「蓮いるー?」
後ろから聞こえた声にガタッと音を立てて、席を立つ。
「お、おう!」
カバンを慌てて肩にかけ、扉から身を乗り出して顔を覗かせる翼に向けて、手で場所を知らせる。
俺を視界に入れたであろう翼がサッと廊下に身を納めたのを確認し、俺も廊下へ出る。
「焼肉〜肉肉〜」
「そういや、優実ちゃん見てなくていいのか?」
「今日は母さんが見てる〜。そのため俺は自由なのだ!」
翼が両手を天高く広げる。
鳥籠から放たれた鳥のような開放感を醸し出す翼を見て、兄貴というのも大変なんだなと感心する。
音符が飛び交う翼の右隣で、友達と焼肉に行ける現実にそわそわしている俺。
学生のお財布にも優しい焼肉屋があると言う翼についていくことになり、(行き慣れてるな...)なんて頭を過ぎる頃には、嫉みを込めて虚言もっさりの旗が再度立とうとしていた。
♦︎
「腹が鳴り、目の前に肉、天国だ。うっし!いただきまーす!」
「いただきまーす!」
翼の俳句儀式を合図に、俺たちDKの胃袋満たし隊が行進を開始した。
大ライス、ハラミ、塩タン、カルビ、ポテト、サンチュ、ソフドリ。
大きな机の上には、パンパンなほどに食べ物が並べられている。
翼は兄貴っぷりが発動し、食べながら焼くという器用な作業を続けてくれている。
「うめー」
噛み締めるように頬張る翼を目の前に俺もサンチュに手を伸ばす。
その時ふとよぎったことを口に出したくなった。
「なぁ、翼。もし明日から『一生焼肉しか食べられない』か『一生野菜しか食べられない』か、選ばなきゃいけないとしたらどうする?」
自分でも(しょうもねぇ話題だな)と、一歩引いて見てしまうものに、翼は真剣な顔で悩み始める。
ごめん。友達と焼肉なんて緊張すんだよ。
「究極の選択だな...。野菜オンリーはきついけど、焼肉オンリーも流石に飽きるだろ〜」
口パンパンに塩タンを頬張った翼が、思い付いたように眉を上げた。
「俺は、一生野菜だな。肉だけだと病気になる!んっ、んぐっ、うめぇ。」
「そんな美味そうに塩タン食っといてよくドヤれたな」
「んはは!」とケタケタ笑う翼のそばから、落としそうな皿を退ける。
なのに、次の瞬間タレが入った皿をひっくり返す翼。
あー!なんて驚いたのはほんの0.1秒で、お互い一度目が合えば、腹を抱えて笑いが巻き起こる。
「母さんに怒られるー」と笑いながら、持ってきていたティッシュで出来る限り拭ってみる翼だが、たちまち拭き取れないと気が付き、真顔で俺の顔を見てくる。
「本格的にボコられる」
「家帰って漂白か、クリーニングだな」
「俺明日から音信不通かも...」
わかりやすく落ち込む翼に、申し訳ないが込み上げてくる笑みが抑えられない。
5秒前まで幸せそうに塩タンを噛み締めていた人が、急降下で落ち込んでいるその変わりように、笑うなという方が無理な話だ。
相当お母さんが怖いのか、テンションが戻らない翼のために、とうもろこしを頼んでやる。
無事に運ばれてきたとうもろこしを見せつけるように焼き始めると、衝撃な言葉が飛び込んできた。
「俺、とうもろこし苦手」
「え?」
♦︎
会計を終え外に出ると、スーッと冷たい空気が喉奥をくすぐる。
胃袋満たし隊の隊員である翼のテンションはというと、結局アイスで復活した。
「怒られるのは仕方ねぇな。潔く受け入れるわ☆」
「......明日も話そうな」
音信不通にならないことを頭の片隅で願いながら、空を見上げると、小さい星が散らばっていた。
そういえば今日は快晴だったな。
「ダチと肉食って、腹パンの中、駄弁りながら歩いてる。俺、死んでもいいわ」
「おい、この後の未来を受け入れるな...笑」
笑うと出てきてしまいそうなほど、重たい腹を抱えながら歩いている時間は、夜なのに色づいている。
暗く色褪せた夜。
その記憶を忘れそうになるくらい、気持ちが前へ前へ走ろうとしているのがわかる。
俺だけが救われていて、翼は密かに人を救っている。
この陽キャすげぇな。
星の数を数えながら、そんなことを考える。
不意に、静かだなと頭に入ってきた情報に従うように、隣を見ると、翼は月を見ていた。
満月に近い丸い月が、すっかり夜になった街を凛と照らしている。
一緒に上を見ていると、左隣から声が聞こえた。
「久しぶりに友達とバカできたわ。サンキューな」
目を丸くして翼を見ると、「いつも優実がウルセェからさ」なんて困ったように笑う。
翼の新たな一面に戸惑いが俺を襲う。
翼は笑ってて、楽観的で、おちゃらける陽キャ。
そんな奴から垣間見えた儚い表情に俺の頭はついていこうとしない。
前を向いて歩き出した翼に、遅れて並ぶ。
車のライトが眩しく目の前を照らし、眩しさから顔を逸らすと、翼と目が合った。
今度は眉を釣り上げ、溌剌と笑みを浮かべている翼に、安心感と引っ掛かりを覚える。
翼の儚さを完全に整理できたわけじゃないけれど、何か言わないと。
「俺も楽しかった!またいろんなところ行こうな!」
3歩後ろから、翼の背中に声をかける。
振り向いた瞬間目に入った表情は、優実ちゃんと向き合っている時のあの”優しい声色”を出せるような顔じゃなく、ただ一人の男子高校生の顔だった。
