【書籍12/26発売★】曰く「衰えた」おっさん騎士団長、引退して悠々自適な旅に出る~一人旅のはずが、いつのまにか各界の才能たちに追われてるんだが?~


「はんっ、どうせ寝起きだ。いいから、やるぞ!」
「ま、たしかに一対三じゃ勝ち目ないわな」
「まったくだ。罠に頼るような雑魚ならなおさらな!」

剣や斧といった武器を手にした男たちは、一斉に俺の方に襲い掛かってくる。

中には、かなり動きが速いものもいたが、反応できないほどではない。
俺は彼らの攻撃をぎりぎりまで引き付けてから、『身体強化』を利用して、高く跳び上がる。

「『身体強化』かよ、へっ、基礎魔法しか使ってこないなんて雑魚だな、こいつ。串刺しだ!!」

どうやら相手の一人は俺と同じ風属性使いらしい。
その握る長巻の先に風の渦を纏って、俺のいる上空に風の刃を放ってきて、これには目を見開かざるをえない。
この感じ、ただの山賊ではない。それなりの練度がなければ、ここまでの技は放てない。
しかも、そこへ、他の連中が放っただろう土や砂まで混ざってくるのだから、なかなかに厄介だった。

「見えにくいなぁ」

俺はそう呟きつつも、空中で態勢を整える。

そのうえで一度屈みこむような姿勢になったのち、俺は長尺の剣を大きく振り上げる。
そして振り下ろすまさにその瞬間に、上半身に『身体強化』を使った。

すると、どうだ。猛然と俺のほうへと向かってきていた風の刃は立ち消えになり、土や砂はといえば、むしろ彼らのほうへと降り注いでいる。
こうなったら、あとはもう難しくない。
俺は近くの木々を一度足場にすると、地面に着地して、そのまま攻撃を仕掛ける。

「な、いつのまに!?」

土埃により上空の視界が遮られていたのを利用した格好だ。
警戒されていないところから攻めれば、相手の意表を突くのはたやすい。

彼らは、まったく反応できていなかった。俺はその隙に、相手の首元に刀の峰を打ち込む。

「つ、強すぎる……。『身体強化』以外にも魔法を使ってやがったか?」

そして、最後の一人となった男が武器である斧を構えながらこう呟くから俺は首を横に振る。

「いいや、それだけだ」
「基礎魔法しか使ってないのに、これだと……? じゃあなんで罠なんてーー」

男は驚いたように目を大きく見開く。

「慎重派なんだよ」

それにこう答えつつも俺は、男の首元に剣を突きつけた。

「目的はなんだ? 言わないと首を刎ねる」
「ま、待ってくれ。お、追剥だ。いいテントだったから、なにか持っていると思った。寝息まで聞こえていたから……」
「悪いが、眠りは浅いほうなんだ」

有事に備えて、いつでも起きられるようにしておく。
これも、すぐに眠れることと同じくらい、騎士団員には必須のスキルだ。
まぁ歳を重ねて、朝には弱くなってきたけどね。とにかく、こんな奴らになら情けをかけてやる必要もなさそうだ。
俺は男の背後へと一足飛びに移動して、その首裏を打ちつける。

「う、うが……」

うめき声を聞いてから、一つため息をついた。
これで退治は無事に完了だ。

「……首を刎ねるなんて、本当はできないんだけどね」

全員、殺してはいない。
不法者だろうと私刑に処するのは厳禁と、騎士団時代に叩き込まれてきた。殺されると思わされるような相手ならともかく、そこまでの脅威には感じられなかった。

「さて、このまま置いていくわけにはいかないよなぁ……」

俺は転がる男たちの身体を見てため息をつき、頭を掻く。

が、突っ立っていても始まらないから、俺は行動に移った。倒れる男たちのそばにしゃがみ、三人を両肩と腕に抱える。
なかなかの重さだが、まぁ耐えられないような荷重でもない。
『身体強化』に風属性魔法を補助的に使いながら、近くの町まで戻り、そこの門番を尋ねた。

「こ、こいつらは……。最近、周囲を荒らし回っている山賊……! こいつら、どうやって――」
「あぁ、野宿をしているところを襲われてしまって。退治をしたんです」
「でも、こいつらってかなりの強者だって話じゃ……」
「すまない、あとはお任せしてもいいですか。寝込みを襲われてしまってね、もうかなり眠いんです」
「は、はい……!!」
事情聴取されると面倒だ。

俺は門番がいきなりのことで面食らっているのをいいことに、すぐにその場を離れる。
帰ったら、少しはゆっくり眠ろう。そんなふうに考えながら、あくびを一つした。