わざとらしく咳払いをして薫先生は私を見下ろした。
「気にかけてくれて、ありがとう。でも今は自分のことに集中して。呪を最大限まで抑えて、言祝ぎを解放するんだ。言霊のコントロールは、嫌ってほど一緒に練習したもんね。胸張って、行っておいで」
何度も言霊を暴発させて、みんなの授業を台無しにした一年生の一学期が懐かしい。
苦笑いを浮かべると、薫先生は隆永宮司とそっくりな笑い方で目を弓なりにした。
「待ってるよ、学校で。俺はそのために、あそこにいることを選んだんだから」
薫先生が、先輩が、友達が、仲間が待つ神修に、私は絶対に帰ってくる。
滲んだ涙を拭いとって「はい!」と大きく頷いた。
「なんで兄貴の俺より担任の方が先なんだよ! 薫さんそこ邪魔!」
そんな声とともに薫先生を押し退けて私の前に現れたのは祝寿お兄ちゃんだった。「全くお前は……」と呆れ顔の禄輪さんが溜息をつきながら隣に並ぶ。
「お兄ちゃん、禄輪さん!」
「巫寿〜〜ッ!」
両腕を広げてジャンプしたお兄ちゃんを、禄輪さんが首根っこを掴んで慌てて引き止めた。
「馬鹿! 自重しろとあれほど言い聞かせただろ!」と禄輪さんの痛い拳骨がお兄ちゃんの頭に降り注ぐ。
お兄ちゃんはそんなのお構いなしにじたばたと暴れて私に抱きつこうとしたので、こちらから距離をとった。
こんな状況じゃなくても、普通に友達の前でお兄ちゃんに抱きつかれるのは遠慮願いたい。
「巫寿! ご飯ちゃんと食べてるか!? ちゃんと眠れたか!? 本庁のクソジジイ共に嫌なこと言われたりされたりしてないか!? お兄ちゃんに教えてくれたら、そいつらみんな始末してやるからな!」
「恥ずかしいからやめて、お兄ちゃん。食べてるし寝たし、何もされてないから」
お兄ちゃんがああだと、むしろ私は冷静になれるのでありがたい。



