【学校前で】
【了解】
鏡の前に立ち、ある程度外に出れるように支度をする。
今日は翼の引越し当日だ。
俺は、休日なのに朝早く起きて、見送りに行くことにした。
学校前まで翼のお母さんが送ってくれるとのことで、校門で待ち合わせをすることで話は落ち着いた。
前髪を軽く整え、バッグを手にとる。
チラッと視界に入ったお守りの存在に、0.5秒悩み、勢いよく手のひらに収め、家を出た。
休日の朝は人が少ない。
目に入る情報が少なく、頭の中はこれから会うやつのことでいっぱいだ。
翼には俺が忘れかけていた色とりどりの世界へ、引きずり上げてもらった。
人と関わることは、恐ろしいことだけではなく、彩りを作り上げる尊いことだ。
ここまで分かっても、翼以外と友達を作れるようになるのかは別だけど。
イヤホンから流れる翼が進めてくれた音楽が止まった。
学校に着くまでの時間で設定しているため、音楽が途切れたと言うことは、もう学校に着くと言うことだ。
あの角を曲がれば、ついてしまう。
別れが迫っている。
止まりそうになった足を、理性ではなく、風が押し出すように強く背中に触れた。
「ぉっと、、」
一歩踏み込んだ足が止まらない。
角を曲がると、黒の軽自動車が止まっていた。
あれか...
そこを目掛けて歩いていると、翼らしき人が降りてきた。
「お!蓮!!」
「っ、、...おう!!」
喉が締まる感覚がうざったい。
まっすぐ道を歩いているも、翼もこちらに向かって歩いてきたため、俺が歩く距離が半分になった。
元気そうに笑っている翼を見て、幾分か俺の気持ちが穏やかになる。
翼がこの決断に苦しんでいないことが何よりも俺の救いとなった。
話したいという気持ちが前のめりになり、お互いが同時に口を開き、譲り合った結果、翼から話すことに決まる。
「来てくれて嬉しい!ありがとうな!」
「ぷはは!それだけかよ。俺譲ったのに」
「うん笑 これだけ」
いつも通りに進む会話に安心感を覚える。
知り合って特別長いわけじゃない。
たった数ヶ月で積み上げた絆だ。
それが、こんなにも大切なものになるなんて、あの投稿をした日は思いもしなかった。
「あ、それ持ってきたのかよ...笑」
「ん」
「あー!!!それにぃにがちゅくってたのだー!!!!」
「こら!走らないよ、優実!!」
翼の後ろから、優実ちゃんとお母さんが走ってくる。
初めて見たはずなのに、知っている気がするくらい、翼からは家族の話がよく出ていた。
それだけ、翼が家族と向き合っていたということだ。
「俺も、父お...父さんに連絡取ってみようかな」
「単身赴任中だったっけか?」
慣れた手つきで優実ちゃんを抱き上げた翼の問いに頷く。
もう長い間、会話もろくにしてないし、見送りすらもしなかった。
顔を合わせれば、目を逸らして、自室に逃げ込んだこともあった。
そんな息子からの連絡なんて煩わしいだけかもしれないけれど...
「まぁ、俺散々傷つけたし今更いらないかもだけどな!」
「んなことねぇだろ。親父さん嬉しいと思うぞ。...っおい!優実!だっこの時は暴れるなって!」
嬉しい...そうだろうか。
でも、何かのきっかけになるのなら...
「ん!翼は、大学も向こうか?」
「あぁ、都会だしな」
「選択肢は多いだろうから」と付け加える翼に、数回頷いた。
翼は東京に引っ越す。
お母さんの職場が変わったらしい。
この話はラーメンを啜りながら、聞いた。
その時純粋に頭をよぎったことがあった。
「同じ大学受験したらうざい?」
「え?蓮が東京くるってことか?」
素直に頷くと、翼の顔がみるみる笑顔になっていく。
「それいいな!そしたら同居しようぜ!家賃浮く!!」
「...!決まり!約束な!」
小指を絡ませ、小学生ぶりにゆびきりげんまんを二人で歌う。
「案外歌詞覚えてるものなんだな」とケタケタ笑いが巻き起こった。
そうこうしてる内に30分という時間が過ぎていた。
そろそろ新幹線の時間があると、翼のお母さんが申し訳なさそうに声を出す。
「よし、じゃあここまでだな」
「何だよ蓮。寂しいのか〜?」
「いいや。...うん」
曖昧な返事しかできず、翼が困ったように笑う。
そっと手が頭の上に伸びてきて、懐かしい重みが伝わった。
その重みが左右に撫でるように動いている。
「は?」
「優実に似てた」
「はぁ!?!?」
「悪ぃ悪ぃあははは!!今日も夜通話しような」
「〜〜!!わかった...!」
恥ずかしくてぶっきらぼうに答えると、翼は手を振りながら小走りで車に乗り込んだ。
前に進む車の背中から、翼の影が手を振っていて、思わず大きく振りかえす。
新天地が、翼をやさしく迎えてくれますように。
【了解】
鏡の前に立ち、ある程度外に出れるように支度をする。
今日は翼の引越し当日だ。
俺は、休日なのに朝早く起きて、見送りに行くことにした。
学校前まで翼のお母さんが送ってくれるとのことで、校門で待ち合わせをすることで話は落ち着いた。
前髪を軽く整え、バッグを手にとる。
チラッと視界に入ったお守りの存在に、0.5秒悩み、勢いよく手のひらに収め、家を出た。
休日の朝は人が少ない。
目に入る情報が少なく、頭の中はこれから会うやつのことでいっぱいだ。
翼には俺が忘れかけていた色とりどりの世界へ、引きずり上げてもらった。
人と関わることは、恐ろしいことだけではなく、彩りを作り上げる尊いことだ。
ここまで分かっても、翼以外と友達を作れるようになるのかは別だけど。
イヤホンから流れる翼が進めてくれた音楽が止まった。
学校に着くまでの時間で設定しているため、音楽が途切れたと言うことは、もう学校に着くと言うことだ。
あの角を曲がれば、ついてしまう。
別れが迫っている。
止まりそうになった足を、理性ではなく、風が押し出すように強く背中に触れた。
「ぉっと、、」
一歩踏み込んだ足が止まらない。
角を曲がると、黒の軽自動車が止まっていた。
あれか...
