愛情の乱れは君を汚す

 部屋の扉につくと鍵と少し大きめな袋をもらった。
「これで、開けてね。飯はその袋の中にあるから、食べたかったら食べていいよ。」
本当にありがたい。何から何まで助けてもらっている。
「ごめんね。何でもしてもらって」
ベルタに表情は、「いいよ、したくてしているだけ。」と言っているように感じ取れた。
部屋の中は、木造建築で、古いせいなのかギシギシと響いている。
とりあえず、古びているからしょうがないと解釈をつけた。
荷物をベッドに置き、一休みするためにどさっと横たわった。
都会とは思えないほど、賑わっていない。しかし、たまに聞こえる人の罵声。とても「のどか」とは似つかわしい。
目をつぶると一番に感じるのは袋の中の食べ物の匂いだ。それほど、お腹がすいているのであろう。
結び目を解き、中を確認すれば、パンの匂いが部屋中に充満して思わず、お腹からイビキのような音が鳴り響いた。
即座に、ベルタは袋にいくつかのパンに手を出し、口に運び、次々と平らげる。
皆もお気づきだろう。
そうだ、私は親バカだ。
わかってくれ、実の娘が頑張って生きているんだ。かわいらしくてしかたがない。
今だってそうだ。
なんてかわいらしい。
母に似ているところもたくさんある。我慢強いところ、人にツンケンしてしまうところ。
なにより、母譲りのまるではるか自然を抜けた後の広がる青い海のような瞳。

ベルタ、ダリアと俺との間に生まれてきてくれてありがとう。

この言葉は最後の最後で言えなかった。本当にすまなかった。

俺らともども愛しているぞ。

思いが溢れているうちに、ベルタは床についてしまった。

…太陽が起き、人と見つめ合うとき、ベルタはベッドの温もりに別れを切り出し、まだ、暖かさが残っているころに部屋を後にした。
ヤネルの部屋の横を通り過ぎる。音一つない。
これぞ、静寂と言えるのだろう。テストに出てきたら、間違えることなし。
「おばあちゃん、ヤネルを見た?」
ちょうど厨房から出てきたおばあちゃんに尋ねたがおばあちゃんは顔を横に振るだけで一言も口から発しなかった。
そこで、ヤラセだろ、と言うように宿の扉からヤネルがぬるっと入ってきた。
「ごめん、ごめん。ここら辺、都会だけど、城から離れているから、盗賊とかが多くてさ、討伐依頼があったから、挑戦してた。油断しているの夜しかなくて。」
淡々と話しているヤネルだが、服装はボロボロだ。しかし、体に傷は見られなかった。
もしかしたら、天才なのでは。敵の傷を最小限にして、傷薬を使わない。傷薬を使うと傷は治るが多少の後は残ってしまう。
「服着替えよう。もう少し休んでから行く?」
ベルタは優しいな。自分のことは後回しにして、人に気遣っている。
「着替えるけど、終わったら出よう。」
ヤネルの表情は甘く、感謝を込めているのだと素直に伝わる。
多少時間は過ぎたが、ようやく旅の再開ができる。

ベルタの心は強く、前進するのである。