物心ついた時からお兄ちゃんと二人暮しで、両親の温もりを知らなかった。
そんな日々の中で唯一、ほかの子どもたちが両親から受けるそれと同じように、心から心配してくれて、本気で叱ってくれて、高い壁が現れた時に手をさし伸ばしてくれたのはいつだって禄輪さんだった。
「……なぁ、巫寿。帰ったら、私と一緒に暮らさないか」
それは思ってもみない提案だった。
「私と祝寿と巫寿と、三人で。巫寿が帰ってくる場所でありたいと言うのは、わがままだろうか」
上手く言葉が出てこなくて、ぶんぶんと何度も首を縦に振った。
わがままなんかじゃない。だって私もずっとそれを望んでいたから。
「口に出して約束しなさい。言霊にしなさい。自分は帰ってくるんだって、強く、言葉に刻むんだ」
喉の奥の詰まりを必死に飲み込んだ。言霊にしたかった。何度も目尻を両手で拭って、満面の笑みを浮かべる。
「はい、はい……ッ。帰ってきたら家族みたいに……家族みたいに一緒に暮らしましょう!」
お兄ちゃんがいて禄輪さんがいて、たまに玉じぃが遊びに来たりして。それで家族みんなで食卓を囲んで、すき焼きなんかをつついたりして。
思い浮かべただけで心が弾む。なんて素敵なんだろう。
が立ち上がった禄輪さんは照れくさそうに鼻をかいた。
「無理はするな。巫寿が上手くいかなかった時のために、次の手はたくさん考えてある。後のことは、私たちに任せろ」



