ピピピピッーー。ピピピピッーー。
自分で設定したアラーム音に、少々苛立ちを感じるようになって、どれほどの月日が経ったことか。
何もしていないのにどんどん余裕がなくなっていく自分に、焦燥感を感じるようになって、どれほどの時間が流れたか。
カーテンの隙間から覗く眩しい光は、今日も1日が始まってしまったことを、これでもかと主張してくる。
雀の囀りまでもが甲高く聞こえ、思わずシャッターを下げようと手を伸ばしたが、寸前のところで踏み止まった。
結局、宙を掠っただけの手で、枕元に置かれたスマホを充電コードから抜き取り、初期から変わっていない待ち受け画面を睨む。
相変わらず公式メッセージしか届かない俺のスマホは、ただの娯楽品でしかない。
スマホを開くと嫌でも入ってくる時間に目を向けて、俺はのそのそとベッドを後にした。
「あ、おはよ。お母さんもう家出るから、朝ごはん食べて遅れずに学校行くのよー。行ってきます!」
自分の部屋から出ると、世界はすでに動き出していて、母さんの元気な声までもが、俺の気持ちを底へと落とす材料となってしまう。
「うん...行ってらっしゃい」
辛うじて出した声に、ひらひらと手を振る母さんはいつも忙しそうで、何もしていない自分は常に疎外感を感じていた。
父親はというと、単身赴任中で家を空けている。
口うるさい父親が家にいないという事実は、俺の心を幾分か楽にさせていた。
そんな多忙な両親に挟まれている俺は、人生に楽しいことなんて何もなく、趣味も、将来の夢も、友達も、全て持ち合わせていない。
最低限死なないように生きて、指摘されたくないからやることはやる。
そうやって生きてきて数年。
子供の頃の俺は、一体何に喜びを感じていたのだろうか。
道端で枝を見つければ、剣と化して振り回し、美味しい蜜のでる花を見つければ、友達と何個も吸い尽くし、白線を見つければ、わざわざその上を慎重に歩いたりもした。
今は枝を見ても(落ちてるな)としか思えず、ツツジなんてどこに咲いているのかすらわからない。
たった数年前の話なのに、【子供の頃】なんて大人ぶっている自分を嘲笑うと同時に、無性に寂しくなった。
今の俺には本当に何もない。
その現実を見て見ぬフリするかのように、クローゼットから制服を取り出す。
今は朝食なんてとてもじゃないけど、食べる気にならない。
着替える前に、体の中のドス黒い何かを吐き出すために息を吸い上げると、肺が広がるのを感じて、(生きてんだな)なんて思いながら、そのまま強く息を吐き出した。
高校二年生になった俺は、制服のネクタイも結び慣れたもので、6秒もあれば結べるようになった。
それほど学校に行き慣れたということだ。
身支度を整え、ストップをかけそうになる体を理性だけで動かし、操り人形の如くスクールバッグを持ち、外へ出た。
誰もいない家に鍵をかけ、閉まっていることの確認でガチャガチャと扉を鳴らす。
いつもの道。毎日欠かさず挨拶してくれる散歩中のおばあさん。餌をもらえる家があるのか毎朝見かける茶トラの猫。
みんな日常を送っていて、その中に滑り込みで混じっているように見せかけられている状態に、心底安心する。
スマホを取り出し、絡まった有線イヤホンを乱雑に解き、耳に押し込む。
聞き慣れた歌詞とメロディーが別世界へと包み込んでくれる気がした。
両耳から流れる音楽だけが、俺の世界で唯一の色彩だった。
駅のホーム、電車の中。人々の楽しそうな声が耳障りで、目を閉じる。
次に前を見た時、目の前には校舎があった。
今日も「楽しくない」一日が始まる。
気乗りしないままの俺を、校舎は容赦無く丸呑みしてくる。
靴を履き替え、下を向きながら教室まで歩いていると、目の前から男子生徒の騒ぐ声が聞こえた。
「今日の数学自習らしいぞ」
「は?それどこ情報?」
「校門にいたタッキー情報〜」
「ガチやん。神〜。っと」
ーートンっ。
頬に切り傷の痕があり、ゆるっとパーマがかった黒髪の男子生徒と肩がぶつかった。
「っ、」
「悪ぃ」
「こちらこそ、」と返すよりも先に友達とそのまま去っていく姿に、(喧嘩の痕かな、)なんて思いながら落ちてしまったスマホを拾い上げる。
賑やかな廊下を進み、やっとの思いで教室に足を踏み入れるも、ここすら生徒の話し声やら笑い声やらで煩い。
俺は眉を顰めながらも席に座り、この学校の生徒である行いを全うする。
