水と油、混ざり合う青

「無理だ!!数学なんて散ってしまえ!!!将来使わねぇよ!!!算数までだわ!!!」

俺の部屋で机に項垂れているこの男。
俺が虚言もっさりと命名し、友達割で翼へと戻ったこの男。
ただいま俺たち学生には、中間試験様が降臨していた。
そのため、一緒にテスト勉強をしているのだ。
リアルで会えるようになった俺たちは、あれから予定がない日は自然と集まっていて、それを知った母さんが「友達できたのねー!」なんて涙を流していた。
わざわざ翼の前で。
翼が戸惑いながら「蓮って友達いなかったんですね...イメージ通りです...」と失礼なことを本人の前で放ち、母さんも「そうなのよ〜!もう心配でっ」と分かち合っていた。
思い出すだけで腹が立つ。
わざわざ目の前ですなっ。

「なぁんで蓮は数学できんだよ!!!俺と同類じゃないのか!!!!裏切り者!!!!!虚言ドアホ」

「あぁ?俺から勉強とったら何が残んだよ!最低限やることやってんだ!!虚言もっさり」

虚言ドアホ。虚言もっさり。
ぶつぶつと言い合いながら、一応問題集と向き合う姿勢だけを作る。
シャー芯は減らないのに、砂時計はどんどん砂の量を減らしていく。
もう三回はひっくり返しているような。
すると、翼がバンっとシャーペンを置き、砂時計に掴み掛かる。

「んあぁ!!!ウゼェ!!!誰だよ、砂時計なんて持ってきたの!!!」

「お前だよ。形から入るタイプなんだな」

今日の、勉強会の事の発端は俺だ。
教師が口を揃えて、【テスト一週間前】という呪文を唱え続けるため、やってみたかった″友達とテスト勉強″に翼を誘った。
だが、それが間違いだったのだ。
翼は大の勉強嫌いだったらしく、ウキウキで砂時計を持ってきたのに、開始30分で冒頭に至る。

「一旦休憩にするか。翼が限界っぽいしな」

「そだな。それは賢明な判断だ。もう少しで頭にしめじが生えそうだったぜ」

突然キリッとする翼に、「救えてよかったぜ」と便乗すると、「だが、糖分が足りな...い...」と倒れ込む。

「そんな戦さを耐え抜いた翼殿に、アイスを授けよう」

「神様...!」

釣られて近寄ってくる翼の目の前でアイスをゆらゆら揺らすと、目で追うように首を左右に揺らす。

「ブハッ!翼...!プライドはないのか!!」

「アイスが手に入るのなら...!!どんなことでも...!!くっはは...!」

アイスを落とさぬよう絶妙に気持ち悪い体制で笑いころげる俺と翼。
お互いの体制にもツボり、翼がスマホを取り出し俺に向けた。
抵抗したいけれど、笑いが腹筋を食い止めて上手く使えない。

「やべぇ笑 蓮、お前情けない姿だな笑 んふっ、ふっ、あははは!!」

「やめろ...笑 ふへっ、ははは...!腹いてぇ笑」

ローテーブルに散乱している勉強道具の存在も忘れて、子供のように無邪気に笑い合う。
スマホを震わせて涙を拭う翼より先に、一呼吸する間を許された俺は、深く息を吐きながら湧き出る笑いを堪える。

「くくっ、翼まだ笑ってんのか笑」

「......笑 っ、笑」

サイレント爆笑を見せつけてくる翼にまたもや俺の笑いの波も押し寄せた。
しばらく床に転がっていた二人だが、だんだんと現実のかけらを拾い始めることになる。

「あっ!やばっ、腹攣ってる...!!!!いててて!!!」

「大丈夫か翼!!はっ!アイス溶けてきてる!!」

そこから5分が経過し、ベッド脇に背を当てて座り、俺たちはアイスを頬張っている。
腹筋を使い果たし、ぐったりした体に糖分を注入していると、不意にローテーブルが目に入る。

「............」

俺の隣に座りアイスを容赦なく齧っている男も、テーブルの上を見たのだろう。

「............」

黙りこくった俺たちの間に浮かび上がる『テス勉進んでねー』の文字。
そっと首を左にひねる。
すると、遅れて翼の顔も俺の視界にはっきりと写り込んだ。
翼は、ほぼ3口で無くなったアイスの棒を前歯に挟みながら、目を細くし冗談めかして笑った。

「勉強してないなっ、仕方ないよなっ、あと6日あるしなっ」

「そ、そだなっ、翼の言うとおりだっ」

二人であははと作り笑いを浮かべ、そそくさ勉強道具を片付ける。
再び座った俺たちは、いつもの調子で教師のモノマネや、どうでもいい話に勤しんだ。