【書籍12/26発売★】曰く「衰えた」おっさん騎士団長、引退して悠々自適な旅に出る~一人旅のはずが、いつのまにか各界の才能たちに追われてるんだが?~



翌日からというもの、俺たちはさっそく調査へと入った。

その初手として向かったのは、この地を侯爵から委任され治めている領主代理のキンセ男爵のもとだ。
バルトロさんがわざわざ伝手を使って、会う機会を用意してくれたのである。

しかしその結果はといえば、芳しくない。

調査状況を聞けば、まだなにも判明していないらしく、現在は部外者厳禁状態にして、原因究明を急いでいるとか。
ただまぁそれだけで諦めて、任せっぱなしにしていたら、始まらない。

俺たちはそこから、町の人への聞き込みや、協力してくれる人に温泉の状態を見せてもらうなどといった調査を進める。
大きくはない町だ。俺とイザベルのあの婚約寸劇は数日のうちに知れ渡っていた。

そのせい、

「いやぁ、なかなか熱いなぁお二人さん」「いいもの見せてもらったよ」

こんな声をかけられ続けて、町を歩くだけで半ば辱めを受ける羽目になる。

ただ逆に、快く協力はしてくれたのだが、それでもまともな原因は掴めず、滞在を始めてから約二週間。
俺たちはかなり、街に馴染み始めていた。

いい意味でも、悪い意味でも。

「悪いねぇ、こんな雑用まで。もう老体で、新しい倉庫を作ったはいいが、移動させるのが億劫でな」

倉庫の外から中を覗き込んで、俺たちに詫びを入れるのは、マアリに古くから住むという地元のご老人だ。

「隊長! そこの大きな箱、お願いします。私、か弱くて……」
「もういいよ、そのアピールは」

俺はそう答えて、埃を被った大きな木箱を腕いっぱいに抱えて持ち上げる。
腰の方は、ある程度はマシになっていた。

あれから、あのボロ宿の主人がはからってくれて、ベッドをもう一台用意してくれたのだ。ただまぁ、そんなことまでしてもらったせいで出るとも言いにくくなってきまった。

おかげで、イザベルと同じ部屋で寝泊まりをしているのは問題と言えば問題だが、とりあえずは痛みも引いてくれた。
腰さえ無事ならば、この程度の荷物は軽い運動にちょうどいいくらいだ。

俺は快調に箱を運び、別の倉庫へ移すのを繰り返す。
その途中で、はっとした。

「……なにやってるんだったか忘れそうになるな」
「倉庫の整理ですよ? 質屋さんに依頼されたから手伝ってるんですよね。報酬は、銀貨五枚と、出てきた面白そうなガラクタ! 割がいいですね」
「いや、それはそうなんだが……。本当の目的遠ざかってるよな、これ」

話を聞かせてもらったお礼というのは、分かる。
しかし、あまりにも進展がないせいで、もはやただの便利屋と化してしまっていた。

「言われてみれば、たしかに……。もういっそ、この町に住んじゃいます? 二人で便利屋やって、ゆったりまったり暮らすんです」

冗談であることはすぐに分かる提案だった。
ただついつい一考してしまうくらいには、この町の人は優しく、和やかな雰囲気も気に入ってはいる。

「……それじゃあ、根本解決にならないだろう」

だから少し遅れてこう答えたら、

「もしかして今、本気にしました!?」
「…………してない」
「嘘。ちょっとしましたよね? というか、してました」

こんなふうに茶化される羽目になってしまった。
下からずいっと喜色満面に覗き込んでくるイザベル。

暗い倉庫の中でも、きらっと輝くその美しい瞳から逃げるように、俺はとりあえず倉庫整理に精を出す。