「ねぇ、お兄さん、そこら辺にしておきな。死ぬよ。」
父の声とは違うが、落ち着いて、優しさがあふれ出ているような声がゆっくりと耳に入ってきた。
「なんだ、またお前かよ。ヤネル。死ぬとはどういうことだ。こんな女に負けるわけない。」
余裕の風格を醸し出す表情である。私の心底嫌いなタイプだと、身に染みて理解できた。
「野望というか殺意がそう語っているからだよ。」
少年の言う通りである。ベルタは自然に溶け込めるくらい自然に慣れていた、これ以上言わなくてもわかるほどに殺意などの欲を操作できないのだ。
あぁ、可哀そうに。
「ねぇ、お姉さん」
少年の声が耳の近くまで来たかと思えば、ベルタの唇に暖かく柔らかい何かが優しく触れた。ベルタにとっては初めての経験で混乱を巻き起こした。
「お前、なんで接吻なんかしているんだよ。」
罵声を上げるような声が聞こえはするが驚きのほうが勝ち、うまく聞き取ることができなかった。
「そりゃ、この子に惚れたからだよ。正義感を持ち、なお、本音を陰口ではなく、相手に言うところにね。自分の意志を曲げないその精神が良い。」
この言葉からして、愛が重いのが伝わってくる。
しかし、この行動をしてくれたことによって、ベルタの思いは怒りを忘れ、驚きで埋め尽くされた。
「では、僕はこの子と二人で話すから。またな。」
パラパラ漫画見たく、展開が早い少年についていくので精一杯だった。
「ねぇ、お姉さんに惚れたんだ。その格好だと、旅に出るんだよね。俺と一緒に行こうよ。」
本当に展開が早い。よく知らない人と旅に出るのは気が引ける。惚れてくれたのは心から嬉しいが、胡散臭さがにじみ出ている。
「名前もわからず、あなたのことを何一つ知らないのでお断りします。」
丁重に断ったが、少年は不敵な笑みを浮かべている。笑顔には怪しさが際立っているが、左目にはホクロが一つあり、不覚にも魅力的だと感じてしまった。
「僕の名前はヤネル。元々は孤児だけど、この国の決まりで十五歳を迎えると『自立』という独り立ちするのが規則なんだよね。そして一年前にそれを迎えたんだ。」
なんだ、声的にも、身長的にも私より幼いと思っていたけど、私とそう変わらない年齢だし、なんなら私のほうが二歳年上だ。ため口で話しても大丈夫だな。
「てことで、一緒に旅しよう。」
ヤネルの手が私の手をつかむ。
…暖かい、優しい手だ。無理やり手を離すのも可能だったが、どうしても離せなかった。
「私がこれ以上一緒に旅したくないって思うまでならいいよ。」
押しに弱い性格は、時には悪を生み出し、時には、運命も呼び起こすのかもしれない。
こんな性格だけが悪いとは思わない。なぜなら、この性格を好きになってくれて、ともに旅できる人がいれば心強いという「希望」であるため。このことは、ヤネルには隠しておこう。
父以外とは、ほぼ話したことなかったが、人と話すのはやはり楽しい。が複雑だ。何を考えているのかわからず、試行錯誤して地に落ちてしまうのがいつもの光景だ。
「どこに向かおうとしていたの。どの国も特徴があって、最初に行くとしたら、聖国がおすすめかな。聖なる加護が栄えているから、旅路の勇気作りに良いって言われている。加護によっては自分に向いている仕事とかが分かるらしい。」
言葉のキャッチボールは大切と幼少期に教わったが、こんなに早くてはキャッチボールなんかできるわけがない。しかし、心なしか気持ちのどこかでは安心している自分がいる。
父が亡くなってからは数年一人暮らしをして、人と話すという行動をしていなかった。自分では大丈夫だろうと余裕を見ていても現実と気持ちは全く異なると学んだ。自分を甘く見て、後悔している。
この経験は、人生をために歩むために必要な過程である。
「丁度、聖国に行くつもりだったよ。加護があれば心的にも、安心するし。」
ヤネルの顔はやっぱりね。と言わんばかりの背徳感を感じているのが伺える。
不意を突かれ、私はヤネルに可愛らしいという感情を抱いてしまった。なんだか、年下で、余裕そうな雰囲気を出しているのに少年のような無邪気さが残って愛らしい。
