「……ありがとう、お兄ちゃん。大好きだよ」
少し照れくさくて肩をすくめる。思っていたようなリアクションはなかった。
まるで某名作アニメで足の悪い少女が初めて立った時のように、目と口をかっぴらいてお兄ちゃんが固まった。
心配になって顔を覗き込むと、お兄ちゃんは顔を紅潮させ白目を剥いて鼻血を垂らしながら固まっていた。
あまりの恐ろしさにヒッと息を飲む。
「巫寿、普段からお兄ちゃんに"大好きだよ"とか伝えてた?」
後ろで見ていた薫先生に聞かれて首をひねる。
「あー……そういえば、多分10年振りくらいですね」
「そりゃこんなリアクションにもなるよ。邪魔になるから回収するね」
お兄ちゃんの脇に手を入れて連れて行ってくれた薫先生。
我が兄ながら、本当に情けない。
呆れた顔をした禄輪さんが額に手を当てて深く息を吐きながら私の前に来た。
「本当に祝寿のやつは。大事な時にすまんな、巫寿」
「いえ、禄輪さんは悪くありません。それに慣れてますんで」
慣れてる、と私の言葉を繰り返し禄輪さんは遠い目をした。
「……とにかく、あいつも私達も、巫寿を心から案じてるってことだけは分かってくれ」
うるんだ目を細めて微笑んだ禄輪さんに、「心配」以上の大きな感情を感じ取る。体を全部包み込んで芯からじんわりと温めてくれるような、大きくて優しくて温かい感情だ。
禄輪さんが膝を曲げて私に目線を合わせた。真剣な眼差し、けれど唇が僅かに震えていた。



