「こんなこと、俺が言える立場じゃない。でも、十五年前のあの日、志ように伝えれなくて後悔した。決心した巫寿の心を惑わせるような事を言う私を許してくれ」
いつも温かく私を見守ってくれていた瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「行くなッ……!」
その場に崩れるように地面に膝を着いた禄輪さん。乾いた土の上にぼたぼたとしずくが降り注いだ。
私が今回の作戦を伝えた時、禄輪さんは反対派だった。でもそれは他の人たちと同じで私の身をただ案じて反対していただけで、お兄ちゃんのように激しく強い感情を見せて反対するようなことはなかった。
それは初めて聞いた禄輪さんの本音であり、弱音だった。
「こんなことになるなら、巫寿をこの世界に誘うんじゃなかったんだ……ッ! 私はただあいつらの娘を、私の娘を守りたかっただけなのに!」
"私の娘"
その言葉を聞いてやっと気付いた。この少し照れくさくて、くすぐったくて、温かい感情がなんなのか。
膝を折って目を合わせた。涙でぐちゃぐちゃになった禄輪さんが、赤い目で私を見つめる。
抱きしめられないのが、抱きしめて貰えないのが、とても歯がゆかった。
「あの日……怖くてひとり怯えていた私を助けてくれて、ありがとうございました」
唯一の家族であるお兄ちゃんが倒れ心細さと不安に押しつぶされそうになっていた時に突如現れた妖。あの時の絶望は今思い出しただけでも身震いするほどだ。
初めて会った時は顔も名前も知らないおじさんだった。けれど、その声と抱きしめてくれた腕にどれほど安心したか。
その時から何となく、私の心にはずっとこの思いがあったのかもしれない。
「私、お父さんの事はほとんど覚えてないけれど……禄輪さんの事はお父さんが生きていたらこうなんだろうなって思ってました」