後ろから聞こえた声にガタッと音を立てて、席を立つ。
「お、おう!」
カバンを慌てて肩にかけ、扉から身を乗り出して顔を覗かせる翼に向けて、手で場所を知らせる。
俺を視界に入れたであろう翼がサッと廊下に身を納めたのを確認し、俺も廊下へ出る。
「焼肉〜肉肉〜」
「そういや、優実ちゃん見てなくていいのか?」
「今日は母さんが見てる〜。そのため俺は自由なのだ!」
翼が両手を天高く広げる。
鳥籠から放たれた鳥のような開放感を醸し出す翼を見て、兄貴というのも大変なんだなと感心する。
音符が飛び交う翼の右隣で、友達と焼肉に行ける現実にそわそわしている俺。
学生のお財布にも優しい焼肉屋があると言う翼についていくことになり、(行き慣れてるな...)なんて頭を過ぎる頃には、嫉みを込めて虚言もっさりの旗が再度立とうとしていた。
♦︎
「腹が鳴り、目の前に肉、天国だ。うっし!いただきまーす!」
「いただきまーす!」
翼の俳句儀式を合図に、俺たちDKの胃袋満たし隊が行進を開始した。
大ライス、ハラミ、塩タン、カルビ、ポテト、サンチュ、ソフドリ。
大きな机の上には、パンパンなほどに食べ物が並べられている。
翼は兄貴っぷりが発動し、食べながら焼くという器用な作業を続けてくれている。
「うめー」
噛み締めるように頬張る翼を目の前に俺もサンチュに手を伸ばす。
その時ふとよぎったことを口に出したくなった。
「なぁ、翼。もし明日から『一生焼肉しか食べられない』か『一生野菜しか食べられない』か、選ばなきゃいけないとしたらどうする?」
自分でも(しょうもねぇ話題だな)と、一歩引いて見てしまうものに、翼は真剣な顔で悩み始める。
ごめん。友達と焼肉なんて緊張すんだよ。
「究極の選択だな...。野菜オンリーはきついけど、焼肉オンリーも流石に飽きるだろ〜」
口パンパンに塩タンを頬張った翼が、思い付いたように眉を上げた。
「俺は、一生野菜だな。肉だけだと病気になる!んっ、んぐっ、うめぇ。」
「そんな美味そうに塩タン食っといてよくドヤれたな」
「んはは!」とケタケタ笑う翼のそばから、落としそうな皿を退ける。
なのに、次の瞬間タレが入った皿をひっくり返す翼。
あー!なんて驚いたのはほんの0.1秒で、お互い一度目が合えば、腹を抱えて笑いが巻き起こる。
「母さんに怒られるー」と笑いながら、持ってきていたティッシュで出来る限り拭ってみる翼だが、たちまち拭き取れないと気が付き、真顔で俺の顔を見てくる。
「本格的にボコられる」
「家帰って漂白か、クリーニングだな」
「俺明日から音信不通かも...」
わかりやすく落ち込む翼に、申し訳ないが込み上げてくる笑みが抑えられない。
5秒前まで幸せそうに塩タンを噛み締めていた人が、急降下で落ち込んでいるその変わりように、笑うなという方が無理な話だ。
相当お母さんが怖いのか、テンションが戻らない翼のために、とうもろこしを頼んでやる。
無事に運ばれてきたとうもろこしを見せつけるように焼き始めると、衝撃な言葉が飛び込んできた。
「俺、とうもろこし苦手」
「え?」
♦︎
会計を終え外に出ると、スーッと冷たい空気が喉奥をくすぐる。
胃袋満たし隊の隊員である翼のテンションはというと、結局アイスで復活した。
「怒られるのは仕方ねぇな。潔く受け入れるわ☆」
「......明日も話そうな」
音信不通にならないことを頭の片隅で願いながら、空を見上げると、小さい星が散らばっていた。
そういえば今日は快晴だったな。
「ダチと肉食って、腹パンの中、駄弁りながら歩いてる。俺、死んでもいいわ」
「おい、この後の未来を受け入れるな...笑」
笑うと出てきてしまいそうなほど、重たい腹を抱えながら歩いている時間は、夜なのに色づいている。
暗く色褪せた夜。
その記憶を忘れそうになるくらい、気持ちが前へ前へ走ろうとしているのがわかる。
俺だけが救われていて、翼は密かに人を救っている。
この陽キャすげぇな。
星の数を数えながら、そんなことを考える。
不意に、静かだなと頭に入ってきた情報に従うように、隣を見ると、翼は月を見ていた。
満月に近い丸い月が、すっかり夜になった街を凛と照らしている。
一緒に上を見ていると、左隣から声が聞こえた。
「久しぶりに友達とバカできたわ。サンキューな」
目を丸くして翼を見ると、「いつも優実がウルセェからさ」なんて困ったように笑う。
翼の新たな一面に戸惑いが俺を襲う。
翼は笑ってて、楽観的で、おちゃらける陽キャ。
そんな奴から垣間見えた儚い表情に俺の頭はついていこうとしない。
前を向いて歩き出した翼に、遅れて並ぶ。
車のライトが眩しく目の前を照らし、眩しさから顔を逸らすと、翼と目が合った。
今度は眉を釣り上げ、溌剌と笑みを浮かべている翼に、安心感と引っ掛かりを覚える。
翼の儚さを完全に整理できたわけじゃないけれど、何か言わないと。
「俺も楽しかった!またいろんなところ行こうな!」
3歩後ろから、翼の背中に声をかける。
振り向いた瞬間目に入った表情は、優実ちゃんと向き合っている時のあの”優しい声色”を出せるような顔じゃなく、ただ一人の男子高校生の顔だった。