「なら、この先の、大通りをまっすぐ行けば国境にすぐ辿り着けるはず。」
ちらりと、本を見て、確認すると安易的だが、言っていることは正しいと判断できた。
「じゃぁ、行こうか。」
ヤネルは私の手にもう一度触れて今度はリードしてくれた。のちにこの者はベルタを支え、意志を分かち合っていくと思える。
ヤネルの性格はベルタの真逆と言っていいほどだが、だからこそ、相性が良いのかもしれない。これは予測に過ぎない。
「ちょっと。早いよ。」
ベルタのあんな笑顔は生きていた時以来だ。一人ぼっちにさせて悪かった。母親とは悲しませないと誓ったのに。
「ちょっと。力が強いよ。男女で力の差があるんだよ。」
「ごめん、ごめん。」
軽い謝りだけど、きちんと声のトーンからして反省しているのが身に伝わってくる。
会話に没頭していたのか、日が落ち、もう国境まで二日半もかからない付近にいた。辺りは夜になっているが栄えているせいか、明かりが消える気配がなく、本当に夜か、疑ってしまうほど。
「とりあえず、泊まれるところを探そうか。」
意気揚々とスキップをしながら、町を歩く彼は可愛らしい。
ふと辺りを見回すと看板に「旅の拠り所」と書かれていた。
少し古いが、穏やかな香りだ。ベルタの心はその宿屋にすごく興味を抱いた。
「行きたいのか?」
ヤネルと話していて分かったことがある。相手は無意識かもしれないが、人の感情の変化に敏感だ。私が宿屋に興味を持ったことを瞬時に察し、問いを投げかけてくれる。
これぞ、恋人にしたら、安心できるポイント。
だがしかし、親元を離れられては、心もとない。
まぁ、もう死んで離れているんだけどね。
よく言う、「死人に口なし」みたいな感じだな。
無駄話をしすぎて、二人がいつの間にか、宿屋に入ってしまった。
「おばちゃん、一泊泊まらせてくれ。」
ヤネルがのほほんとした年老いたおばちゃんに申し出た。おばあちゃんはうなずくだけで一言も声を出さなかった。ベルタもお金だけおばあちゃんに渡して、そそくさと鍵と交換して私の手を持って歩いてしまった。やっぱり、都会の人は怖い。
父の声とは違うが、落ち着いて、優しさがあふれ出ているような声がゆっくりと耳に入ってきた。
「なんだ、またお前かよ。ヤネル。死ぬとはどういうことだ。こんな女に負けるわけない。」
余裕の風格を醸し出す表情である。私の心底嫌いなタイプだと、身に染みて理解できた。
「野望というか殺意がそう語っているからだよ。」
少年の言う通りである。ベルタは自然に溶け込めるくらい自然に慣れていた、これ以上言わなくてもわかるほどに殺意などの欲を操作できないのだ。
あぁ、可哀そうに。
「ねぇ、お姉さん」
少年の声が耳の近くまで来たかと思えば、ベルタの唇に暖かく柔らかい何かが優しく触れた。ベルタにとっては初めての経験で混乱を巻き起こした。
「お前、なんで接吻なんかしているんだよ。」
罵声を上げるような声が聞こえはするが驚きのほうが勝ち、うまく聞き取ることができなかった。
「そりゃ、この子に惚れたからだよ。正義感を持ち、なお、本音を陰口ではなく、相手に言うところにね。自分の意志を曲げないその精神が良い。」
この言葉からして、愛が重いのが伝わってくる。
しかし、この行動をしてくれたことによって、ベルタの思いは怒りを忘れ、驚きで埋め尽くされた。
「では、僕はこの子と二人で話すから。またな。」
パラパラ漫画見たく、展開が早い少年についていくので精一杯だった。
「ねぇ、お姉さんに惚れたんだ。その格好だと、旅に出るんだよね。俺と一緒に行こうよ。」
本当に展開が早い。よく知らない人と旅に出るのは気が引ける。惚れてくれたのは心から嬉しいが、胡散臭さがにじみ出ている。
「名前もわからず、あなたのことを何一つ知らないのでお断りします。」
丁重に断ったが、少年は不敵な笑みを浮かべている。笑顔には怪しさが際立っているが、左目にはホクロが一つあり、不覚にも魅力的だと感じてしまった。
「僕の名前はヤネル。元々は孤児だけど、この国の決まりで十五歳を迎えると『自立』という独り立ちするのが規則なんだよね。そして一年前にそれを迎えたんだ。」
