言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


「あと少しです、恵衣さん!」


本庁の庁舎が見えた。正面玄関は神職や役人たちが忙しなく出入りしている。

裏口からこっそり入りましょう!

玉珠がそう囁いて恵衣の袖を引っ張った。

裏口があるのは正面玄関の真反対、本気で走っても一分はかかる。時間はない。だったら。


「えええッ! 恵衣さん!?」

「ちょ、恵衣さんそっち正面! 止められちゃうって!」


二人の静止を振り切って必死に走った。

一分でも1秒でもいい。俺が隣に立つことであいつが安心して泣いて笑えるのなら、ほんの少しの時間でもいいから巫寿に一目会いたい。

立ち入り禁止区画に飛び込むと何人もの役人に呼び止められた。掴まれた腕を振りほどいて走る。

規則なんて知ったことか。


「盛福玉珠、あんたらどこ行ってたんや! もう次の神事始まるで! 巫寿ちゃんも、もうそろそろ移動するで!」


二人が呼び止められた。振り返ると千江《せんこう》が二人の前に鬼の形相で立ちはだかっている。


「うわぁぁ千江さん! これには深いわけが……」

「恵衣さん行ってください!」


恵衣?と千江が振り返った。目が合って一瞬驚いた顔をしたあと、直ぐに般若のように目と口を歪めた。

恵衣あんたこんなとこで何やっとんのや!と怒号が響く。


「行って恵衣さん! 千江さんは私たちが抑える!」


二人が千江の両腕にしがみついた。恵衣に駆け寄ろうとしていた千江の足が止まる。

行って、早く!と叫びつづける二人に力強く頷き、背を向けて走り出した。