これが、色褪せた俺の日常だ。
自分で設定したアラーム音に、少々苛立ちを感じるようになって、どれほどの月日が経ったことか。
何もしていないのにどんどん余裕がなくなっていく自分に、焦燥感を感じるようになって、どれほどの時間が流れたか。
カーテンの隙間から覗く眩しい光は、今日も1日が始まってしまったことを、これでもかと主張してくる。
雀の囀りまでもが甲高く聞こえ、思わずシャッターを下げようと手を伸ばしたが、寸前のところで踏み止まった。
結局、宙を掠っただけの手で、枕元に置かれたスマホを充電コードから抜き取り、初期から変わっていない待ち受け画面を睨む。
相変わらず公式メッセージしか届かない俺のスマホは、ただの娯楽品でしかない。
スマホを開くと嫌でも入ってくる時間に目を向けて、俺はのそのそとベッドを後にした。
「あ、おはよ。お母さんもう家出るから、朝ごはん食べて遅れずに学校行くのよー。行ってきます!」
自分の部屋から出ると、世界はすでに動き出していて、母さんの元気な声までもが、俺の気持ちを底へと落とす材料となってしまう。
「うん...行ってらっしゃい」
辛うじて出した声に、ひらひらと手を振る母さんはいつも忙しそうで、何もしていない自分は常に疎外感を感じていた。
父親はというと、単身赴任中で家を空けている。
口うるさい父親が家にいないという事実は、俺の心を幾分か楽にさせていた。
そんな多忙な両親に挟まれている俺は、人生に楽しいことなんて何もなく、趣味も、将来の夢も、友達も、全て持ち合わせていない。
最低限死なないように生きて、指摘されたくないからやることはやる。
そうやって生きてきて数年。
子供の頃の俺は、一体何に喜びを感じていたのだろうか。
道端で枝を見つければ、剣と化して振り回し、美味しい蜜のでる花を見つければ、友達と何個も吸い尽くし、白線を見つければ、わざわざその上を慎重に歩いたりもした。
今は枝を見ても(落ちてるな)としか思えず、ツツジなんてどこに咲いているのかすらわからない。
たった数年前の話なのに、【子供の頃】なんて大人ぶっている自分を嘲笑うと同時に、無性に寂しくなった。
今の俺には本当に何もない。
その現実を見て見ぬフリするかのように、クローゼットから制服を取り出す。
今は朝食なんてとてもじゃないけど、食べる気にならない。
着替える前に、体の中のドス黒い何かを吐き出すために息を吸い上げると、肺が広がるのを感じて、(生きてんだな)なんて思いながら、そのまま強く息を吐き出した。
高校二年生になった俺は、制服のネクタイも結び慣れたもので、6秒もあれば結べるようになった。
それほど学校に行き慣れたということだ。
身支度を整え、ストップをかけそうになる体を理性だけで動かし、操り人形の如くスクールバッグを持ち、外へ出た。
誰もいない家に鍵をかけ、閉まっていることの確認でガチャガチャと扉を鳴らす。
いつもの道。毎日欠かさず挨拶してくれる散歩中のおばあさん。餌をもらえる家があるのか毎朝見かける茶トラの猫。
みんな日常を送っていて、その中に滑り込みで混じっているように見せかけられている状態に、心底安心する。
スマホを取り出し、絡まった有線イヤホンを乱雑に解き、耳に押し込む。
聞き慣れた歌詞とメロディーが別世界へと包み込んでくれる気がした。
両耳から流れる音楽だけが、俺の世界で唯一の色彩だった。
駅のホーム、電車の中。人々の楽しそうな声が耳障りで、目を閉じる。
次に前を見た時、目の前には校舎があった。
今日も「楽しくない」一日が始まる。
気乗りしないままの俺を、校舎は容赦無く丸呑みしてくる。
靴を履き替え、下を向きながら教室まで歩いていると、目の前から男子生徒の騒ぐ声が聞こえた。
「今日の数学自習らしいぞ」
「は?それどこ情報?」
「校門にいたタッキー情報〜」
「ガチやん。神〜。っと」
ーートンっ。
頬に切り傷の痕があり、ゆるっとパーマがかった黒髪の男子生徒と肩がぶつかった。
「っ、」
「悪ぃ」
「こちらこそ、」と返すよりも先に友達とそのまま去っていく姿に、(喧嘩の痕かな、)なんて思いながら落ちてしまったスマホを拾い上げる。
賑やかな廊下を進み、やっとの思いで教室に足を踏み入れるも、ここすら生徒の話し声やら笑い声やらで煩い。
俺は眉を顰めながらも席に座り、この学校の生徒である行いを全うする。
これが、色褪せた俺の日常だ。