なんだ、声的にも、身長的にも私より幼いと思っていたけど、私とそう変わらない年齢だし、なんなら私のほうが二歳年上だ。ため口で話しても大丈夫だな。
「てことで、一緒に旅しよう。」
ヤネルの手が私の手をつかむ。
…暖かい、優しい手だ。無理やり手を離すのも可能だったが、どうしても離せなかった。
「私がこれ以上一緒に旅したくないって思うまでならいいよ。」
押しに弱い性格は、時には悪を生み出し、時には、運命も呼び起こすのかもしれない。
こんな性格だけが悪いとは思わない。なぜなら、この性格を好きになってくれて、ともに旅できる人がいれば心強いという「希望」であるため。このことは、ヤネルには隠しておこう。
父以外とは、ほぼ話したことなかったが、人と話すのはやはり楽しい。が複雑だ。何を考えているのかわからず、試行錯誤して地に落ちてしまうのがいつもの光景だ。
「どこに向かおうとしていたの。どの国も特徴があって、最初に行くとしたら、聖国がおすすめかな。聖なる加護が栄えているから、旅路の勇気作りに良いって言われている。加護によっては自分に向いている仕事とかが分かるらしい。」
言葉のキャッチボールは大切と幼少期に教わったが、こんなに早くてはキャッチボールなんかできるわけがない。しかし、心なしか気持ちのどこかでは安心している自分がいる。
父が亡くなってからは数年一人暮らしをして、人と話すという行動をしていなかった。自分では大丈夫だろうと余裕を見ていても現実と気持ちは全く異なると学んだ。自分を甘く見て、後悔している。
この経験は、人生をために歩むために必要な過程である。
「丁度、聖国に行くつもりだったよ。加護があれば心的にも、安心するし。」
ヤネルの顔はやっぱりね。と言わんばかりの背徳感を感じているのが伺える。
不意を突かれ、私はヤネルに可愛らしいという感情を抱いてしまった。なんだか、年下で、余裕そうな雰囲気を出しているのに少年のような無邪気さが残って愛らしい。
「なら、この先の、大通りをまっすぐ行けば国境にすぐ辿り着けるはず。」
ちらりと、本を見て、確認すると安易的だが、言っていることは正しいと判断できた。
「じゃぁ、行こうか。」
ヤネルは私の手にもう一度触れて今度はリードしてくれた。のちにこの者はベルタを支え、意志を分かち合っていくと思える。
ヤネルの性格はベルタの真逆と言っていいほどだが、だからこそ、相性が良いのかもしれない。これは予測に過ぎない。
「ちょっと。早いよ。」
ベルタのあんな笑顔は生きていた時以来だ。一人ぼっちにさせて悪かった。母親とは悲しませないと誓ったのに。
「ちょっと。力が強いよ。男女で力の差があるんだよ。」
「ごめん、ごめん。」
軽い謝りだけど、きちんと声のトーンからして反省しているのが身に伝わってくる。
会話に没頭していたのか、日が落ち、もう国境まで二日半もかからない付近にいた。辺りは夜になっているが栄えているせいか、明かりが消える気配がなく、本当に夜か、疑ってしまうほど。
「とりあえず、泊まれるところを探そうか。」
意気揚々とスキップをしながら、町を歩く彼は可愛らしい。
ふと辺りを見回すと看板に「旅の拠り所」と書かれていた。
少し古いが、穏やかな香りだ。ベルタの心はその宿屋にすごく興味を抱いた。
「行きたいのか?」
ヤネルと話していて分かったことがある。相手は無意識かもしれないが、人の感情の変化に敏感だ。私が宿屋に興味を持ったことを瞬時に察し、問いを投げかけてくれる。
これぞ、恋人にしたら、安心できるポイント。
だがしかし、親元を離れられては、心もとない。
まぁ、もう死んで離れているんだけどね。
よく言う、「死人に口なし」みたいな感じだな。
無駄話をしすぎて、二人がいつの間にか、宿屋に入ってしまった。
「おばちゃん、一泊泊まらせてくれ。」
ヤネルがのほほんとした年老いたおばちゃんに申し出た。おばあちゃんはうなずくだけで一言も声を出さなかった。ベルタもお金だけおばあちゃんに渡して、そそくさと鍵と交換して私の手を持って歩いてしまった。やっぱり、都会の人は怖い。