そこを目掛けて歩いていると、翼らしき人が降りてきた。
「お!蓮!!」
「っ、、...おう!!」
喉が締まる感覚がうざったい。
まっすぐ道を歩いているも、翼もこちらに向かって歩いてきたため、俺が歩く距離が半分になった。
元気そうに笑っている翼を見て、幾分か俺の気持ちが穏やかになる。
翼がこの決断に苦しんでいないことが何よりも俺の救いとなった。
話したいという気持ちが前のめりになり、お互いが同時に口を開き、譲り合った結果、翼から話すことに決まる。
「来てくれて嬉しい!ありがとうな!」
「ぷはは!それだけかよ。俺譲ったのに」
「うん笑 これだけ」
いつも通りに進む会話に安心感を覚える。
知り合って特別長いわけじゃない。
たった数ヶ月で積み上げた絆だ。
それが、こんなにも大切なものになるなんて、あの投稿をした日は思いもしなかった。
「あ、それ持ってきたのかよ...笑」
「ん」
「あー!!!それにぃにがちゅくってたのだー!!!!」
「こら!走らないよ、優実!!」
翼の後ろから、優実ちゃんとお母さんが走ってくる。
初めて見たはずなのに、知っている気がするくらい、翼からは家族の話がよく出ていた。
それだけ、翼が家族と向き合っていたということだ。
「俺も、父お...父さんに連絡取ってみようかな」
「単身赴任中だったっけか?」
慣れた手つきで優実ちゃんを抱き上げた翼の問いに頷く。
もう長い間、会話もろくにしてないし、見送りすらもしなかった。
顔を合わせれば、目を逸らして、自室に逃げ込んだこともあった。
そんな息子からの連絡なんて煩わしいだけかもしれないけれど...
「まぁ、俺散々傷つけたし今更いらないかもだけどな!」
「んなことねぇだろ。親父さん嬉しいと思うぞ。...っおい!優実!だっこの時は暴れるなって!」
嬉しい...そうだろうか。
でも、何かのきっかけになるのなら...
「ん!翼は、大学も向こうか?」
「あぁ、都会だしな」
「選択肢は多いだろうから」と付け加える翼に、数回頷いた。
翼は東京に引っ越す。
お母さんの職場が変わったらしい。
この話はラーメンを啜りながら、聞いた。
その時純粋に頭をよぎったことがあった。
「同じ大学受験したらうざい?」
「え?蓮が東京くるってことか?」
素直に頷くと、翼の顔がみるみる笑顔になっていく。
「それいいな!そしたら同居しようぜ!家賃浮く!!」
「...!決まり!約束な!」
小指を絡ませ、小学生ぶりにゆびきりげんまんを二人で歌う。
「案外歌詞覚えてるものなんだな」とケタケタ笑いが巻き起こった。
そうこうしてる内に30分という時間が過ぎていた。
そろそろ新幹線の時間があると、翼のお母さんが申し訳なさそうに声を出す。
「よし、じゃあここまでだな」
「何だよ蓮。寂しいのか〜?」
「いいや。...うん」
曖昧な返事しかできず、翼が困ったように笑う。
そっと手が頭の上に伸びてきて、懐かしい重みが伝わった。
その重みが左右に撫でるように動いている。
「は?」
「優実に似てた」
「はぁ!?!?」
「悪ぃ悪ぃあははは!!今日も夜通話しような」
「〜〜!!わかった...!」
恥ずかしくてぶっきらぼうに答えると、翼は手を振りながら小走りで車に乗り込んだ。
前に進む車の背中から、翼の影が手を振っていて、思わず大きく振りかえす。
新天地が、翼をやさしく迎えてくれますように。
