恵衣は拳をきつく握りしめた。
いつもそうだ。あいつは別れる時に、不安な気持ちを必死に隠して笑う。それなら「不安だ」と泣きわめいてくれた方が良かった。
今になって気付いた。あいつが笑うのは俺たちが笑っていない時。あいつが笑うのは、俺やほかの奴らを不安にさせない為なんだ。
あの小さな両肩に世界の命運がのしかかっているというのに、必死に涙をこらえて「大丈夫」と笑うのは、全部俺たちのためなんだ。
だったら今度は、俺が巫寿のために笑う番だろう。
彼女が本心を隠して震えなくていいように、心をさらけ出して不安を吐露できるように、俺が笑って巫寿を支えてやるべきなんだろう。
「……今、どこにいるんだ」
盛福たちの表情がパッと明るくなった。
「本庁の応接室です……!」
「早く行きましょ! 待ってますよ巫寿ちゃん!」
走り出した二人を、恵衣がすぐさま呼び止めた。二人は振り返るともどかしそうにその場で足踏みする。
「今すぐには行けない。任された仕事を終わらせてからだ」
「そんな悠長なこと言ってたら、巫寿ちゃんの休み時間終わっちゃいますよ!」
騒ぐ二人に恵衣は静かに首を振った。芯の通った強い眼差しに、二人は自然と口を閉じた。
「この一つ一つの仕事が、巫寿の未来を守ることに繋がるかもしれない。だったら俺は、それをおざなりにはしたくない」
揺るぎのない強い眼差しを受け取って思った。
この男はなんて不器用で、なんて愚直なんだろうか。



