頼むという手もある。
「お忙しいのであれば、おばあさまにお願いしますので……」
 乃彩の言葉を制するように手をあげた遼真は、ため息と共に言葉を吐き出す。
「この日だ」
 面談可能日は6日ほど設定されていたが、そのうちの一つを遼真がトンと指さす。
 それは、12月24日。
「24日ですか?」
「ああ、その日は仕事も入れていない。総会もなかったはずだ。それ以外の日程は予定が詰まっているからダメだ」
 用が済んだと言わんばかりに、遼真がプリントを押し付けてきた。
「あの、時間帯は? 何時でも大丈夫ですか?」
 忙しい遼真だから、合間の時間を縫って対応してくれるのだろう。
「その日は1日……いや、できるだけ早い時間にしてくれ」
「わかりました。そのように書いて提出します。ありがとうございます」
 乃彩が礼を言って立ち去ろうとすれば、遼真は「待て」と呼び止める。
「おまえ、その日の予定は?」
「その日? どの日ですか?」
 相変わらず遼真の話は言葉が足りない。そこを補完してくれるのが啓介(けいすけ)の役目なのだが、残念ながら彼はこの場にはいない。
「だから24日だ。いつもの補習はないのか?」
 夏休みの前半が実技の補習で潰れた過去を指摘しているのだろう。
「補習はありますが、それは休みが始まってすぐですので。この日は何もありません」
 乃彩は恥ずかしくなり、それを誤魔化すためにも少しだけ声を大きくしてしまった。しかし遼真はどこ吹く風で気にしていない様子。
「そうか。だったら、その後はデートだな?」
 その後というのは三者面談が終わってからを指しているのだろうか。
「はい?」
 突然、デートの話題を触れられ困惑した乃彩は、目を大きく瞬いた。
「おまえな……」
 どこか遼真が呆れたように息を吐く。
「24日。世間じゃクリスマス・イブだろ? 仲の良いラブラブ夫婦はデートをする日なんだよ」
 なるほど、と乃彩は大きくうなずいたのは、遼真の目的が理解できたからだ。
「わたくしたちの関係が、契約によるものだと周囲に知られないようにするための偽装工作ですね」
 乃彩の言葉に遼真ががっかりしたように項垂れたのは、言うまでもない。

【おわり】

※遼真は最初からデートするつもりで24日の予定を空けていました。