「え、ええと……。自分では、よくわからないのですが……」
ここは、どう答えるのが正解なのだろう。
私は優しい人間です、なんて言ったところで普通は信用はしてもらえないだろうし。
かといって、私は優しくない人間です、と宣言してもメリットはないと思う。
「答えられないのですか?」
女性の口から漏れた威圧的な声に、またしても全身が強張る。
もしかしてこれは、すでに面談が始まっているのだろうか。
「答えられないのでしたら、質問を変えましょう。あなたは、『優しさ』とはなんだと思いますか?」
「へ……」
優しさとは何か。
これもまた難しい質問だと思う。
優しさといえば、誰かを思いやること。誰かのために何かをしたり、相手の気持ちに寄り添ったりすること。
だけど、本当の優しさというのはそんな単純なものじゃないと思う。
たとえこちらが良かれと思ってやったことでも、それが相手にとってプラスになるとは限らない。
むしろ、こちらが要らぬお節介を焼くことで、不快に思う人だっているはず。
そう考えると、優しさというのはやはり一言で答えられるようなものじゃないと思う。
「……す、すみません。今の私には、まだわかりません」
素直にそう返すと、こちらを見つめる女性の目が、一際鋭くなったような気がした。
ああ、これはやっぱりもうだめだ。
仕事を紹介してくれた人には申し訳ないけれど、また一から別の働き口を探さなければ。
もはや諦めの境地に達する私。
しかし女性は次の瞬間、思いもよらぬことを口にした。
「良いでしょう。それでは、私の後について来てください。まずは屋敷の中を案内します」
「え……?」
呆気に取られる私には構わず、女性はくるりと背中を向けて玄関扉の方へ向かっていく。
「どうしたのですか? 早くこちらへ」
有無を言わさぬ声でそう言われて、私は慌てて背筋を伸ばす。
「はっ……はい! 失礼します!」
訳がわからないまま、私は彼女の後を追って敷地の中に足を踏み入れた。
これは一体どういうことなのだろう。
まさかとは思うけれど、先ほどのやり取りで面談はパスできたということなのだろうか。
(でも、私……ロクな受け答えもできなかったのに)
改めて思い返してみても、自分が認めてもらえるような発言をした覚えはない。
面談は必要最低限の確認だけで、緊張する必要はないとあらかじめ聞いていたけれど、本当にそうだったということだろうか。
とにもかくにも、せっかく掴んだこのチャンスを逃すわけにはいかない。
私はお腹の底に力を入れ、自分自身を奮い立たせた。



